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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第48回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第48回

3.5 プロセスマネジメント

日本式TQCでいう工程管理(プロセスコントロール)は、ある限定された工程(プロセス)の管理であり、「品質は工程で作り込む」というのも、ある限定された工程能力を向上させ、工程を流れる全製品を良品にしようとする考え方であった。
それに対して、「源流管理」は製造部門の力だけでは、限界があることが分かってきたことから、不良品や手直し品をつくらないためには、企画工程、設計工程での品質保証を強化しようとするものであった。新製品企画、設計、試作、試験といった業務フローの川上での品質保証活動が重要視されるようになった。この考え方を製品の品質保証に関係する総てのプロセス(企画、営業、研究、開発、設計、製造、技術、購買、品質保証、検査、出荷、人事、総務、情報、輸送、アフターサービスなどの支援プロセスも含む)に拡大したのが、プロセスマネジメントの概念である。

プロセスマネジメントは、品質管理のツールとしてはもとより、組織の経営のツールとして使用されている。1980年代中頃から世界的な競争においては、パラダイムシフトという概念を導入することがよい、と盛んに喧伝されるようになった。パラダイムシフトとは、従来とは変わった枠組みのことをいい、新たな企業を、新らしい製品、市場、顧客の視点で作っていこうとする概念、活動のことをいう。

アメリカのM.E.ポーターは、パラダイムシフトにおいては顧客価値創造を行う企業活動のバリュー・チェーンを根本から見直す必要がある、と主張した。1985年出版の「競争優位の戦略」(ダイヤモンド社)には、バリュー・チェーン(価値連鎖)を構成する基本要素は「主要(プライマリー)活動」と「支援(サポート)活動」であるとして、次のような具体的なプロセスを上げている。

  • ①主要(プライマリー)プロセスの例
    • -製品開発
    • -製造
    • -出荷物流
    • -販売・マーケッテイング
    • -サービス
  • ②支援(サポート)プロセスの例
    • -人事・労務管理
    • -技術開発
    • -調達活動
    • -設備管理
    • -情報管理
  • ミシガン大学のラムラーはこれに加えて、マネジメントプロセスを上げている。
  • ③マネジメントプロセスの例
    • -ビジョンと戦略方針作成
    • -目標設定
    • -資源配分
    • -運用レビュー
    • -パフォーマンス監視

これらのプロセスをスムーズに流すには、ポーターと同時期(20年前)に水野滋が唱えた体系(システム)的思考が必要である。(2.3.1 全員参加の品質管理 (3)機能別管理)

  • 「部門間の約束事を決めるのが“しくみ”、すなわちシステムである。(中略)営業部門の業務分掌に、ユーザーの要求品質の収集・伝達という営業としての重要な品質保証業務を明確に記載しておくことと、営業部門から設計部門への伝達方法を定めておかなければならない。このような部門間の連携と協力についての約束事を決めたものが体系(システム)である。」

ポーターはこの“部門間の連携と協力についての約束事”のことを、全体最適(オプティマイゼイション)という概念で説明し、プロセスマネジメントにおいては部分最適(サブオプティマイゼイション)を超えて全体最適を組織全体に適用しなければならない、ことを説いている。

ミシガン大学のラムラーとブラーシュ博士(Geary A.Rummler、Alan P.Brache)は、1990年発行の「Improving Performance」において、この全体最適を組織においてどのように実現すべきであるのかを説明している。プロセスマネジメントにおける9つの変数を定義し、これらの変数を管理することで組織の全体最適が把握できパフォーマンス向上に寄与させることができると提唱している。
これは、アメリカの産業界で実際にプロセスマネジメントを導入する際に実証済みの方法論であるとして、特に1990年~2000年にかけては、フォーチュン1,000社の70%以上の会社が、このプロセスマネジメント方法論から何らかの影響を受けたといわれている。

ラムラーとブラーシュによると、総ての組織は、①組織レベル ②プロセスレベル ③業務レベルの3つの階層に分けて考察するのがよいとしている。そして、この3つの階層ごとに、それぞれ①目標、②設計、③マネジメントの3つの変数を定義する。従って、全部で9つの変数が定義されるが、これらの管理の方法論を詳しく説いている。

いずれにしても、プロセスマネジメントを論じていると、最後にぶつかるのは評価の問題である。評価指標が明確でないプロセスマネジメントは香りのしないコーヒーみたいなものである。評価指標の問題は、プロセスフローにおけるプロセス移行の責任権限の問題、ひいてはコミュニケーション(打診、依頼、受理、委託、受託、協調、命令、確認、承認等)の問題につながっていく。
上記の例でいうと、階層間例えば、組織レベルとプロセスレベル、あるいはプロセスレベルと業務レベルとの間のコミュニケーションの問題である。加えて、部門(機能)間例えば、設計と製造間、製造と技術間のコミュニケーションの問題も多くある。
ISO 9001:2000規格の4.1には「品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織への適用を明確にする。これらのプロセスの順序及び相互関係を明確にする」という要求事項があるが、ここでいう相互関係とは、コミュニケーションの問題であるともいえる。

組織のプロセスを明確にすること、プロセスの順序と相互関係を明確にすることは、プロセスマネジメントにおいて要諦の一つであるが、その核心はコミュニケーションの問題にある。日本式TQCには、品質保証体系図、業務フロー図という手法がある(2.3.6 工程管理(process control)(5)品質保証体系図参照)。多くの会社が品質保証体系図を作成している。品質保証体系図には、部門名と業務プロセスは規定されているが、階層は品質保証体系図には規定されていない。階層間の業務のやり取りは、打診、依頼、受理、委託、受託、協調、命令、確認、承認等に及ぶが、これらの責任権限を含む階層間のコミュニケーションルートは、下位文書(手順書、要領書)に決められているのが普通である(自部門は無論のこと、他部門を含むコミュニケーションルートも重要)。

しかし、品質保証体系図と下位文書(手順書、要領書)の複数の文書に規定されている内容を、一元的に理解しようとすると、頭の中に組み上げられるものは人によってばらつく。品質問題の多くがコミュニケーションギャップ、ミスによって起きていることを考えると、品質保証体系図、業務フロー図等には、階層の次元を追加し、コミュニケーションルートを明確にすることがよい。
平林(筆者)は、部門、プロセス、階層の3次元を表示する下図のような組織機能図(品質保証体系図、業務フロー図等)を提案している。