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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第53回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第53回

全員参加の品質管理である日本式TQCは大きく評価しえるが、日本社会は知らないうちにパラダイムシフト、すなわち成熟社会、成熟経済というこれまでと違った枠組みに突入し、日本社会はシフトしているとは知らないが故に、それに対応できなくなっていった。1980年後半当りから、日本社会、経済が成熟化し国際的競争優位性が落ち、機を同じくしていろいろな分野でいろいろな品質問題が噴出することになった。

  • 「社会・経済が変化する中、品質の意義や位置づけを再考するために、品質に対して何らかの期待をするであろう企業・組織に求められることがどう変化したかを考察する必要がある。
  • 確かに企業・組織の経営に求められるもの、あるいは経営二一ズが変化した。わが国の社会・経済の進展を見るに、『ものの提供』から『質と効率の追求』へ、そして『存在意義の追求』へと経営二一ズが変化している。TQCは製品の物理的側面における質とそれを生み出すシステムの効率の追求に貢献した。だが社会・経済の成熟に伴い、市場に提供する製品についていえば『質』の高度化と多様化が要求され、また経営体についても企業・組織の使命や存在意義が問われるような時代となっている。」

飯塚は、日本の現在遭遇している環境を分析する中から、時代は変わっても成功する組織の共通点は同じだとして、①周囲・環境に対する鋭敏な感覚、②コア・コンピタンス、③人材・人財の3つを上げている。そして、品質立国日本再生への道と称して、次のような提言をしている。

  • 「わが国の杜会・経済構造の変化を踏まえ品質立国日本、ものづくり大国日本の再生のために、以下の三点からなる「Q-Japan」構想を提案する。
  • (1)時代が求める「精神構造」の確立
  • Q-Japan再現のためには時代が求める「精神構造」の確立が必要である。すなわち、第一にかつての日本の品質管理の原点にかえり「真理追求型ハングリー精神」を取り戻すことである。それは、時代が変化した現在でもなおかつ必要な「伝統的ものづくり能力」低下への対応でもある。同時に社会・経済の成熟化に伴い必要となる「自律型精神構造」の獲得に努めることも必要である。それは、環境変化に対応した「新しいものづくり能力」の育成でもある。
  • (2)「産業競争力」という視点での品質の考察
  • Q-Japan再現のためには競争力という視点が必要である。品質アプローチは組織の競
    争力に直結するものでなければならない。組織の競争力向上のための品質概念(顧客価値、品質創造に関わる概念)および品質マネジメントの方法論(競争優位のための品質マネジメントシステム設計・構築)の確立が必要である。
  • (3)「社会技術」のレベル向上
  • Q-Japan実現のためには「社会技術」(社会が全体として保持していかなければならない技術)のレベル向上が必要である。日本という国、社会への質的レベルを向上するという意味での質への取り組みというばかりでなく、国力・産業競争力を左右する側面への取り組みという意味もある。この観点から医療安全・質保証・質改善、原子力安全、安価で安心した交通・通信、その他国民生活の安全・安心にかかわる分野での質への取り組みが必要である。」

最近、物事の計画に関してバックキャスト(backcast:後ろに投げる)というコンセプトを聞く。単にフォアキャスト(forecast:前に投げる、予測する)するのではなく、将来の時点から今の時点に戻して、何をやらなければならないかを決めていく方法論をいうそうである。飯塚は、このバックキャスト的発想で競争優位のための品質マネジメントシステム構築を説く。

  • 「私たちはよく問題・課題という用語を使う。これらは現状あるいは近未来のあるべき姿からの乖離のことである。そのあるべき姿がわからなければ取り組むべき問題・課題もわからない。そのあるべき姿を『競争力』の視点で考えるのが、ここで主張したい『競争のための品質マネジメントシステム構築』であり、『競争力の視点からの品質の考察』である。」

として、以下のようなアプローチを例示している。

  • 「(1) 製品、顧客、価値
    • ・誰(顧客)に何(製品)を提供しているのか?
    • ・顧客は製品のどんな側面(価値)を認めて(それゆえ買って)くれているのか?
  • (2) 必要な技術
    • ・(1)の製品を提供するためにどのような技術(再現可能な方法論)が必要か?
  • (3) 競争優位要因、ビジネス成功要因
    • ・自分の特徴を考えると、どの勝ちパターンをねらうべきか?
    • ・(2)で特定された技術のうち競争優位要因、ビジネス成功要因の観点から重要なものは何か?
  • (4) 重要な品質マネジメントシステム要素・活動
    • ・(3)で特定された競争優位要因の観点から重要な品質マネジメントシステム要素、品質マネジメントシステム活動は何か?
  • (5) 展開
    • ・具体的課題、展開、実行計画、・・・・
    • ・組織の能力向上(例:品質概念、問題解決、システム志向、プロセス志向)」

そして最後に次のように締め括っている。

  • 「この『Q-Japan構想』のもと、品質および品質管理にかかわる学会として、時代が求める新たな概念の積極的な発信をしていけたらと願う。またそれら概念を具現化する方法論の開発も行っていきたい。それほど簡単なことではないと思う。しかし、希望は捨てていない。私たちがかつて持っていたものを復権すると同時に、時代の変化に応じた新しい能力を獲得していきたいと思う。何年かかるかわからないが、もう一度、『品質立国日本』『ものづくり大国日本』を復活してみたいと思う。」

(参考文献)
・ 品質 vol.34、No.4、2004、特集「Q-Japan構想」

以上