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新・世界標準ISOマネジメント(第24回)

平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第24回

3.2.2 ISO労働安全衛生規格の浮沈

  • OHSMS(Occupational Health and Safety Management System:労働安全衛生マネジメントシステム)をISO規格にしようとする検討は、ISO/TMB(Technical Management Board:技術管理評議会)で過去に2回行われたが、いずれも見送りになった。
  • 1994年5月、ゴールドコースト(オーストラリア)で開かれたISO/TC207第2回総会におけるカナダ提案が、最初のOHSMS国際規格化の動きである。提案のきっかけは、環境マネジメントシステムを検討する小委員会において、規格に盛り込むべき内容の境界線をどこにおくのかの議論を巡ってである。環境マネジメントシステムもOHSMSも、劇物毒物、有機溶剤、騒音、廃棄物等を扱うが両者の区別をつける線がはっきりしない。
  • 当時の大方の見解は、組織の外に対しては環境マネジメントシステムで、内に対してはOHSMSでというものであり、外向けの規格(ISO14001)を作るなら内向けの規格も作るべきである、というのがこの提案の背景にあった。この考えは今日まで余り変わっていないとみてよい。
  • 1995年1月、ISO/TMBはカナダの提案を受けて、OHSアドホックグループ(一時的な委員会)の設置を決めた。アドホックグループは、1995年から1996年にかけて都合3回の会合を開き、OHSMSの今後の方向について協議した。
  • 1996年9月、アドホックグループはジュネーブで各国の利害関係者を集めたワークショップを開催した。このワークショップは各国の強い関心を呼び、44ヶ国、6国際機関から400人近い専門家が集まった。日本からもOHSマネジメントシステム分科会(委員長:吉澤正 当時筑波大学大学院教授)メンバーを中心に、通商産業省(当時)、労働省(当時)、産業界、関係団体から19名が参加した。2日間に及ぶ議論の中でOHSMSのISO規格化には賛否両論に意見が分かれた。ワークショップ後、各国参加者にアンケートが取られたが、賛成33%に対して反対43%という結果になった。
  • 1997年1月末、ISOはISO/TMBを開催し、別表(省略)のような結論を出しこの案件を正式に時期尚早として当面見送った。
  • ISO/TMBの決定
    • 「ワークショップの結果に注目し、OHSMSのニーズは将来あるかもしれないが、現時点ではない。」
    • 1998年9月、この時開かれたISO総会で2回目の国際規格化の動きが起きた。そのISO総会において、各国のOHSMSに関する規格開発状況の調査を行い、この問題について再考する決議が採択委託された。
    • 1999年1月末、ISO/TMB及び理事会は調査結果を受けての報告と今後の対応について議論をし、次の結論を採択した。

  • ISO/TMBの決定2
    • 「今後OHSMSに関する規格開発の提案がなされる場合には、ワークショップを開くことなく、ISO/IEC指令に定められた通常の手続きに従って投票にかける。」
    • この通常の手続きとは次のようなものである。
      • ① ISOの全てのメンバーボディにTMBへの提案を送付する。
      • ② 新しいTC(技術委員会)の設置に賛成するか否か、そのTCの業務に積極的に参加する意志があるかどうか否かについて、3ヶ月以内の投票を求める。
      • ③ 投票結果において、投票数2/3以上のメンバーボディがTC設置に賛成であり、かつ5カ国以上のメンバーボディがTCに積極的に参加する意志を表明すれば、新しいTCの設置を決定する。
    • 1999年11月、BSIはISOにOHSMS規格制定の提案を行った。その結果1999年12月6日、TMB事務局長は各国のISOメンバーボディに対して書簡を送付した。それは、提案に対する賛否と提案が採択された場合に設置されるTCにどのように関わるのか、を2000年3月10日までに投票するよう通知したものであった。
    • なお、BSI提案の概要は別表(省略)の通りである。

  • BSI提案概要
    • (1)対象範囲
    •  労働安全衛生分野におけるツールとシステムの規格化(労働安全衛生パフォーマンスレベルの設定や製品の安全性の規格は除外)
    • (2)提案の目的
    •  ・組織が法的義務を遂行するためにOHSMSを開発し、実施することを支援
    •  ・労働安全衛生の最高の慣行適用を推進
    •  ・多国籍な組織が世界的規模でOHSMSを適用できるように、国際的に認知された共通の規格を提供
    •  ・整合性のないさまざまな国内、業種別、審査登録機関の労働安全衛生管理スキームの乱立による市場の混乱を、整合性のあるOHSMS規格の提供により回避
    • (3)参考規格
    •   BS8800
  • 2000年2月、ISOはいくつかのメンバーボディから要請があったとして、2000年3月10日までの投票期限を同年4月18日までに延長した。注目の投票は2000年4月18日に締め切られ、結果BSI提案は否決された。
  • 投票結果は、賛成29、反対20、棄権3で、賛成票が投票数の3分の2以上に達していなかった。反対票の多くは先進国であり、反対票コメントの主なものは別表(省略)の通りである。
  • 反対票コメント
    • ・ILOとの共同作業あるいはILO単独の作業が望ましい。
    • ・現時点で独自のOHSMS規格は必要ない。
  • なお日本は、2000年3月13日JISC(Japan Industrial Standard Committee:日本工業標準調査会)OHS分科会において激論の末、一致した意見の集約ができず棄権することを決定した。