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人材育成・研究環境整備 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■研究力を支える人材育成・研究環境整備

ここでは、科学技術立国の実現に向けた取組のうち、大学の研究力強化に向けた新たな事業や、若手研究者支援や博士後期課程学生支援のための取組など、研究力を支える人材育成・研究環境整備に係る取組を紹介します。

(大学の研究力強化に向けた新たな事業)
我が国の論文の7割以上は、大学が生産しており研究力強化のためには、大学の機能強化が必要不可欠です。ここでは、世界と伍するレベルの研究開発を行う大学、地域の中核大学や特定分野の強みを持つ大学の機能強化のための新たな事業を紹介します。

(大学ファンドの創設)
2000年代前半からの論文指標の低下などに見られるように、世界における我が国の大学の研究力は、相対的に低下傾向にあります。その背景には、欧米の主要大学が、自ら数兆円規模のファンドを形成し、その運用益を活用して、研究基盤や若手研究者への投資を拡大していることが指摘されています。このような資金力の差を、各大学の力のみで直ちに解消することは困難であることから、今般、国の資金を活用して10兆円規模の大学ファンドを創設し、その運用益により、大学の研究基盤への長期的・安定的な支援を行うこととしました。大学は多様な知の結節点であり、我が国の成長とイノベーションの創出に当たって、大学の研究力を強化することは極めて重要です。大学ファンドの支援対象大学(国際卓越研究大学)が大学を中核としたイノベーション・エコシステムを構築するとともに、優秀な人材が世界中から集まり続ける世界の知の拠点となり、我が国の学術研究ネットワーク向上を牽引することが期待されます。一方、我が国全体の研究力強化には、大学ファンドによるトップレベルの研究大学への支援のみならず、その基盤となる優秀な研究者の育成も重要な課題です。このため、大学ファンドでは、全国の優秀な若手研究者への支援も実施することとしており、既に、大学ファンドによる支援に先駆ける形で、博士課程学生に対する経済的支援の抜本的な拡充にも取り組んでいるところです。

(地域中核・特色ある研究大学総合興パッケージ)
日本全体の研究力を引き上げるためには、「知と人材の集積拠点」である地域の多様な大学の力を伸ばし、上位大学に続く層の厚みを形成するための施策が必要不可欠です。英国やドイツと比較しても、我が国は、上位大学に続く層の論文数が少ない状況です。このため、①の10兆円規模の大学ファンドの創設に加え、地域の中核大学や特定分野に強みを持つ大学の機能を強化する支援策を「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ(総合振興パッケージ)」として、講じることとしています。「世界トップレベル研究拠点プログラム」(WPI)や「共創の場形成支援プログラム」などの関連施策や制度改革を通じ、意欲のある多様な大学が、それぞれの強みや特色を十分に発揮し、地域の経済社会の発展や国内外における課題の解決、また、特色ある研究の国際展開を図っていくことができるよう、支援を行います。今後、総合振興パッケージの改定を順次図りつつ、我が国全体の研究力向上に向けて、大学の強みや特色を伸ばす戦略的経営を後押しするなど、必要な支援を実施します。人材流動や共同研究の促進等を通じ、地域の中核大学や特定分野に強みを持つ大学が、世界と伍する研究大学とも互いに切磋琢磨できる関係を構築していきます。

(研究力を支える人材育成に関する施策の強化)
近年の論文指標低下の大きな要因は、安定したポストの減少を含め、若手研究者を取り巻く厳しい環境にあります。若手研究者が腰を据えて研究に取り組める環境の確保や、博士後期課程学生の処遇の向上等が喫緊の課題です。また、我が国は、他国に比べ、女性研究者割合が低く、研究力強化のためには、女性研究者の育成と活躍促進が重要です。

(研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ)
我が国の研究力が置かれている現状を打開し、総合的・抜本的に強化するため、「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」を令和2年1月に策定しました。我が国の研究力強化に向けては、若手からトップ研究者に至るまで意欲ある研究者に、魅力ある研究環境を提供し、特に、未来に向けて安定した環境の下、挑戦的な研究に打ち込めるよう若手研究者への支援強化が重要です。そのため、本パッケージにおいては、「①若手の研究環境の抜本的強化、②研究・教育活動時間の十分な確保、③研究人材の多様なキャリアパスを実現し、④学生にとって魅力ある博士課程を作り上げることで、我が国の知識集約型価値創造システムを牽引し、社会全体から求められる研究者等を生み出す好循環を実現」することを目標として掲げています。本パッケージを受け、若手を中心とした独立前後の研究者に対し、野心的な研究構想に思い切って挑戦できる環境を長期的に提供するための「創発的研究支援事業」を令和元年度に創設し、推進しています。既存の枠組みにとらわれない自由で挑戦的・融合的な多様な研究を、研究者が研究に専念できる環境を所属機関と連携して確保しつつ、最長10年間にわたり長期的に支援します。あわせて、同パッケージの下、競争的研究費制度において、研究代表者が担っている業務のうち当該研究者の研究以外の業務の代行に係る経費について、直接経費からの支出を可能とする制度である「バイアウト制度」が令和2年度以降の新規公募から導入されています。学内における講義等の教育活動等やそれに付随する各種事務等業務を代行させることが可能になり、研究力向上のための研究者の研究時間が確保されることが期待されます。本パッケージを踏まえ、第6期基本計画においては、40歳未満の大学本務教員の数を2025年度までに1割増加し、将来的に、大学本務教員に占める40歳未満の教員の割合が3割以上となることを目指すといった数値目標が示されています。

(博士後期課程学生の処遇向上とキャリアパスの拡大)
第6期基本計画では、「2025年度までに、生活費相当額を受給する博士後期課程学生を従来の3倍に増加(修士課程からの進学者数の約7割に相当)」などの目標が定められました。これに基づき、令和3年度から新たに「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」及び「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」により、優秀で志のある博士後期課程学生が研究に専念するための経済的支援(生活費相当額及び研究費)及び博士人材が産業界等を含め幅広く活躍するためのキャリアパス整備(企業での研究インターンシップ等)を一体として行う大学を支援する取組を開始しました。これにより、「特別研究員(DC)事業」等の既存の支援施策と合わせて合計約15,000人規模の博士後期課程学生への支援の実現が見込まれており、令和4年度は支援人数を更に約1,000人拡充する予定です。加えて、研究プロジェクト等にリサーチアシスタント(RA)として従事する博士課程学生への適切な処遇の促進や、博士課程学生のキャリアパス拡大と大学院段階における産学共同教育の充実を目的とする企業と連携した長期・有給のジョブ型研究インターンシップの推進等に取り組んでいます。

(Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ)
第6期基本計画において、政策の3本柱の1つとして掲げられた「一人ひとりの多様な幸せと課題への挑戦を実現する教育・人材育成」を推進していくため、総合科学技術・イノベーション会議に中央教育審議会及び産業構造審議会の委員の参画を得て、「教育・人材育成ワーキンググループ」が設置されました。8回にわたり議論を行い、「Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」を策定しました。本パッケージは、社会構造の変化の中で、これからは人と違う特性や興味を持っていることが新しい価値創造・イノベーションの源泉であるという共通認識をベースに、①子供の特性を重視した学びの「時間」と「空間」の多様化、②探究・STEAM教育を社会全体で支えるエコシステムの確立・特異な才能のある子供の「好き」や「夢中」を手放さない学びの実現、③文理分断からの脱却・理数系の学びに関するジェンダーギャップの解消の3本の政策と46の施策で構成されています。多様な主体が、子供たちの学びを支えるエコシステムを形成することで、次代を担う子供たちの学びを支えられるよう、政府全体として取り組んでいきます。

(科学技術・イノベーションを担う女性研究者の育成と活躍促進)
我が国の女性研究者の割合は年々増加してきていますが、他の主要国に比べるとまだまだ低い状況です。我が国の研究力強化にとって、女性研究者の育成は重要な課題ですが、経済協力開発機構(OECD)の調査では、令和元年(2019年)に大学などの高等教育機関に入学した学生のうち、STEM(科学・技術・工学・数学)分野に占める女性割合は、日本は加盟国中で最低となっています。女性研究者育成のためには、多くの女子中高生にSTEM分野に興味を持ってもらうことが重要です。こうした状況を踏まえ内閣総理大臣を議長とする「教育未来創造会議」から、令和4年5月に、理系分野の学部における女子学生枠確保に積極的に取り組む大学等に対して、財政的な支援を強化する等が書かれた提言が出されました。科学技術振興機構では、「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」を実施し、科学技術分野で活躍する女性研究者・技術者、女子学生などによる、女子中高生を対象とした交流会や実験教室、出前授業の実施などを通して、女子中高生の適切な理系進路選択を支援しています。平成21年から全国の大学や高等専門学校をはじめとする延べ100以上の機関で取組が実施されました。本プログラムに参加した女子中高生のアンケート結果より、女子中高生の進路選択には保護者や教員の与える影響が大きいこと、理系分野の知識や技術を活かして働く女性のロールモデルが見えにくいことが理系進路選択の障壁の一つとなっていることが明らかになっています。こうしたアンケート結果も踏まえ、産学官が連携して、理工系分野での女性の活躍に関する社会一般の理解を醸成していくことが大切です。

(URAや技術職員等のマネジメント人材の育成、支援、確保について)
大学及び公的研究機関において、研究活動全体のマネジメントを行うリサーチ・アドミニストレータ―(URA:University Research Administrator)への期待が高まっています。以前は、研究を行う研究者と、それを支える事務職員の連携により研究活動が行われてきましたが、近年では、大学に求められる社会的役割も増大し、様々な分野の関係者が共同して実施するプロジェクトや社会実装に向けた取組が必要とされ、研究の在り方自体も大きく変化しています。新型コロナウイルスの感染拡大や研究DX1の推進の必要性等、大学等を取り巻く環境が大きく変化する中で、研究財源の多様化に伴う外部からの研究費の獲得、研究プロジェクトの企画立案、研究環境の整備、管理運営等のマネジメント業務、研究により生み出された知的財産の活用、契約・広報その他の業務といった多様な研究支援活動を効果的に実施していくことが不可欠になっており、大学及び公的研究機関が自らの強みを発揮するための研究支援を行うプロフェッショナルとしての活躍が進んでいるところです。平成23年度から「リサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備事業」を開始し、大学等におけるURAの配置が進みました。平成25年度からの「研究大学強化促進事業」においては、選定された機関にURAの育成の取組も求められ、さらに制度が定着しました。現在では1,500人以上のURAが各機関になくてはならない存在として日本全国で活動しています。また令和3年度からは、URA等のマネジメント人材の育成と配置の更なる促進を目指し、新たにURAの質保証制度も開始しています。また、世界をリードしていく研究にとって最先端の研究設備・機器の活用や計画的な整備・運用の重要性がますます増加している中で、その持続的な整備と利用環境に関する維持・管理・運用に直接的に携わる人材としての技術職員の重要性が高まっています。技術職員は高度で専門的な知識・技術を有しており、研究者とともに課題解決を担うパートナーとしての能力や専門性を最大限活かすため、研究設備・機器に関する経営戦略の策定への参加を含む幅広い貢献を図るとともに、技術職員の処遇改善・キャリアパスの拡充等、その活躍の場を広げていくことが期待されています。「研究設備・機器の共用推進に向けたガイドライン」(令和4年3月大学等における研究設備・機器の共用化のためのガイドライン等の策定に関する検討会)(第3章第3節参照)では、研究設備・機器を最大限活用するため、研究設備・機器とそれを支える人材を一体と捉えた整備・活用を促進すること等を求めています。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書