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産学官連携の促進 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■産学官連携の促進

科学技術・イノベーション創出によって、複雑化する社会課題を解決し、豊かで持続的な社会を実現していくためには、国、地方公共団体、民間企業、大学、研究開発法人の密接な連携が必要です。「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」は、知と人材の集積拠点である大学等が中心となって、民間企業、地方公共団体など、多様なステークホルダーと共に、未来のありたい社会像(拠点ビジョン)を策定し、その実現に向けた研究開発を推進するとともに、プロジェクト終了後も、持続的に成果を創出する自立した産学官共創拠点の形成を目指すプログラムです。

令和3年度は35拠点において、産学官が連携した取組が行われました。例えば、北海道大学を中心とした「こころとカラダのライフデザイン共創拠点」においては、他者と共に自分らしく生きることで地域の少子化の克服に貢献するため、岩見沢市などの自治体、大学、企業等の30を超える機関が参画し、若者のこころとカラダの変化を“若者コホート”として追跡調査するとともに、若者のためのプレコンセプションケア教材の開発や妊娠しやすさに係る研究等を実施しています。また、民間企業の研究開発費が、新たなイノベーションを起こす起爆剤として、大学等の若手研究者に投資されることを期待して「官民による若手研究者発掘支援事業」が実施され、200人を超える若手研究者を支援しています。

本事業は、企業から大学等への投資増に対する誘導策として、大学等の若手研究者と共同研究等を実施する場合に、企業から大学等へ支払われる共同研究費と同額を政府が補助するものです。これにより、企業と大学等の若手研究者間の大型の共同研究につながる“きっかけ”となることを期待しています。また、産業界へのキャリアパス・流動の拡大に資するよう、研究実施場所を大学に限らず、企業等でも可能とするとともに、研究インターンシップやクロスアポイントメント制度など、人材流動化の観点も強化した内容になっています。産学融合拠点創出事業「産学融合先導モデル拠点創出プログラム(J-NEXUS)」では、複数の大学と公的研究機関・産業支援機関、そして企業、経済団体、金融機関、ベンチャーキャピタルなどの投資機関、さらに地方自治体などを含めたマルチステークホルダーによるネットワーク創設及びそこから生み出される産学融合の研究開発・事業創出の取組を加速化させるために、現在、北海道、関西、北陸の3拠点の支援を行っています。

また、産学融合拠点創出事業「地域オープンイノベーション拠点選抜制度(Jイノベ)」では、国際展開や地域振興の観点から、今後の成長が期待される産学連携・融合の拠点として、全国の大学等から17拠点を選抜しています。産学連携においては、大学等における「知」をより広く、深く活用する必要性が増しています。イノベーション創出による新しい価値の創造に貢献していくためには、研究者同士の個人的な連携のみにとどまるべきではなく、大学等と企業が互いを対等なパートナーとして認識し、「組織」対「組織」の連携を深めていくことが重要です。このため、産学連携における現状と課題を理想の状態に転換するための取組として、「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を平成28年11月に策定しました。さらに「知」への価値づけや産業界向けの処方箋などを明記した【追補版】を令和2年6月30日に取りまとめています。また、令和4年3月には、本ガイドライン及び追補版の記載内容についての一層の活用と理解を促すため、実務を担う大学や企業等の担当者向けに、具体的な取組事例等を補足するとともに、記載内容へのアクセス性を向上させるため、「ガイドライン検索ツール」としてデータベース化しました。同時に、実効性が高い具体的な手法や解釈を「ガイドラインを理解するためのFAQ」として整理しました。全ての大学が自らの産学連携戦略を改革するツールとしてこれらを活用し、本格的な産学官連携が一層加速されることを期待しています。

(具体的取組の紹介)
1.オリンピック・パラリンピックを支えた世界一の人工知能による顔認証技術
2021年(令和3年)7月から9月にかけて開催された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会において、参加した1万5,000名以上の選手と世界各地から集まったメディアやスタッフを驚くべき正確性で識別し、安全な大会運営を支えていたのが日本電気株式会社(NEC)による、最先端の人工知能を用いた顔認証技術です。米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証技術の精度を競い合う権威あるベンチマークテストにおいてNECは5回の世界第1位を獲得しています。この技術はオリンピック・パラリンピック大会史上初めて導入され、会場に約300台のシステムが配備されて実に400万回も利用され、大会のセキュリティ確保に大きく貢献しました。カメラで撮影した画像の中から顔の位置を高速・高精度に探し出す顔検出技術、顔の特徴を解析する顔特徴点検出技術、そして誤照合を無くす高精度顔照合技術を融合させ、深層学習によりその精度を高めたことで、変装をしていたり、双子であっても、瞬時に正確に見分けることが出来ます。指紋認証等と異なって非接触で判別できることから新型コロナウイルス感染症対策の面でも非常に有用です。羽田・成田の両空港でも令和3年7月から導入され、チェックインから搭乗までを効率的に進めるシステムとして欠かせないものになっており、東京2020大会のレガシーとなっています。

2.防災科学技術研究所発ベンチャーへの出資について
研究開発法人の研究開発成果を活用してイノベーションの創出を図っていくことが重要ですが、そのためには、研究開発法人の成果を基にしたベンチャーの創出を促し、当該ベンチャーを通じて、成果の実用化を図っていくことが有効です。このため、法に規定された研究開発法人は、ベンチャーへの出資が認められています。防災科学技術研究所(以下「防災科研」という。)は、地震災害、火山災害、風水害・土砂災害・雪氷災害などの自然災害から国民の生命・財産を守り、安全・安心な社会を実現するための基礎・基盤的な研究開発等を行っています。現実に起こる自然災害から私たちの生命・財産を守るためには、得られた研究開発成果を積極的に社会に実装し、安全・安心な社会の実現を目指していく必要があります。特に、社会全体の防災力を一層向上させるためには、行政が役割を果たすのみならず、民間企業や国民一人ひとりが自ら積極的に防災に取り組む方向へと変えていくことが重要です。このような問題意識の下、防災科研は、新たに認められた出資制度を活用し、東京海上ホールディングス株式会社・株式会社博報堂・ESRIジャパン株式会社・株式会社サイエンスクラフトとの共同出資により、防災科研発ベンチャー「I-レジリエンス株式会社」(以下「I-レジリエンス」という。)を令和3年11月に設立しました。防災科研は、行政、民間企業や国民一人ひとりが自然災害に対してその生命や財産を守るため、避難などの必要な行動、適切な行動をとることを促し、またその行動を支援するように加工・整理された情報(以下「情報プロダクツ」という。)の創出を目指した研究開発を行っています。I-レジリエンスは、この情報プロダクツを始めとする防災科研の研究開発成果等を活用し、社会のニーズに合わせた新たな防災・減災サービスを提供します。具体的には、①防災ビッグデータを活用したDXソリューションの提供、②意識と行動を変える教育ソリューションの提供、③ライフスタイルを改革するイノベーションの提供の3領域で事業が展開されます。防災科研の研究開発とI-レジリエンスの事業展開等を通じて、自然災害に対し、レジリエントで安全・安心な社会の実現が加速されることが期待されています。

(事例紹介)
誰でもチャレンジできる社会へ、科学技術・イノベーションの可能性

〇だれでもピアノ
誰でもやりたいことにチャレンジできる。科学技術・イノベーションはこうした社会を実現する1つのステップになるのかもしれません。文部科学省と科学技術振興機構(JST)による産官学連携プロジェクトである東京藝術大学COI拠点において開発された「だれでもピアノ」はその例です。身体に障害を抱える高校生がグランドピアノを弾く姿を見たところから開発は始まったとのことです。障害の有無にかかわらず、誰もが音楽を表現する喜びを感じられる楽器の開発です。こうして生まれた「だれでもピアノ」は、1本指でメロディーを弾くと、そのタイミングやテンポに合わせて、自動で伴奏とペダルが追従します。演奏者一人ひとりに寄り添う楽曲のアレンジと伴奏データの作成には苦労が伴ったとのことですが、完成した「だれでもピアノ」からは、まるで熟練したピアニストのように華麗な演奏が流れます。障害のある一人の高校生のために開発されたピアノが、今では、初心者や子供から高齢者まで、誰もが楽しめる「だれでもピアノ」となりました。いつでもどこでも誰でもやりたいことにチャレンジできる。これからもあらゆる人の自己実現を支援する楽器として発展していくことでしょう。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書