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政府債務の急増 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■世界における政府債務の急増

(緩和的な金融環境下で増大する世界の債務)
(1)世界債務の概況
世界の債務状況は、ビジネスサイクルや金融危機等のテールリスクといった大きな経済変動要因と密接に連動してきた。2008年の世界金融危機後は、世界の債務残高は増加傾向にあり、特に2020年以降、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で急増している。世界の非金融部門の債務残高の合計は、金融危機前の2008年6月末から2021年9月末までの期間に、約1.3倍に増加し、先進国では約1.2倍、新興国では約1.9倍と前例のない水準にある。

先進国では、金融危機後に債務の削減が進み、その後も顕著には増加しなかったものの、同時期に、非金融部門の債務残高の合計はGDP比で242.8%から291.8%と約1.2倍増加し、そのうち、政府債務は約1.6倍、企業債務は約1.1倍、家計債務は約0.9倍に変化した。新興国では、金融危機後も債務の増加が進んだこともあり、同時期に、非金融部門の債務残高の合計はGDP比で122.5%から226.9%と約1.9倍に増加し、先進国に迫る水準に達している。そのうち、政府債務は約1.8倍、企業債務は約1.8倍、家計債務は約2倍と大幅な増加となっており、特に民間債務のレバレッジが顕著に増加している。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、2020年以降、世界の債務残高は、前例のない水準を超えて更に急増しており、世界の非金融部門の債務残高の合計は、感染拡大前の2019年末から2021年9月末までの期間に、約1.1倍に増加した。先進国では、非金融部門の債務残高の合計はGDP比273.4%から291.8%と約1.1倍増加し、そのうち政府債務は約1.1倍、企業債務は約1.04倍、家計債務は約1.03倍に増加した。新興国では、非金融部門の債務残高の合計はGDP比202.8%から226.9%と約1.1倍増加し、政府債務は1.2倍、企業債務、家計債務のいずれも約1.1倍に増加した。日本でも、債務残高が増加しているが、中でも政府債務の増加が顕著である。額面ベースの政府債務残高のGDPに対する比率は、2000年3月時点で既にGDP比143.2%という高水準にあったが、低金利環境が続いたことでその後増加を続けたことに加え、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う増加は著しく、感染拡大前の2019年末の203%から2021年9月時点には224.1%へと約1.1倍に増加した。また、企業債務や家計債務は、2000年以降ほぼ横ばいで推移していたものの、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて増加しており、企業債務は2019年末の101.2%から2021年9月時点には115.7%へと約1.14倍、家計債務も2019年末の62.7%から66.9%へと約1.07倍に増加した。

(2)金利・インフレの動向と今後の見通し
2000年以降、長期金利は、世界的に持続的な低下傾向にあり、政府、企業、家計にとって、資金借入れが容易な状況が世界的に継続し、各主体が債務を増加させてきた。特に、政府債務の発行コストに関わる長期国債の利回りは、2000年以降低下傾向にあったが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う金融緩和策もあり、2020年以降は2010年代以前と比べてより低い水準で推移している。2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大すると、経済への悪影響を最小限にとどめるために、各国において政策金利の引下げや量的緩和策といった金融緩和が実施されてきた。例えば、米国は1.50-1.75%であった政策金利を2020年3月に2度にわたって引き下げ0-0.25%としたほか、英国、カナダ、オーストラリア、韓国、メキシコ、ロシア、インド等、先進国と新興国を問わず、多くの国で2020年上半期に、政策金利を引き下げた。もっとも、足下の状況をみると、インフレの高騰を踏まえて、各国の中央銀行は金融政策の正常化にかじを進めている。

米国では、2021年前半から、経済活動正常化による需要の急増と供給制約から、インフレ傾向が加速しており、2022年3月に、連邦準備制度(FRB)は、パンデミックに関連した需給の不均衡、エネルギー価格の高騰、広範に及ぶ物価上昇圧力を反映した物価の高止まり等を理由として、政策金利を0.25%ポイント引き上げた。FRBのパウエル議長は、インフレ抑制を優先し、金融引締めを急ぐ姿勢を示している。また、イングランド銀行(BOE)は、2021年12月に利上げを開始し、インフレの加速や労働需給の逼迫を背景に、2022年3月には3会合連続の利上げを決定した。
新興国でも、インフレ加速を見越し、ブラジル、メキシコ、ロシア等の新興国が政策金利を順次引き上げている。ウクライナ情勢の影響もあいまってインフレの高進が進む中で、金融政策の引締めペースが加速すれば、新興国において、資本の流出と通貨価値の下落を招くおそれがあるほか、景気悪化による債務増大の可能性も懸念される。インフレ動向は、エネルギーを始めとする商品価格の高騰がけん引している。

2021年夏頃からのエネルギー価格上昇に加えて、足下のウクライナ情勢の影響を受けた天然ガスや石油の供給減少により、世界的にエネルギー価格が更に上振れしており、ロシアへの燃料依存度が高くない国でも影響が出ている。また、世界の主要な穀物供給国であるウクライナからの供給の減少により、世界の穀物価格が高騰している。米国や欧州を中心とした先進国や新興国・途上国でインフレが進んでおり、2022年4月のIMF経済見通しでは、商品価格の高騰が進み、2022年のインフレ率は、先進国で5.7%、新興国・途上国で8.7%と極めて高い水準の予測がされている。2023年には、先進国では2.5%に低下する一方、新興国・途上国では6.5%とインフレ基調が持続すると見込まれている。高いインフレ率が継続すると、各国で政策金利の更なる引上げや引上げ時期の前倒しの可能性が高まり、債務の返済負担が増大するリスクが上昇するため、各国における債務の持続可能性を維持する上では、今後のインフレ・金利の動向が重要となる。

(政府債務の動向)
(1)政府債務の概況
2000年代以降、各国政府は、GDPに占める政府債務比率を増加させてきており、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、各国政府が積極的な財政支出を行った結果、債務水準は更に増加している。金融緩和策によって国債の利回りが低水準となり、国債発行コストが低下したことが、財政支出を後押しした。先進国では、借入れコストが歴史的な低水準にあり、経済成長率を下回る水準となっていたことに後押しされ、政府債務はGDP比で、感染拡大前の2019年末の100.2%から2021年9月の112.7%へと12.5ポイント増加し、新興国の債務も、同期間に、53.6%から63.3%へと9.7%ポイント増加しており、先進国、新興国共に政府債務の増加が著しい。

新型コロナウイルスの感染拡大時期における、先進国の政府債務残高の増加幅を国別にみると、2019年末から2021年9月までの政府債務GDP比の増加幅が最も大きいのは、カナダで、80.6%から103.7%へと23.1%ポイント増加し、次に日本で、203%から224.1%へと21.1%ポイント増加している。また、イタリアも、134.3%から155.2%へと20.9%ポイント増加し、フランスも、97.4%から116.0%へと18.6%ポイント増加し、英国も、83.8%から102.5%へと18.7%ポイント増加し、米国も、99.9%から116.7%へと16.8%ポイント増加しており、日本、米国、欧州などの先進国では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、打撃を受けた企業や家庭への手当の給付への支出が主因となっている。

新興国では、購買力平価GDP比で見た経済対策支出は先進国と比べて低いものの、ワクチン普及率の低さから、経済活動の制限もあり、景気後退による歳入減少が生じた結果、BRICS諸国の債務残高GDP比は、2019年末から2021年9月末の期間に、インドでは、71.9%から85.0%へと13.1%ポイント増加し、南アフリカでは、57.8%から70.4%へと12.6%ポイント増加し、中国でも、57.4%から67.6%へと10.2%ポイント増加している。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、各国政府は、大規模な財政出動や景気刺激策を打ち出してきた。2021年10月までに、新型コロナウイルス関連の財政支出として、G20全体で16兆2,930億ドルに上る規模の財政支出が実施された。2021年10月時点で、新型コロナウイルス対策(信用保証や出資としての政策規模を含む)として、購買力平価GDP比で、米国で27.9%、日本で45.1%、イタリアで46.2%、ドイツで43.1%に上る歳出が計上されている。各国政府は、国債を発行して財源を捻出し、新型コロナウイルスにより影響を受けた家計・個人向けに、失業手当や給付金等の経済対策を実施したほか、企業向けに、航空会社や鉄道会社等の基幹産業への資本注入、中小企業に対する融資促進のための公的金融機関を通じた無担保・無利子貸付や政府による金融機関への返済を担保する信用保証、資本性劣後ローンの供与などを実施した。信用保証については、感染拡大により影響を受けやすい飲食店等の対面サービス業種の中小企業も含まれている。今後は、こうした業種を中心に、信用保証の貸倒れに伴う偶発債務が顕現化する可能性もあるため、貸倒れがどの程度の規模で発生するかについて注視する必要がある。

イタリアでは、GDP比で35.8%、日本とドイツでも、25%を超える規模の出資や貸出し、信用保証が実施されており、企業債務が満期に達した際に、こうした偶発債務について対象企業の貸倒れが発生した場合、政府債務が更に増加するリスクが内在している。こうした経済対策によって、景気が下支えされたものの、度重なる新型コロナウイルスの変異株のまん延もあり、その度に財政出動した結果として、各国において政府債務が積み上がっている。ここで、ドーマーの定理として提唱されている各国の財政の持続可能性を示す指標を見てみる。ドーマーの定理とは、「利子率」と「経済成長率」を比較し、前者が後者よりも大きければ、国債残高は拡大を続け、財政が不安定化するという財政の持続可能性に関する見方である。10年国債利回りと名目GDP成長率の差分を考えるとき、国債利回りと名目GDP成長率が等しいときを「0」とし、それを下回ると、財政の持続可能性が改善していることになる。

先進国、新興国問わず、新型コロナウイルスの感染拡大を背景として、財政の持続性は悪化しており、10年国債利回りと名目GDP成長率の差分は、2019年から2020年にかけて、インドで0.2から9.3へと9.1ポイントの上昇、インドネシアで0.8から9.5へと8.7ポイントの上昇、南アフリカで3.8から10.8へと7.0ポイントの上昇、メキシコで3.7から10.7と7.0ポイントの上昇を示した。欧州においても、同期間に、フランスで-3から5.4へと8.4ポイントの上昇、イタリアで0.6から8.7へと8.1ポイントの上昇、英国で-2.8から4.7へと7.6ポイントの上昇を示した。日本でも、-0.5から3.6へと4.1ポイント上昇し、米国でも-2から3.1へと5.1ポイント上昇している。G20加盟国で、2020年時点で0を下回ったのは、トルコのみであり、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、多くのG20加盟国において、財務の持続可能性が悪化した。

先進国に関しては、金融危機後の2009年に経済対策として財政出動を実施したことによって、財政の持続性に対する懸念はピークに達した。その後、2010年には一度はゼロ近辺もしくはマイナスに戻っており、景気回復に伴う経済成長によってピークから1年程度で財政の持続性に対する懸念は後退していた。今回のコロナショックにおいても同様のペースで財政の持続性に対する懸念が後退するかについては、景気回復の状況等の要素に依存する。また、インフレの高騰もあり、新興国でも政策金利の引上げに踏み切る国が出ているが、金利上昇は、債務の返済負担を増大させるため、特に、対外債務の水準が高い国への影響を注視する必要がある。

(2)今後の政府債務の見通し
2022年4月のIMFの予測によると、2022年以降の世界の政府債務残高の購買力平価GDP比は、ロシアによるウクライナ侵略に伴う波及効果が及ぼす影響の全体像は不透明であり、世界的に財政赤字は減少するものの、新型コロナウイルス感染拡大前よりも高い水準が持続し、2027年時点でも95.5%と高い水準を維持する見込みである。先進国では、経済対策による景気回復もあり、2027年時点に112.7%まで減少するものの、依然として感染拡大前より高い水準を維持し、新興国では、増加基調が持続し、2027年時点には77.2%に達する見込みとなっている。

低所得発展途上国では、2019年時点の43.6%から2021年の49.8%まで増加した後、徐々に減少し、2027年時点には45.9%となり、産油国では2019年時点の45.0%から2021年時点の55.6%まで増加したが、足下進行するインフレによって2027年には48.2%まで減少すると予測されている。このように、世界的に、政府債務が感染拡大前よりも増加し、インフレが歴史的な水準まで高騰している中で、ロシアによるウクライナ侵略が、各国のインフレや経済成長に与える影響次第で、政府債務のGDP比は変動することが見込まれる。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html