ISO情報

品質マニュアルの作り方1994年対応版(第9回)

平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第9回

このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。

条項 4.4 Design control(設計管理)
条項 4.4.7 Design verification(設計検証)

  • 【ポイント】
    • ① 設計のアウトプットを検証する機能を計画し,文書化する。
    • ② 次のような設計管理手段によって設計検証を行う。別法計算,設計試作,量産試作,比較評価,検図
    • ③ 検証の結果を記録する。
  • 【背景】
    • ① 設計の質は以降のステップに多大な影響を与えるため,次ステップへ移るまえに設計審査に加えていくつかの検討,検証を行うべきである。同僚,上司による検図は古くから実施されてきた検証の1つである。
    • ② ISO 9000シリーズ規格でも,その検証の仕方を文書化して,確実に行うことを要求している。検証の手段は,それぞれの固有技術に負うが,検証という管理システムは普遍的なものである。
    • ③ 試作品を製作して性能の比較評価をするとともに,製造のしやすさなどの検証も行う。(設計審査でも取り扱う)
  • 【企業内実施例】
    • ① 設計のアウトプットを検証する方法が文書化されている。
    • ② 設計検証を行う人の能力,資格が明確になっている。
    • ③ 設計検証が基準通りに行われ,その実施記録が残っている。
    • ④ 設計検証の結果のフォローが確実に行われている。
    • ⑤ 試作の手順が明確になっている。
    • ⑥ 比較評価の項目が決まっている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 設計検証にはどんなものがありますか?
    • ② 設計検証を行う人の能力,資格は何ですか?
    • ③ 設計検証の記録を見せてください。
    • ④ 試作手順書を見せてください。
  • 【不適合】
    • ① 設計検証の仕方が文書化されていない,またはあっても不十分である。
    • ② 基準通りに設計検証が行われていない,または記録がない。

条項 4.4 Design control(設計管理)
条項 4.4.8 Design verification(設計の妥当性確認)

  • 【ポイント】
    • ① 製品が顧客によって使用される運転条件を予測を含めて想定する。
    • ② 量産品の一番早い製品を決められた(想定した)運転条件下で実際に運転して,顧客の要求事項が確実に盛り込まれていることを確認する。
  • 【背景】
    • ① 顧客は,設計者が想定もしていなかった条件下で製品を運転することがよくある。あらゆる使用されるであろう条件を予測して設計妥当性確認の運転条件を決める。異なった使用目的が想定される場合には,他種類の妥当性確認が実施される。
    • ② 量産品は試作品とは異なった品質をもつことがよくある。これは製品が,量産材料,量産金型,量産設備および量産方法で作られるために,試作条件で作られた製品とは,ばらつきも含め異なった特性をもつからである。
  • 【企業内実施例】
    • ① 設計妥当性確認を実施するための方法が文書化されている。
    • ② 製品が市場で使用されるであろう運転条件を予測する方法が定められている。
    • ③ 運転条件を再現させる設備を保有している。→社外の設備を借用して設計妥当性確認を実施する場合も多い。
    • ④ 設計妥当性確認実施の記録が保管されている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 設計妥当性確認の仕方を説明してください。
    • ② どのようにして運転条件を決めていますか?
    • ③ 設計妥当性確認実施の記録を見せてください。
  • 【不適合】
    • ① 設計妥当性確認を実施していない。
    • ② 設計妥当性確認の製品が量産からのものではない。
    • 〔注〕 量産品とは,設計が最終的に定めた条件の下で完成された製品のことをいう。

条項 4.4 Design control(設計管理)
条項 4.4.9 Design changes(設計変更)

  • 【ポイント】
    • ① 設計変更する方法を明確にし,文書化してある。
    • ② 権限を与えられた者が変更の承認をする。
  • 【背景】
    • ① 設計業務に変更はつきものである。変更前と後の情報が正しく関係部門に伝わっていないと大きな混乱を引き起こす。変更管理を手順に忠実に実施し,適切に関係者に理解させておくことが不可欠である。
    • ② 最近では海外生産も活発になってきており,海外の子会社も含めてこのシステムのもとに実施していくことが必要である。
  • 【企業内実施例】
    • ① 設計変更するときの変更書類,審査方法,承認方法,変更確認方法,伝達方法,伝達先などを定めた基準がある。
    • ② 設計変更の理由が明確にされており,関係部門で検討された後,設計変更がなされている。
    • ③ 基準に従い,設計変更が実施され,徹底されている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 設計変更の手順を定めた基準を見せてください。
    • ② 設計変更の検討記録を見せてください。
  • 【不適合】
    • ① 設計変更の手順書がない,またはあっても不十分である。
    • ② 検討記録が残っていない。

条項 4.5 Document and data control(文書及びデータの管理)
条項 4.5.1 General(一般)

  • 【ポイント】
    • ① すべての文書およびデータを管理するための,文書化された手順を定める。
    • ② 文書やデータの中には,紙に書かれたもの以外に,電子媒体に入っているものも含む。
    • ③ 文書管理手順にしたがって実行する。
  • 【背景】
    • ① 文書の定義がこの新規格ではよりいっそう明確にされている。1994年版の新規格によると,文書の中には次のものを含んでいる。
      • ・ISO 9000シリーズ規格(JISZ 9900シリーズ規格)。
      • ・顧客から支給図面。
      • ・データ。
      • ・電子媒体。
    • 以上のものも文書の1つとして考え,文書管理基準を定めなければならない。
  • 【企業内実施例】
    • ① 文書類の定義,作成,承認,制定,配布,保管などの方法を定めた基準がある。
    • ② 基準に従って作成,承認,制定,配布,保管などが行われている。
    • ③ 電子媒体の管理の仕方が文書化されている。たとえば,フロッピーディスクの保管の仕方,インデックスのつけ方,バックアップのとり方など。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 文書管理規程を見せてください。
    • ② 文書の種類,体系を説明してください。
    • ③ フロッピーディスクを管理している場所を見せてください。
  • 【不適合】
    • ① 文書管理規程がない,またはあっても不十分である。
    • ② フロッピーディスクの管理の仕方が文書化されていない,またはされていても基準通りに管理されていない。

条項 4.5 Document and data control(文書及びデータの管理)
条項 4.5.2 Document and data approval and issue
(文書及びデータの承認及び発行)

  • 【ポイント】
    • ① すべての文書およびデータを権限を与えられた者が審査し,承認する。
    • ② 文書管理台帳を作り,最新版の文書を明確にする。
    • ③ すべての部門に最新の文書を配布し,廃止された文書は現場から撤去する。
    • ④ 廃止された文書の保管(法律上および知識上の保存)が必要な場合には識別をする。
  • 【背景】
    • ① ISO 9000シリーズ規格の大きな特徴の1つである文書管理の承認と発行について規定している。
    • ② 日本の企業はこの文書管理を苦手とするところが多いが,これは1つに手間ひまがかかるわりに実効果が少ないと経験的に思われてきたからである。
    • ③ したがってなんでもかんでも文書化するのではなく(文書化することが仕事ではない),最小限の仕組みを構築し,几帳面にルールを守っていくことが大切である。
  • 【企業内実施例】
    • ① 文書類の承認,発行の手順を定めた基準がある。
    • ② 基準に従って承認,発行などが行われている。
    • ③ 文書管理台帳があって最新の文書が明確になっている。
    • ④ 標準書類の改廃に伴い,廃止される文書などを使用の場から撤去する方法が基準に定められている。
    • ⑤ 法律上および知識上の保存が必要な旧文書の識別がなされている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 文書類の承認,発行の仕方を説明してください。
    • ② 文書の種類,体系を説明してください。
    • ③ 廃止文書の回収方法を教えてください。
    • ④ 改訂文書の配布先を教えてください。(配布先へ行き)旧図面(旧文書)がないことを確認させてください。
    • ⑤ 廃止された文書で保管している文書があれば見せてください。
  • 【不適合】
    • ① 文書管理規程がない,またはあっても不十分である。
    • 〔注〕 旧文書を「自然切替え」などの理由である期間保管しておかなければならないような場合,「旧図面」などの印鑑を押し,識別しておく。

条項 4.5 Document and data control(文書及びデータの管理)
条項 4.5.3 Document and data changes(文書及びデータの変更)

  • 【ポイント】
    • ① 文書を変更する場合の作成,承認,発行,改訂などの方法を定めた基準を作成し,常に最新版の文書で作業が行われている。
    • ② 文書の変更は,最初に審査,承認した同一の機能・組織が審査・承認する。
  • 【背景】
    • ① 設計変更と同様,文書(規程,基準,標準,指示書,図面など)変更も日常の生産活動のなかでは頻繁に起こる。
    • ② 関係部門と密接なコミュニケーションをとり,常に最新の情報によってオペレーションが進められるようにする。
    • ③ 特に現場では,旧文書(旧図面)が使用されていないことが重要である。
  • 【企業内実施例】
    • ① 変更(改訂)時の裏付情報の収集,作成,改訂の履歴,承認,配布,回収などの方法を定  めた基準がある。
    • ② 基準通りに文書の変更(改訂)が行われている。
    • ③ 改訂前の文書の誤使用が,社内,外注先で起こらないような工夫がなされている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 変更(改訂)時の裏付情報をどのように収集していますか?
    • ② 変更基準を説明してください。
    • ③ この変更がどうしてなされたのかの裏付情報を聞かせてください。
  • 【不適合】
    • ① 制定者と変更者が異なっている(組織変更などの理由の場合は除く)。
    • ② 現場で旧図面(旧文書)が使用されている。
    • ③ 文書変更の基準がない,またはあっても不十分である。