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品質マニュアルの作り方(第8回)

平林良人「品質マニュアルの作り方」(1993年)アーカイブ 第8回

第2章 ISO9000シリーズ企画の解釈

ISO9000シリーズISO9001, ISO9002,あるいはISO9003の品質保証モデルの品質システムを確立するためには,当然のことながらISO9000シリーズ規格の要求事項の意味をよく理解しておかなければならない。よく理解できて初めて品質マニュアルの編集が可能になる。 本章ではISO9001規格を例にとって各条項の解釈を述べ,同時に品質マニュアルに盛り込むべき内容を示唆する。記述は条項ごとに,次の項目について解説する。
【ポイント】その条項における要求事項のポイント。特に断わらなくても,全条項に共通して “文書化して実施する” ことが要求される。
【背 景】規格が規定している要求事項の背景と品質マニュアル編集にあたって配慮すべき事項の筆者なりの解説。ここでISO9000シリーズ規格と日本式TQCの融合についても若干触れている(詳しくは別の機会にゆずる)。
【企業内実施例】規格の規定している要求事項を実際の企業活動のなかで実施していこうとした場合の実施例。規格の要求していることの意味をより具体的に理解できるのではないかと思う。
【審査時の質問事項】審査登録機関が審査を行う際に質問するであろう質問事項の例。 筆者が英国で認証業務に従事していたときに用いた例である。質問事項に対してスムーズに答えられるように品質システムを構築していただく意味で掲載した。 【不適合】実際の審査登録においての不適合の判断はそれぞれの審査登録機関に委ねられる。ここではあくまで筆者の経験に基づいた不適合の例を掲げた。重大な不適合(Major またはHold point),軽微な不適合(Minor またはOn going improvement)についての水準の標準化は,今後の大きな課題である。
なお,読者の便を考え各条項ごとに枠で囲んであるので,品質マニュアルの編集だけでなく, ISO9000シリーズに関する入門教育などにも活用していただきたい。

条項4.1 Management responsibility(経営者の責任)
条項4.1.1 Quality policy(品質方針)

【ポイント】

  • ① 経営者は品質に対する方針と目標および責務を明確にし,かつ文書化しなければならない。
  • ② 品質方針が,組織のすべての階層で理解され,実施され,維持されるように全社に徹底する。

【背景】

  • ① 社会的責任を持つ企業はその経営にあたって社是,社訓,理念などを持つ場合が多いが,ここではそれを補完するものとしての品質方針を求めている。
    品質の確保は全従業員の協力があって初めて達成できるものであり,全員の力を結集するポリシーが必要なのである。
    しかも,それは書かれたものでなくてはならない。
  • ② 品質はともすると空気や水と同じで,問題が起きて初めてその大切さが理解されることが多い。
    組織のすべての階層で,毎日毎日仕事を繰り返すなかで,この品質方針を意識した仕事への取り組みをしていく工夫が求められる。

【企業内実施例】

  • ① 社長(事業部長)は品質方針を定め,文書化している。
  • ② 事業方針との関連づけが明確になっている。
  • ③ 品質方針を理解させる手段がはっきりしている。
  • ④ その手段を実行しており,その証拠がある。
  • ⑤ すべての階層の人が品質方針について答えることができる。

【審査時の質問事項】

  • ① あなたの会社には品質についての方針がありますか?
  • ② その方針はどこにありますか?
  • ③ あなたはそれを知っていますか?
  • ④ あなたは部下に,それをどのように理解させていますか?

【不適合】

  • ① 品質方針がない。
  • ② すべての階層への徹底の手段がない。
  • ③ 記録,証拠がない。
    〔注〕 方針を空で覚えている必要はない。概要が言え, どこにあるか答えられればよい。

条項4.1 Management responsibility(経営者の責任)
条項4.1.2 0rganization(組織)
条項4.1.2.1 Responsibility and authority(責任及び権限)

【ポイント】

  • ① 品質に影響を与えるすべての人々の責任,権限およびその相互関係を明確にする。
  • ② 次の事項について特に明確にする。不適合予防,製品品質問題の記録,解決案の勧告・提供,解決案の実施,不適合品の管理。

【背景】

  • ① 組織は決まっていても,往々にして,その役割分担がはっきりしていない企業が多い。 品質間題が起こったとき,その原因を調べてみると,多くの場合,いろいろな部門が複雑にからみあった複合的な要因によって引き起こされていることがわかる。
  • ② 組織の相互関係を定義するときに,異常時を想定して考えることが大変重要である。よく「全員の力で」というが,どこがイニシアチブをとるのか,しっかり決めておくことが大切である。

【企業内実施例】

  • ① 品質に関するすべての部門の責任・権限が明確にされ,文書化されている。
  • ② 部門の業務内容が明確になっており,それに従って仕事が進められている。
  • ③ 設計・技術・検査・生産管理部門などの標準類変更の責任者が決まっている。
  • ④ 品質間題を記録する方法がすべて文書で決まっており,実際に実施されている。
  • ⑤ 誰がラインストップ,出荷停止の権限を有しているかが決まっている。
  • ⑥ 責任・権限にそって定められた部門で解決案・変更などの指示が出されている。
  • ⑦ 装置校正異常,工程異常,市場クレーム等の品質問題の責任部門が決まっている。

【審査時の質間事項】

  • ① あなたの会社には分課分掌規程がありますか?
  • ② それはどこにありますか?
  • ③ 標準類変更の責任者は誰ですか?
  • ④ 品質問題の記録はありますか?
  • ⑤ ラインストップ,出荷停止の責任者は誰ですか?

【不適合】

  • ① 職務の責任・権限が文書に明確に定められていない。
  • ② 定められた人以外の人が決裁している。
  • ③ 記録,証拠がない。
  • ④ 品質問題を処置する責任部門がはっきりしていない,決まっていない。

条項4.1 Management responsibility(経営者の責任)
条項4.1.2 0rganization(組織)
条項4.1.2.2 Verification resources and personnel(検証の手段及び人員)

【ポイント】

  • ① 設計,製造,据付け,アフターサービスなどの種々の場面で要求事項を明確にし,その出来映えを訓練された人が検証する。
  • ② 設計審査,内部品質監査,工程監査,製品監査を直接責任者以外の独立した人が行う。

【背景】

  • ① 自分のところで作ったものは,だれしも良いものであると考えがちである。自主点検, 自浄作用など自らが結果を検証することは理想ではあるが,どうしても甘くなりがちである。
  • ② 内部に独立した,結果を検証する訓練した人を養成する必要があり,そのためには計画的なプログラムが必要である。

【企業内実施例】

  • ① 設計,技術,製造,検査,アフターサービスなどの各部門でそれぞれ検証するステップが明確になっている(手順が文書化されている)。
  • ② 具体的検証の手段,内容を定め,検証が行われている
  • ③ 検証をするに必要な資格,検証の時期,ステップが明確になっている。
  • ④ 設計審査,品質システム,工程などの検証を直接責任者以外の人が行っている。

【審査時の質問事項】

  • ① 設計の検証はどのように行っていますか?
  • ② 検証の手段を挙げてください。
  • ③ 検証する対象業務は何ですか?
  • ④ 内部で行われている検証の記録を見せてください。
  • ⑤ 検証の手順書を見せてください(1つの例を②の答えから指定する)。

【不適合】

  • ① 独立した第三者が検証していない。
    〔注〕 組織上製造部のなかにあっても,その責任・権限が明確になっていれば,その組織が製造工程を検証しても独立性は認められる。