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新しい暮らしと社会の姿 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に国土交通省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

デジタル化の加速が我が国の暮らしと社会にどのような豊かさを与えるかについて異なる幾つかの側面から展望したいと思います。デジタル活用により、これまでにない新しいライフスタイルの選択肢が提供されていきます。

・ロボットなどの活用
仕事や家事の効率化が進み、長時間労働などが抑制され、担い手不足も解消されていきます。遠隔化・自動化などにより働く時間や場所の自由度が高まることで、一人ひとりが自分のライフスタイルに合わせて生き生きと働けるようになっていきます。

・新しい働き方(ロボットオペレータ)
デジタル化の進展の先には、これまでになかった新しい産業や職種が生まれている可能性があります。例えば、「ロボットオペレータ」という職種が普及していくかもしれません。
「ロボットオペレータ」は、現場の重機やロボットを遠隔で操作することにより、インフラ整備や維持管理を担うプロフェッショナルとして、若い人が憧れ、魅力のある職種となっています。建設業等の現場作業員は、従来のきつい、危険といったイメージから、大きなロボットをリモコン一つで操れる高度専門人材という新たな魅力をもったものへと変わり、「かっこいい」職種との認識が広まり、若年入職者も増えて担い手が確保されることも期待されています。多様なロボットを操ることで、ビルなどの建設現場はもちろん鉄道・道路などのインフラメンテナンスまで様々な分野のインフラに対応することができるプロフェッショナルとして、幅広い活躍が期待されます。

・新しい余暇の形(デジタルデトックス)
デジタルデトックスとは、一定期間スマートフォンやパソコンなどのデジタルデバイスとの距離を置くことでストレスを軽減し、現実世界でのコミュニケーションや、自然とのつながりにフォーカスする取り組みです。デジタル化が進展した将来では、デジタル化との新しい関わり方をしている可能性があります。ユーザーインターフェースが多様化し、「デジタルデトックス」をデジタル技術により支える地域が増えることで、新しい余暇の形が浸透しているかもしれません。顔など体の一部で認証する技術により、財布はもとよりスマートフォンといったデジタルデバイスも持ち歩くことなく、手ぶらで街中を歩いても、レストランでの食事やバスの乗車、お土産の購入などが済ませられたり、空港やホテルのチェックインなども顔パスで済ませたりできるようになっています。デジタルデバイスと距離をおくことで「オフライン」を保って心身をリフレッシュすることができ、デジタル化が進展した将来においても余暇をさらに充実させることが期待されます。

・新しい移動空間の形(自動運転)
自動運転や空飛ぶクルマの技術の発展・普及により、自動車は「移動手段」から「目的に合わせた居室」に変わっているかもしれません。例えば、将来のクルマなどの移動空間は、一つの居室として移動の目的に合わせて最適な時間を過ごすことができるようになっています。ビジネスマンにとっては会議室としてリモート会議に参加したり、観光客にとっては移動時間中に快適に睡眠や食事ができる寝室・レストランとして使われるようになります。

(インタビュー)
デジタル化による新しい暮らしを見据えて、一人ひとりのライフスタイルに合ったデジタル活用が図られることが期待される。国土審議会計画部会の有識者委員であり、これまでデジタル化の推進に取り組まれてきた東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授西山氏に、デジタル化の特性を踏まえつつ、デジタル化のプロセスやもたらされる効果についてお話を伺った。

●デジタル化によりもたらされるセルフマネジメント型の暮らし
デジタル化は多面的な効果をもたらすものである。一つには、ソフトウェアはハードウェアと異なり構成を瞬時に変更できる。そのため、デジタル化の進展により、サービス内容の多様性と自由度が高まり、利用者の個々の状況に応じた「カスタマイゼーション」が可能となる。また、利用者の裁量の余地が高まることで、消費者としてのサービスの利用という局面に限らず、例えば働き方でも「セルフマネジメント」の形態へと移行する点に着目すべきだと思う。コロナ禍を通じてオンライン化に伴う変化が強調されるが、デジタル化がもたらしたセルフマネジメントの視点、平たく表現すると、自分の取り組みたい時に取り組みたいことを好みの場所で実施できるという形態にこそ、一層目を向けるべきだと考えている。

例えば、研修について、対面での実施から、デジタル活用によりオンライン配信へと変更した場合、予め決められた時間・場所に研修生が一堂に会する必要がなくなる。それは、研修生の位置する場所と研修所が離れることが可能だという「オンライン」の効果もあるが、それだけではない。研修生は、自宅や勤務先など場所を選ばず、手の空いた時間など好みのタイミングで、聞きたい研修の自分にとって大事な部分だけを学習することができる。また、人によって理解度は異なるが、個人の学習進度に応じて繰り返し研修を視聴できるなど、カスタマイズが可能となる。つまりは、いつ、どこで、どのように研修を受講するかは研修生に委ねられ、個々人のセルフマネジメントの力が試されることにもなる。

出典:国土交通省 令和5年版国土交通白書

・「分ける」と「兼ねる」
デジタル化は、これまでの「分ける」機能を、「兼ねる」方向へと変化させ得るものです。共通の仕組みやツールを個々人がカスタマイズすることで様々なことへ応用でき、複数のサービスが同じプラットフォーム上で提供されることとなり、分野の異なるサービスが「兼ねる」形に変化していきます。例えば、交通分野では、ダイナミックルーティングというAI技術を用いた新たな仕組みがあります。従来型の路線バスは、決まった時間・決まった場所に運行するものですが、ダイナミックルーティングは、通勤・通学、買い物・通院など行先に応じ、乗車する時間帯も含めて乗客の需要に合わせてルートを変えながらバスを運行することが予想されます。

・利用者ニーズの吸い上げ
デジタル化の本質であるカスタマイズは、利用者のニーズに基づいて形作られていくものです。デジタル化は先行者に有利ですが、それは最適を求めて時間をかけて作り込むよりも、まずサービスの提供を始めて、利用者ニーズを踏まえた試行錯誤を繰り返した方が、早く・良いサービスの質に到達できるからです。一旦フォロアーになると、先行者にはサービスの質の面で追いつくのが難しくなります。

国土交通分野では、例えばスマートシティの取組みにおいて大事なのは、データ連携そのものではなく、それを利用したサービスの柔軟な創造と組み替えです。その方向性を決めるのはあくまでも住民の声であり、それを効率的に吸い上げる仕組みもまたデジタル技術の活用で作ることができます。

・アジャイル(俊敏)に取り組む
DXはデジタル技術を使って何かをトランスフォーメーション(変革)するものであり、今までの仕事の仕方を変えなければ意味がなく、これまでの仕事にアドオン(新規追加)すべきものではありません。今までの取組みを大きく変えるためには、ビフォアとアフターを常に意識すべきで、必ず不要なビフォアは廃止することが伴うべきです。デジタル化による新たな取組みの結果は、実装して検証してみないと明らかにならない部分が多いので、デジタル化は、実験的に進めていくことが求められます。

日本の職場等における意思決定の際には、何かを始める前に結果が完全に予測できること、そのために十分時間をかけることを求められることが多くあります。大まかな仮説を立ててまず取り組み、修正を繰り返すことで、今よりも良い状態に短期間で到達できると発想することが、デジタル化を進める上で大切です。デジタルのよさは、ソフトウェアのため修正が容易で、明日から全く違うようにできる点であり、先述のダイナミックルーティングの例でいえば、ハードウェアであるバス自体を製造し直すことは大変ですが、利用者のデマンドを汲み取るソフトウェアは、書き直してアップデートさえ行えば、瞬時に修正・実装することができます。

・デジタル化はより広い視点から捉える
デジタル化は、プラットフォーマーにより仕組みが単一化・共通化されるという集中が進みがちな一方で、共通の仕組みを個々人が自分に合った方法で使うセルフマネジメントの実現を通じて、分散と個性化が進む側面もあります。例えば住むところと仕事の場所が離れてもいい、住む場所や働く時間が選べるようになるのはいい例です。この二面性に、デジタル化の面白さがあります。国土交通行政では、国土形成計画の大きな方向性として、以前から集中型か分散型かという議論が盛んでしたが、これからの時代には、ネットワーク化のさらに先の世界、つまり集中と分散の両面をもった世界、重層的な世界を構想するというアプローチが必要になってきます。

(つづく)Y.H