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ISO19011に準拠した内部監査に関する質問50選(その24)

内部監査はJIS Q 19011に沿って行うことが推奨されています。「平林良人の部屋」に掲載されている「内部監査とマネジメントレビューに関する質問100選」に加え、内部監査でのポイントをJIS Q 19011:2019に沿って分かりやすく解説します。

C:監査の実施
 ここでは内部監査の実施段階の質問を扱います。

【質問24】
監査員の分野固有の知識、ISO 14001環境マネジメント監査をするときの知識について教えてください。

【回答24】
ISO 14001環境マネジメントシステムを監査するときの分野固有知識には次のものがあります。

1.ISO14001:2015 規格の知識

ISO 14001は1996年に初版が発行されました。1992年にブラジルのリオで環境サミットが開催されたことを契機に組織の環境マネジメントシステムに対する要求事項規格を作ろうということになり、ISOの中に環境マネジメントシステム(Environment Management System:EMS)規格を審議する専門委員会TC207が新設され、4年余りかけて検討がされました。

組織が構築すべきEMS の範囲は、組織が環境に関して「影響を及ぼすことができる範囲」ということになっています。例えば、建設工事現場から騒音を出す、工場から汚水を流す、産業廃棄物を搬出するなどは、いずれも多くの影響を外界に与えています。

また、ISO 14001には「環境側面」という聞きなれない言葉が出てきますが、これは上述の影響の要因(原因)となるものを指す言葉です。例えば、紙を使用する、ゴミを出す、電気を使うなどはいずれも環境側面となるものです。製造業、建設業などの組織では、組織活動そのもの、或いは製品・サービスそのものが環境側面になりますので、環境側面の項目数は組織によっては100~200或いはそれ以上にもなります。ISO14001では、その中でも特に影響を多く与えるものを「著しい環境側面」と呼び、それを管理しなければならないとしています。この著しい環境側面を決定するまでのプロセスを明確にすることが、ISO14001の特徴となっています。

また、ISO 9001(品質マネジメントシステム規格)と同じような要求事項も多くあります。
例えば、「トップマネジメントは環境方針を定め、EMS の範囲内で次のことを確実にしなければならない」という要求があり、確実にしなければならないことは以下を含む10点くらいが要求事項として書かれています。

・組織の活動、製品及びサービスの性質、規模及び環境影響に対して適切である。
・環境側面に関連して適用可能な法的要求事項、及び組織が同意するその他の要求事項を順守するコミットメントを含  む。
・組織で働く、又は組織のために働く全ての人に環境方針を周知する。

この方針管理の他に、組織の状況の理解、リスクと機会、文書管理、内部監査、マネジメントレビュー、継続的改善など多くの共通要素がISO 9001と同じであるということで、2012年には総てのマネジメントシステム規格に共通要素を持つ附属書L(発行当時は附属書SL)として規格制定が行われました。このように分野固有ごとマネジメントシステム規格を作ってきたISOですが、2012年には共通テキストを発行しました。

2.環境法規の知識

ISO 14001には法律の要求事項を遵守しなければならないという要求があります。組織ごと供給する製品及びサービスが異なりますので、当然適用される法律も異なります。環境関係の法律は都道府県の条例も入れますと1,000を超える数になりますので、すべてを知るということは法律の専門家でない限り現実的ではありません。

以下のようなことに関係する知識を持つことをお勧めします。

●ISO 14001規格と法的要求事項 
●環境関連法規制の体系 
●主な法規制の概要、最近の改正・制定状況
-地球温暖化関係
-公害防止法関係
-廃棄物・リサイクル
-化学物質関連
-生物多様性 
●環境側面と法的要求事項の特定及び参照方法 
●法規制及び要求事項の特定
●要求事項の最新化の方法
●法的要求事項と環境影響評価及び目的・目標との関連
●定期的順守評価の方法

3.国連SDG’sの知識

SDG’s(Sustainable Development Goals)とは国連の「持続可能な開発目標」のことです。国連は1992年にブラジルのリオで「環境サミット」を開催し、多くのレポートを出しましたが、その中にアジェンダ21という文書がありました。アジェンダ21は、21世紀に向けての課題を500ページにわたって書き表した文書ですが、アジェンダ21は2001年に各国政府の合意を得たミレニアム開発目標(MDG ’s)に引き継がれました。そのMDG ’s節目の年、2015年に国連は「国連持続可能な開発サミット」を開催し、150を超える加盟国首脳の参加のもとに「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」であるSDG’sを採択しました。

これは、世界が直面している最も切迫した問題のうちのいくつかに取り組むための大掛かりな15年実行計画です。SDG’sには17の目標とそれぞれに平均10個ずつくらいのターゲットが存在し、合計で169のターゲットが書かれています。

1 貧困撲滅:あらゆる場所のすべての形態の貧困を撲滅する。
2 無飢餓:飢餓をなくし、食品安全及び栄養の改善を実現し、持続可能な農業を促進する。
3健康と幸福: 年齢を問わずすべての人々に健康的な生活を保証し、幸福(快適な暮らし)を促進する。
4 質の良い教育:包括的で、公平な質のよい教育を保証し、すべての人々の生涯学習の機会を促進する。
5 男女平等:男女平等を実現し、すべての女性に権限を与える。
6 クリーンウォーターと衛生:万人に水と衛生の安定供給及び持続可能な管理を保証する。
7 手ごろな価格のクリーンなエネルギー:手ごろな価格で、信頼でき、持続可能な、近代的エネルギーをすべての人々が確実に利用できるようにする。
8適正な労働(decent work:ディーセント・ワーク)及び経済成長:維持された、包括的で、持続可能な経済成長、万人に完全かつ生産的雇用及び適正な労働を促進する。
9産業、革新及びインフラ:回復力[機能]のあるインフラを構築し、包括的で持続可能な産業化を促進し、革新(イノベーション)を促進する。
10 不均衡(不平等)を減らす:国内及び国家間の不均衡(不平等)を減らす。
11持続可能な都市及び地域社会:都市及び人間の共同社会(集落)を、さまざまな人を受け入れ、安全で、回復が早く、持続可能にする。
12信頼できる消費及び生産:持続可能な消費・生産パターンを確保する。
13気候変動行動:気候変動及びそれが及ぼす影響に立ち向かうための緊急対策を取る。
14水中生物:持続可能な開発のために海洋資源を保全し、持続的に使用する。
15陸上生物:陸上生態系を保護し、回復させ、その持続可能な使用を促進する、森林を持続的に管理する、砂漠化に立ち向かう、土地の劣化を食い止める、生物多様性(の)損失(喪失)を止める。
16平和、公正、及び強力な機構:持続可能な開発のために平和でさまざまな人々を受け入れる社会を促進し、すべての人々が公正を有することができるようにし、すべての階層で効果的で責任の所在が明らかな、さまざまな考えを受け入れた機構を構築する。
17目標達成のためのパートナーシップ:持続可能な開発のために実行の手段を強化して、グローバルな協力関係(パートナーシップ)を活性化する。

(次号へつづく)

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