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コロナ禍からの正常化へ向けた動向 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■コロナ禍からの正常化へ向けた動向

(1)世界経済の動向
2021年は未曾有のショックとなった新型コロナウイルスへの対応が進展し、世界経済が回復してきた姿とその後の姿が示唆される一年であったといえる。2020年序盤に感染が深刻化した新型コロナウイルスは、世界経済に深刻な景気後退をもたらした。他方、新型コロナウイルスは、デルタ株やオミクロン株といった変異株の感染拡大もあり、数次の感染拡大期を経たものの、足下では新型コロナウイルスによる死者数は減少傾向にある。ワクチンが普及したこと等が背景にある。新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大していく中で、特に感染が深刻となった国では、国外からの人流を抑制するいわゆる水際対策が重要な施策となり、結果として国境を越える人の移動が厳しく制限された。

国連世界観光機関が公表する統計によると、2020年4月には国際旅客到着数は前年比-96.7%もの減少となり、国境を越える人流がほぼ皆無ともいえる状況となった。2022年1月時点の国際旅客到着数は、新型コロナウイルスの感染拡大前である2019年1月と比較すると、依然として-67.1%もの減少になっているが、足下の動きでは徐々に国境を越える人の移動も回復している。国内での人の移動動向を見ても、経済活動が回復に向かっていることが示唆されている。下図はデータが公表されている主要国において、それぞれの施設に訪れた人の数について、新型コロナウイルス感染が深刻化する直前に対してどの程度変化しているのかを示したものである。これを見ると、足下で、先進国(日本、米国、カナダ、ドイツ、フランス、英国)では小売・娯楽施設、駅、そして職場を訪れた人の数は、概して、新型コロナウイルス感染が深刻化する前を下回っているものの、落ち込み幅は感染が深刻であった時期に比べて縮小している。また、一部の新興国(インド、ブラジル)では、それらの施設を訪れた人の数は、ブラジルの小売・娯楽施設で新型コロナウイルスの感染深刻化前を下回っているものの、その他の施設では新型コロナウイルスの感染深刻化前を上回っており、先進国とは異なった状況が見られている。

新型コロナウイルスの変異株の感染状況が深刻であったインドでは、2021年を通して厳格度指数が高止まりし、またドイツでも、変異株の感染拡大が見られた2021年の終盤にロックダウンを行ったことで厳格度指数が急激に上昇した時期がある等、各国の動向に差異は見られるものの、新型コロナウイルスの感染対策の厳格性は、2020年の序盤に急激に上昇した水準に比較すれば、概して低下している。上述のような新型コロナウイルスへの対応の進展と、人の移動といった経済活動に対する制限の緩和を踏まえて、IMFによると、2021年の世界経済の実質GDPは6.1%の成長となり、統計が開始された1980年以降では最も高い成長率となった。ただし、個別国の動向を見ると、先進国では、米国等が2020年の落ち込みを取り戻す以上の高い成長率となった一方で、それ以外の国では、プラス成長を記録はしたものの、2020年の落ち込みを取り戻す成長率とはならなかった。先進国の中でも、特に我が国とドイツにおいて、2021年の実質GDP成長率が比較的に低位となっている。両国では実質個人消費支出の回復が限定的であった。また、新興国でも、新型コロナウイルスの感染が深刻化した2020年にもプラス成長を達成した中国が2021年にも高成長を維持し、インドも2020年の落ち込みを取り戻す以上の高成長であったが、回復の程度は新興国の地域間で異なっている。総じて、新型コロナウイルスの影響からの世界経済の立ち直りは、国・地域間でペースの異なるいわゆる「K字型」の回復であったといえる。新型コロナウイルスの影響からの「K字型」経済回復になるまでに、世界経済がどのような成長を辿ってきたのかを以下で振り返る。

特に顕著に見られるのが、2000年代序盤からの先進国経済に比較した新興国経済の実質GDPの高成長率である。この背景には、2001年12月の中国によるWTO加盟を中心として、特に製造業において、製造工程を国際的に分散するグローバルバリューチェーンの形成に新興国が組み込まれてきたという要因がある。そうした経済のグローバル化といった潮流もあり、新興国では好調な輸出が中心となり高成長が達成されてきた。このようなマクロ的な経済発展を端的に示しているのが、先進国と新興国の経常収支である。2008年9月起こった世界金融危機によってその差が縮小するまでは、先進国の経常収支の赤字(すなわち国内の過剰消費)が、新興国の経常収支の黒字(すなわち国内の貯蓄超過)で賄われるといった形で世界経済の成長が促されてきた。なお、2021年の経済回復の背景には、2020年に取り組まれた経済対策の効果がある。実際に、世界実質GDP成長率を四半期別で見ると、2020年は前半での経済成長率の落ち込みが大きかったが、同年後半には家計への現金給付や企業金融支援などの財政・金融支援策が奏功し、個人消費や設備投資の回復が顕著になっていた。ロシアによるウクライナ侵略が引き起こした経済の混乱という下方リスクはあるものの、2022年の世界実質GDP成長率は3.6%が見込まれており、同侵略の影響が強い欧州新興国・発展途上国を除けば、国・地域別でも概して順調な成長が見込まれている。2022年はロシアによるウクライナ侵略が経済に及ぼす影響や、新型コロナウイルスの影響が克服された後の経済を見据える一年になり、ここではどのような要素が重要になり得るのかを見ていく。

(2)コロナ禍の影響が残る政府債務
新型コロナウイルスの影響から経済回復を促していく中で、各国・地域の政府は積極的な経済対策を行ってきた。政府債務への影響という観点からは、それらの政策は主に二つの種類に分類される。一つ目としては、予算として計上された政策規模が直接的に政府支出の増加を伴う政策である。具体的には、家計への現金給付や、失業保険額の上積み及び給付期間の延長などの政策がそれにあたる。これらの政策を行う場合には、政府は主に国債の当初予算額以上の発行といった手法によって調達した資金を用いるため、政府債務残高が増加する主な要因となる。2020年と2021年の政府債務残高の名目GDPが変動した要因をみると、特に先進国と新興国では政府支出の直接的な支出を伴う政策が発動されたこともあり、「政策要因」が政府債務の主な増加要因であることがわかる。下記に述べる二つ目の種類の債務とは違い、直接的な支出は予算に従った政策執行となるため政策規模は不透明にはならない。

二つ目としては、政策の実施を決定した時には予算規模を決定するが、その発動が直ちに政府債務の増加にはつながらない政策である。具体的には、企業金融支援策の主な政策手段となる信用保証の付与がそれにあたる。信用保証の付与は、金融機関が企業に対して貸付を行う際に、仮に企業の返済が滞ることで貸倒れが発生したとしても、政府が企業にかわって貸付元本を金融機関に対して弁済するという仕組みである。この政策における特徴としては、企業が貸付の返済に窮することがなければ、信用保証のために見積もられた予算を執行する必要はないということである。換言すれば、企業倒産などが発生した場合に政府債務の負担が現実化するということであり、このように特定の条件下で実現化する債務は偶発債務と呼ばれる。新型コロナウイルス対策において、政府の信用保証などの想定規模となる偶発債務の名目GDP比は、G20各国の中では、我が国を含め、ドイツ、フランス、イタリア、英国といった先進国で比較的高く、その中でも欧州諸国では、政策規模の大半が実行されている。新型コロナウイルスの感染拡大から世界経済は回復期にあるが、その影響が時差を伴って企業金融に影響し、偶発債務の実現化という形で政府債務を増加する可能性には注意を要する。

(3)実質的な産業政策手段にもなった企業金融支援
新型コロナウイルスは世界的に深刻な景気後退をもたらした一方で、企業の国際的な活動の中で落ち込みが抑えられたものもある。具体的には、企業のクロスボーダーM&Aは新型コロナウイルスの感染が世界的に深刻化した2020年には大幅な落ち込みにはならず、例えばドットコムバブルが崩壊した2000年代序盤や世界金融危機が発生した2008-2009年と比較すれば、件数の落ち込みは限定的である。こうした特徴は製造業と非製造業に共通して見られており、また先進国と発展途上国のように国の所得段階別で見ても同様である。また、業種別のクロスボーダーM&Aでも特徴が見られる。製造業の中では、製薬業のクロスボーダーM&Aの件数は全体の件数とは逆にむしろ増加し、サービス業でのクロスボーダーM&Aでは、情報通信業や金融・保険業での件数の減少が特に限定的であった。

新型コロナウイルスの影響は世界的に深刻化し、世界経済に深刻な打撃をもたらしたが、ワクチン開発や医療品の供給の強化を目指したものや、非対面型のサービスを提供するためとみられる企業のネットワーク形成の需要が根強かったことが示唆されている。新型コロナウイルスへの経済対策は、影響が深刻な家計や企業への支援が中心であった一方で、実質的な産業政策として行われた側面も注目される。具体的には、影響が深刻な企業への金融支援策の一環として、政府による資本金の供与といった実質的な国有化政策が実施された例もある。この結果、新たに国有化された企業も出てきており、特に先進国の国有多国籍企業による2020年のクロスボーダーM&A金額は増加した。環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)を始め、大規模な地域貿易協定では、政府調達などにおける外国企業の内国民待遇が規定されているものの、公平で公正な競争環境(いわゆるレベルプレイングフィールド)への形成に向けた影響が注目される。

(4)貿易量の偏在とインフレ圧力
2021年には世界経済の回復に伴って世界の貿量も回復した。世界の輸出数量は新型コロナウイルスの感染が世界的に深刻化する前である2019年の水準を取り戻しており、特に新興国からの輸出の回復が顕著である。一方で、世界貿易金額を名目GDP比で見ると、2021年には同比率は上昇しているものの、やや長い目で見れば、世界金融危機から世界経済が立ち直った2011年以降のすう勢的な低下が目立っている。足下では貿易量が回復しているものの、経済規模対比で見れば貿易を伴わない回復(いわゆるスローバリゼーション)が進展した。輸出数量の回復が地域別で異なっていることが示唆しているように、財貿易の大部分を占める海上輸送において地域ごとの差異が見られている。

世界コンテナ取扱数量指数を見ると、新型コロナウイルスの感染が世界的に深刻化する2019年の水準を大きく上回っている。そうした中でも、米国と中国ではコンテナ取扱量指数が新型コロナウイルスの感染拡大前を上回っている一方で、日本、韓国、台湾を総合した指数は感染拡大前の水準を下回っている。こうした貿易量の回復の偏在は、特に貿易量の回復が顕著な国・地域において、コンテナの不足による物流の混乱という形でインフレ圧力を高め、世界経済に影響を及ぼした。政府による新型コロナウイルス対策が奏功したこともあり、世界経済は素早いペースで回復したといえる。すなわち、需要側の回復が素早かったことで、供給側の回復が追いつかなかった側面があり、それによって特に海上輸送では物価上昇圧力が高まった。海上輸送費の動向を示すバルチックドライ海運指数を見ると、2021年半ばには急激に上昇し、同年終盤にかけて下落していたものの、足下では再び上昇しており、依然として新型コロナウイルス感染が深刻化する前の2019年の水準を上回っている。

IMFの分析によると、2021年の海上輸送費の高騰は供給要因による寄与が高かったとの分析が示されており、上述のように地域間で貿易量が偏在していたことの影響の強さが示唆されている。供給側のインフレ圧力は実際に消費者段階での物価上昇にも現れている。食品やエネルギーなどといった一次産品が含まれる総合消費者物価インフレ率の高騰については、気候変動対策として、燃焼による二酸化炭素排出量が、石油よりも少ない液化天然ガスへの需要が高まり価格が上昇したことも影響している。しかし、それらの一次産品を含まないいわゆるコア消費者物価指数の上昇ペースが速まっていることは、物流コストの上昇が物価全般に影響を与えていることを示唆している。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html