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品質マニュアルの作り方1994年対応版(第18回)

平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第18回

このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。

3.2.2 計画推進母体の決定
計画を推進する母体となる組織を決めなければならない。通常は品質保証部門が調査,準備をしてから社長に答申し,審査登録取得の計画をスタートさせるというケースが多く,既にこの段階では,品質保証部門が推進母体と,実質的に決まっていることが多い。したがって,推進責任者は品質保証部長あるいは課長ということになってくる。
ここで付言すれば,品質保証部長は,先に触れた審査登録取得の動機(目的,理由)をさらに深く検討する必要がある。たとえば,次のようなことである。

  • 1)審査登録機関の選択:審査登録機関を外国系にするか日本系にするかは,今後の日本における審査登録機関のあり方,外国との相互認証の進み方によって影響を受けるので,一概にはいえない面もあるが,あえていえば次のようになろう。
  • 輸出企業でなるべく早く登録証が欲しい場合は外国の審査登録機関がよいかもしれない。
  • 特に欧州への輸出の場合は,英国のNACCBの認定ロゴが欧州域内で効力があるため,英国系審査登録機関が何かと有利であろう。
  • 企業の体質改善のために取り上げるという場合は逆に,日本の審査登録機関を活用するほうがよいかもしれない。日本の審査登録機関であれば,TQC活動や改善活動,QCサークル活動など,従来日本企業が進めきた品質向上活動を熟知しているからである。
  • 2)品質マニュアルの編集:ISO 9000シリーズ規格の要求事項は,維持活動に重点がおかれている。しかし,日本の企業が進めてきたTQC活動の多くの部分は向上活動であり,改善活動である。もし,審査登録取得の動機が体質改善であれば,この部分の活動をより強化することが望ましい。条項4.14“是正処置及び予防処置”や4.20“統計的手法”の記述のなかに,従来から行ってきた業務改善活動やQCサークル活動を取り込んでいくのである。
  • 3)維持活動の推進:計画推進母体として全体計画を策定するときに,この維持活動の推進が大きな意味をもってくる。ISO 9000シリーズ規格審査登録取得の動機によっても推進活動の中身が変わってくるであろうが,一度制定したシステムをきちんと維持していくという意味では基本が変わるものではない。

3.2.3 全体計画の作成
全体計画の作成にあたっては関係する部門長の意見をよく聞き,実情に即した計画づくりをし,以降の実施がスムーズに進むよう配慮しておく。よい計画ができれば仕事は半分終わったようなものである。
計画作成にあたって検討しておくべき事項には次のようなものがある。

  • 1) 全体スケジュールと品質保証モデル:いつまでに登録証を取得するか,どの品質保証モデル(ISO 9001,9002,9003)を選択するのか。
  • 2) 推進単位:事業部単位か,工場単位なのか。理論上は,同じ品質システム下であれば,どんな大きな単位になっても審査は可能であるが,現実には機動的に動ける大きさの単位が望ましい。
  • 3) 社内の教育・訓練:社内の関係者に規格の内容,審査の進め方などについて啓蒙活動を実施する。
  • 4) 内部監査活動:第三者(外部の審査登録機関)の審査を受けるまえに自己診断,内部監査 を実施する。
  • 5) 計測管理体制:ISO 9000シリーズ規格の要求事項でもある計測器の校正に関する管理体制を整備する(既に十分な体制が存在するのであれば別)。
  • 6) 現状把握のための活動の推進:3.1節で述べた既存の品質システムのチェックを行う。
  •   たとえば,既存の標準書,帳票類,指針・方針,外注契約書や顧客との契約書,図面・データ・資料類・ソフトウェアなど。

3.2.4 準備活動の推進
全体計画の作成が終われば,いよいよ具体的な準備活動に入る。

  • (1)推進担当者の選出
  • まず第1は関係する部門ごとに推進担当者を選出してもらう。品質システムに影響を与えるすべての部門が参加しなくてはならないが,経理部門だけは除外してもよいかもしれない。もちろん参加しても問題はないが,製品やサービスの品質に影響を与えるすべての部門という範疇に入らないからである。
  • さて推進担当者が備えていなければならない資質として次のような項目が考えられる。
    • ① その部門のなかで発言力がある。
    • ② その部門の仕事に精通している。
    • ③ 品質システムについての知識がある。
    • ④ 他部門の人に知られている。
    • ⑤ ISO 9000シリーズ規格について知識がある。
  • ⑤については担当者が決定してから企業として対応をとる項目であろう。推進担当者には各部門から複数(2~3人)選出されるのが望ましい。準備活動段階では1人で構わないかもしれないが,実際に実行していく段階,品質システムを維持していく段階では,必ず複数の担当者が必要になってくるからである。
  • ちなみに将来も含めて,各部門から選出された担当者で構成するどんな小委員会が必要になってくるかを挙げると次のようなものがある。
    • ① 品質マニュアル委員会。
    • ② 計測器管理委員会。
    • ③ 内部品質監査委員会。
    • ④ 設計審査委員会。
    • ⑤ 現物管理委員会。
  • これら各委員会の活動を継続することによってISO 9000シリーズ規格による品質システムの維持がなされていくのである。
  • (2)教育・訓練
  • 推進担当者の選出が終われば,直ちにISO9000シリーズ規格についての教育を実施する。まずISO 9000シリーズ規格そのものの理解からスタートする。本シリーズは現在では日本語に翻訳されてJISZ 9900シリーズとして制定されている。すなわち,
    • JISZ 9900  品質管理及び品質保証の規格
    • JISZ 9901  品質システム―設計,開発,製造,据付け及び付帯サービスにおける品質保証モデル
    • JISZ 9902  品質システム―製造及び据付けにおける品質保証モデル
    • JISZ 9903  品質システム―最終検査及び試験における品質保証モデル
    • JISZ 9904  品質管理及び品質システム要素
  • 一連のJISシリーズ(JISZ 9900シリーズ)の理解ができれば次の順序でさらに理解を進めていく。
    • ① 品質システムについて。
    • ② 品質システムの評価について/審査について。
    • ③ チェックリストの作成について。
    • ④ 不適合とは何かについて(規格の要求事項とのくい違い)。
    • ⑤ 内部品質監査員の心構えについて。
    • ⑥ 評価レポートの作り方。
  • 表3.6 JISシリーズの品質保証モデルの相互関係
  • 工程
  • JISZ 9901
  • JISZ 9902
  • JISZ 9903
  • 設計
  • 製造
  • 検査
  • 試験
  • 据付
  • サービス
  • 以上のような教育・訓練を進めていくことにより,社内の品質監査員を育成していくのである。
  • (3)現状のチェック
  • 推進担当者の基本的な教育・訓練が終了すれば,さらに教育を進めるのと並行して,現状のチェックを,それぞれの担当部門ごとに実施してもらう。この既存の品質システムのチェックは,品質マニュアルを編集する上で最も重要な作業なので,それぞれの部門長の関心の下に実施していってもらいたい。ただこの現状のチェックは,重要ポイントとしてあらかじめ関係者のあいだで検討されている可能性もあり,そういう意味では実施もスムーズに進むとことと思われる。問題は,このチェックしたものをいかに要領よくまとめ,次のステップに結び付けていくかということである。詳細は3.1節を参照していただきたい。

3.3 社内編集委員会の設置

既存品質システムのチェックが各部門で実施され,推進母体がそのまとめを行えば,いよいよ品質マニュアルの編集に着手することになる。各部門から選出された推進委員が中心となり編集委員会を設置する。
編集委員会は,推進母体の組織(多くは品質保証部門)が事務局となって,なるべく少人数で編成する。この編集委員会で草稿を起案し,社内のしかるべき機関にかけて承認を受け品質マニュアルを制定することになるので,機動性のあることがこの委員会の第1の条件になるからである。図3.1に編集委員会の代表的な組織構造を示す。それぞれの役割は大略,次の通りである。

  • 経営:品質マニュアルを制定する。
  • 部門:自部門に関係する部門マニュアルを制定する。
  • 推進委員会:部門を代表して調整,決定する。
  • 編集委員会:品質マニュアルを起案する。

3.3.1 編集の手順
品質マニュアルの編集は次の手順にしたがって行う。

  • 1) 全体の構成を決める:第1章の“品質マニュアルが具備すべき要件”を参考にしながら, この要件をすべて満足させるような構成を1ページ目から具体的に決めていく。
  • 2) 様式を決める:マニュアル全体のフォーマットを決める。付録の品質マニュアルのモデル例にいくつかの例を掲載しているが,自社にぴったりくる体裁を選べばよい。付録をつける場合,その体裁も決める。
  • 3) 品質方針を定める:品質方針が既にあればそれを使えばよい。なければ編集委員会から経営者に依頼する。
  • 4) 組織の責任と権限を定める:各部門長に各自の分課分掌を記述してもらう。その記述をもとに各部門の責任と権限を簡便に制定する。
  • 5) インデックスを作成する:
  • 6) ISO 9000シリーズ規格に準拠して条項4.1から記述していく:第4章“標準的品質マニュアル”を参考にする。

経営
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部門
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品質保証

推進委員会
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編集委員会
編集会議
事務局

図3.1 編集委員会の設置