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品質マニュアルの作り方1994年対応版(まえがき)

平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ まえがき

このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。

まえがき
本書を出版してから早くも1年が経過し,ISO9000も改訂の時期を迎えた。今回の改訂は5年ごとの改訂に位置付けられるもので,骨組はそのままで,中身が現実にそって見直しされた,比較的小規模の見直しである。

  • ① ISO9000シリーズ規格が第三者認証にも使用されることが明記された。
  • ② 品質計画書の必要性が明記された。
  • ③ 設計妥当性評価が追加された。
  • ④ 誤解されやすい言葉を改めた。たとえば,“購入者”は“顧客”に変更されている。

その他,細部にわたって数多くの改訂が施されているが,いちばん大きな変化は,本シリーズに対する周囲の見方が変わったことであろう。JISZ9900-1991シリーズの当時と比較してみると,日本のなかにおける位置付けもずいぶんクローズアップされたものと思う。
日本式経営に根付いたTQCとはコンセプトの異なる要素がいくつかあるため,TQCとISO9000シリーズとの「ほどよい調和のとれた融合」が今後の課題であろう。改めてISO9000シリーズ規格の特徴を挙げてみると次の3点になる。

  • ① トップダウンである。
  • ② 文書化が強調されている。
  • ③ 継続性が強調されている。

これらは従来の日本の品質管理とは大分異なるところであるが,これが行き過ぎるとかえって問題を引き起こすことになるので,やはり「ほどよい調和のとれた融合」が望ましいのである。すなわち,

  • 1)トップダウンとボトムアップの融合:上からの的確な指示と下からのやる気のあるサポートを上手にシステム化することにより,より効果的なオペレーションができる。
  • 2)文書化と文書化なしの融合:スキルは文書化できないといわれるが,基本的なことは文 書化することにして,応用面,細部は阿時の呼吸でいく。文書化を追求していくと限りが  なく,その維持にも莫大なコストがかかる。
  • 3)継続性と瞬間性の融合:継続することは非常に大切なことである。よく“継続は力なり”といわれるが,その前提となるものは,瞬時,瞬時における力であろう。
    ISO9000シリーズ規格を社内に導入した企業のいちばんの課題は,上記のような既存のシステムとISO9000シリーズ規格のシステムとをどのように融合させるかにある。ややもすると既存のシステムはそのままにしておき,新しくISO9000シリーズ規格を導入し,二重の品質管理システムを構築しがちであるが,これは避けなければならない。

ISO9000-1の8.4.1項“修整及び契約要素”には次のように記述されている。
「経験によれば,利用できる国際規格が少数であっても,ほとんどすべての契約の場合に,そのニーズに合った規格を選ぶことができる。しかし,ある場合には,選んだ国際規格の要求する品質システムの要素又はその下位要素の幾つかを削除し,他の場合には追加することがある。」
企業が自ら持っている特徴をそのまま盛り込んだ品質管理システムを構築してもらいたいという,ISOの考えが強くにじみ出ている箇所であり,非常に重要なポイントであることを強調しておきたい。

さて,本書改訂版であるが,ISO本体の1994年改訂版に逐条的に対応することを目指して,次のような改訂を施した。

  • ① 第2章“ISO9000シリーズ規格の解釈”は各小条項まで含めてすべて改訂版に合わせて解説をし直した。その結果,20頁弱の増頁になった。第4章“標準的品質マニュアル”も,同様趣旨のもとに書き直したため10数頁の増頁になった。
  • ② 付録の“品質マニュアルのモデル例”は,3例を2例に減らし,その分,個々の事例を改訂版に対応させつつ充実させた。
  • ③ 第1章と第3章は基本的には前版と同じであるが,字句や文章の-部に,今回の改訂に合わせて修正を加えた。
  • ④ ISO規格の条項名などの訳語は,財団法人日本規格協会発行,久米 均編訳『品質保証の国際規格』(1994年)に拠った。記して謝意を表します。

また,本書に関して,ISO9000の文書管理システムの構築とより効率的な維持を目指して,友人である内田 勲君(フューチャー・システム社長)と筆者で、コンピュータ・ソフト『ISO9000の文書管理システム』(一太郎対応版)を開発した。本書と併せてご活用いただければ幸いである(詳細問合せは本書奥付の上,筆者事務所にお願いします)。
1994年秋

英国テルフォードにて
平 林 良 人