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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第51回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第51回

3.8 制約条件の理論(TOC)
TOCは、イスラエル大学で物理学を研究していたエリヤフ・ゴールドラット(Eliyahu Goldratt)博士が、その著書「ザ・ゴール」(1992年)の中で興味深いストーリーに仕立てて広めた手法である。TOCの基本原理は、工場全体のアウトプットを上げるためには、ボトルネックエ程を探し出しそのアウトプットを最大限にするように資源を集中させ改善向上させるべきである、というものである。

TOCでは、工場全体の生産量はボトルネックで決まるという原理の他に、第2の原理、ボトルネック以外の工程では、ボトルネックエ程より速くモノを作ってはいけないというものがある。どうせ工場全体のアウトプットは、ボトルネックエ程の能力で制約されるのであるから、ボトルネック以外の工程はボトルネックエ程と同じスピードで、つまりフル操業せずに動かすことがよいのである(在庫が少なくなる)。

このボトルネックエ程を探し出し、それをコントロールするという発想は、日本式TQCでも盛んに実施されたPERT(Program Evaluation and Review Technique)法とか、CPM(Critical Path Method)法と同様な考え方である。(第2章 日本式品質管理(日本式TQC)の主要概念、手法 2.3.6工程管理(process control)(3)QC-PERT法を参照)

1980年代、イスラエル大学のゴールドラットは、工場を経営していた知人から、生産スケジユーリングに関しての相談を受けた。博士は物理学の研究で培った発想や知識を駆使して、その問題の解決法を導き出した。博士はさらに研究を続け、最終的に生産スケジューリング・ソフト「OPT」を開発した。その後博士は、アメリカにこのソフトを販売するクリエーティブ・アウトプット社というベンチャー企業を設立する。

しかし、「ザ・ゴール」がアメリカでベストセラーになると、皮肉なことにソフトは売れなくなり(ソフトを使用せずとも、著書の中に書かれた発想で工場は改善できた)、博士は「ザ・ゴール」で記述した生産管理の手法をTOC(Theory of Constrain:制約条件の理論)と名づけ、その研究や教育を推進する研究所を設立した。そして、このTOCはアメリカの生産管理やサプライチェーン・マネジメントに多大な影響を与えるようになった。その後、博士はTOCを単なる生産管理の理論から、新しい会計方法(スループット会計)や一般的な問題解決の手法(思考プロセス)へと展開させ、さまざまな手法体系へ発展させた。

アメリカでは、多くの工場で部品メーカーの供給がボトルネックになっている。サプライチェーン全体を見なければ問題が解決できなくなっている。これは、トヨタ生産方式が自社内から部品供給メーカーにその対象範囲を拡大する時に、大きな挑戦を強いられるのと同様な事象であるといえる。最近では、このようなサプライチェーン全体を総合的に計画するソフトウェアが多数開発されているが、その大部分が多かれ少なかれTOCの考え方を取り入れている。TOCはサプライチェーンの時代に入り、アメリカにおける生産管理手法のメインになったといわれている。

3.9 TPM(Total Productive Maintenance)
TPMとは、“Total Productive Maintenance”の略で、「生産効率を極限まで高めるための全社的生産革新活動」である。社団法人日本能率協会が、1960年代に提唱した設備保全(PM)からはじまったが、現在は(株)日本プラントメンテナンス協会(JIPM)が推進している総合的生産性向上活動に発展している。提唱当初は製造部門中心の活動だったが、現在では全社的に展開される日本独特の全社的総合的設備管理として、多くの企業に採用されている。

JIPMでは、TPMを次のように定義している

  • ① 生産システムの効率化の極限追求(総合的効率化)をする企業体質づくりを目標にして
  • ② 生産システムのライフサイクル全体を対象とした“災害ゼロ、不良ゼロ、故障ゼロ”など、あらゆるロスを未然防止する仕組みを現場、現物で構築し
  • ③ 生産部門をはじめ、開発、営業、管理などのあらゆる部門にわたって
  • ④ トップから第一線従業員にいたるまで全員が参加し
  • ⑤ 重複小集団活動により、ロス・ゼロを達成すること。

以上をまとめて、TPMの特徴は次の通りであるといわれている。

  • (1) TPMは生産システム効率化の総合的な極限追求を目標にする。そのためにシステムの構築段階から運用、保全にかかわるあらゆる部門、あらゆる階層が全員参加し、効率を阻害する故障停止ロス、段取り調整ロス、チョコ停ロス、不良ロスなど、あらゆるロスを徹底排除する。
  • (2) TPMは、生産システム効率化の極限追求をするのは生産を担当するライン部門の役割だとしている。そしてライン部門の管理者からオペレーターに至るまで生産システム効率化の目標を設定し、目標達成のために「自分の設備は自分で守る」自主保全と、ロスゼロのための改善活動を展開する。このようなライン部門の活動を全面的に支援するのがスタッフ部門の役割である。
  • (3) TPMは、全員参加の重複小集団活動が特徴である。すなわち職制と一体の小集団活動で、トップ層からミドル層、第一線まで各階層ごとに重複して、仕事としてそれぞれ小集団で個別管理、自主保全などの生産システム効率化に取り組む。