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私とマネジメントシステムそしてISO(その32)

第32回

私がSO/TC176の国際エキスパートになって初めての総会は、2002年10月アカプルコで開催された大会でした。ISO9001は2000年版が京都総会で成立し、それから2年経っての総会であったので大きな懸案テーマはありませんでしたが、私には少し荷の重たい役割がありました。それはISO10005 品質計画書のWGリーダーを命じられたことです。
「ISO10005品質計画書」は、ISO9001規格に基づく品質マネジメントシステムを構築しようとする組織に品質計画書とは何か、どんな内容を記述するのがよいのか等をガイドする文書です。この規格の第1版は1995年に制定されたが、今回はISO9001:2000年規格に合わせてその改訂を行おうとするものです。ISOでは、ISO10005:1995規格があまり利用されてきたとはいえないこともあっていったん規格の廃止を検討しましたが、最終判断はPメンバー(TC176正式メンバー、ほかにOメンバー:オブザーバーメンバー、リエゾンメンバーなどがある)の決定によるとして、2000年に規格を継続するか、廃止するかのsystematic reviewを実施しました。 その結果、少差ではあったがISO10005規格は継続するという結果になりました。規格のScopeは1995年版と変わらず「Quality Plans(品質計画書)」ということです。日本はこの時の投票で廃止を主張したが、その理由の中の一つにISO10005規格の内容はQuality Plans(品質計画書)ではなく、Quality Planning(品質計画)にすべきであるという理由でした。

ISO10005規格を見直しすることになったのを受けて、2002年3月にロンドンで最初のWG会議が行われました。そこで私を含めメンバー5人が議論したのは次の内容でした。

  • ① systematic reviewにおいてコメントされた各国の意見をどのように新しい規格に盛り込むのか。
  • ② 新しい規格の構造をどのようなものにするのか。
  • ③ 今後のスケジュール見通し

以上の検討の結果出来上がったのがISO/WD 10005規格案です。この会議において、日本は品質計画と品質計画書の関係を条文の検討の都度その違いを明確にするようにも求めました。

<2002年3月 ロンドン会議 結果>

  1. 2000年のsystematic review の結果を得てWD10005のdraftを作成。例示を示す。
    Example of quality plansの担当
    • ① Hardware (Manufacturing) → Yoshito
    • ② software → Anthony
    • ③ Service → Basil
    • ④ processed material → Oswaldo
  2. メンバーはconvenorを含めて5人
  3. 品質計画書(quality plans)と品質計画 (quality planning)の違いを巡って議論が活発に行われる。
  4. 結果として10005はタイトルがQuality management system guidelines for quality plans となった。
  5. 5月にSC2のPメンバーにWD案を提出する。

ここで、品質計画と品質計画書の定義について触れます。
「品質計画」(ISO9000:2000箇条3.2.9):
“品質目標(3.2.5)を設定すること、並びにその品質目標を達成するために必要な運用プロセス(3.4.1)及び関連する資源を規定することに焦点を合わせた品質マネジメント(3.2.8)の一部。参考 品質計画書(3.7.5)の作成が、品質計画の一部となる場合がある。”
「品質計画書」(ISO9000:2000箇条3.7.5):
 “個別のプロジェクト(3.4.3)、製品(3.4.2)、プロセス(3.4.1)又は契約に対して、どの手順(3.4.5)及びどの関連する資源が、誰によって、いつ適用されるかを規定する文書(3.7.2)。参考1.通常、これらの手順には、品質マネジメントのプロセス及び製品実現のプロセスに関係するものが含まれる。参考2.品質計画書は、品質マニュアル(3.7.4)又は手順書を引用することが多い。参考3.品質計画書は、通常、品質計画の一つである。”

日本は、品質計画書は品質計画の結果であるから、品質計画書を規格の中に盛り込むよりは、そのもとである品質計画をガイドすべきであるという主張を繰り返しました。しかし、ISOのルールでは規格のScope(範囲)は投票で決めることになっており、ISO10005は既に品質計画書を内容として規格を作成することに決まっているので日本の主張は受け入れられませんでした。結果、もし品質計画をガイドしたいならば、新しい規格として提案すべきであるとのアドバイスがなされるに至りました。

ISO/TC176の20回目の総会がメキシコのアカプルコで開かれました。SC2のISO10005WGのチームも2回目の会議をもちました。今回はロンドン会議よりも多い14人のメンバーで5日間の議論が進められました。
総会初日のSC2 plenary meetingで飯塚委員長よりISO10005に関する日本の立場を明確にする提案が次のようになされました。

  • ① ISO10005は品質計画書にのみ限定したガイドとするべきである。即ち、ISO9001:2000規格の7章に限定してガイドをするべきである。
  • ② もし、7章に限定できないならば品質計画に関しても何らかのガイドを考慮すべきである。

この提案に関してSC2のSecretaryからは、では日本がこの会期中にアドホックな小グループを作ってSC2に何らかの提案をするようにとの逆提案がなされ、日本がリーダーとなってこの課題を整理することになりました。

SC2総会で飯塚委員長の上記発言があったため、ISO10005チームの議論は品質計画書に絞ったものとなり、スムーズに次の進展をみました。

  • ① 今回のDraftをCD1と位置付けて投票に回す。
  • ② WG21を新設して、この案件を審議するグループとする。

まとまった原案は飯塚委員長が提案したようにISO9001:2000規格の7章にほぼ限定して品質計画書の内容についてガイドしていたが、Annexとして付ける事例が貧弱であり今後補強することが決まりました。製造、ソフト、サービス、プロセス製品の4つの事例を検討することになり。4人のメンバーが割り付けられました。日本は製造についての品質計画書の事例を作成することになりました。
(つづく)