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オープン・イノベーション | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■オープン・イノベーション

いわゆるプラットフォーム企業が、なぜ市場で有力な立場を確立できたのかという根本的な要因を考えると、革新的なビジネスモデルなどのアイデアを生み出すことができたということが主な理由の一つとして考えられる。具体的には、現代のプラットフォーム企業に主に見られるように、AI等を用いた詳細な顧客行動などのデータ分析が企業の収益源として重要であるといった考え方は、技術発展によって生み出された革新的な考え方の一つである。このように、革新的なアイデアや技術発展などを生み出していく上で注目されるのが、オープン・イノベーションという概念である。

チェスブロウ(2004)によると、「オープン・イノベーションは、企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造することをいう」とある。すなわち、アイデアや技術を生み出していく上で、組織内部だけではなく、広く外部との協力体制を築くことが重要であることを意味している。一方で、組織内で全てを行うべきであるとの従来的な概念はクローズド・イノベーションと呼ばれる。前回述べた無形資産投資の内訳において、オープン・イノベーションに関連すると考えられるのは、「組織改革」の項目であると考えられる。

オープン・イノベーションは、その定義として人材やアイデアを組織外へも広く求めることとしており、実際に企業などの組織がそうした行動をとるためには、組織文化としての柔軟性が必要である。それを踏まえると、組織改革の項目の推計には、企業によるコンサルティングへの支出が含まれており、組織の柔軟性の向上を含めた改革に積極的であるほどそうした支出が多くなり、組織内だけではなく組織外との交流が活性化されていることが考えられる。また、オープン・イノベーションは労働生産性にも好影響を与えることを示唆する実証分析もある。研究による知見の積み上げ(研究ストック)の増加が、労働生産性にどれだけの影響を与えるのかをみると、研究ストックの労働生産性への影響は、自国の研究ストックが増えることよりも、外国の研究ストックが増えた方が労働生産性を改善させる効果が高いことが示されている。こうした結果は、労働生産性を向上させるためには、外国での知見の積み上げを活用すべきであることを示唆しており、また組織というミクロ的な視点だけではなく、国外で生み出されたアイデアを取り入れるといったマクロ的な視点でオープン・イノベーションが重要であることが示唆されているといえる。

上述のチェスブロウ(2004)によるオープン・イノベーションの定義によると、知的財産については、自組織が保有する知的財産を他組織に使用させることで収益を上げるだけではなく、他組織の知的財産について購入等を通して活用することも重要であることが述べられている。それを踏まえると、各国がいかにオープン・イノベーションについて積極的であるのかを計測する指標として、知的財産権使用料の受取と支払を合計した金額の経済規模に対する推移を見ることが有用であると考えられる。この点について主要国についてみてみると、米国以外の先進諸国では知的財産権使用料の資金フローの名目GDPはすう勢的に上昇しており、国家間というマクロ的な視点でオープン・イノベーションが浸透していると見ることもできる。

前述のとおり、オープン・イノベーションにおいては、自組織が保有する知的財産を他組織に使用させたり、他組織の知的財産を自組織において活用したりすることが重要であるところ、知的財産の権利帰属の不安定性の問題が生じると、オープン・イノベーションの障害になり得る。また、発明者に対する報奨も重要である。それを踏まえると、我が国でも2015年に法改正がなされたように、職務発明制度の整備が重要である。我が国の特許法の定義によると、「職務発明とは、従業者等がした発明であって、その性質上使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明」であり、同制度は職務発明についての権利や報酬の取扱い等を定める制度である。我が国を含めた諸外国の職務発明制)、職務発明よって生み出された特許を受ける権利の所有者(原始的帰属)は、使用者等(すなわち企業等の雇用者)に属する場合と、発明者(すなわち従業者等の被雇用者)に属する場合とがあり、各国によって異なるものの、関連法の定めるところにより、概して特許を受ける権利が使用者等に譲渡・継承され、発明者に対してはその相当の利益を支払うことが制度化されている。

我が国でも、2015年の特許法の改正により、従来の規定では特許を受ける権利は従業者等にあるとされていたところ、契約や勤務規則であらかじめ定めた場合には、特許を受ける権利が使用者等にあるとすることが可能になった。この改正により、特許を受ける権利が、一旦は従業者等に帰属した後に、従業者等から使用者等に承継されるといった事務的な手続きの負担の軽減や、従業者等が特許を受ける権利を勤務先以外の第三者に譲渡してしまうといった問題も解決されている。また、特許法に基づいて、経済産業大臣が定めて公表した指針(ガイドライン)では、契約等で定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であるか否かの判断に当たっての考慮要素についてより具体的に明示するとともに、「相当の利益」について契約等で定めた場合における不合理性の判断においては、特許法に例示する手続の状況が適正か否かがまず検討され、それらの手続が適正であると認められる限りは、使用者等と従業者等があらかじめ定めた契約等が尊重され、その結果、不合理性が否定されるという原則を明示した。

こうした法改正により、企業にとっては、オープン・イノベーションによって組織内外の知的財産を広く活用することのリスクが低減されている。上述のとおり、我が国では特許法が改正され、職務開発に従事する従業員を雇用することに伴う企業の事務負担等が低減された一方で、オープン・イノベーションを更に推進していくための課題も残っている。具体的には、クロスアポイントメント制度を利用した教職員数の動向をみてみる。クロスアポイントメント制度とは、研究者等が複数の大学・公的機関や民間企業等で、それぞれと雇用契約を結び、業務を行うことを可能とする制度である。同制度を利用した教職員数の動向を見ると、特に企業の受入と出向が、企業以外(大学、研究開発法人、その他機関)の受入と出向よりも大幅に少ないことが示されている。オープンイノベーション白書第二版によれば、10年前よりもオープンイノベーションを活発化させていると調査アンケートの回答した企業について、オープンイノベーションを推進する仕組みの問題点・課題として、51.3%の企業が「外部の連携相手委を探すのは非常に大変である」と回答している。

同アンケートは2015年度に実施されているが、上述の企業によるクロスアポイントメント制度の利用が現状でも低水準に留まっていることを鑑みれば、当時と状況が大きくは変わっていない可能性がある。同制度の積極的な活用を後押ししていくことが重要であることが示唆されている。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html