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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第44回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第44回

2.4 TQCの呼称の変更

1996年、日本式TQCの総本山であった日科技連は、長い間親しんできたTQCの呼称をTQMに変えた。第一の理由は、世界での総合的品質管理の呼称はTQMが主流なので、日本式TQCも世界と同じ名前に変更しようということであった。TQMはTotal Quality Managementの略であり、日本語に直すと同じく「総合的品質管理」ということで、TQCと同じ名称になってしまう。かつて(1970年代)、水野滋は「作業活動を指揮、指導、監督、統御する活動を管理(management)といい、managementには計画(planning)と統制(control)の2活動分野があるという。この意味からいえばquality controlは、“品質統制”というべきであろう。」と述べている。

日本には「名は体を表す」ということわざがある。TQCもTQMと名前を変えたなら、内容はどのように変ったのか、と関係者から素朴な疑問が投げかけられた。TQC活動は経済的な環境と密接な関係を持っている。企業を取り巻く環境が変化すれば、TQC活動も変化する、いや変化すべきではないかという議論が日科技連の集まりで活発になった。単に国際的に通用しやすい名称に変更した、ということではないだろうという意見や、環境に適切に対応するために、既にTQCの内容は気がつかないうちに変わってきているのではないか、という意見もあった。いずれにしてもTQCとTQMとでは何が違うのか、ということを明確にしようということで、日科技連に委員会が作られた。

1996年に日科技連に組織化された「TQM委員会(委員長飯塚悦功)」は、1997年「TQM宣言」を発表した。飯塚悦功はTQM委員会編書 「TQM21世紀の総合「質」経営」(1998、日科技連)の中で、次のように述べている。

  • 「TQMは企業・組織の経営の“質”の向上に貢献する経営科学・管理技術である。TQMは21世紀の企業・組織の経営に望まれる“尊敬される存在”と、そのために必要となる“ステークホルダーとの感動共有型関係”の確立に貢献する。そのためにTQMは“組織能力(技術力、対応力、活力)の向上”を直接の目的とする。
  • TQMは組織能力の向上のために経営システム(経営プロセス、経営リソース)の質に焦点をあてる。経営科学・管理技術としてのTQMは“フィロソフィー”“コア・マネジメントシステム”“手法”“運用技術”から構成される。
  • QCからTQCへ、そしてTQMへという発展過程を経たTQMは、端的に言えば、“尊敬される存在”へ、経営への総合“質”へ、ステークホルダーとの良好な関係へ、戦略重視の源流管理へ、TQMの戦略的体系化へとその視野を拡大する。
  • TQMは“質”が根源的であるがゆえに、あらゆる経営管理技術との融合が可能であって、しかも組織の全構成員の参画を促す理念となりうる。
  • 新たなTQMは、TQCの基本的な概念・方法論を継承する。なぜか。“質”を中核とする経営管理というTQCが有していた本質的な性格は、質というものが経営・管理における考慮の対象として根源的なものであり、時代を超えて有効であり続けるからである。さらに質を中核とする経営管理の枠組みとしてTQCが有していた基本的概念・方法論は、質を考慮する際に有すべき概念・方法論として引き続き有効であると判断できるからでもある。TQCは“質の管理”のための方法の集まりとして完成度が高く、それゆえに新たなTQMの構築においてもその基盤として継承されるべきである。」

いままでみてきたように、ファイゲンバウムのTQCは日本式TQCに進化し、それがアメリカに里帰りしてTQMと呼ばれるようになり、日本式TQCも国際的な呼称に合わせてTQMと名称の変更をした。そして、その内容も名前の変化に合わせるようにいろいろ方法、手法が開発され、少しずつ進化していることが理解できる。

狩野紀昭は、2003年に「TQMの館(House of TQM)」というモデルを発表している。TQMという概念を物理的な家に例えて、その内部構造を説明している。TQMの目的は、顧客満足、従業員満足などであり、これを家の屋根に例えている。この目的を達成するために、家には3本の柱、すなわち「乗り物」「手法」「考え方」という柱がある。そしてこの家は、固有技術という土台に支えられている。目的を達成するには、これら3本の柱「乗り物」「手法」「考え方」を道具として上手に使っていかなければならない。
「乗り物」は、方針管理、日常管理、機能別管理、QCサークル等である。「手法」は、QC7つ道具、QCストーリー、品質機能展開等である。「考え方」は、品質の考え方と管理の考え方の2つに分かれている。品質の考え方には、お客の満足、マーケットイン、次工程はお客様等があり、管理の考え方には、PDCA、事実に基づく管理等がある。
このモデルのポイントは、TQMという概念を構造体としてとらえ、構造体の中が変わっても、例えば「乗り物」にシックスシグマが加わっても全体は変わらない、ということを分かりやすく説明しているところにある。

(参考文献)

  • 石川馨著「新編 品質管理入門」1964年、日科技連
  • 朝香鐡一・石川馨編「品質保証ガイドブック」1974年、日科技連
  • 大野耐一著「トヨタ生産方式」1978、ダイヤモンド社
  • 石川馨著「TQCとは何か、日本的品質管理」1981、日科技連
  • 水野滋著「全社総合品質管理」1984年、日技技連
  • 朝香鐡一・石川馨・山口襄監修「新版品質管理便覧」1988年、日本規格協会,
  • 狩野紀昭編「サービス産業のTQC」1990年、日技技連
  • 飯塚悦功著「ISO9000とTQC再構築」1996年、日科技連
  • TQM委員会編書「TQM21世紀の総合「質」経営」1998年、日科技連
  • 久米均著「品質管理を考える」1999年、日本規格協会
  • 吉田耕作「国際競争力の再生」2000年、日科技連
  • 標準化と品質管理、vol.57、2004年8月、ブラッシュアップ
  • 品質 vol.32、No.3、2002、特集「TQMツールボックス」