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品質マニュアルの作り方(第5回)

平林良人「品質マニュアルの作り方」(1993年)アーカイブ 第5回

1.5.3 現実性,実行的

品質マニュアルに記載されている事項は,言うまでもないことだが,実際に実行されており, 仕組みとして実在するものでなければならない。いくら仕組みとして優れており立派なものであっても,現実に実施されていないのであれば何の意味もない。実際の審査にあたっても,審査員はこの点に特に注目して審査を進める。すなわち,

  • ISO 9000シリーズ規格が求めている要求事項がシステムとして文書化されているか?
  • ② システムとして文書化されている通りに実行されているか(維持されているか)? の2点が審査員の大きな着眼点である。しかも,この実施している,あるいは維持しているということを証拠として残しておかなければならない。記録文書として保管することが要求されているのである。

(1) 社内品質システムの再点検
品質マニュアルを編集しようとして,まず最初に実施しなくてはならないことが,既存の品質システムの再点検である。 ISO 9000シリーズの該当条項ごとに,現実がどうなっているかチェックしてみる必要がある。
先に触れたことだが,ISO9000規格の文中には「適切な場合には」とか「該当する場合」 とか,「必要に応じて」とかの語句が数多く出てくる。それぞれの企業のおかれている,それぞれの状況下で,もし「適切な場合には」,もし「該当する場合には」,もし「必要ならば」文書化し,維持していくことが求められているのである。この“もし”の判断は,各々の企業がしなくてはならない。
品質システムを確立し,維持していくために必要なことが品質システムの要求事項であるから,これは採用しなければならないが,現実的に検討して,実行および維持に無理が生じるようであれば,社内編集委員会(後述第3章“品質マニュアルの編集”3.3節)でより踏み込んだ議論をして,その対応を決めていけばよい。
このような意味で,品質マニュアルの作成にあたっては,既存の品質システムをよく点検して,できることとできないことを明確にしておくことが大切である。この検討にあたっては 「現実性」を第一に,実行的観点から実施することが望ましい。
(2) 生きた品質マニユアル
企業は,社会的な変化,経済的な変化などによって,頻繁にその組織や人事を変更する。時には,機能を消滅させたり,新しい機能を追加したりする。したがって,品質システムが形骸化し,形だけのものになってしまうこともありうる。これを防止するためには,この変化に対応して,品質マニュアルも,常に生きたものにしておかなければならない。
そのポイントは次の通りである。

  • 1) 品質方針の設定にあたって,理想のみを掲げずに,現実に実施していること,日頃から折りに触れて社内で議論されていることを取り上げる。
  • 2) 組織変更が実施されたときには,極力スムーズに品質マニュアルの改訂を行い,常にマニュアルが現実と一致しているように管理する。なお,品質マニュアルの改訂をあまり頻繁に実施することは好ましくないので,年数回を目途に,変更内容をある期間プールしておくとよい。
  • 3) 経営者による見直しを必ず実施すること。このことは4.1.3項“経営者による見直し”に規定されており,適切な間隔で実施し,その記録を保管することになっている。これは品質システムの継続的かつ効果的な運営のための最も基本となるところである。
  • 4) 社内に実在する各種標準書類(部門マニュアル,手順書,指示書,図面,データ,ファイルなど)の変更・改訂に合わせて,登録番号が変更になることがある。この場合は,2) 項の品質マニュアルの改訂時に,併せて2次, 3次, 4次文書類との整合性をとることが必要である。
  • 5) 4.7項“購入者による支給品”がない場合には,その旨品質マニュアルのなかに明記する。該当する支給品が存在するようになったときに改めて記載すればよい。
  • 6) 4.9.2項“特殊工程” について該当するエ程がない場合は,その旨を明記する。該当する工程ができたときに改めて記載すればよい。
  • 7) 「契約に定められている場合は」という仮定がある次の条項に関しては,社内の現状をよくチェックする。
    • 4.6.4 “購買品の検証”
      “契約に定められている場合,購入者又はその代行者は,立入りによって又は受入れのときに,購買品が規定要求事項に適合していることを検証する権利が与えられる。…”
    • 4.13.1 “不適合品の再審及び処置”
      “契約で要求されている場合,規定要求事項に適合しない製品の使用又は補修の提案は,その特別採用について,購入者又はその代理人に報告する。・・・”
    • 4.15.5 “引渡し”
      “・・・契約上要求されている場合には,この保護は納入先への引渡しまで継続する。”
    • 4.16 “品質記録”
      “…契約上の合意がある場合には,品質記録は,合意された期間,購入者又はその代行者が評価のために利用できるようにしておく。”
    • 4.19 “付帯サービス”
      “契約に付帯サービスが規定されている場合には,供給者は,付帯サービスを実施し,かつ,付帯サービスが規定要求事項を満たしていることを検証する手順を確立し,維持する。”