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2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方(はじめに)

平林良人「2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方」アーカイブ はじめに

◆このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方」です。

はじめに
日本におけるISO 9000シリーズ規格に基づくシステム構築と審査登録は,スタートしてから約10年が経ち,すでに1994年版9000シリーズ規格に基づく品質マニュアルを作成している組織は15,000件を超えていると思われる。本書では,今回改正された2000年版規格に基づき,改めて品質マニュアルとは何かを考え,その作り方を解説していきたい。
組織は,ISO 9000シリーズによる品質マネジメントシステム構築にどんな成果を期待しているのであろうか。第三者審査登録を得たいということ以外に,組織の実績,パフォーマンスを期待して取り組んでいるのではないだろうか。組織はいろいろな要素の集まりである。要素とは人,設備,製品(構成部品を含む)などである。これらの要素はお互いが複雑に絡み合っている。規定,ルール(手順)なしでは期待される成果に結び付かない。
このお互いが複雑に絡み合った要素に最低限の規定,ルールを与え,トップの期待する効果をあげさせようとするのが,ISO 9000シリーズによる品質マネジメントシステムである。しかし,組織の人々はときどき最低限の規定,ルールを守らないことがある。システムの維持は,決められた規定,ルールを全員が守ることで達成されていく。したがって,この規定,ルール無視が多いと,マネジメントシステムの維持はできない。この守るべき手順の総括が品質マニュアルである。

なぜ人々は品質マニュアルを守らないことがあるのだろうか.その理由はいくつか考えられる。

  • ① 品質マニュアルを知らない。
  • ② 品質マニュアルの存在は知っているが,自分たちのやり方と異なっている。品質マニュアル通り実施しなくても目的は達成できる。
  • ③ チェックまたは注意されない。最初は上司も関心をもっていたが,だんだんと無関心になり,今や業務のやり方は部下任せである。
  • ④ 時間がない。
  • ⑤ 面倒である。

このうち①と②は,品質マニュアルの定め方に問題があると思われる。実際に業務を実行する人々に対して,有効な働きかけをしていないことから発生する問題である。品質マニュアルを定める時は業務実施者と協同で,あるいはやり方をよく聞いて制定しなければならない。もし,実際に業務を行わないスタッフが机上で考えた品質マニュアルを制定すると,多くの場合このような状況に陥ることになる。
③は,マネジメントの問題であろう。部下が品質マニュアルと異なった仕事をしてもチェックしない上司が多く,上司が部下の手順を知っているのかどうか疑問に思われる場合もある。
④と⑤はむずかしい問題である。制定された品質マニュアルをどのように守らせるのかという課題である。しかし,むずかしいといって放置しておくわけにはいかない。何らかの対策を考えなければならない。原理・原則からいえば,規定,ルール無視の仕事はシステムのメカニズムによって先に進まないようにすればよい。同僚,上司のチェックが一番有効であろうが,状況によっては自動的に,たとえばコンピュータなどの活用による手順の確立もあるであろう。
 以上の課題を整理してみると,

  • (1)規定,ルールの決め方の問題。
  • (2)規定,ルールを守らせる問題。

の2つに分けることができる。本書では,品質マニュアルの作り方を中心に,上記の(1)と(2)の問題についても考えていきたい。
「よいシステムとは何か」を考えていくと,最後に突き当たるのは「よい品質マニュアル(手順書)とは何か」になる。システムとは「相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり」であるから,複雑な業務をいかにして品質マニュアル(手順書)化しておくかに行きつくのである。品質マニュアルには何を書くのか,誰を対象に書くべきか,どのくらいの細かさで書くのか,いつ読むのか,いつ読ませるのか,これらは当然組織によって異なる。
 本書は,ISO 9001:2000規格の発行を受けて,1993年に出版した『ISO 9000品質マニュアルの作り方』を全く新たに書き起こしたものである。しかし,上述のようなことを考えると,生来遅い筆が遅々として進まない。そんな中,東京大学飯塚悦功教授から文書化について適確なアドバイスをいただき,随分と方向を定めるのに役立った。改めて感謝申し上げます。
 また,本文中に使用しているISO 9000/9001/9004:2000規格の日本語訳は,原則として財団法人日本規格協会発行による次の文献から引用させていただいた。厚くお礼申し上げます。

  • 日本工業標準調査会審議:『品質マネジメントシステム―基本及び用語』(JISQ 9000:2000),日本規格協会,2000年12月20日.
  • 日本工業標準調査会審議:『品質マネジメントシステム―要求事項』(JISQ 9001:2000),日本規格協会,2000年12月20日.
  • 日本工業標準調査会審議:『品質マネジメントシステム―パフォーマンス改善の指針』(JISQ 9004:2000),日本規格協会,2000年12月20日.

最後に,品質マニュアルの事例を書き起こしてくれた当社の伊沢 徹氏,野村健吉氏,ならびに貴重な意見をいただいた小林克俊氏,澤登 巌氏,原稿のチェックをしていただいた園部浩一邸氏に感謝申し上げます。そして,厳しいスケジュールの中編集にたずさわってくださった日科技連出版社の戸羽節文課長,また出版の機会を与えていただいた垪和輝英社長に感謝申し上げます。

2001年1月1日
㈱テクノファ代表取締役
平 林 良 人