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アクセラレーターと経済産業省からのコメント | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■アクセラレーター(加速支援者)、経済産業省のコメント

【Plug and Play Japan株式会社】
経営トップと事業部が目線を揃え、スタートアップの成長と自社の伸ばしたいテーマを重ねることが必要
・経営トップのコミットメントだけだと、事業部の出来ない言い訳を許してしまう。イノベーション事業継続の上でのポイントの一つは、経営トップと事業部の両方がコミットしていること。理想は会社の将来の方向性が事業部にまで降りている、または事業部が独自で考えており、会社と事業部の目線が揃っている必要がある。
・組みやすい大企業とは、スタートアップのテーマに寄り添い、スタートアップの成長と自社の伸ばしたいテーマを重ねられているかどうか。スタートアップとの連携で、大企業は成長スピードが上がる。この成長ギャップという時間を目的として捉えた上で、スタートアップの成長カーブに自社のリソースを載せることで両者の成長が加速するという絵を描けている必要がある。

【グローバルコーポレイトアドバイザリー株式会社】
新規事業における成功の“打率”と“打数”の考え方を既存事業と別にする
・日本企業における新規事業は、暗黙的に6割くらいの成功確率を求められている感がある。かなり高い打率だ。これでは新しいものを発想するどころか、今あるものの形を変えたり機能を追加したりするので精一杯だろう。しかし、もし打率1割でいい、いやむしろ「1割程度のものを考えろ」と言われたらどうだろうか。今までになかったものを考えなければ座りが悪い。ただ、確率1割でも、それを10個平行して実行すれば確率10割だ。おまけにそのうち一つでも成功すれば、残り9個のコストなど易々と回収してあまりあるだろう。暗黙の6割ルールが、組織の発想する気持ちを止めているように思う。しかし、このあたりは実はヒントがある。
・3ホライゾンモデルの採用だ。事業を「新規事業開発」「成長事業」「中核事業」の3つのフェーズに分け、それぞれの特性に応じて管理方法を変える。違いは「不確実性」の取扱いだ。事業開始直後は、不確実性を「コントロール」しようとする。この場合の管理方法はシェア管理だ。その後、その事業が中核化してくれば、不確実性は排除したい。管理方法は利益管理となる。新規事業開発はどうだろうか。今まで世の中になかったものを作るわけだから誰もが躊躇する。でももし当たれば大きい。つまりは不確実性を「武器とする」べきだ。この時の管理法はマイルストーン管理。企画側も承認側も、さながら「のど自慢」のように、未知の領域について一つずつ段階を重ねながら相互理解を深めていき、もしある時点で、その事業が望み薄だとわかれば、即座にそれを取りやめ、そのリソースをまた違うプロジェクトに投下する。発想力を求める前にやるべきことは、「組織として発想を促す仕組み」の整備だろう。

【株式会社quantum】
大企業の新規事業開発のための「出島」を提供。大企業との共同創業(ジョイントベンチャー)やスタートアップへの投資や支援を実施
・日本の大手企業や中堅中小企業の新規事業開発には、早期にプロダクトを開発して、潜在マーケットにβ版で上市して、ユーザーフィードバックを獲得しながらアジャイル開発ができる人材やクリエイティブ、デザイン、エンジニアリングのリソースや環境が整備されていない。
・quantumでは、企画、撮影、キャスティングなど、様々なプロフェッショナルが結集して世界的大作を作り上げるハリウッドの映画スタジオのように、革新的なスタートアップや新規事業を次々に輩出するためのスタジオを運営している。ソフトウェア/ハードウェアエンジニア、プロダクトマネージャー、プロダクトデザイナー、UIUXデザイナー、アートディレクター、インタラクティブデザイナー、戦略系コンサルタント、ビジネス・ディベロップメント、戦略PRチーム、投資家、そして起業家を内製し、大手企業やスタートアップと共同事業開発、新規事業開発を支援している。
・製品の実証段階では、「出島」として、スピン・アウト・インという独自のアジャイル開発の方法論でquantumの名義でローンチする。そのため、仮に事業が失敗しても、大企業は自社ブランドが毀損されるリスクを回避できるメリットだけでなく、社内の稟議・リーガル調整・資金繰りを回避でき、早期に実証実験ができる。

【株式会社アルファドライブ】
M&A、CVC、アクセラレーションプログラム、社内事業開発の権限をCIOに移譲し、価値創造活動をマネージさせる
・新規事業を創出しスケールさせる場合、事業部や扱うアセットなどによって、M&A、CVC、アクセラレーションプログラム、社内事業開発のどの機能を活用できるかは様々であるため全手法を扱えることが重要。しかし、日本企業はそれぞれの機能に担当役員が分散して配置されていることが多く、戦略的に連携出来ていない(日本は昔から職能・スキルで部門を分けてしまう傾向がある)。
・日本企業が新規事業による成長を目指すには、取締役会がCIO(チーフイノベーションオフィサー)を任命し、4機能に係る権限を移譲し、手法を横断して全体をマネージさせることが理想。また、新規事業はひとつひとつの活動をすべて事前に握った計画通りに進めることが難しく、走りながら、常に修正を繰り返して進めることが必要。そのため、CIOにはひとつひとつの事柄に対するアカウンタビリティは持たせず、活動全体、または新規事業群全体のポートフォリオ全体に対するアカウンタビリティのみを要求する経営マネジメントを適用し、自由に色々なことを試すことのできる環境を構築することも大切である。

【三井不動産株式会社(BASE Q)】
事業環境の変化を具体的にイメージするとともに、内向きと外向きのイノベーション人材の配置が必要
・大企業の課題は、「戦略の不在」、「人材の不足」と考えている。一見、イノベーション活動に取り組んでいるように見えるが、流行に乗っかっているだけの活動が多い。どこかで聞いてきたような危機感では曖昧すぎる。また、多くの企業では、サラリーマン人材が多く、イノベーション人材(イントレプレナー(社内起業家))が不足している。
・大企業は、どのような技術の出現によって、どのように世界が変わり、顧客が変化するのか。それが何年後に起こり得るのかを明確にしなくてはならない。また、イントレプレナーには内向きと外向きの人材がおり、外部連携のためには、両者の人材配置が必要。外向き人材はアイデアを外で発散させ、外部と連携するための存在であり、内向き人材は、社内の事業部に新規事業を受け入れてもらうためのインセンティブ設定や、社会で事業を育てていくために必要な関係各所への説明や具体的な業務をこなせる人材。

■経済産業省コメント
(今後に向けて)
第4次産業革命の変化のスピードは早く、かつ、急激であり、世界は大きく変化している。全ての産業に幅広い影響を及ぼす汎用技術としての性格を有するデジタル化やグローバル化の進展にともない、これまで存在しなかった新たな製品・サービスが出現し、更に新しいビジネス・企業・雇用が創出されるサイクルが加速化している。このような第4次産業革命下では、同質的なコスト競争から付加価値の獲得競争への構造変化が起こるため、デジタリゼーションを企業経営者が本格活用し、差別化をはかり、付加価値の高い製品・サービスをスピーディに創出・獲得することが重要。我が国が第4次産業革命の新たな汎用技術を最大限にいかし、生産性向上や経済成長につなげるためには、企業によるイノベーションの実行が重要。イノベーションの担い手としては、大学やスタートアップ同様、資金面・人材面で豊富なリソースを有する既存企業・大企業にも大きな役割が期待される。

経済産業省は、これまでにも、研究開発や設備投資の支援、規制・制度改革等によって、企業のイノベーション活動を後押しするための様々な施策を実施してきた。世界の中で日本が存在感を発揮するための新しいイノベーションエコシステムを構築する方策について、2018年12月から、産業構造審議会、研究開発・イノベーション小委員会にて議論を重ね、2019年6月に中間とりまとめを行った。今後は、以下のような、取組み等を強化していくとともに、どういった施策を講じることが効果的か、不断に検討を重ね、見直しながら、企業の皆様がイノベーションを生み出し価値創造へつなげられるようあらゆる政策を通じて応援していきたい。

①新たなイノベーションエコシステム構築
イノベーションのプレイヤーは急激に変化。大企業からのカーブアウトによるスタートアップも増える中、次の産業の担い手として期待されるスタートアップが自律的・連続的に大規模に創出・成長するための支援や環境の整備が重要。

・大企業がノンコア事業をカーブアウトする場合に経営面での支援を行う起業家候補人材支援事業(NEP)を含めたNEDOのスタートアップ支援事業の抜本的強化。
・大企業の人材が、大企業で蓄積した知見や社会課題解決に係る内発的動機等に基づき、自らが外部資金を調達して創設するスタートアップへの出向や、既存スタートアップへの出向により、大企業の意思決定が及ばない場で、新規事業を創出できる環境を整備する施策の検討を行う。

②オープンイノベーションの深化に向けた経営者の意識改革
ネットワーク構築の強化多様性やスピードに対応するためには、自前だけでなく他者の人材・技術・資本といった経営資源の活用(オープンイノベーション)が重要。この動きは日本においてもみられるが量もスピードも圧倒的に不足。また、企業の意識改革・行動変容も道半ば。急激に変化する状況に対応するためにも、あらゆる手段を活用し、一層の企業の行動変容を促すことが重要。
・経営者の意識・行動を一層迅速に、イノベーションを創出する方向に促すため策定した本指針を企業に周知・徹底するとともに、イノベーション経営に挑戦する大企業が資本市場等から評価されるため、銘柄化等の実施の検討を行う。
・企業のオープンイノベーションの取組(行動指針7)を推進するため、国内最大のオープンイノベーションプラットフォームであるJOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)を拡大するとともに、マッチング、課題検討、周知活動等の事業拡大を行う。
・大企業とスタートアップが対等な関係を築き、連携の取組(行動指針7・行動指針10)を加速させるため、大企業などの事業会社と研究開発型スタートアップの連携における課題・対応策をまとめた「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(初版)(第二版)(第三版)」を周知する。並行して、今後は、第三版までの調査の結果、連携の妨げになっている要因の一つとして契約のノウハウ不足が浮き彫りになったことから、契約面での課題の検討を行い、事業会社と研究開発型ベンチャー企業の契約に関するガイドライン(仮称)を策定する。
・2019年度税制改正において、研究開発投資の「質」の向上に向け、オープンイノベーションや研究開発型ベンチャーの成長を促す措置が講じられた研究開発税制の制度の周知・徹底を行う。

③産学連携・産学融合の推進
大学と産業界が、役割分担論を超えて、一体的・融合的に研究開発・人材育成を行う産学連携の新たなステージ(産学連携3.0「産学融合」)の取組みが生まれつつある。大学・企業の双方が自らを改革し、相手方の状況を十分理解し、スピード感をもって連携・融合に向けた取組みを進められるよう、環境整備等を行う必要がある。

・産学連携を行うためのテキストとして整理された『産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン』に基づき、先進的な大学では「組織」対「組織」の連携を行うための素地が相当程度形成されつつある。大学・企業の双方が歩み寄る好循環形成のため、ガイドラインの産業界向けの記載の充実を図る。
・これに加え、産業界、大学等や公的機関等のセクター間の人材流動性を高める方策のひとつとして、クロスアポイントメント制度の活用を促進するため、『クロスアポイントメント制度の基本的枠組と留意点』に最近の事例を加える等の見直しを行う。
・さらに、企業と大学のマッチング機会の充実が期待されるため、官民協調により、民間の事業化・実用化という目的志向型の創造的な研究を行う若手研究者を発掘し、育成する。その際、どのようなシーズがあるかの「見える化」や、どのような分野のどのような研究者を支援するのかを見極める「目利き」(マッチング・サポート)機能の充実に取り組む。

(ISO56000シリーズが世界に与える影響について)
世界各国でスタートアップの勃興とそのエコシステムの拡充が進んでいる。一方、既存組織(大企業・中堅企業)からイノベーションを起こす活動も加速している。これからは、スタートアップの勃興と既存組織からのイノベーションの二軸が各国の経済成長や競争力強化に直結していくだろう。その大きな流れの中で、世界各国で「既存組織によるイノベーション創出」を競う時代が始まっている。そして、共創により競争力を高めていくオープンイノベーションが主流活動になってきた。自前主義では競争に勝てないという気づきが世界各地で同時に起こったのだ。既存組織からイノベーションを起こすことは、効率性と創造性という一見相反する活動を並存した上で、さらにそれらを連動させなければならない高度な経営活動である。決して、組織内の変わり者や意欲ある個人だけに任せるものではなく、企業の中長期の成長のための本来は主流の経営活動であるのだ。しかし、概念としてはそう分かっていたものの、そのやり方については匠の技のように一部の人にしかそのやり方は理解されていなかった。

振り返ってみると、この10年でかつては暗黙知であった様々なイノベーション活動の知恵が方法論化されてきた。デザイン思考やリーンスタートアップのようなイノベーション活動は、10年前は一部の人しか知らない匠の技だったが、今や再現性のあるノウハウにまで昇華されている。ただし、これらの活動を既存組織の中で効果的に行うのは引き続き難しいのが現実だ。既存組織の中からイノベーション活動を行うための経営システムの方法論の国際規格の議論が始まったのが2013年だ。これは、スマートフォンのアプリを使いこなすためのOSの開発に例えることができる。今までは、新しいアプリ(産学連携、スタートアップとの連携等のオープンイノベーションやデザイン思考、リーンスタートアップなどのイノベーション活動のノウハウ)を使いこなすためのOS(経営システム)が時代遅れであったためアプリが機能しない企業が多かった。その中で、どの国もイノベーション活動のための新しいOS(具体的に経営マネジメントやアクションを継続的に動かすためのシステム)や共通言語を求めていたが、2019年から発行が始まったISO56000シリーズはまさに新しいOSの原型と言えるだろう。今回の「行動指針」は、日本企業の典型的な弱みをISO56002に基づいて考えたという意味でOSの強化ポイントともいえ意義深い。この行動指針とISO56000シリーズの両方を活用して、日本のすべての組織がイノベーション競争力を強化することを願っている。

(ヒアリング協力企業等一覧)
AGC株式会社/ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ/Global Mobility Service株式会社/JR 東日本スタートアップ株式会社/KDDI株式会社 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部/Mistletoe 株式会社/Plug and Play Japan 株式会社/SOMPOホールディングス株式会社/デジタル戦略部/Spirete 株式会社/アセットマネジメントOne株式会社/オムロン株式会社/グローバル コーポレイト アドバイザリー株式会社/コニカミノルタ株式会社/ソニー株式会社/ダイキン工業株式会社/トヨタ自動車株式会社/ネスレ日本株式会社/パナソニック株式会社/ブラックロック・ジャパン株式会社/一般社団法人日本経済団体連合会 産業技術本部/一般社団法人 Japan Innovation Network/沖電気工業 株式会社/花王 株式会社/株式会社 quantum/株式会社 アルファドライブ/株式会社 オートバックスセブンICT商品部/株式会社 シグマクシス/株式会社 ユーグレナ/株式会社 日本取引所グループ/株式会社 野村総合研究所/株式会社 日立ハイテクノロジーズ イノベーション推進本部/株式会社 みずほフィナンシャルグループ/株式会社 守屋実事務所/株式会社 りそな銀行/大日本印刷 株式会社 情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部/東京急行電鉄 株式会社/東洋製罐グループホールディングス 株式会社イノベーション推進室/日東電工 株式会社/日本電気 株式会社/日本郵便 株式会社/富士フイルム 株式会社 経営企画本部 ビジネス開発・創出部/富士通 株式会社 FUJITSU ACCELERATOR/三井不動産 株式会社(BASE Q)/三井物産 株式会社(五十音順)

(つづく)Y.H

(出典)
経済産業省 イノベーション100委員会
日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針~イノベーション・マネジメントシステムのガイダンス規格(ISO56002)を踏まえた手引書~
日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針