ISO情報

プラットフォームビジネスの動向 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■プラットフォームビジネスの動向

(各国・地域のプラットフォーム企業)
プラットフォームとは、多数の生産者と多数の消費者をつなぐ「場」(共通機能)のことであり、経済がデジタル化する以前にも存在していたが、インターネットの進展によりデジタルプラットフォームの構築が可能になると、ビジネスの規模は飛躍的に拡大した。プラットフォーム企業は、プラットフォームの参加者が増えることで便益が増すネットワーク効果を生み、市場への影響力を拡大する。世界のプラットフォーム企業の時価総額上位100社(2021年5月時点)をみると、企業数では米州が41社、中国を含むアジア太平洋地域が45社と拮抗しているが、時価総額では米州が67%、中国を含むアジア太平洋が29%となっている。主要企業の個別の評価額(2021年末時点)を見ると、GAFA(M)等、米国プラットフォーム企業群の企業価値が他地域の企業を圧倒している。

①米国企業
クスマノほか(2020)(『プラットフォームビジネス デジタル時代を支配する力と陥穽』)では、OSをコンピュータ向けにいかに高く売るかではなく、コンピュータの周辺に発生する様々な補完製品(アプリやデジタルサービス)等の複数の市場をいかに巻き込んで関与させる仕組みをつくるかに着眼するという1980年代のMicrosoftの戦略を「プラットフォーム」思考を具現化した初期の画期的事例として紹介している。Appleは、一般の人たちが使いやすいスマートフォンの発明で市場を席捲したことに加え、デジタルコンテンツや決済サービス、アプリケーションストア等のプラットフォームビジネスで収益を拡大している。Amazon(E-コマース)、Google(親会社はAlphabet。検索エンジン)、Facebook(現Meta。ソーシャルメディア)も、それぞれ自社のプラットフォーム機能の向上により短期間で巨大化した。GAFAあるいはGAFAMと総称され、既によく知られている。

これら米国のITプラットフォーム企業群は、人々の行動様式を変え社会に大きな影響を及ぼしたイノベーションの担い手であるともいえる。Airbnb(民泊シェアリングサービス)やUber(配車サービス)は、物件の保有者やサービスの提供者と共・利用希望者をマッチングさせるプラットフォームであり、近年注目されているシェアリングエコノミーをけん引するパイオニアである。こうした状況下、新型コロナウイルス感染拡大に伴う制限措置は、「対人」、「接触」が通常であった領域のデジタルによる代替需要を更に増大させた。また、5GやVR(virtualreality。仮想空間)等の新しい技術がプラットフォームビジネスにおいて生み出す価値への期待が高まっている。Facebookは2021年10月に社名をMeta Platforms に変え、従来の主力事業であるSNSサービス(Facebook)の運営のほかに仮想空間「メタバース」の開発に注力すると発表した。また、Appleの株価は上昇が続き2022年初めに一時、時価総額が米国の上場企業として初めて3兆ドルを突破して話題となった。

②中国企業
中国では、人口大国としてのポテンシャル(インターネットユーザーの規模)、海外プラットフォームのアクセス規制等により、Baidu(検索エンジン)、Alibaba(E-コマース)、Tencent(ソーシャルメディア、ゲーム)が先行組として地歩を固めた(BATと総称される)。AlibabaとTencentは、それぞれAlipay、WeChatという支払、メッセージ、配車やチケット予約が可能な統合アプリケーションを提供し、数億人単位のユーザーを有する。また、近年ではTMD(Toutiao(ニュースアプリ)、Meituan(フードデリバリー)、Didi(配車サービス))やPKQ(Pinduoduo(E-コマース)、Kuaishou(動画アプリ)、Qutoutiao(ニュースアプリ))、ByteDance(動画アプリ)といった新興のプラットフォーム企業群が台頭しており、中国国内の競争が激化している。中国市場の成熟化とあいまって、中国プラットフォーム企業が次の成長市場として期待される東南アジアのE-コマース分野等に進出する動きが活発化している。具体的には現地E-コマース企業への出資や買収、業務提携等であり、TencentのSanook(タイ。オンラインメディア)やSea(シンガポール。ネットゲーム企業として出発した後、多角化)への出資、AlibabaのLazada(シンガポール。E-コマース)への出資・経営権取得等の案件が注目された。またAlibabaは、東南アジアの主要国政府との連携(タイのE-コマース発展への協力、マレーシアのデジタル自由貿易区構想への参加、フィリピンへの研修プログラムの提供等)やAI技術研究拠点の設置(シンガポール・南洋工科大学キャンパス内)等、活発な展開を見せている。同社は、世界規模の越境ECプラットフォーム構想(e WTP:Electronic World Trading Platform)を有しており、東南アジアへの展開も同構想に基づくものといえる。同構想には、単に企業戦略というだけでなく、貿易やフィンテックによるインクルーシブなグローバル社会の実現(途上国や中小企業等でもデジタル技術を通じて世界市場に参加しグローバル化の恩恵を得ることができる、銀行口座を持たない人々にも金融サービスをもたらす等)を目指すという側面があり、デジタルを通じた成長戦略や社会課題の解決等を模索する東南アジア諸国もこの点を歓迎していると見られる。

③アジア等新興国企業
アジア等新興国のプラットフォーム企業には、プラットフォームというビジネスの戦略性への志向のほかに、市場の潜在ニーズへの対応、課題解決を通じた成長というインセンティブが強く働いている。東南アジアの代表的プラットフォーム企業としてよく知られている配車サービスのGrab(マレーシアで設立。シンガポールに本社移転)やGojek(インドネシア)は、ドライバーと利用者双方にとっての安全性や信頼性、業務効率性等に関する課題を配車アプリでのマッチングを通じて解決してきた。

また、サービスの多角化を積極的に推し進め、多様なデリバリーサービスやキャッシュレス決済、保険プラン等の提供を行っており、デジタルプラットフォームを通じた経済・社会インフラへのアクセス改善を図っている。Gojekは、インド国内のIT企業や人材リクルーティング会社を買収し、インドを研究開発及びエンジニア獲得拠点としている点も注目される。また、2021年にはGojekとTokopedia(インドネシア。E-コマース)が合併してGo-toとなるなど企業規模の更なる拡大を目指す動きも見られた。

インドでは、Flipkart等のE-コマース企業やByju’s(エドテック)等が大規模資金調達を行う等、活発な事業展開を行っている。エドテックについては、農村部等における教育インフラ整備の遅れや新型コロナウイルス感染拡大の影響で学校が閉鎖される等の事態を受けてオンライン学習、VR学習へのニーズが高まっていることから注目が集まっている。特に若年人口の多いインド等新興国においては事業のポテンシャルも大きいと考えられる。また、財閥系企業リライアンス傘下のJio Platformには、同社が有するデジタルプラットフォームリソース(4億人近いJio Infocom携帯電話ユーザー、Jio MartのE-コマースサービス展開等)への期待から、Facebook(現Meta Platforms)やアブダビ投資庁等の国外企業やSWFからも投資が行われている。One 97 Communicationsはインド系住民人口の多い国・地域に展開し、子会社であるPaytmを中核としてオンライン決済・金融サービス等を提供している。日本のスマートフォン決済サービスにもPaytmのQRコード決済の技術が使われている。新興諸国におけるプラットフォーム展開においては、銀行口座やクレジットカードを持たない人々への決済手段の提供といった金融包摂の視点も重要である。Alibabaが提供するAlipayはスマートフォンでQRコードを読み込むことで決済と送金を可能とする。Safaricom(ケニア、通信プロバイダー)が提供するM-Pesaは、携帯電話(フィーチャーフォン)のショートメッセージ送信により決済・送金が可能となり、売店(キオスク)で現金の受け渡しができるというものである。

中南米のフィンテック企業として台頭してきたNubank(ブラジル)は、銀行口座を持たない人にスマートフォンを通じて銀行口座類似のアカウントを無料で提供しているほか、クレジットカードの発行や融資、保険等の金融サービスの提供も行っている。新興諸国で活発化するフィンテックは、リープフロッグ現象の一つの形としても注目される。新興国のスタートアップをめぐる新しい動きとして、B to Cサービスだけでなく、B to Bサービスにも事業領域が広がってきていると指摘されている。岩崎(2022)は、もともと世界の他の地域に比べて B to Cサービスの比率が高いアジアにおいても、近年、B to Cサービスから派生する形でB to Bサービスに乗り出す企業が出てきているとし、中小小売店や個人事業主を卸売業者やメーカーにつなげるB to Bマーケットプレイスを立ち上げたZilingo(シンガポール)を代表例として紹介している。

(プラットフォーム企業の多様性)
<国際事業展開の方向性>
プラットフォーム企業の事業展開の在り方にはいくつかの類型がある。人口の多い国内市場を有するがゆえに国内向けにリソースを集中しているTencent、Meituan、Tokopediaや、東南アジア地域内の横展開を推進しているGrab等がある。一方、グローバル市場を志向する企業群においても、AmazonやApple等の巨大プラットフォームのように人口若しくは所得の大きな市場のポテンシャルを追求する企業や、海外の自国出身移民・移住者(いわゆる「ディアスポラ」)のコミュニティと本国人口をつなぐニーズに着目しているBaidu、Alibaba、One97Communications等のほか、競合相手の少ない新興市場への進出を積極的に推進しているDiDiやSea等がある。プラットフォーム企業の事業展開の方向性は様々である。

<収益改善モデル>
配車サービス等を単独で展開しているプラットフォーム企業は売上の拡大と利益の改善の間にジレンマを抱えている場合がある。この課題を打開すべく、一部のプラットフォーム企業では、薄利多売ではあるものの顧客の安定的獲得につながるライドシェアや決済サービスを入口として活用し、より利益率の高いEコマース等へ誘導する事業方法をとり、黒字化を図っている。

<研究開発拠点>
アジア新興諸国のプラットフォーム企業の中には、本国以外に研究開発拠点及びエンジニア採用に向けた拠点を構えるケースがある。Baiduは米国カリフォルニア州に拠点を設置し、自動運転、ディープラーニング、ロボティクス等の新規成長分野の研究開発を行っている。One 97 Communicationsはカナダ・オンタリオ州に拠点を設置し、顧客データの分析等を行っている。Gojekはインドで現地IT企業や人材リクルーティング企業の買収を通じて研究開発拠点を構築している。

(プラットフォームビジネスをめぐる新たな動き)
プラットフォームビジネスに係る問題については、様々な論点があり、国際機関や各国・地域政府による新たな規制、制度構築の動きが出てきている。

①国際課税
国際課税については、従来の課税ルールが企業の市場国における物理的拠点の有無を問題にしてきたため、国外のプラットフォーム企業の活動に対する市場国の課税権の配分や課税根拠の考え方、無形資産の軽課税国への移転への対応等、経済のデジタル化に伴う新たな問題が指摘されてきた。OECDでは、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトの一環として、経済のデジタル化に伴う国際課税ルールの見直しが検討されており、2021年10月、(1)多国籍企業の本拠地国等から、消費者やユーザーがいる市場国に対して、物理的拠点の有無にかかわらず課税権の一部を配分すること(第1の柱)、(2)グローバルに最低法人税率を15%と設定し、軽課税国の子会社等の税負担が最低税率に至るまで、親会社の所在地国で課税すること(第2の柱)の二つの柱からなる新制度の枠組みが公表され、136か国・地域が合意した(2021年10月時点)。

(1)については全世界売上が200億ユーロを超え、かつ、利益率が10%を超える多国籍企業が対象となっており、2022年に多国間条約の策定、2023年に適用開始を目指している。(2)については年間総収入金額が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業に適用され、2022年に各国国内法制化(導入は各国の任意)、2023年から順次適用開始を目指している。伊藤(2021)は、この新しい課税ルールが、自国発のプラットフォーム企業を持たない一方で多数のプラットフォームユーザーが存在する新興国に新たな税収基盤を提供する可能性があると指摘する。OECDを中心とした国際議論が行われていた一方で、各国が(暫定的措置として)独自のデジタルサービス課税(DST:Digital Services Tax)等の導入に動いてきたことに留意する必要がある。フランス、イギリス、オーストリア、チェコ、ハンガリー、イタリア、ラトビア、ノルウェー、ポーランド、スロバキア、スロベニア、スペイン、トルコ等がこれにあたるとされる。各国の措置をめぐっては、国際通商ルールとの整合性(一方的措置等)や法人税・DST同士の二重課税の問題等、様々な論点が指摘される。また、当該措置をめぐって二国間が対立する事例も見られた(フランス等の課税措置に対する米国の通商301条調査等)。2021年10月の国際合意に関する声明においては、第1の柱を実施するために今後策定する多国間条約において、その締約国は、全ての企業に対する全てのデジタルサービス税及びその他の関連する類似の税制措置を廃止し、また、将来にわたり導入しないことが定められた。また、新たに施行されるデジタルサービス税及びその他の関連する類似の税制措置は、2021年10月8日から、2023年12月31日または多国間条約発効のいずれかの早い日まで課されないことも合わせて定められた。今回のOECD合意後の各国DST等の動向や取扱いを注視していく必要がある。

②競争・透明性の確保、優越的な地位の濫用防止
競争や透明性の確保、優越的な地位の濫用防止の観点から、各国政府がプラットフォーム企業に対して訴追や制裁その他の措置の発動に動く事例も見られるようになった。

最近の事例としては、米国では反トラスト法違反でFacebook(現Meta Platforms)やGoogleが規制当局から提訴(2020年)されたケース、欧州ではフランス当局によるGoogleとAmazonへの制裁金賦課(事前同意なしのCookie取得、利用者への説明不足についてEUの一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)違反とされた(2020年))等が知られる。中国では政府の新たなスローガンである「共同富裕」の下、プラットフォーム企業の規制が強化されており、Alibabaグループの金融サービス会社Ant Financialの上場が延期されたり(2020年)、Didiがニューヨーク証券取引所に上場後、中国政府から調査を受け、中国国内のアプリストアでの新規ダウンロードが停止されるケース(2021年)が見られている。

また、デジタルプラットフォームに関する包括的なルール形成の動きもある。2020年12月、欧州委員会は巨大プラットフォーム企業がEU市場において守るべき二つの規則案(“DMA:Digital Markets Act”と“DSA:Digital Services Act”)を公表した。DMAは、競争政策の観点から自社独自サービス優先の禁止や他プラットフォームとの間のポータビリティ確保、個人データの取り扱い等、DSAはプラットフォーム上の違法コンテンツへの対応を求めるものである。それぞれ違反した場合の罰則もある。今後の導入に向けた動きに留意する必要がある。なお、DMAについては、2022年3月25日に欧州委員会、欧州理事会、欧州議会の間で政治的合意に至っており、2022年10月中の発効が見込まれる。日本においても政府内でデジタルプラットフォームをめぐる取引環境整備に関する検討や実態調査等が行われ、デジタル市場のルール整備に向けた取組が行われてきた。2020年5月にはデジタルプラットフォームに対して取引条件変更時の利用事業者への事前通知や苦情・紛争処理のための自主的な体制整備、運営状況の報告等を義務づける「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(デジタルプラットフォーム取引透明化法)」が成立し、2021年2月に施行されている。

③リアルデータへの視点
本節で見てきたようにGAFA等のデジタルプラットフォーム企業は、インターネット上の膨大なバーチャルデータの収集を強みとして市場への影響力を拡大してきたが、近年、実生活環境から生成されるリアータの収集のため、製造業等の異業種への進出を急速に進めてきている。

例えばIoT機器をB to Cサービスに投入してデータを直接収集したり、B to B 向けのプラットフォームサービスを通じて間接的にデータを収集したりとアプローチの仕方は様々であるが、医療や介護、自動運転、AI次世代家電、デジタル・ガバメント、中小企業の生産性革命等の分野においてGAFA進出済みであると指摘されている。リアルデータの領域においてもGAFAが影響力を拡大しつつある中、欧州では域内一体の次世代クラウド/データインフラ構想(GAIA-Xプロジェクト)が進められている(2019年10月、ドイツとフランス両政府が表明。2020年以降、構想実現に向けた取組が本格化)。構想の概要や仕組みについて、GAIA-Xを通じて安全なデータ管理・流通インフラを構築して欧州のデータ主権を保護し、社会・産業インフラ分野の競争力強化を目指す取組といえる。なお、GAIA-Xのアプローチは、GAFA等に競合するプロバイダーを育成するのではなく、域内の既存のクラウドサービスを相互に接続・運用する分散型のデータインフラの構築を目指すものである。

リアルデータを価値の源泉として重視するアプローチは、IoTを通じて収集されるデータの活用によってマスカスタマイゼーションを実現し産業競争力の強化を図る取組であったドイツの”Industry4.0(2011年提唱)”に遡ることができる。さらに「サステナビリティ」や「相互運用性」、「自律性」、「人間中心」、「回復力」といった価値機軸を加えた欧州の新たな戦略であるドイツの“Vision2030”やEUの“Industry5.0”等にも通底しているといえる。

日本でも、従前より、ハード面の優位性(ロボット、センサー、自動車等の世界シェア、高速データ通信網、スーパーコンピュータ技術)や現場に蓄積されているビッグデータの存在といった強みを活かした新たなビジネス機会を創出するものとしてリアルデータの利活用の重要性が指摘されてきた。日本企業の中にも、事業活動の中で蓄積されたリアルデータを分析し社会課題の解決につなげるビジネスモデル構築に動き出している例が見られる。一方で、日本企業におけるデジタル投資の低迷やデジタルによるバリューチェーン可視化の取組の遅れ等も指摘されている。日本としても、リアルデータに関する各国・地域の動きを注視しながら、データ連携の取組等を加速させていく必要がある。経済産業省では、日本企業の競争力強化やサプライチェーン、バリューチェーンのアップグレード(環境や人権等の諸課題への対応等)等の観点から、GAIA-X等を参考にアジア有志国とのデータ連携の取組を進めるべく検討を行っている。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html