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デジタル改革 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■グローバルで加速するトレンド

2020年初のコロナショックによって大きく落ち込んだ世界経済は、その後の政府の支援を主な要因として、力強く回復した。経済回復過程における需要の増大はインフレ圧力を顕在化させており、米国などにおいて金融緩和からの転換が見られる。このような需要増はいずれ収束すると見られ、先行きは新型コロナウイルス感染症の再拡大やロシアによるウクライナ侵略の影響など不確実性が存在するものの、日本にとって、当面は、世界の経済成長を取り込み、日本経済の成長につなげることが重要である。外需の拡大には、企業にとって、RCEP、CPTPP、日EU・EPA、日米貿易協定、日英EPAといった経済連携協定を活用しつつ、輸出の促進や対外直接投資、現地生産の拡大に取り組むことなどが求められる。また、輸出や現地生産の拡大という既存のビジネスモデルの延長線上にとどまらず、海外人材の活用、海外企業との連携など、グローバル経営の徹底により組織能力を強化するとともに、海外市場の実情を踏まえた高成長市場開拓戦略、特に、日本のサプライチェーンが張り巡らされ、市場のポテンシャルも有するアジア戦略を策定・展開するという、海外市場獲得に向けた新たなビジネスモデルを構築することも求められる。

企業活動を後押しするため、政府としては、引き続き多角的貿易システムの下でルールベースの秩序を堅持すべく取り組むとともに、米欧市場への関与のレバレッジを確保しつつ、アジア各国と連携を高め、アジアと一体になった成長戦略を描くことが必要となる。これに加えて、コロナショックを契機に、デジタル変革、地政学リスクの増大、共通価値の重視、政府の産業政策シフトという4つのグローバルなトレンドが加速している。これらは、今後の国際関係や世界経済の動向を左右し、企業経営に大きな不確実性を生み出すとともに、企業の付加価値の源泉に変化をもたらしている。特に、地政学リスクや共通価値に関しては、各国政府の国際ルール形成や政策ポジションの違いによってルールのブロック化が発生しており、それを受けた市場のブロック化も進行している。

さらに、政府の産業政策強化の動きにより、米国、欧州など主要国・地域の特定セクター(航空宇宙、半導体、グリーン関連等)において大規模な市場が形成されており、立地国の政策ポジションによって企業の市場獲得の機会に違いが発生する可能性がある。このような状況において、企業にとって、従来のコスト削減・低価格製品提供の重視から、差別化・高付加価値化や効率的なオペレーションに取り組むビジネスモデル・産業構造への変革を積極的に促し、企業の稼ぐ力を引き上げることが重要である。その上で、さらに、コロナ禍で加速した4つのトレンドを踏まえて、デジタル化による企業変革、政府が創出する需要の取り込み、経済安全保障・社会的インパクト・共通価値中核事業における付加価値に転換するビジネスモデルへの変革まで促し、新しい資本主義における付加価値創造型のビジネスモデル・産業構造を実現させていくことが必要であろう。企業活動を後押しするため、政府としては、G7等における経済秩序構築に関する議論に初期段階から参加し、日本企業が市場支配力や国際ルール形成力に優れる米欧市場において社会実装に取り組むことができる環境を整えることが必要である。また、アジア諸国の現状も踏まえた共通価値の実現を図る、包摂的ルールメイクにつながる橋渡しに努めるとともに、課題先進国としての経験から生まれた共通価値を発信し、課題設定・市場形成を行うことが重要である。

(デジタル変革)
21世紀に入り、デジタル技術とグローバルなデータフローの指数関数的な発展・成長が経済のルールを書き換えつつある。特に2010年代以降、世界規模でデジタル変革が急速に進展し、経済・社会システムの再設計や企業経営のデジタル・トランスフォーメーション(DX)など、モノのインターネット(IoT)やビッグデータ、人工知能(AI)といったコアとなる技術の革新である第四次産業革命が進展している。第四次産業革命の技術革新により、①大量生産・画一的サービス提供から個々にカスタマイズされた生産・サービスの提供、②既に存在している資源・資産の効率的な活用、③AIやロボットによる、従来人間によって行われていた労働の補助・代替などが可能となる。実際、AI、ビッグデータ、IoT、フィンテック、3Dプリンティング、ドローン、ロボット、バイオテクノロジー、量子コンピュータ等の新興技術が飛躍的に進歩し、これらの分野への投資や研究開発が世界的に増加している。今後も、こうした第四次産業革命による更なる技術進歩により、産業構造が大きく変化する可能性がある。

こうした状況の下、我が国においても、経済の優位性の維持と発展のためには、イノベーションが必要不可欠である。我が国の既存企業にとって、DXによる顧客接点の拡大や価値提供のほか、DX投資、R&D投資、人的資本投資、無形資産投資の拡大による企業変革や生産性向上を図るとともに、スタートアップとの連携やDX等を活用した新たな付加価値を生み出す新しいビジネスモデルに転換することの重要性が従来以上に高まっている。また、イノベーションが技術の開発競争から生まれることに鑑みても、国家間で公平かつ公正な競争環境(レベルプレイングフィールド)の整備のほか、新興技術開発等のイノベーション促進やそれを担うスタートアップ、付加価値源泉としてのデータの自由な越境活動が重要であり、通商協定がそのために果たす役割も大きい。

(第四次産業革命による産業構造の変化)
第四次産業革命のブレークスルーにより、あらゆる分野で、革新的な製品・サービスが創出され、これまで解決が困難であった社会課題や構造的課題への対応が可能となり、産業構造が大きく変化しつつある。こうした、技術の大きな革新を踏まえ、新たな付加価値を創出する企業が世界的に多く創出されてきている。実際、革新的な技術を活用し、生み出された世界のユニコーン企業(評価額10億ドル以上で、10年以内の非上場ベンチャー企業)は、2022年4月時点で、世界46の国と地域に存在(1,083社、3兆6,294億ドル)している。もっとも、全体の評価額の約70%を米国・中国が占めているほか、上位10の国と地域で評価額・社数のどちらも約90%をカバーしている。なお、技術領域としては、フィンテックが上位を占めている。

こうした中、我が国のユニコーン企業は、2022年4月時点で、5社にとどまっており、米国の569社から大きく溝を開けられている。評価額ベース(78億ドル)でも世界24位に甘んじており、世界全体の0.2%を占めるにすぎない。もちろん、いわゆる米国のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)、アマゾン、マイクロソフト)や中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)等といった、技術革新をいち早く捉え、付加価値の創出を行っている主要なデジタル関連企業の時価総額で比較してみても、我が国は、大きく劣位する状況となっている。

(我が国のデジタル投資の状況)
世界中でデジタル変革が加速し、産業構造が変わりつつある中、既存企業にとっては、DXによる顧客接点の拡大や価値提供、DX関連投資による企業変革、生産性向上が重要となってくる。こうした中、我が国のDXに目を向けて見ると、投資額等で他国に比べ劣後している側面がある。世界では、新たな技術やビジネスモデルの多くを、デジタル関連企業が創出している中、我が国はデジタル技術のもたらす「重要性」、「変革の大きさ」、「スピード感」について官民双方とも認識が不足し、また、既存の組織・業務・生活様式の継続を前提にした個々のパーツのデジタル化に終始した結果、デジタル大変革への対応が遅れ、産業全体で競争力を喪失した。

デジタル投資額と名目GDPは大きく連動しており、国全体におけるデジタル投資の遅れが、経済の低成長の原因の一つとなっている。このため、今後、成長のドライバーとして、産業全体における幅広いデジタル投資の活性化が必要となる。米国は、積極的なデジタル投資に連動する形で、名目GDPが大きく成長している。また、スウェーデンやフランスもデジタル投資は年平均5%台の伸びとなっており、相応に積極的なデジタル投資を行っている一方、我が国では、デジタル投資額が年平均0.8%と低水準で推移しており、名目GDP成長率も0.9%にとどまっている。ドイツも、我が国と同様にデジタル投資額の伸びは1.8%と低水準で低迷しており、名目GDP成長率も1.4%にとどまっている。

我が国のデジタル投資額が他国と見劣りする背景として、企業において、多様性ある経営体制の確立や事業再編の実行に遅れが見られ、これらが「効率化中心のデジタル投資」の一要因にもなっているものと考えられる。実際に、IT予算の用途を日米で背景を比較すると、米国企業は、市場・顧客対応やビジネスモデル変革、製品・サービス開発強化を目的にデジタル投資を実施しているのに対し、日本企業はコスト削減や働き方改革に投資が集中しており、今後、本物のDXを通じたビジネス変革が必要となってくる。また、IMDのデジタル競争力ランキングを見てみると、我が国は、28位と低迷している。項目別に見ると、「生徒・教師の比率」や「ロボットのグローバルシェア」、「行政への電子参加」、「ソフトウェア著作権侵害対応」などはランキングが高いものの、「国際経験」、「企業の俊敏性」、「ビッグデータの分析と活用」、「デジタル/技術スキル」については、ランキングが相応に低くなっている。

(アジアDX等を活用した付加価値の創出)
こうした状況の下、新興国市場であるASEANに目を転じると、ASEANは、「中所得国の罠」からの脱却や拡大する地域間格差、医療アクセスの充実等、様々な社会課題に直面する中、デジタル技術を活用して課題解決を行うビジネスが勃興している。ASEANでは、これまで社会インフラや法整備が不十分だったことで、逆にフィンテックやライドシェアなど先進国の技術を一足飛びで導入する、いわゆる「リープフロッグ」現象が起きている。ASEAN各国政府においても、ビジネスを起点としたデジタルイノベーションの社会実装が重要な政策課題となっている中、新型コロナウイルス感染拡大もあって、こうした動きが更に加速している。我が国としても、アジア新興国へ資金・人材・技術・ノウハウを戦略的に投入し、現地企業との連携による新規事業の創出を図る「アジアDX」を推進する必要がある。

(デジタルに関するルールの動向)
デジタル変革を実現する上では、国家間で公平かつ公正な競争環境が整備されていることが重要となってくる中、各国・各地域の政府は巨大化したプラットフォーマー企業に対して、適正な市場活動を行ってもらうべく、横断的なルール整備を進めている。また、データがもたらす新たな経済的価値を活かすためには、データの自由な越境流通が不可欠であるが、一部の国においては、データを囲い込むなどのデジタル保護主義・権威主義といわれる動きの拡大が懸念される。このため、企業のビジネス機会を阻害し得るデジタル保護主義・権威主義の拡大を防ぎ、プライバシー保護やセキュリティなどの信頼を確保することで、自由なデータ流通を促していくこと、すなわちDFFTの実現に向け日本が主導して取り組み、データがもたらす新たな価値の創出と更なる経済発展に貢献していくことが重要となる。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html