ISO審査員の皆様にとって、世界経済がどのように動いているかを把握することは⾮常に重要です。
本稿が、皆様が今後の世界経済の大きな流れについて理解を深める⼀助となれば幸いです。
今回の投稿では、「トランプ大統領の関税政策において、なぜ日本の消費税が注目されるのか?」について考察してまいります。
トランプ政権は「アメリカ第一主義」を掲げ、積極的な経済政策を展開しています。特に「相互関税」政策は、日本にも大きな影響を与えることが予想されます。本稿では、この相互関税政策において、なぜ日本の消費税が注目されるのか、その問題点を検討していきます。

1. トランプ大統領の主張
2025年2月18日、トランプ大統領はSNS「X」にて、次のように投稿しました。

2025年2月18日
ドナルド・J・トランプ @realDonaldTrump
貿易に関しては、公平性の観点から、相互関税を課すことを決定しました。つまり、各国がアメリカ合衆国に課す関税を、私たちも課すということです。これ以上でもこれ以下でもありません!
この米国政策において、関税よりもはるかに厳しいVAT制度を採用している国は、関税と同等とみなします。米国に不当な損害を与える目的で、商品、製品、その他いかなる名称の物でも、他国を経由して送ることは認められません。さらに、米国を経済的に利用するために各国が提供する補助金についても規定を設けます。同様に、一部の国が米国製品を自国の領域から締め出すために、あるいは米国企業の操業を禁止するために課す非金銭的関税や貿易障壁についても規定を設けます。私たちは、これらの非金銭的貿易障壁のコストを正確に把握することができます。これはすべての国にとって公平であり、他の国は不満を言うことができません。場合によっては、ある国が米国への関税が高すぎると感じた場合、米国に対する関税を削減または撤廃するだけで済みます。米国で製品を製造または製造する場合、関税はかかりません。 長年にわたり、米国は敵味方を問わず、他の国々から不当な扱いを受けてきました。この制度は、かつて複雑で不公平だった貿易制度に、直ちに公平性と繁栄を取り戻すでしょう。米国は長年にわたり、多大な経済的犠牲を払って多くの国々を支援してきました。今こそ、これらの国々がこのことを思い出し、米国を公平に扱う時です。つまり、米国の労働者にとって公平な競争の場を提供する時です。私は国務長官、商務長官、財務長官、そして米国通商代表部(USTR)に対し、米国の貿易制度に相互主義をもたらすために必要なあらゆる作業を行うよう指示しました。

この主張なポイントは、つぎの3点です。
 • 貿易はフェアであるべきこと
 • 付加価値税(VAT)を実質的な関税とみなすこと
 • 補助金や非関税障壁についても是正を求めること

トランプ大統領、2025年1月下旬の世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)でも、欧州のVATが米国企業に多大な負担となっていることに触れ、欧州連合(EU)の貿易慣行を「不公平」と強く非難しました。

トランプ氏は、「EUによる米国の扱いは極めて不当だ」と批判。「税金は高く、米国の農産物や自動車を買わないが、何百万台もの自動車を米国に送り込んでいる」と主張した。ただ、公約に掲げる10~20%の輸入関税については「米国で製造しない場合、関税を払う必要がある」とし、米国で投資した場合は免除する方針も示唆した。出典:アジア開発ニュース 2025年1月27日

それでは、日本の消費税は関税にあたるのか。また、日本の消費税の特徴について掘り下げていきます。

2.関税はどういうものか
まず関税とは何かを確認します。

関税とは、外国から輸入される商品に対して、国が課す税金のことを指します。これは単に財政収入を得るための手段にとどまらず、国内産業を守るための「保護的措置」としても機能します。たとえば、ある商品が海外から安価に大量に流入した場合、国内の同業者が価格競争で不利になり、雇用や生産活動に悪影響を及ぼすことがあります。そこで関税をかけることで、輸入品の価格を引き上げ、国内品との競争環境を調整するわけです。

出典:海外進出に関わる、あらゆる情報が揃う「海外ビジネス支援プラットフォーム」出島

つまり関税は、外国から輸入される商品に対して、国が課す税金のことです。その目的は、税収の増加と国内産業を守るための「保護的租賃」があります。

トランプ政権がアメリカ国内産業の保護を目的に関税を世界各国に課して、相手国利譲歩を引き出すために取引しようとしていることは容易に推測できます。

3. 日本の消費税の特徴
トランプ大統領が問題とする付加価値税の特質を日本の消費税が持つものであるのか、消費税について調べてみました。

1)日本の消費税の特徴:直接税
消費税の納税義務者は消費税法5条によると、国内において行った課税資産の譲渡等の事業者とあります。

消費税法 (納税義務者)
第五条 事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三十条第二項及び第三十二条を除き、以下同じ。)及び特定課税仕入れ(課税仕入れのうち特定仕入れに該当するものをいう。以下同じ。)につき、この法律により、消費税を納める義務がある。
2 外国貨物を保税地域から引き取る者は、課税貨物につき、この法律により、消費税を納める義務がある。

消費税法によると、事業者は消費税を納める義務があると規定しています。
それでは直接税と間接税とはどういうものでしょうか。直接税とは、税を納めるべき人と負担する人が同じ税金を指します。
例えば、所得税は個人の所得を10種類に分け、それぞれの所得を計算し税額を求め、本人がその金額を納税します。
他方、間接税とは、税を納めるべき人と負担する人が異なる税金のことをいい、消費税はこれまで代表的な間接税の1つとされていました。
消費者は買い物をする時に消費税を負担していると感じています。しかしながら上記の消費税法5条によると、納税義務者と負担者はいずれも事業者になります。実際に消費税の申告や支払いをするのは、消費者に商品を販売したり、サービスを提供したりした事業者となります。
日本国内で国民の多くは、消費税を間接税であると考えています。上記の各税金の定義にてらしてみると、消費税は直接税といえます。

2)消費税は輸出事業者には還付される
日本の消費税のもう一つの特徴は、輸出取引に対する免税制度です。これは、国内で生産された商品やサービスが海外で消費される場合、消費税を課さないというルールがあります。税金の負担は海外の出されたモノは消費された地で課税するという消費地主義というルールに準拠しています。
「消費税の税率は?」と問われたら、私たちは「標準税率の10%と軽減税率の8%」と答えます。ところが、日本にはもう一つ、「0%」という税率が存在します。0%は輸出売り上げだけに適用されるのです。
輸出企業は「0%」という税率を活用して仕入れに支払った消費税を還付する制度があります。輸出の割合の大きい企業は還付制度を利用して多額の還付金を得ている資料を掲載します。

輸出大企業に対する還付金額上位20社の推算
出典:22年度 トヨタなど輸出大企業20社に消費税還付1.9兆円 全国商工新聞

この還付金は、輸出企業への輸出補助金の役割をはたしています。トランプ政権はこの点を問題にして世界各国へ関税をかけて是正を要請している事が容易に理解できます。

フランスには1936年に導入したメーカーの製品に課税する「製造業者売上税(税率10%)」がありました。
第二次世界大戦からの復興を図るべくフランス政府は輸出企業に輸出補助金を出していました。しかし1948年1月に「ガット協定(関税および貿易に関する一般協定)」に締結して、仏政府は輸出企業に補助金を出せなくなりました。そこで仏政府と財界が「輸出企業の優遇を」との要請に応えて編み出したのが、輸出販売にゼロ税率を適用し、仕入れに含まれている売上税を還付する仕組みでした。1954年、「製造業者売上税」と名称変更し、企業の付加価値に課税する直接税である「付加価値税」を導入しました。ガット協定では直接税には輸出還付金制度が認められないので、「付加価値税」を間接税と定義し、還付しても協定に違反しないと主張しました。

さらに「インボイス制度」が、国内において2023年10月1日に導入されました。具体的には、「国が定めた請求書や納品書などに、インボイス(適格請求書)に必要な内容を記載すれば、仕入れにかかった税金を控除できる制度」です。2023年10月1日からは、仕入れにかかった税金の控除を受けたい場合、インボイス制度に対応する必要がでてきました。つまり、還付する際は、仕入れ先から本体価格と税金を明記した請求書をもらい、それを還付の証明書を使うことになります。インボイス制度は、輸出企業への還付金の正確性を保証すると同時に直接税である消費税を間接税に見えるようにする仕組みであるといえます。

4.トランプ政権からの関税政策への対応
これまでの検討を振り返ると、トランプ大統領による世界各国への関税政策は、単なる思いつきではなく、各国の消費税・付加価値税制度を詳細に研究した上で導き出されたものであることが分かります。

消費税は、一般には「消費者が支払った税金を事業者が預かる」イメージが持たれていますが、実際には事業者自身が納税義務者となり、独自に税額を計算して納税する直接税である事が確認できました。これは、これまで一般に流布されている「消費税=間接税」という理解が誤解であった事を示しています。

また、日本の輸出大企業が、輸出品について消費税を納めないだけでなく、仕入れ時に支払った消費税を還付されている実態も明らかになりました。これは、トランプ政権の視点から見れば、まさに実質的な輸出補助金を出していると受け止められたのです。輸出すればするほど還付金を得られる仕組みは、結果として輸出大企業優遇の政策となっています。

今回、トランプ政権の相互関税政策の実施より、消費税制度や輸出企業への還付の仕組みについて詳しく調べてみると、消費税の実情について驚きをもって認識する事ができました。

日本政府にとって、トランプ政権から指摘された課題について、適切に対応する事が緊急かつ最優先の課題であるといえます。

以上