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面談型力量試験から学ぶ中間管理職養成のポイント(その3)

力量の高い審査員、そして内部監査員を目指す上でのポイント<その2>です。
ここでのポイントは「自分の意見をしっかり相手に伝える」です。

初心者審査員(内部監査員でも同様です)の方は、間違いをしたくない、ミスをしたくない、トンチンカンな質問をして相手から見下されたくない、という気持ちがどうしても働くものと思います。内部監査であればそうとは言い切れませんが、第三者審査であれば多くの場合相手の方とは初対面ですから、このような気持ちになるのは致し方ないことです。

しかし、審査・監査を行うためには、審査員・内部監査員がその場を確実にコントロールしていく必要があります。手綱を相手に渡してしまってはダメです。つまり相手が何かしてくれるのを待っているのではなく、相手の出方を待っているのは被審査側であることを意識して、自分が主導権をしっかり握って場をコントロールすることがポイントです。両者の立場の違いをしっかり念頭において対応する必要があります。

そして第三者審査においては、相手の会社についての本当に細かい部分は知らないわけです。事前にホームページ等での情報のチェックはできますが、当然その情報量には限界があります。また一方的に文字情報を追っていても、細かいところや例えば組織風土のような情報をとらまえることは極めて困難です。だからこそ現地での審査があるわけです。
これは内部監査でも同じで、必ず現地に出向いて、審査員・監査員が自らの目で、そしてもう少し踏み込んで申し上げると、自らの五感を用いて現場で感じ取っていかなければならないものがあります。そしてそこから得た情報を元に、その組織の基準、ルールに照らし合わせて、正しい手順で日ごろの業務を行っているのかを確認すること(つまり基準に適合しているかどうかです)が審査・監査の本義です。

つまり審査員は、自分が確認したいこと、確認しなければいけないことは何かを自己認識の上、組織の業務内容を把握し、そしてその業務を行うために必要な手順がどのように定められているのか、仕組み化されているのかを掴み、更にその上でそれらの手順や仕組み化に関する文書が存在するのかという見方をして審査を進めていかなければなりません。こうやって書き記すとなんだが随分大変だな、と感じられるかもしれませんが、これらは実は管理職の視点と基本は同じです。簡単とは申しませんが決してとても難しい、ということを申し上げているわけではありません。
そしてこの様々な確認事項について、OKあるいは大丈夫という確信を得ていくことで適合性を判定できるわけです。その審査の展開の道筋を自分なりに思い描き、そのうえで相手の方(被審査者)とも可能な限りその展開の道筋を共有することが審査をスムースに進める一つのコツです。何をどのように確認していきたいのか、という審査員の視点、意向が理解できると、答える側からしてもとても話しやすくなるものです。何を答えればよいのかわからなくてすっきりしなかった、というご経験が審査を何度も受けた方であれば1度や2度はあるのではないでしょうか。

審査をする方も大変ですが、審査を受ける側はもっと大変です。自分たちの会社の適否、いえそれよりも合否と申し上げたほうが良いでしょう、その判定を審査員から下されると思うと、自分の絡むところでは失敗は一切ない(つまり不適合ゼロ)ことを望むのが人情です。
その心理を理解できれば、意図を理解できない質問にはなんと答えればよいか、できれば極めて言葉数少なく、その部分をやり過ごしたい、という気持ちになるわけです。
このような状態になってしまうと、審査員と被審査者の間には壁、溝ができてしまいます。コミュニケーションの専門用語になってしまいますが、両者の間でのラポールの形成ができていない、つまり信頼関係の構築ができていない、もう少し言えば、関係構築に失敗している状態なのです。

だからこそ審査員は、何を確認したいのか、どのような視点で見ているから、という情報を被審査員側に開示して欲しいのです。そして場合によっては繰り返し、被審査者の方に伝えて、両者の間にある緊張状態の緩和を図ることが大事です。

内部監査であれば、監査する側がここまで気を使う必要はありませんが、それでもこの意識のあるなしではやはり監査のパフォーマンスに開きが出ます。

もう少し話を進めます。

今までの段階は、審査を開始した直後を意識したお話でした。それではもっと審査が進んでいき、もし適合とは言えないかもしれない事象に遭遇した場合はどのように考え、対処すればよいでしょうか。

審査の基本は、客観的事実(監査証拠)を適切に捉え、その客観的事実と対比する基準(社内規程やISO規格、法規制など)との比較評価(検証)です。
そして基本中の基本は、事実誤認をしない、ということです。
つまり、不適合かもしれない、という状況に遭遇した際には、まず事実を念には念を入れて確認することが大事です。独りよがりな思い違い、推測が入った主観的判断は絶対避けなければなりません。その上で、その事実を被審査者も同意してくれる状況に至れば、客観的証拠をしっかり押さえた、ということになります。その上で、基準(その組織のルール)と照らし合わせると、適合してない、と判断する理由を明確にしていくというステップに進みます。自分の過去の経験や、こんなの常識でしょ、というような客観性に欠けるものではよろしくありません。その組織の基準文書を素直に受け止め、それと照らし合わせることでやはり不適合と思えるところまで行き着けば、それを被審査者に確実に伝えてください。ここをオブラートに包んだような言い方をしてしまうと相手に伝わらなくなってしまいます。不適合はしっかり不適合であることを伝えることが基本中の基本です。

これは力量試験から少々離れますが研修の中でよくある場面としてお伝えします。模擬審査の演習で「これは不適合と思われますがいかがでしょうか」という言い方をしてしまう人が少なからず出ます。性格の優しい方にありがちなパターンですが、これでは問いかけになってしまい、判断の結果を伝える趣旨から大きく反れてしまいます。残念ながら、ダメな例ということです。自分の判断に自信を持ち、しっかり伝えなくてはなりません。
そして不適合を指摘する際に大事なことは、誰か特定の人の問題として取り扱わない、ということです。マネジメントシステムの審査はあくまでその組織の仕組みが良いのか足りなのか、と扱います。誰か特定の人の能力の良し悪しを判定するものでは決してありません。誰かがミスをしているようであれば、その人がミスをしないようにする仕組みが不十分あるいは欠落している、という視点で見ることです。

「不適合と思われますが、何か反証材料がありますか」という聞き方をすることもお勧めしませんが、その意味のことを被審査者に問いかけ、何か返ってきたらその反証材料を改めて確認(検証)することも場合によっては必要でしょう。もし被審査者が反証材料の提供ができなければ、「残念ですが不適合ですね」という形で明解に、審査員としての自分の見解を相手に伝え同意を得ることで一連の流れが完結します。
さて、ここまではポイントを押さえておられる方には、それほど目新しい情報ではなかったかもしれません。

最後に、審査におけるもう一つの大事な視点をお伝えします。

それは不適合ではないが、一言コメントを添えてあげた方が組織のために思える、という部分に対する対処法です。観察事項、あるいは推奨事項という整理で、その対処をいったん組織に預けるものについてです。

ベテラン審査員になれば、不適合状態ではないものの、もう少し工夫して、この部分はこうやって対応すれば、その組織にとって益することが多いのにな、と感じる部分は1回の審査でいくつも出てきます。しかし審査ではコンサルティングに類することは国際ルール上できません。このようなときの対処法は少々上級編になりますが、できないわけではありません。その内容によって対処法は異なるので、簡単に紙面でお伝えすることは筆者の筆力では難しいのですが、他社・他業界ではこのような考え方、取り組みをしています、という情報を、守秘義務に反しないように伝えたり、規格の解釈から取り組み方法の例示をいくつか示したり(一つを示すとそれがアドバイスとなりかねないので、あくまで複数の提案というところがポイントです)する、というやり方です。決して押し付けではなく、自分はこのように考えるが、他にも考え方は色々あるので、自分たちの判断基準でしっかりそれらの情報を見極めて欲しい、というスタンスでの意見表明です。
相手の方の頭を柔らかくしてあげる対処、というとあまりに抽象的でしょうか。物事にはさまざまな視点、捉え方があるのが通例ですから、そのさまざまな側面を見せてあげることが大事なのです。そうすればおのずとどの道を選択すればよいか、一生懸命自社のことを考えている担当者の方であれば、これを選ぶのが良いですよ、ということは一切言わなくとも最適の選択肢を見出すものです。

審査員は自分の意見を押し付けてはだめです。ですが自分の意見を持たないのもだめです。
自分の意見をしっかり相手に伝える重要性お感じいただけましたでしょうか。伝え方については、頭で理解するだけでは残念ながら十分ではありません。理解できたあとは実践で技を磨くしかありません。頑張ってください。