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欧州経済の動向 | ISO情報テクノファ

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■欧州経済の動向

(アフターコロナの経済動向と足下のウクライナ情勢)
欧州では、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、多くの国で行動制限が長期にわたって実施されてきた。2021年春以降、行動制限が段階的に緩和されたことに伴い、経済活動が再開され、個人消費が持ち直したことから、ユーロ圏経済は、2021年第2四半期にはプラス成長へと回復した。その後も、経済回復のトレンドは継続していたものの、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵略を背景に、エネルギーや食品など幅広い品目の価格が大幅に上昇し、急激なインフレが家計を圧迫している。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、2022年3月に、「経済の先行きのリスクが高まっている。エネルギー・商品価格の高騰や国際貿易の混乱、信頼感の低下という形で、ロシアとウクライナとの戦争が、経済活動やインフレの動向に重大な影響を及ぼしている」と指摘し、ウクライナ情勢による欧州経済への影響を警戒している。2022年3月発表の欧州中央銀行(ECB)のスタッフ経済見通しにおいても、2022年のインフレ率を5.1%と、2021年12月時点の3.2%から大幅に上方修正し、実質GDP成長率の見通しを3.7%と、昨年12月時点の4.2%から下方修正した。

(1)新型コロナウイルスの感染状況及びワクチン接種の状況
欧州各国では、2021年末からオミクロン株の感染拡大の勢いが鈍化し、2022年に入った後ピークアウトを迎えた。ワクチンの追加接種(ブースター接種)の効果により、重症者数の増加や医療体制の逼迫懸念が抑えられていることから、欧州各国は経済活動を優先し、水際対策や行動制限の緩和を進めている。もっとも、2022年3月以降、既存のオミクロン株より伝播力が高いとされるステルスオミクロン変異株の感染者数が英国やドイツ、フランス等で拡大している。なお、ブースター接種人数の人口当たりの割合は、各国ともに2021年の10月から2月にかけて大きく増加したものの、2月以降は横ばいとなっている。

(2)GDPの動向
2021年は、各国で年初から新型コロナウイルス感染拡大の収束に目途が立たず、行動制限措置が継続された。サービス業の悪化やワクチン接種普及の遅れ等から、ユーロ圏経済は、第1四半期に2四半期連続でマイナス成長となり、景気後退に陥った。その後は、ワクチン接種の進展や行動制限の段階的緩和に伴う経済活動の再開により、サービス業を中心に個人消費が持ち直し、3四半期連続でプラス成長となった。2021年末は、オミクロン株の感染拡大を受けた行動規制の強化がサービス消費を抑制したことから、個人消費が3四半期ぶりに低下したものの、その後は、供給制約が緩和に向かったことや、オミクロン株の感染拡大に対してロックダウンのような厳しい行動制限を実施した国が少なかったことを背景に、経済の回復基調は維持されていた。

2021年通年のユーロ圏実質GDP成長率は、前年比5.3%となったものの、前年にユーロスタットの統計開始以来、最大の落ち込み幅(-6.4%)を記録したことから、2021年の回復はその反動といえ、前年の落ち込み幅を挽回するまでには至っていない。2022年は、2月24日のロシアによるウクライナ侵略に伴って先行きの不透明感が強まり、直近の2022年第1四半期のユーロ圏の実質GDP成長率は、速報値で前期比0.2%と低成長にとどまった。オミクロン株の感染拡大による行動制限が段階的に緩和されたものの、ロシアのウクライナ侵略に伴う資源高やサプライチェーンの混乱等の影響により、ユーロ圏経済の成長は鈍化した。2022年第1四半期の実質GDPの水準を見ると、ユーロ圏及び英国ではコロナショック以前(2019年第4四半期)の水準まで回復した。ユーロ圏の主要国では、フランスのみがコロナショック以前の水準まで回復した。

今後のユーロ圏経済の見通しは、新型コロナウイルスの感染状況の改善や、供給制約緩和に伴い、徐々に持ち直していくものと期待されるが、新たな変異株による感染再拡大のリスクや、ロシアのウクライナへの侵略に伴う不確実性の高まり、それに伴う天然ガス等のエネルギー価格を始めとする資源、原材料、食料、物流費等の価格上昇により、インフレ圧力が一層高まるリスクについて注視が必要である。IMFの見通しによれば、2022年の実質GDP成長率は、ユーロ圏が2.8%、国別では、ドイツが2.1%、フランスが2.9%、イタリアが2.3%、スペインが4.8%と見込まれている。IMFは、ロシアによるウクライナ侵略がもたらす経済損失は、2022年に世界の経済成長が大幅に減速する一因となるほか、物価上昇を加速させると予測している。2022年のECBのスタッフ経済見通しは、ロシアによるウクライナ侵略後の状況変化を反映して、消費者物価(HICP)を昨年12月時点の3.2%から1.9%ポイント引き上げて5.1%、実質GDP成長率を4.2%から-0.5%ポイント引き下げて3.7%と予測している。

(3)生産の動向
ユーロ圏の鉱工業生産指数は、2021年に入った後、供給制約により生産が減少した月もあったが、その後は、供給制約の緩和と需要の拡大を背景に、堅調に推移している。他方、ウクライナ情勢の緊迫化により、サプライチェーンの混乱やエネルギー価格高騰によるコスト高などによって生産が停滞するおそれもあり、予断を許さない状況となっている。ドイツの乗用車の生産について見ると、2021年春以降、半導体や部品等の供給制約により生産が減少した。2021年の乗用車の生産は、8月を底に回復傾向を示しており、供給制約は次第に緩和する兆しが見られたものの、引き続き伸び悩み、新型コロナウイルスの感染拡大前の水準を下回って推移した。2021年通年のドイツの乗用車生産台数は、約310万4,600台と前年より-12%低い水準となった。2022年には、1月~2月を合わせた乗用車生産台数が前年同期比でプラスに転じたが、ロシアによるウクライナ侵略や半導体等の供給不足の影響が反映された3月の乗用車生産台数は、前年同月比-29.3%の26万7,600台と大きく落ち込んでおり、先行き不透明な状況となっている。

(4)消費の動向
ユーロ圏の小売売上高は、2020年末に新型コロナウイルスの再度の感染拡大により、一部の国において行動規制が再強化され、消費者の慎重姿勢も高まったことから減少した。その後、2021年4月にロックダウンの影響を受け再度減少したが、以降は堅調な個人消費に支えられ、スペインを除き増加基調を維持し、同年12月はクリスマス商戦の時期にもかかわらず消費者物価の上昇などを背景に落ち込んだ。2022年に入ってからは小幅な上昇傾向が見られたが、ウクライナ情勢の影響を受けた同年3月に、前月比-0.4%と減少した。2022年3月時点の小売売上高指数は、ユーロ圏で2020年初の水準を超えており、国別でも、フランス、ドイツ、イタリアで同水準を超えている一方、スペインでは同水準を大きく下回る水準となっている。業種別では、非対面型の需要から好調を続けていた通信販売が、消費者が実店舗に購入ルートを戻す動きなどから、2021年半ばに減少し、それ以降は小幅な上下変動を伴いつつコロナ前よりも高い水準を維持している。今後は、エネルギー価格高騰など、ウクライナ情勢の深刻化に伴うインフレ圧力が家計の購買力を押し下げるリスクがある。

(5)消費者物価
ユーロ圏の消費者物価は2021年入り後から上昇を続け、2022年4月(速報値)は前年同月比7.5%を記録し、統計開始以来の上昇率を6か月連続で更新した。国別では、前年同月比で、スペインが8.3%、ドイツが7.8%、イタリアが6.6%、フランスが5.4%と、それぞれ大幅に上昇した。当初、2022年1月以降は、ドイツの付加価値税の減税終了に伴う反動の影響が剥落し物価上昇の勢いは和らいでいくものと見られていたが、ロシアによるウクライナ侵略を受けて、エネルギーや食品など幅広い品目の価格が大幅に上昇している。特に、エネルギー価格の大幅な上昇が見られる。

2021年夏以降、天然ガス価格が上昇しており、欧州のエネルギー市場の天然ガス価格(オランダTTF)は、2022年3月7日に過去最高値の1メガワット時当たり200ユーロ台を記録した。経済活動の回復に伴う需要増加に加え、英国での風量不足による風力発電の出力低下、脱炭素の流れによる天然ガス生産の投資の減少等により価格高騰が進んでいた中で、2月24日のロシアによるウクライナ侵略により、欧州の主要な輸入元であるロシアからの供給不安と在庫の減少や、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の無期限停止等の要因が加わり、天然ガスの価格変動に拍車が掛かっている。このような状況を受けて、欧州委員会は3月8日、2030年までにEU域内のロシア産化石燃料への依存解消と安価で持続可能なエネルギーの安定供給に向けた政策文書を発表し、エネルギー価格やガス貯蔵に関する新たな対応策を提案した。また、食料についても、2021年以降コロナからの急速な経済活動の再開により、世界的に需要が急増し、供給が不足する事態となっている中で、ロシアによるウクライナへの軍事侵略を受けて、価格がより一層高騰している。

(6)雇用
ユーロ圏の失業率は、2022年3月に6.8%と、統計開始以来の最低値を更新した。雇用情勢は、景気の回復を受け緩やかに改善が進んでいる。新型コロナウイルスに対する行動制限の段階的な緩和により、サービス業の雇用環境も回復してきている。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html