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2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方(第9回)

平林良人「2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方」アーカイブ 第9回

◆このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「2000年版対応ISO9000品質マニュアルの作り方」です。

第3章
品質マニュアル記述ポイント

第3章では,ISO9001:2000規格の要求事項の一つに対する品質マニュアル記述ポイントを述べる。もとより,ここに記述されているポイントは筆者の考えであって,規格の要求事項ではない。世の中で公式に認められたものでもない。組織が,自分たちの実体をみる中から,本書とは異なるスタイルで品質マニュアルを作成することもあるに違いない。
2000年版規格は,この様な事に関しては旧版に比較してすこぶる自由度は高い。極端な事をいえば,組織が思ったように品質マニュアルを作成し,システムを構築すればよい,ということになる。しかし,やはり定石という物があるであろう。本書では,基本的な考え方を記しながら,品質マニュアル作成のプロセスを追っていく。

3.1品質マニュアル作成の基本

品質マニュアルを作成する時には,まず最初に次のことを考えなければならない。

  • ① 誰が作成するのか。
  • ② 何を対象に作成するのか。

①については,組織の規模によるが,一般的にはプロジェクトチームによる編纂が推奨される。チームメンバーは全員が業務に通じていること,組織をカバーしたメンバー構成であることなどがポイントである。もちろん,これは組織の規模によってもずいぶん異なるので,プロジェクトチームの組み方については組織ごとに熟慮することを勧めたい。

②については,詳細を以下に述べるが,要求事項に対して「誰の責任で,何をやるのか」を記述することがポイントである。

さて,実質的な品質マニュアル作成の基本について整理してみると,表3.1の1)~5)に整理される。

表3.1 品質マニュアル作成の基本

  • 1) 組織は,社内外の多くの人に対して品質マニュアルを理解してもらうために,できるだけISO9001:2000規格の要求事項の順番通りに品質マニュアルを作成する。しかし,組織が自身のQMSを構築するうえである項を追加したり,除いたり,順番を変更したりすることは自由である。
  • 2) 組織は,「4.2.2 品質マニュアル」の要求事項であるa),b),C)を含む品質 マニュアルを作成する。すなわち,品質マニュアルの定義にある「組織の品質マネジメントシステムを規定する文書」にa),b),c)が含まれている品質マニュアルを作成する。決して,a),b),c)だけが記述された品質マニュアルでよいわけではない。
  • 品質マネジメントシステムを規定するとは,どんなことをいうのであろうか。
  • 品質マネジメントシステムとは,ISO 9000:2000規格によれば「品質に関して組織を指揮し,管理するためのマネジメントシステム」である。この総体を要求事項という形で4.1~8.5.3項までにまとめたのがISO 9001:2000規格である。
  • したがって,品質マネジメントシステムを規定する文書とは,ISO 9001:2000規格の4.1~8.5.3項までの要求事項をどのように実施するのかを規定した文書ということになる。規定の仕方は,組織によって1つの要求事項について数行から数十行,文章であったり,フローチャートであったりさまざまになるであろう
  • 3) ISO 9001:2000規格の要求事項の記述を繰り返すことは,できるだけ避ける。ISO 9001:2000規格は,いわば0次文書と位置付けられ(すなわち,品質マニュアルの上位文書),0次文書の要求事項をそのまま1次文書である品質マニュアルに重複して記述しないほうがよい。
  • 一般的記述はせず,0次文書(ISO 9001:2000規格)を受けて“どのようにする”のかを必要に応じて記述する。すなわち,品質マニュアルには,要求事項を受けて何をするのかを記述する。しかし,規格の記述の中には,要求事項の一部として「ものごとの状態」を表している部分があるので,この部分は規格の表現をそのまま使用するのがよい。1次文書(品質マニュアル)と2次文書(手順書など)との間に表現の重複がある程度は存在するように,0次文書と1次文書との聞にも.ある程度の重複記述が存在することは避けられない。
  • 4) 4.1項の冒頭にある“品質マネジメントシステム(QMS)を……維持する”ためには,単に今できているだけでは不十分であって,構築されたものが継続的に維持されることが必要である。それには継続して行われることが保証される,あるいは保証されるとまではいかなくても,忘れないようにするための“規定されたやり方”が必要になる。つまり,ISO 9000:2000規格の3.4.5項の定義によるところの,何らかの手順(specified way;規定されたやり方)が必要である。
  • 構築された仕組みは,手順があって初めて継続的に維持される。この手順で,一番手っ取り早いのが文書である。しかし,手順は,ISO 9000:2000規格の3.4.5項に定義されているように,必ずしも文書である必要はない。何らかの規定されたやり方(specified way)があればよい。文書にしたから継続して行われることが保証されるかと言うと,そんなことはない。
  • 以上のことを踏まえ,品質マニュアルにはできるだけ組織の実力に合わせて,どんな手順(specified way;規定されたやり方)を活用するのかを記述する。
  • 5)組織は,品質マニュアルに具体的な手順(specified way;規定されたやり方)の中身を記述するか,しないかを決める。品質マニュアルに中身を記述すれば,2次文書の種類を減らすことができる。
  • たとえば,品質マニュアルの中に,文書管理,品質記録の管理手順の内容を記述すれば,2次文書の一覧には,文書管理規定(手順)書,品質記録管理規定(手順)書などは記載されなくなる。

3.2 品質マニュアル作成フロー
品質マニュアル作成をどんな手順で行っていくのかを,図3.1のフローに示す。

  1. 対象製品を決める
    • 必ずしも組織のすべての製品を対象商品にする必要はない。適用範囲内で対象製品を明確にする。
  2. プロセスを決める
    • プロセスの大きさは,①組織がインプットとアウトプットの間にある付加価値の大きさで決め,組織の現在のフローを分析して決める,②ISO 9001:2000規格の項目名を1つのプロセスとする,の組み合わせで決める。
    • プロセス単位は,組織の現実をそのままスケッチする.改善することがあればこの機会に直す。
    • プロセスの大きさは管理できる大きさであること。
  3. 要求事項を理解する
    • 要求事項そのものの表現を品質マニュアルに記述しない。
  4. 構築の仕方を決める
    • 構築の仕方,実施のやり方を記述する.組織の5W1Hについて,該当するものを記述する。
  5. QMSの維持の仕方を決める
    • 手順(specified way;規定されたやり方)にどんな手段を採用するのがよいか,組織の実態に合わせて決める。文書化を手順の手段として採用するケースが多いが,手順は文書には限らない。

図3.1 品質マニュアル作成フロー

3.3 品質マニュアル記述のポイント

第1章で述べたように,ISO 9001:2000規格においては,品質マニュアルヘの記述内容への要求が1994年版規格と比較して弾力的なものになった(ISO 9001:2000規格「4.2.2 品質マニュアル」を参照)。

本書では,2.5節(3)において,規格の要求事項一つひとつ(136項目)を文書化の観点から3点に分けて考えてみることを提唱している。

では,実際に品質マニュアルを作成する際に136項目のshall要求事項をどう処理をすればよいのかを考えてみよう。

  • (1)手順書,文書を作成する
  • 本書2.5節(3)のa)に分類されている条項は,具体的にどのようにして確立,維持するのかを記述する。すなわち,「誰が」,「何を」に加え「どのように」するのかを記述する。手順が長くなるものは,詳細を下位文書にゆずることにして,品質マニュアルではそれを参照するのがよい。また,フォーマット例だけでも品質マニュアルの巻末または品質マニュアル中に付けておくと,QMSの理解がしやすい。
  • ISO 9001:2000規格の要求事項で手順の確立,維持を要求しているところでは,具体的に5WIHを用いて手順を記述する。詳細は下位文書に記述し,参照することにすればよい。
  • 規格の中で「文書化された手順」と表現されているところでは,その手順が確立され,文書化され,かつ維持されていることを意味する(ISO 9001:2000規格4.2.1項の参考1)。
  • (2)何をするかを記述する(品質マニュアルに記述する)
  • 本書2.5節(3)のb)に分類されているshall要求事項は,何を実施するのかを品質マニュアルの中に書く。手順が要求されているわけではないので,ここでは簡潔に何を実施するのかということだけの記述でよい。「……することを確実にする」という決意表明だけの,規格の繰り返し表現はしない。
  • ここで考慮しなければならないことがある。それは多くのshall要求事項はお互いに結び付いているということである。1つのshall要求事項を文書として表すことで,その要求事項に結び付いている他のshall要求事項は代表的shall要求事項の中に包含されると考えればよい場合がある。ここでも,“……Shall ensure that……”におけるthat以下は,後ろの条項に記述されることが多いので,ここでは記述する必要はない場合が多い。ここで記述しておきたいのは,たとえばトップは何をしてthat以下のことを保証(確実に)しようとするのかということである。
  • (3) 特に記述しないが,若干の記述はあり得る
  • 本書2.5節(3)のc)に分類されているshall要求事項は,「何を」するのかを必ずしも記述しなくてもよい。
  • 要求されていることを,どのような形で実現しようとするのか検討した結果,特に文書にする必要がないとの結論にいたった場合は特にそうである。規格は「~すること」と,組織に対して実行を要求しているのであるから,実際に実行していれば特に文書に記述せずとも規格に対しては適合している。審査登録機開から文書化してあるのか,という要求を突きつけられるかもしれないが,実行している証拠が示すことができればそれでよい。証拠の示し方には次のような方法がある
    • 記録を見てもらう。
    • 現場を見てもらう。
    • 担当者に聞いてもらう。
    • 成果物を見てもらう。
  • しかし,品質マネジメントシステムをどのように維持していくのかについて,規定されたやり方(specified way)があれば記述することが望ましい。
  • また,規格要求事項の中には,実行した結果の状態を示している箇所もところどころにあるが,このような部分は品質マニュアルをわかりやすくする意味で記述する場合が多い。
  • 表3.2にISO 9001:2000規格の要求事項(shall要求事項)の一つひとつに対する文書化への本書の考え方を掲げてある。
  • 表3.2の各欄の冒頭には,上述の(1)~(3)の区分を下記のシンボルを使って明示してある。
    • (1)手順書,文書を作成する
    • (2)何をするのかを記述する
    • (3)特に記述しないが,若干の記述はあり得る
  • 表3.2 品質マニュアル記述ポイント
  • ISO 9001:2000規格の要求事項