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労働生産性及び労働市場の動向、脱炭素化社会の実現 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■担い手不足の解消に資する生産性向上・働き方改革の促進
(1)社会経済の課題
①労働生産性及び労働市場の動向と担い手不足(労働生産性の動向)
我が国の労働生産性(全産業平均)は、2002年以降増加傾向にある。建設業及び運輸・郵便業の労働生産性(分野別)を見ると、全産業平均より低い水準で推移しており、労働生産性の向上を図ることが課題である。

(労働市場の動向)
我が国の就業者はここ20年で急速な高齢化が進行している。建設業及び運輸業について見ると、就業者のうち55歳以上の占める割合が全産業平均より高い水準で増加傾向にある一方、就業者のうち29歳以下の占める割合の増加は緩やかであり、今後、高齢就業者の大量退職が見込まれることから、将来の担い手不足が懸念される。

②就業者構成の変化による新たな課題
我が国の生産年齢人口は、少子高齢化に伴い、1995年の8,726万人をピークに減少に転じ、2020年に7,511万人へと減少している一方、全就業者数は1995年の6,457万人から2020年の6,710万人へ増加した。これには女性及び高齢者(65歳以上)の就業者数の伸びが寄与している。また、就業率で見ると、女性、高齢者共に上昇傾向にあり、女性就業率は1995年の48.4%から2020年には51.8%へ、高齢者就業率は1995年の24.2%から2020年には25.1%へと上昇した。年齢別では、30歳から34歳の女性就業率は、同期間で51.1%から75.3%へと大きく上昇し、高齢者就業率は、60歳から64歳は53.4%から71.0%へ、65歳から69歳は38.9%から49.6%へと大きく上昇した。今後、就業者の多様化が進む中、女性及び高齢者も含めた、様々な就業者にとって働きやすい職場環境の創出が重要である。

(国土交通分野の業種に対するイメージについて)
国土交通省「国民意識調査」では、国土交通分野の業種に対してどのようなイメージを持っているかたずねたところ、「社会的な責任が重い」、「社会への貢献度が高い」にそう思う(とてもそう思う、ややそう思う)と答えた人は8割を超えており、社会にとって欠かせない業種といったイメージと結び付いていることがうかがえる。一方で、「職場に男性が多く高齢化が進んでいる」にそう思うと答えた人は約8割、「効率化や省人化といった変革が遅れており、将来が不安である」、「労働環境が悪い(キツい・汚い・危険など)」にそう思うと答えた人は約7割であった。国土交通分野の業種は、労働環境の悪さや高齢化、将来に対する不安などのイメージとも結び付いていることがうかがえる。

(一人当たり労働時間の減少等に伴う労働投入量の減少)
就業率や就業時間を踏まえた労働投入量は、この20年生産年齢人口や就業時間の減少により、減少傾向にある。これは、65歳以上の人口や女性の就業率の上昇がプラスに寄与してきた一方で、15~64歳の人口や一人当たり就業時間の減少がマイナスに作用しているためである。長期的に労働投入量が総体として減少し、労働市場における担い手不足が課題となっている中、2024年度より建設業や運送業等の時間外労働の上限規制が適用されることにより、労働投入量の更なる下振れが予測されている。今後の担い手不足の緩和に向けては、女性や高齢者の一層の取込みとともに、デジタル化による対応が必須と言える。

(2)デジタル化の役割
デジタル化による生産性向上や働き方改革の促進により、担い手不足の解消を図ることが求められる。

①生産性向上
デジタル化による機械化・自動化等により効率化を図り、生産性を向上させていくことが重要である。特に、担い手不足の進行が懸念される国土交通分野の業種において、デジタル化により単位当たりの生産に必要な労働力を削減し、労働生産性の向上を図ることが必要である。例えば、物流倉庫内の作業のうち、ピッキング(出荷するための商品を倉庫の棚から取り出す作業)やパレタイズ(箱や袋等に梱包された荷物をパレットに積み付ける作業)といった作業も現状多くの人手が必要であり、機械化・自動化等により物流業務の効率化を図ることが効果的である。また、住宅やビル等の建設時に必要な作業のうち、鉄筋の溶接や左官作業、内装施工といった多くの人手がかかる作業について、ロボット等による代替が可能な作業の機械化・自動化等を図ることが考えられる。

②働き方改革の促進
デジタル技術を活用した機械化・自動化等による働き方改革により、新たな労働参加を促進することが期待される。国土交通省「国民意識調査」によれば、デジタル技術を活用した機械化・自動化等による働き方の変化として、「危険な作業の削減」、「長時間労働の削減・自由時間の増加」、「労働環境の改善による担い手不足の解消」への期待が高かった。高架道路やビル等における高所作業、災害時の被災現場での応急工事など、危険を伴う作業の遠隔操作が可能なロボットや重機等を活用することにより、人々が苦渋作業や危険作業から解放されるとともに、事故の削減を図ることが期待される。

また、デジタル化を通じて就業場所や働き方の多様化など就業環境の改善を図り、新たな労働参加を促進することが期待される。例えば、テレワークの導入により、多様で柔軟な働き方を選択することが可能となれば、子育て世代の女性や高齢者等の取込みにつながることが見込まれる。また、デジタル化の進展により、現場作業を遠隔操作へ移行することにより、担い手の多様化や作業の効率化を図ることが考えられる。今後、担い手不足の深刻化が懸念される国土交通分野の業種において、技術の継承を図り、将来を担う若者の入職・定着を促すためにも、働き手にとって魅力ある産業となるよう、就業環境の改善や先進技術の取込みなどにより、働き方改革を促進することが求められる。

■脱炭素社会の実現に向けたエネルギー利用の効率化
社会経済の課題
①脱炭素社会の実現に向けた課題
我が国は、2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)や2050年カーボンニュートラルの実現を目指し取組みを加速化しており、その一つとして消費エネルギーの削減を図ることが課題となっている。国土交通省「国民意識調査」では、国土交通分野のデジタル化による産業競争力や付加価値の向上に対して期待するものについてたずねたところ、「省エネや創エネ等を活用し環境に配慮した建築物(ZEH・ZEB等)や交通機関(EV、FCV等)の整備」については、期待している(とても期待している、やや期待している)と答えた人の割合が7割を超え、環境分野への期待がうかがえる。

また、スマートシティの分野で積極的に取り組むべきものについてたずねたところ、「新技術の応用によるエネルギーの総使用量の削減や、再生可能エネルギーの普及を進めるべき」との項目について、そう思う(とてもそう思う、ややそう思う)と答えた人の割合が約8割であり、エネルギー効率化の取組みへの期待がうかがえる。

(1)デジタル化の役割
デジタル化によるエネルギー利用の効率化により、脱炭素社会の実現を図ることが求められる。
①デジタル化によるエネルギー利用の効率化
デジタル化によって、エネルギー利用の効率化を図ることが必要である。例えば、家庭や企業など社会全体でICTを活用することで業務効率化や人・物の移動の削減などを図り、グリーン社会の実現を促進することも期待される(ICTによるグリーン化)。また、電化による自動制御や、デジタルツイン・プラットフォーム等の活用により、サプライチェーンや流通業における消費電力や二酸化炭素排出量を削減する取組みが必要である。企業のみならず一般家庭も含めた様々な活動の中で、ICTを用いて環境情報の計測及び予測を行いつつ、エネルギー利用効率の改善、人・物の移動の削減を図ることも重要である。さらに、デジタル技術の活用により、太陽光等の発電ポテンシャルの開拓を通じた再生可能エネルギーの普及拡大等により、地域単位で二酸化炭素排出量を削減することも期待される。

事例紹介:3D都市モデルを活用した壁面太陽光発電ポテンシャルの推計
(PLATEAU、国土交通省)
現在、カーボンニュートラルの実現に向けて、太陽光発電パネルの設置が進められている。都市部では、太陽光発電パネルの屋上設置スペースが限定的な建物が多いため、建物の外壁で発電するパネルが有効であると考えられている一方、壁面の日射量や発電量を推計する方法が確立されていないなどの課題があった。これらの課題に対して、国土交通省では横浜市と連携して、オープンデータとして提供している「3D都市モデル」を気象データ等と組み合わせることで、建物の影の影響が大きい都市部の建物壁面などの発電ポテンシャルを推計する実証事業を実施している。

具体的には、参画する民間企業とともに、実際の壁面発電ポテンシャル推計を行うためのアルゴリズムの検討・開発や測定した同推計精度の検証などに取り組んでいる。今後、国土交通省は、この実証事業で得られた発電ポテンシャルの推計結果等を、自治体や再生可能エネルギー事業者、太陽光発電の研究機関などと共有し、脱炭素推進の施策や面的なエネルギー計画の基礎データとして利用することを目指している。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書