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5)なぜミドルシニアは「仲間」が必要か
「ライフシフトプラットフォーム」に参加するメンバーの中には、約30年にわたり人事・総務として後方支援を担ってきた人がいる。そうした人は、「特別なスキルもなく、才能もない。本当に自立できるのか不安である」と語ることが多い。しかし、仲間の中に入り、「これまでこのような業務に携わってきた」「このようなことができる」と共有すると、「それをやってほしい」と声がかかり、頼まれる機会が次第に増えていくのである。
つまり、企業内で評価されやすいスキルと、社会において求められるスキルは必ずしも一致しないのである。専門技術だけでなく、場の雰囲気を和らげる力や発想力など、言語化されにくい価値を持つ人材もまた、社会では重要な存在となる。
さらに、「呼ばれること」自体も重要なスキルである。その人がいるだけで場が明るくなり、周囲が前向きに仕事に取り組めるような存在は、自然と声がかかる機会が増えるのである。
ミドルシニアにおいては、「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(やるべきこと)」に加え、「Call(呼ばれること)」という視点も重要となる。
加えて、仲間が重要である理由の一つに、動機づけの促進がある。仲間同士で「やりたいこと」について語り合う過程で、他者の思いや志に触れることで、自身の内発的動機が刺激される。個々の意欲が相互に影響し合い、結果としてコミュニティ全体の活力を高めるのである。
したがって、新たな学びや趣味に挑戦する際には、一人で取り組むのではなく、複数のメンバーが関わるグループに所属することが望ましい。その方が、継続性と成果の両面において高い効果が期待できるのである。

6)見返りを期待しない「Giveの精神」で仲間と付き合う
ミドルシニアがコミュニティやグループで仲間と良好な関係を築くために必要なことは、「Giveの精神」であると考えられる。見返りを意識せずに「Give」を続ける姿勢を持つことで、巡り巡って自分のやりたいことの実現につながるのである。
コミュニティやグループに参加した際には、「メンバーが何をしてくれるか」という視点ではなく、「自分はここでどのように役に立てるか」という意識で行動することが重要である。
人は、周囲から何かを受け取ると、お返しをしたいと感じる性質を持っている。そのため、「Give」を意識して行動し続けることで、結果として大きな成果となって自分に返ってくるのである。

7)ミドルシニアが独立いたライフプレナーになるための必要な学び
ミドルシニアがライフシフトを実現し、自立したライフプレナーとなるプロセスにおいては、次の三つのデザインを学ぶことが重要である。
① キャリアデザイン
これまでの経験やスキルを棚卸しし、現在の自分を見つめ直したうえで、将来のありたい姿、すなわち次の自分像を描くことである。
② ビジネスデザイン
顧客のニーズを満たす新たなビジネスモデルやサービスを構想・創造することである。具体的には、副業や起業に挑戦する、あるいは本業において新たな価値創出に取り組むことが含まれる。
③ コミュニケーションデザイン
自分、他者、そして社会との関係性を踏まえたコミュニケーションの在り方を設計することである。

8)過去を振り返るワークを通じて、自分の強みを発見する
キャリアデザインのワークは、「これまで編」「今編」「これから編」の三つに分かれる。本項では、「これまで編」について述べる。
まず、過去の自分を振り返り、自身の本質的な部分を思い出すとともに、これまで培ってきた経験の中から得意分野や強み、自信の源泉を掘り起こす作業を行う。すなわち、過去の中に自分本来の輝きを見出すのである。
具体的な手法として、「熱中ストーリーテリング」と呼ばれるワークがある。三人一組となり、子どもの頃に熱中していたことや、学生時代に得意であったこと、好きであったことについて、10分間じっくりと語る。聞き手は途中で質問や確認を行わず、最後まで傾聴に徹する。
その後、聞き手は語り手の中に見出した特有の才能や能力、エネルギーのポイントを書き出し、フィードバックを行う。これにより、これまで自分では言語化してこなかった経験や、見過ごしてきた価値が言語化され、自身の強みとして認識できるようになるのである。
次に、「ライフラインチャート」を作成する。就職、昇進、結婚、人との出会いと別れなど、さまざまなライフイベントの前後での心境や充実度の変化を具体的に記入する。特に、マイナスの状態からプラスへと転じた局面、すなわち困難を乗り越えた経験に注目して語ることが重要である。聞き手は「その状況を乗り越えた原動力は何か」という視点で傾聴し、「それは〇〇力である」と言語化して伝える。
人は、自分が自覚しているスキルや才能以上に、他者から認められた力の萌芽によって大きく成長するものである。たとえば、「あなたには人を笑顔にする力がある」といった他者からのフィードバックは、内在する力を引き出す契機となる。特に心に響いた言葉を、自らの強みとして「私には〇〇力がある」と言語化し、受け止めることが重要である。

9)今、自分がどういうところに立っているのか
これから「今編」のワークを始める。改めて現在の自分を見つめ直し、自分は何をしている人なのか、そして自分のコアとなるものは何かを明確にする。
キャリアを考える基盤には、「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(やるべきこと)」の3つの視点がある。
「やりたいこと」は動機や欲求に関する自己イメージであり、「できること」は能力や才能に関する自己イメージ、「やるべきこと」は意味や価値に関する自己イメージである。
ミドルシニアの場合、いきなり「何をしたいか(Will)」から考え始めるのではなく、まず「何ができるか(Can)」から整理することが有効である。次に、その能力を活かして「何がやりたいのか(Will)」を考え、さらにそれが自分にとってどのような意味や価値(Must)を持つのかを掘り下げていく。
そして、その意味や価値をより高めるために必要な能力(Can)を考え、再びその能力を使って実現したいこと(Will)を描く。さらに、それが自分にとってどのような意味や価値(Must)を持つのかを見つめ直すのである。

このように3つの視点を往復しながら深掘りを繰り返すことで、自分がこれまで培ってきた能力(Can)と、それを活かして行ってきたこと、そしてやりたいこと(Will)、さらにはそれらに内在する本質的な意味・価値が明確になるのである。これを仲間内で宣言することにより、これまで仕方なく取り組んでいた「今」の仕事にも新たな意味や意義を見出せるようになる。同時に、本当にやりたいことを実現するために、今、自分が何をすべきかに気づくことができるのである。

10)これから自分が本当にやりたい事を見つける
「これから編」を紹介する。
「何ができるか(Can)」「何がしたいか(Will)」「それにはどのような意味・価値があるか(Must)」を、公私にわたって整理し、自分を他者にどのように知ってもらいたいかを明確にした上で、近い将来の具体的な行動目標を設定するのである。
① 自己紹介は、聴く人の未来に貢献するための宣言である
自己紹介では、自分の「強み」を必要とする人に対して、魅力的に伝えることが重要である。単なる自己説明にとどまらず、相手の未来に対して自分がどのように貢献できるのかを語るものとするべきである。その中に、自分の人間性、社会性、人格、これまでの生き方を凝縮させるとよい。
「今編」で整理したCan・Will・Mustをベースに語ることで、これまで何をしてきたのか、今何をしようとしているのか、そしてこれから何を実現したいのかが明確になり、質の高い自己紹介となるのである。
② 「本当にやりたいこと」が実現した状態から逆算する
これから3年後、「Must」が実現した自分になりきり、野球のヒーローインタビューを受けている場面を想像する。
i)今の仕事について具体的に教えてください。
ii)ここまでの苦労と成功のポイントを教えてください。
iii)最も感謝したいのは誰ですか。
iv)どのような一歩を踏み出したことが良かったのか、具体的に教えてください。
v)これからどのようなことが起こりそうですか。
これらの問いに対して、ためらわず直感的に答えることが重要である。思い出すように語ることで、「すでに実現した自分」として、これまで何を実行してきたのかを振り返るのである。すなわち、本当にやりたかったことを言語化することが重要となる。
このようにして行動計画を描いたうえで、実際に取り組むべきことが見えてきたら、今日から始められる「最初の一歩」を設定する。すぐに行動に移すことが重要である。この小さな一歩が、やがて大きな成果へとつながるのである。

11)「メルカリマインド」「リフレーミング」
これまでに自分の棚卸作業が終わったのである。本当にやりやい事が見えたときに、大事なマインドがある。
「メルカリマインド」とよんでいる。「メルカリ」ではこんなものが売れるのかという商品に買い手がつくのである。
良い例として、トイレットペーパーンの芯がある。多くの人にとっては「ただのゴミ」にすぎないものの、トイレットペーパーの芯には、需要があり実際に買い手がつくのである。子供の工作に使えるからで、一挙に大量の芯の手に入れたい場合に「買う」という需要が生まれるのである。
自分の中でとるに足りないと思われるものでも、ビジネスのネタになる事があるので、「メルカリマインド」を大切にしましょう。
さらにスタート前に知っておきたいのが、リフレーミングであり、主に次の2つがある。
状況のリフレーミングである。状況が違えば価値が変わるものがある。
例えば、すぐに紙がはがれてしまう弱いノリは、強いノリが求められているシーンでは役に立たない。これを逆手に取った大ヒット商品が「ポスト・イット」ブランドである。はってはがせる点を有効に生かしたものなのである。
もうひとつは、意味のリフレーミングである。
例えば、リストラは、その会社で働き続けてきた事実を踏まえると不幸な出来事といえる。しかし、視点を変えると、これから新しいことを経験するチャンスといえるのである。
現状ではいまいちと思っているビジネスも、リフレーミングにより喜ばれるビジネスになる可能性を持っている。

12)自分の価値観を把握するコミュニケーション
企業で長く過ごしてきた人の多くは、「自分とのコミュニケーションの機会が少ない」と言われている。
上司の指示に従い、顧客の要望に耳を傾け、部下に対応し、周囲の意見を尊重してきたビジネスパーソンほど、「自分は何をやりたいのか」という問いに向き合う時間が少なかった傾向にあるのである。
だからこそ、自分と向き合い、自分が本当に大切にしているものは何か、自分にとっての喜びとは何かを見つめ直す機会を意識的に持つことが重要である。
そのための方法として、「価値観のワーク」がある。
まず、自分が大切にしたいもの、人生において重要だと思うものを10個挙げる。そして、それらを自分にとって重要な順番に並べるのである。
この作業を通じて、価値観は単なる並列ではなく、自分の中で優先順位を伴った階層構造を持っていることに気づくのである。その結果、急な予定変更や意思決定の場面において、何を優先すべきかを即座に判断できるようになる。
ミドルシニアの中には、これまでの人生において本来大切にしたいものを後回しにしてきた人も少なくないと考えられる。だからこそ、これからの人生においては、自分にとって本当に大切なものを優先していくことが求められるのである。

5.ライフプレナーによる価値の創出
1)スタートする環境と、自分の専門性のかけ合わせ

「ライフシフトプラットフォーム」のメンバーに対し、スタートから3年経過した段階で「目標やゴールの50%以上に到達しているか」と尋ねたところ、約6割が「到達した」と回答している。3年で6割が目標に近づいていると考えれば、大きな励みとなるものである。
新しいことを始める際や挑戦する際には、練習できる環境や、失敗が許容される状況を自らつくることが重要である。すなわち、コミュニティやグループの仲間は、「力を試す場」として活用することが有効である。
資格取得や「何が儲かるか」を起点に考えるのではなく、現在自分が持っているスキルや特技を何かと掛け合わせることで、何ができるのか、どのような価値を生み出せるのかを考えるべきである。
元リクルートであり、東京都杉並区立和田中学校の元校長を務めた藤原和博氏は、「専門性×専門性は個性である」と述べている。20代で100人に1人の専門性を身につけ、30代で別の分野において同様の専門性(1/100)を獲得し、さらに40代で第三の専門性(1/100)を身につければ、それらの掛け合わせにより100万人に1人の希少な人材となるのである。

① ライフシフトにはグラデーションがある
誰かのライフシフトやプロフィールを読むと、突然ステージが変わったかのような印象を受けることがある。しかし、実際にはそのような急激な変化は少なく、多くの場合は時間をかけて徐々に変化していくものである。
この助走期間や移行期間にこそ、ミドルシニア世代におけるライフシフトの豊かさがあるのである。
さまざまな学びを得たり、思いの変化を重ねたりしながら、試行錯誤を繰り返し、「これから先はこれをやろう」と定めていけばよい。その過程そのものを大切にし、「はじめからゆるやかに変化していけばよい」と捉えることが重要である。
ライフシフトには、何かを達成すれば成功であるという明確な定義はない。むしろ、そのプロセスそのものを楽しむことこそが成功であるといえるのである。

2)ライフシフト6つのタイプ
「ライフシフトプラットフォーム」に参加するメンバーの行動を分析したところ、その動き方にはいくつかのパターンがあることが明らかになった。主に6つのタイプがあり、以下のとおりである。
① 時間じわじわタイプ:波のように進んだり戻ったりを繰り返しながら、時間をかけて変化していくタイプである。
② 専門性突き詰めタイプ:既に持っているスキルを活かし、それをさらに高めることで領域を拡張していくタイプである。複数のスキルを持ちながらも、一つの専門性の濃度を高め、特化していくパターンも含まれる。
③ やりがい変更タイプ:これまでとは異なる「やりたいこと」にエネルギーを向けることで、自らを変化させていくタイプである。異業種へ大きく転向する場合と、スキルを活かしながら業界や顧客層を変える場合がある。
④ あちこちミックスタイプ:興味のある分野に積極的に飛び込み、それらがつながることで変化していくタイプである。活動を重ねる中で、仕事や役割が混ざり合い、新たな価値が生まれる。
⑤ 場所替えタイプ:住む場所や働く場所を変えることで、生活や仕事、コミュニティに変化を生み出すタイプである。移住などにより環境が大きく変化した人が該当する。
⑥ はみ出しタイプ:現在の専門性の周辺領域に少しずつ踏み出しながら、新たな活動を始めていくタイプである。本業を持ちながら、得意分野を教えるなどして領域を広げていく特徴がある。

次に、タイプごとの実例を紹介する。
① 時間じわじわタイプ:少しずつ領域を広げる
入社以来31年間営業職として勤務したAさんは、一つの専門性を持ちたいと考え人事職に異動し、キャリアコンサルタントの資格を取得した。その後、56歳で退職し独立。大学生の就職支援に携わりながら、企業の採用コンサルティング、さらに採用代行へと業務領域を拡大した。
小さな仕事から段階的に領域を広げることで、無理のない範囲で知見と経験を蓄積できたとしている。
② 専門性突き詰めタイプ:数理の力で課題を解決する
理学部物理学科を卒業し、修士課程も修了したBさんは、電通に入社後コピーライターとして活躍した。その後、データテクノロジー部門へ転身し、AIコピーライティングの推進などに取り組んだ。独立後は、データ・AIを活用したコンサルティングおよびシステム開発会社を設立した。
現在も「数理」を軸に、現象を方程式として捉え、課題解決に活かすことを追求している。

出典:
田中研之輔 (著), 山口裕二 (著), 野澤友宏 (著) (2025) 「これからのキャリア開拓」 中央経済社

(つづく) 吉末直樹

以上