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2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方(第2回)

平林良人「2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方」アーカイブ 第2回

◆このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「2000年版対応ISO9000品質マニュアルの作り方」です。

1.3 手順,手順書とは
組織が手順を全員に徹底しようとする場合,品質マニュアルも含めて文書は,文書量の多寡を問わずシステム構築に欠かせないものである。文書なしで手順を徹底することもできるだろうが,その場合はかなり限定されたケースになろう。
ISO 9000:2000規格「3.4.5手順」の定義には,次のようにある。
活動又はプロセス(3.4.5手順)の定義には,次のようにある。

  • 参考1. 手順は文書にすることもあり,しないこともある。
  •   2. 手順が文書にされた場合,“書かれた手順”又は“文書化された手順”という用語がよく用いられる。手順を含んだ文書(3.7.2)を,“手順書”と呼ぶことがある。

手順,すなわち規定された方法(specified way)として文書が多用されるのは,文書にすることによって一度決めたことが文字として残され,次回に同じことが行われる可能性が高いからである。文書を作成しても,次回と同じことが行われる可能性は高いだけであって,必ずその通りに行われるという保証はない。反対に文書にしなくても,一度決めたことが何らかの方法で残され,次回に同じことが行われる方法があれば,手順として使うことができる。たとえば,重力のような自然の理,バネ力のような物理力,あるいはコンピュータ,確実に実行する人々などである。
文書なしで常に同じ「順序」と「方法」で物事が行われるケースを,表1.2にまとめる。

このように,手順は「……するために規定された方法」であるから,必ずしも文書にせずとも,物理的方法,自動化による方法,視覚的な方法,指導力による方法,相互監視による方法,習慣化による方法なども活用することができる。しかし,表1.2の例で明らかなように,いずれもある条件下でないと実現不可能であり,限定された方法ということになる。しかも,その条件を整えようとすると文書に頼らざるを得ないケースが多い。

結局,組織の人数が極端に少ない,業務範囲が狭い,応用動作がないなどのいろいろな条件下で文書以外の手順を活用し,文書量を少なくすることはできる。しかし,総合的にみれば,文書は手順を徹底する際に便利なもので,一番有効な要素である。

表1.2 文書なしで手順が徹底できうるケース

①物理的方法 常に同じことを行わせる方法の1つに,物理的方法がある。たとえば,液体の量を一定にしておきたい時のオーバーフロー装置,常に同じ高さに品物(たとえば,セルフサービス食堂の皿)を保っておきたい時の高さコントロール装置,あるいは品質確保のためにある一定の高さにしか品物を積めないような倉庫ラックの高さ制限装置など,われわれの身の回りには多くの例がある。これらは,いずれも重力,バネ力,物理的制限などを規定された方法(specified way)として使っており,言葉の定義からいって手順とみなすことができる。順序正しく道具を置くように定められた場所(道具の輪郭が描かれている)も規定の例としてはよくみられるものである。しかし,メンテナンスは必要である。
②自動化による方法 1)製造工場においては,検査,製造プロセスの一部ないしすべてに,自動機械を使用する。もちろん,検査内容,製造方法などの「順序」と「方法」は文書にされていない。すべては,自動機械に組み込まれたメカ,ソフト(コンピュータ)が実施の「順序」と「方法」を覚えていて間違いなく実施する。このような場合,自動化が規定された方法,すなわち手順(specified way)である。
2)何かの警告に音を必要とする時の「順序」と「方法」として,コンピュータ組み込みのスピーカー装置が使用されている。あるタイミングでコンビューターが作動してスピーカーが鳴り出すわけである。この例においても,スピーカー装置が規定された方法,すなわち手順(specified way)といえるであろう,しかし,いずれの場合もメンテナンスが必要である。
③視覚的方法 ビジュアルメソッドと呼ばれる規定の方法である。空港などで行き先を示す方法として床に色別のラインが引かれていることがあるが,視覚に訴える方法も規定として有効である。アッセンブル工場においても,異なるいくつかの色を床に塗ることでいろいろな部品の置き場を示すことが行われている。これも手順,すなわち規定された方法(specified way)として有効な物であろう。
④指導力による方法 家庭内工業的な組織では,社長(リーダー)陣頭指揮を執って業務推進している例を見かける。この場合,社長(リーダー)の指導力そのものが手順(specified way)といえないだろうか。通常は,個人のやり方はばらつくので文書にしておかなければ規定された方法とはいえない。しかし,社長という最高責任者の場合は手順(specified way)と言ってもよいであろう。たとえば,社長(リーダー)が必要と思った時に,必要なメンバーを集めてミーティングを開くなどである。
社長(リーダー)は,組織の状況を見ていながら,タイミングよく注意を喚起したり指示を出したりする。社長(リーダー)は,当然指示する業務全体のやり方を熟知している。熟知していないと指導力を発揮できない。そして社長(リーダー)は,常に業務実施の現場にいて実務の先頭に立っている。この場合正しいやり方から離脱しそうになった途端にタイミングよく指導力を発揮するのがポイントである。業務が終了してから指導されても効果は少ない。後から手直しの仕事が増加してパフォーマンスが下がるだけである。
上の例と同様に,手順書に「社長(リーダー)が指導する」と記述してもあまり意味がない。社長の指導力発揮による手順(specified way)は,組織の規模が大きくなると困難になっていく。また,社長と言う最高責任者の場合ならばいいが,リーダーになると信頼性が低くなり,あるレベル以下からは規定された方法としては認められなくなる。
⑤相互監視による方法 「順序」と「方法」を規定する方法として,先輩が後輩を実地指導するという方法もある。訓練期間を限定して行われることが普通であるが,小規模な組織,例えば極端な例として2,3人規模の組織では,お互いがお互いの仕事を監視していることで,規定された方法,すなわち手順(specified way)としているケースもあり得る。しかし,相互にいうことが時々異なる,というようなことがあると,規定された方法とはいえないだろう。
④でも同様であるが,人を規定された方法,すなわち手順として使う場合の条件は,その人の信頼性が高いということである。国家資格を保有している。たとえば医師の場合は,その人そのものが手順すなわち規定された方法(specified way)である。医師が手術をする場合の「順序」と「方法」は,医師の頭の中に入っている基本を元に,事例ごとに応用動作で決めていくからである。
⑥習慣化による方法 「ルールを守る」ということについて,組織が,毎朝同じことを繰り返し指示することを手順(specified way)とすることができるかどうかを考えてみよう。ここでのポイントは,「繰り返し指示すること」がどの程度の信頼性をもっているかである。建設業においては,毎朝ラジオ体操の後,必ず安全,品質を主体に朝会を開いているのを見かけるが,この朝会が必ず開かれるという信頼性はどの程度あるのかがポイントである。毎日の習慣になってしまったことは,文書にしておく意味を既になくしてしまっている。単純なことは,文書にするより習慣として実施してしまう方が手っ取り早い。単純なことは文書にするのではなく,習慣にしてしまうことである作業時に必ず「指差確認をする」という習慣も同様な方法といえる。当然のことながら,組織の規模が大きくなるとこの習慣化は困難になっていく。
筆者は,「繰り返し指示すること」が組織の「習慣」として定着すれば,それは規定した方法,すなわち手順(specified way)といえると思っている。しかしながら,「習慣」として定着した,とはどのようにして判断するのだろうか。組織が,人々を指定された方法(specified way)の一部として使う場合は,その人々の信頼性を確認しなければならない。そのバックには教育訓練という信頼性を高める舞台装置がなければならない。そこではいくつかの場面で文書が活用されるであろう。