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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第38回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第38回

2.3.3 QCサークル活動

QCサークル活動は日本式TQCの特徴として、一時海外に広く紹介された日本に独特の活動である。1963年にQCサークル本部が設立されて以来、QCサークルの数は全国でどんどんと増加し、最盛時の1980年後半には、40万の数にまで及んだ。
QCサークル本部では、1970年「QCサークル綱領」をまとめ、QCサークルの正しい方向付けと推進上の思想統一をはかり、海外でのQCサークル熱に応えるために英訳もされた。

以下は、この「QCサークル綱領」からの抜粋である。
「QCサークルとは、同じ職場内で、品質管理活動を自主的に行う、小グループである。この小グループは、全社的品質管理活動の一環として、自己啓発、相互啓発を行い、職場の管理・改善を継続的に全員参加で行う。

  • QCサークル活動の基本理念
    全社的品質管理活動の一環として行うQCサークル活動の基本理念はつぎの通りである。
    • ① 企業の体質改善・発展に寄与する。
    • ② 人間性を尊重して、生きがいにある明るい職場をつくる。
    • ③ 人間の能力を発揮し、無限の可能性を引き出す。
  • QCサークル活動の心がまえ
    • ① 自己啓発
    • ② 自主性
    • ③ グループ活動
    • ④ 全員参加
    • ⑤ QC手法の活用
    • ⑥ 職場に密着した活動
    • ⑦ QCサークル活動の活発化と永続
    • ⑧ 相互啓発
    • ⑨ 創意工夫
    • ⑩ 品質意識、問題意識、改善意識 」

QCサークル本部では、毎年11月に全国選抜大会を実施する。日本全国の地域支部(8支部)から選ばれたQCサークルの優秀な改善事例発表が東京で多くの聴衆を集めて行なわれる。QCサークル活動は、日本のみならず海外にも普及し、1980年代には東南アジア諸国から日本の発表大会に参加する企業の姿が多く目立った。
QCサークル活動は、ともすれば無味乾燥な生産現場に中に、全員で自主的に考え協力し合うという人間の温かみを持ち込むことで、一人一人の人間的成長を促進するという副次的な効果も持ち合わせている。

2.3.4 QC診断

QC診断とは、デミングサークルのPDCAのCheckにあたるステージであり、TQCのプロセスにおいて決められたことがきちんと行われているか、チェックしようということである。言葉としては、診断となっているが、監査、審査でもよい。当然指摘されたことに対しては対策を取らなければならない。決められたこととは、例をいうならば、品質管理の進め方、工程で品質を作り込むやり方、外注管理、クレーム処理、新製品開発段階からの品質保証の進め方等である。

TQCを効果的に実施していくには、PDCAをきちんと回す、すなわち「TQCの管理」を行っていかなければならない。TQCの管理は、企業のトップマネジメントの仕事であるから、QC診断もトップが行うのがよいが、目的によって次のように分けられる。

(1)社外の人によるQC診断

TQCの推進状況を次の診断者によって4つに分類できる。

  • ① 買手による売手のQC診断
  • 例えば大手メーカーは外注会社に対してQC診断を行う。また、自分達が製造部門を持たない、国鉄、電電公社、防衛庁等も購入品メーカーに対してQC診断を行う。これらはいずれも自分達の品質管理に極めて強い影響を及ぼす部品、製品を中心にチェックを行う。大手メーカーは自分達の組織内で品質管理を実践しているので、診断者は知識と技能の両方をもっていて、地に足のついた診断をすることができる。しかし、自分達が品質管理の経験を持たない、国鉄、電電公社、防衛庁等から来る診断者は問題を起こしやすい。「規定や標準はあるか」「書式やデータはそろっているか」などといった、形式のみの診断になりがちである。
  • ② 資格を与えるためのQC診断
  • JISマークの審査がこれに当たる。ここでも審査に合格することが目的化すると、担当者に形式的な書類を用意させて「書類作りの品質管理」をすることになってしまい、害を残すことになる。
  • ③ デミング賞
  • ここでもJISマークで懸念されるようなことが課題である。石川馨は「デミング賞をとるために受審してはならない。受審は手段にすぎない。全社的品質管理、統計的品質管理を推進するために受審するのである。社長がリーダーシップをとって、これに挑戦すれば、全重役、全部課長、全従業員の考え方が変わって、経営の体質改善ができますよ」と戒めている。これは、現在のISO 9001の第三者審査の状況を示唆しているようであり、しかも30年前に発せられた警告として含蓄のある言葉である。
  • ④ コンサルタントによるQC診断
  • デミング賞の予備診断として行われている。しかし、欧米と比較して機会はそう多くなく、今後受審後のアフターケアとして発展していくかもしれない。

(2)社内の人によるQC診断

社内の人によるQC診断には、実施者により次の4つがある。

  • ① 社長QC診断
  • ② 部長QC診断
  • ③ QCスタッフによるQC診断
  • ④ QC相互診断

これらの中で一番重要なものが①社長QC診断である。文字通り社長自身が工場、事務所、営業所等へ出向き自分の目で診断をする。社長QC診断の目的は次の通りである。

  • 1)品質方針の達成状況
  • 社長がかつて自分で決めた方針の実施状況を確認する。現場をみることで場合によっては、方針が適切ではない、ということが理解できることもある。
  • 2)品質管理機能の達成
  • 例えば、工程内不良の再発防止、市場クレームの減少等の企業組織全体の機能の達成状況を診断する。
  • 3)社長の勉強の場
  • トップはとかく忙しい。普段現場を訪問する時間もなかなか取れない。この機会に組織全体の現場を知ることは、何にも変えられない大きな価値をもたらす。

このように、QC診断は、チェックをしっかりとし、診断書に書かれたことに対策を打つことでPDCAを回す、いわば企業組織全体の車輪を回転させる重要な活動である。なお、水野滋は次のような問題点を指摘している。
「QC診断に関しては、一般に次のような点に問題が多いのでこの点の考慮が必要である。

  • 1)診断の目的が正しく理解されているか。
  • 2)診断の方法に誤りはないか。外面の形式のみにまどわされたり、部分的な見方をしたりしていないか。
  • 3)診断の結果が品質管理推進計画にフィードバックされているか。
  • 4)個々の問題点でなく、重要品質問題を見逃していないか。
  • 5)診断のために修飾されたところをみるのではなくして、日常の状態をみているか。
  • 6)先入観をもってみていないか。」