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私とマネジメントシステムそしてISO(その6)

第6回

「私とマネジメントシステムそしてISO」の第6回目です。引き続き1970~80年代に全盛だったTQCに関しての話です。

私は、1977年には日科技連のBC(ベーシックコースBC51)に参加しますが、そこの班別研究会の担当指導者(副主任)は当時の東京大学助手飯塚悦功さんでした。まさか20年後にISO9001のエキスパートとして国際会議にご一緒させていただくことになろうとは、思いも寄らない縁の始まりでした。
第5回では、TQCの特徴は次の6項目であるとして話をすすめてきました。

①全員参加の品質管理
②品質管理の教育・訓練  ③QCサークル活動
④QC診断  ⑤統計的方法の活用
⑥全国的品質管理推進活動

今回は①について話をさせていただきます。

5.1 全員参加の品質管理

(1) PDCAサークル
第5回ですでに話しました。

(2)  BC班別研究会
BC51 では6か月連続して1週間ずつTQCを勉強しました。全国の企業から136名が集まり、1977年4月から9月まで東京千駄ヶ谷で座学と実践研究を通じてTQCの根幹にある基本的事項の研修を受けました。講師には、石川先生、朝香先生、水野先生、大場先生、草場先生などがおられました。当時のカリキュラムは次のようなものです。

 ・品質、管理、品質管理とは
 ・全社的品質管理の運営
 ・継続的改善
 ・統計的品質管理
 ・検定と推定
 ・抜取検査  ・分散分析
 ・官能評価と感性品質
 ・重回帰分析、多変量解析
 ・実験計画法
 ・信頼性工学など

後半に入ると参加者は研究員と呼ばれるようになり、各企業の課題テーマを持ち込み、今までに習った統計的手法を具体的に活用しました。その際に初心者の研究員を手助けする人が主任、副主任と呼ばれる企業の指導者あるいは大学の若手研究者でした。 私の取り上げたテーマは「真空焼き入れにおける焼き狂い量の減少」というものです。まず、特製要因図で射出成型金型部品の焼き狂いに影響を与えそうな要因を特定します。大きく3つの要因、被加工物に関すること、焼き入れ条件に関すること、そして測定に関することを上げました。これらの3要因それぞれに対してさらに展開された要因には次のようなものがありました。

① 被加工物:材質、形状、径、厚み、焼鈍
② 焼き入れ条件:予備温度、予熱保持時間、焼き入れ温度、焼き入れ保持期間、焼き戻し温度、焼き戻し保持時間
③ 測定:方法、器具、測定者

実験では4種類の試験片を作成し、焼き狂い量の減少の最適条件を見つけ出すために、2因子3水準の要因配置試験を行いました。その実験データを分散分析し、最適条件であると思われる母平均を推定します。そして最後に解析を行い、技術的見解との整合性を分析し日常の技術的活動に生かすというものでした。

(3) 方針管理
 企業は一つの集団であり、進む方向が明確になっていなければなりません。この進む方向は経営者が決めなければなりません。経営者の責任は重大です。社員の運命を背負って集団の進むべき品質管理の方向を、数ある道の中から選んでいかなければならないからです。当然ですが、経営者の示す方針は企業の成長とともに変化します。起業したばかりの企業と、例えば50年の社歴を持つ企業とでは自ずから進むべき道は異なります。起業して間もない企業であれば、進むべき道は新製品開発、市場開発、製品品質改善等に関するものかもしれません。社歴が増加するに比例して、顧客満足、人材開発、教育訓練、IT戦略、取引先等に関するものに進むべき道は幾本にも広がっていくでしょう。このように、進むべき道、すなわち方針には幾つものタイプ、種類があります。  水野滋は、その著書「全社総合品質管理」(1984、日科技連)において、方針管理について次のように述べています。

「方針には、
① 針一活動の方向、姿勢を示すもの、
② 目標達成すべきゴールを示すもの、
③ 方策一目標を達成するための方法を示すもの(具体的な「実施計画」)
がある。

方針管理における経営者の役割は次のごときものである。

・会杜の現状および将来の問題点を明らかにして、これを解決するための長期経営計画、年度方針などを設定し、
 これを明示すること。
・方針の伝達、展開の状況を調査し、必要な指示をすること。
・方針の達成状況、妥当性などにつき、診断を行い、その結果を次期方針の設定にフィードバックすること。
・上述の方針の満たすべき条件が満たされているかどうかを確認し、不備な点について必要な指示をすること。

方針は次の条件を満たしていることが必要である。

①経営の目的と現状との分析から作られたものであること。
②品質優先の姿勢と企業の体質改善の方向を示したものであること。
③明確に簡潔にわかりやすい言葉で述べられていること。
④具体的に目的を示したものであること(目標値が明確であること)。
⑤重要問題を示したものであること。
⑥目的を達成するための方策が明らかにされていること。
⑦強制,妥協でなく職位の上下間の約束事であること。
⑧下の職位にいくにしたがって具体的なプログラムになっていること。
⑨期限,目標,範囲など実行の条件が明らかになっていること。
⑩伝達の方法,チェックの方法が明らかになっていること。

方針達成のためのプログラムは、計画、作業、チェック、改訂など、管理のサークル(PDCA)の形となっていて、いつ、だれが、どのようにして、というように実現可能な形に作らなければならない。」

適切な方針が作られたとして、次に組織が実施しなければならないことは、実施状況のチェックです。4半期ごとに部門毎の達成度を確認し、目標との差異分析と今後の方向付けをしなければなりません。その時に重要なことが、実施状況のチェックにおいて何を対象にするかです。

方針管理では、このチェックポイントのことを管理項目といいますが、これを何にするかは十分に考える必要があります。評価のない管理は薫りのしないコーヒーみたいなものだ、といわれます。方針管理においてまず重要なことは、方針そのものが最適であること、次に重要なことが評価の対象です。評価にどのような「ものさし」を選ぶかが、ここでいう管理項目を何にするのかということです。この管理項目を何を選ぶのかは、実は難しいことです。例えば、製造であると、不良率、クレーム件数、出荷検査合格率、工程不良率、設備故障率、稼働率、製造原価率、生産性向上率、直行率、不良損失額、操業率、収率等になるでしょう。これが、設計になると、設計ミス件数、設計変更率、創意工夫率、特許件数、設計レビュー回数、新製品件数、技術資料登録件数、納期確保率、試作件数等になるでしょう。