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グローバルバリューチェーン | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■グローバルバリューチェーンのぜい弱性

(間接貿易)
ここまで国際的な国・地域間のバリューチェーンを考えてきたが、国内においてもバリューチェーンは広がっている。例えば、自らは直接輸出に携わっていない企業でも、他の製造業者に資材を提供し、その製品が輸出されることで間接的に輸出に携わっている場合がある。輸入においても、自らは直接資材を輸入していなくとも、輸入資材を組み込んだ中間製品を他の製造業者から調達して自らの製品に組み込む場合も、国際的なバリューチェーンの一端に参加していることになる。また、単純に貿易手続きや海外の取引相手の情報に知見がなく、自らは輸出入を行っていないが、商社などの国内の卸売業者との取引を通じて海外とつながっているというケースもあり得る。これらの企業もグローバルバリューチェーンにつながっているが、その広がりを正確に把握することは難しい。

ここでは一つの目安として、石川・齊藤・田岡(2017)「地域経済における間接貿易の役割」(RIETI Policy Discussion Paper Series 17-P-009)をもとに間接貿易を行っている製造業企業のシェアを概観する。同ペーパーでは、東京商工リサーチの企業取引データを利用して、直接輸出入を行っている製造業者又は卸売業者と取引がある製造業者は、間接に輸出入を行っているものと見なして分析をしている。この中の集計結果で、間接貿易を行っている製造業企業がかなりの広がりを見せていることが分かる。例えば、間接貿易を行っている製造業企業は、全国で、企業数ベース、従業員ベースで約4割、売上高ベースで約3割、付加価値ベースで約5割にのぼる。大都市圏と地方に分けて比較すると、直接貿易を行っている企業のシェアは大都市圏の方が大きい一方で、間接貿易に携わっている企業のシェアは、従業員、売上げ、付加価値のいずれの面で見ても地方の方が大きい。一見、貿易に関係がないように見える企業も間接的にグローバルバリューチェーンにつながっており、特にその傾向は地方の方が強い。このことは地方の企業もグローバルバリューチェーンによる影響を受けることを示唆している。

また、同様に東京商工リサーチの企業取引関係データを利用して分析を行ったIto and Saito (2018)(“Indirect Trade and Direct Trade: Evidence from Japanese firm transaction data”, RIETI Discussion Paper Series 18-E-065)は、輸出・輸入とも、直接貿易・間接貿易の両方の場合で、売上高や従業員数に有意に正の影響があることを実証して、貿易の重要性を示した。このように見てくると、貿易は地方の中小企業のビジネスの国際化にとっても重要であり、世界市場に対して直接製品・サービスを提供する「グローカル成長戦略」の実現に加えて、ローカルな企業が直接輸出企業を通じてグローバルなバリューチェーンにつながることで一層の成長を実現するグローカル成長の視点を併せて考えることも重要である。

(グローバルバリューチェーンのぜい弱性と強靱性)
コロナショックの際の日本の国際生産ネットワークへの影響をAndo,Kimura and Obashi(2021)(”International Production Networks Are Overcoming COVID- 19 Shocks: Evidence from Japan’s Machinery Trade”)をもとに考察する。同ペーパーは、コロナショックが一時的に日本の貿易の減少をもたらしたものの、機械産業を中心とする国際生産ネットワークは、それを乗り越えて維持されたとしている。まず、2020年の日本の機械分野の輸出の月次の動きを見ると、中国における新型コロナウイルスの感染拡大によるサプライチェーンを通じた直接及び間接の影響により、3月以降は例年に比べて大きく落ち込んでいる。しかし、5月に底を迎え、10月頃にはほぼ例年の水準まで回復している。輸入も、輸送機械を中心に同様の傾向が見られる。その上で、この1-5月の落ち込みを、日本の二国間貿易を最小単位まで降りて、ある国・製品の取引が続いている「Continuing」、取引がなくなった「Exit」、取引が新たにできた「Entry」に分解して分析している。その結果、輸出入とも「部品」は、「製品」に比べて「Exit」の取引関係が少なく、部品と生産の間にはより安定的な関係がある、言い換えれば、部品のサプライチェーンには強靱性があることを指摘している。

少なくとも一時的な需要の落ち込みは、サプライチェーンを破壊するものではなかった。同著者は、別のペーパーにおいて、同様の手法から、世界金融危機や東日本大震災の際にも、日本の部品のサプライチェーンが強靱であったことを指摘している。企業は、コストを投じてサプライチェーンを調整してきており、そのように深化したサプライチェーンは、容易に消滅するものではないことが示唆される。また、同ペーパーは、新型コロナによる日本の貿易の変動を価格と数量の変化に分解して、初期の供給が減少する負のサプライショックの他、その後に需要を増加させる正のデマンドショック及び需要を減少させる負のデマンドショックが異なるタイミングで異なる国に起こったことも指摘している。このようなサプライチェーンの強靱性の裏には、サプライチェーンを維持しようとする企業による取組が重要であることには注意しなければならない。

先の日系企業に対するJETRO調査で見たように、企業は、サプライチェーンの供給元や生産地など、時々の状況に応じて調整をしようとしている。ここではさらに、サプライチェーンの重要性について、企業相互の幅広い結びつきという面から考えてみたい。戸堂、中島、Matous(2013)(「絆が災害に対して強靱な企業をつくる-東日本大震災からの教訓」(RIETI Policy Discussion Paper Series 13-P-006)は、東日本大震災の被災地企業へのアンケート調査等から、サプライチェーンが企業の経済的強靱性にどのような影響を与えるかを考察している。2011年3月に起こった東日本大震災の影響は、被災地だけでなく、サプライチェーンを通じて、日本全国や海外へも波及した。同ペーパーは、サプライチェーンは負の効果をもたらすだけでなく、災害からの復旧を促進する効果もあり、むしろ総合的にはプラスの効果の方が大きいと指摘している。東京商工リサーチによる個別企業ごとの企業取引先データとアンケート調査の結果を結びつけて、「被災地内・外」の「仕入先、販売先の企業数」が、「操業停止日数」、「取引先企業からの支援の有無」等にどう影響するかを分析している。その分析結果で、例えば、「被災地外の仕入先」及び「被災地外の販売先」の企業数は、「操業停止日数」に有意に負の効果を持つ。言い換えれば、被災地域外に取引先が多くなればなるほど、企業の操業の再開は早まる。その他に、被災地域外に販売先企業が多いと、復旧に対する支援を受ける可能性が高まることなどが示されている。このようにサプライチェーンは、災害の影響を伝播させるというマイナス面がある一方で、被災地外の取引先が多いほど操業再開が早まったり、取引先から被災企業が支援を受けたり、代替企業を探すのに企業ネットワークが有効であるなどプラスの面も指摘できる。分析では、被災地と被災地外を分けているが、当然のことながら事前にどこで災害が起こるかは分からない。普段から幅広い企業間のネットワーク、企業リンケージを構築し、サプライチェーンの多様性を高めておくことが企業及びサプライチェーンの強靱性を高めることにつながる。

(半導体、自動車部品のぜい弱性)
2021年、日本が後方参加するサプライチェーンにおいて、特に問題となったのが半導体と自動車部品であった。両部品に共通することは、長期的に見ると日本国内でも製造・輸出していたが、近年は輸入が拡大して海外シェアが高まっていることである。2021年の輸入状況を考察する。まず、半導体については、新型コロナ後、テレワークを始めとするIT機器の需要急拡大や政府の景気支援策を受けた自動車等への需要回復などを背景に、世界中で半導体需要の急速な増大が見られた。その一方で、半導体の生産設備の拡大には多大な費用と時間がかかるため、半導体製造企業に供給能力以上に受注が殺到した。さらに日本では大手半導体企業の主力工場の火災事故、北米では寒波、東南アジアでは感染拡大による稼働制限など供給制約が相次ぎ、受給逼迫に拍車をかけた。

日本の半導体の輸入相手国・地域を見ると、ダイオードなど単機能の部品(HS8541)は中国が5割を占め、マレーシア、台湾などアジア諸国が続いている。近年、需要が拡大基調にある高機能の集積回路(HS8542)の場合は、台湾が輸入の5割以上を占め、長期的に見ても、台湾のシェアは拡大を続けている。また、自動車に用いられる部品には、先に挙げた半導体を含めて多様な品目があるが、ここでは、関税番号HS8708の自動車部品を例に考えてみる。日本の輸入の約4割は中国が占めており、そのシェアは、一時頭打ちとなったものの、ここ2~3年は、再び上昇する兆しが見える。

これまで見てきた内容をまとめてみると、我が国企業は、アジアを中心とする直接投資によって、生産拠点の海外展開や国際的な生産分業、そして、これら拠点を結ぶグローバルバリューチェーンを形成した。日本は、グローバルバリューチェーンに対して、中間財を供給する前方参加とともに、海外から中間財を受け取る後方参加の形の関与を拡大してきた。しかし、近年、前方参加と後方参加の両面にわたって、グローバルバリューチェーンに関する課題が顕在化している。例えば、米中対立や新型コロナなど感染症や自然災害等による供給制約等である。これに対して、企業サイドでは、米中対立を見据えた生産拠点及び供給元の見直しや、中間財供給元が一部の国のシェアが大きいことから、供給元の多様化や現地化の動きが見られる。そのような取組を上手く進めるためには、デジタルを活用したネットワークの可視化も重要であろう。政府としては、このような企業によるネットワーク形成及び再構築の選択肢を増やすことができるよう、事業環境を整えることが重要な役目といえる。そのために、経済連携協定等を通じた国際ルールの明確化及び強化やサプライチェーン多元化のための補助などの施策を行っている。次回以降、サプライチェーンの強靱化に向けた課題や取組、特に経済安全保障との関わりについてより具体的にみていく。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html