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物流分野のデジタル化施策 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■物流分野のデジタル化施策

(1)現状と今後の方向性
物流業界では、2024年度からのトラックドライバーへの時間外労働の上限規制適用を控え、担い手不足が今後更に深刻化することが懸念されるほか、カーボンニュートラルへの対応も求められており、生産性の向上が喫緊の課題である。こうした課題解決に向けて、2021年6月に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」も踏まえつつ、物流施設における機械化・自動化やドローン物流の実用化、物流・商流データ基盤の構築などの「物流DX」や、その前提となる物流標準化をより一層強力に推進していく。

機械化・デジタル化により物流のこれまでのあり方を変革する「物流DX」により、他産業に対する物流の優位性を高めるとともに、我が国産業の国際競争力の強化につなげることとしている。具体的には、既存のオペレーション改善・働き方改革の実現を図ることや、物流システムの規格化、倉庫や配送業務における自動化・機械化、デジタル化により、物流業務の生産性向上を図っていく。上述の「総合物流施策大綱」では、今後の物流が目指すべき方向性の一つとして、「物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化」を挙げている。これまでの物流のあり方を変革するに当たり、機械化・デジタル化により既存のオペレーションを改善し経験やスキルの有無だけに頼らない、ムリ・ムラ・ムダがなく円滑に流れる物流、「簡素で滑らかな物流」の実現を目指していく。

(具体例紹介)
・サプライチェーン全体の最適化に向けた取組み(デジタルプラットフォームの構築、NIPPON EXPRESS ホールディングス㈱ほか)
今後、人口減少などに伴う担い手不足や、カーボンニュートラルなどの社会環境が変化していく中、物流は経済社会を支える基盤であることから、NIPPON EXPRESSホールディングス㈱では、サプライチェーン全体を効率化するデジタル化に取り組んでいる。同社は、物流業界に中長期的に起こり得る変化を予測して、将来像からバックキャストして経営戦略を立てる一方で、社会や物流業界を取り巻く状況は、時事刻々と変化しているため、定点観測して逐次修正しながら事業を進めている。

このような中、日本通運㈱は、今後は各産業を超えた社会全体での効率的で環境に配慮したサプライチェーンが求められる社会が到来すると予測しており、その第一歩として、企業ごとの個別最適サービスとは異なる、各産業に共通する課題を見つけて解決を図るオープン型のデジタルプラットフォームの構築に力を注いでいる。同社は、まずはGDP対応が求められる医薬品業界において、温度管理や偽薬混入防止を担保しながらサプライチェーン全体のトレーサビリティを実現するプラットフォーム構築を進めている。プラットフォーム型サービスは、リスクや変化の激しい時代に有効で、オープン型にすることですべての関係者が一つのプラットフォーム上で作業することができ社会効率性が高まるとともに、コロナ禍のような事態が発生した際も、関係者がワンチームとなって対応することが可能になることが期待されている。

(2)今後の施策展開
① ドローン物流による輸配送の効率化に向けた取組み
ドローンを活用する局面としては、宅配便・郵便のほか、買い物支援、医薬品配送、農林水産物輸送等が考えられ、特に過疎地域等において、非効率なトラックや船舶の輸送の代替配送手段として、ドローン物流の社会実装が少しずつ進んでいる。また、2022年12月には、ドローンの有人地帯における補助者なし目視外飛行(レベル4飛行)が可能となったことから、ドローン物流の更なる発展が期待されている。ドローン物流の社会実装をより一層推進していくためには、ドローン物流に関する課題を抽出・分析し、その解決策や持続可能な事業形態を整理することが必要であることから、2023年3月には、これまでのレベル3飛行に加えてレベル4飛行も対象に、ドローン物流サービスの導入方法や配送手段などに関する具体的な手続を整理した「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0」を公表した。今後、徐々に人口密度の高い地域に拡大し、より多くの機体の同時飛行が可能となることから、持続可能な事業形態としてのドローン物流の社会実装をより一層推進していく。

(具体例紹介)
・買い物難民への配送支援(条件不利地域におけるドローン物流、長野県伊那市・長崎県五島市)
■長野県伊那市(アルプス山岳地)
長野県伊那市の長谷地域では小売店舗がなく、高齢者が免許返納や独居等により、買い物が困難であることが社会福祉協議会実施の調査により判明し、課題となっていた。そこで、伊那市は道の駅を拠点として、河川上空を航路とする安全な自動運転ドローンによる物流の実現に向けて2018年から実証実験を開始し2020年に国内自治体として初めて事業化した。平日午前11時までに注文した食品や日用品を注文者宅近隣の公民館に自動運搬し、注文者の移動なく当日に配送される。陸地輸送による自動車でのルートよりショートカットが図れることで、配送に要する時間の短縮や少量配送の減少に伴う自動車や運転手稼働の効率化も実現している。2020年8月より伊那市買い物支援サービス「ゆうあいマーケット」として開始以降、目視外飛行による物流サービスを提供している。

■長崎県五島市(離島)
五島市は、2018年度から5か年計画で「ドローンi-Landプロジェクト」事業を推進している。本プロジェクトでは、民間企業や医療業界と連携して、五島列島の住民や医療機関などを対象に、ドローンで日用品・食品や医療用医薬品を配送する実証を実施している。2022年度に、そらいいな㈱が実証した際に使用したドローンは、固定翼機で遠距離の飛行や日用品・医薬品の配送に適している。配送方法は、パラシュート式の箱を使用し、予め設定した場所に荷物を投下した後に、自動で配送拠点まで帰還する。ドローン配送は、海上配送に比べて、配送にかかる時間が大幅に短縮されるとともに、船の最終便が出たあとの追加配送需要にも応えることができる。今後、同市は、広域ドローン物流網を活用した地域の生活基盤を支援する持続可能な配送サービスの実現に向けて、必要な地域連携体制の構築などに取り組んでいくこととしている。

② 港湾物流等におけるデジタル化に向けた取組み
港湾物流手続は、特定の民間事業者間や事業者グループ内での電子化は進んでいるものの、港湾物流に関わるいずれの業種においても、約5割の手続が依然として紙、電話、メール等で行われているのが現状である。結果として、情報を電子化するための再入力作業や、情報や手続状況の電話での問い合わせなど、非効率な作業が発生している。また、同様の手続であっても民間事業者毎に書類様式・項目や接続方法が異なるため、これらに個々に対応する必要が生じている。

これらの課題を解決する手段として、民間事業者間の港湾物流手続を電子化することで業務を効率化し、港湾物流全体の生産性向上を図ることを目的としたプラットフォームであるサイバーポートを構築し2021年4月から運用を開始し、利用促進に取り組んでいる。今後、港湾物流・港湾管理・港湾インフラの3分野のデータを連携させることにより、港湾利用情報等を活用した効率的なアセットマネジメントの実現、災害発生時の早期の被災状況把握、インフラ利用可否情報の提供及び港湾工事等における利用者間調整の円滑化といった多くのシナジー効果の創出を目指す。また、我が国では生産年齢人口の減少による、港湾労働者不足や、大型コンテナ船の寄港増加に伴うコンテナターミナルの処理能力不足が課題となっている。

これら課題の解決のため、コンテナターミナル全体のオペレーションの改善や、荷役機械の高度化、港湾労働者の安全性の向上等を目的として、港湾における技術開発を推進していく必要がある。このため、「ヒトを支援するAIターミナル」に関する取組みを深化させ、更なる生産性向上や労働環境改善に資する技術開発を推進する「港湾技術開発制度」を2023年度より創設した。このほか、2024年度からのトラックドライバーの時間外労働の上限規制等により、労働力不足の問題が顕在化する中、情報通信技術等を用いた内航フェリー・RORO船ターミナルの荷役効率化等を図る次世代高規格ユニットロードターミナルの形成に向けた取組みを推進している。これらの取組みを通じて、我が国港湾の生産性向上、国際競争力の強化を図っていく。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書