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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第22回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第22回

自己評価法

活用方法

要素 コメント
ISO 9001との関連 MR RM PR M&A Imp
活用範囲 あらゆるタイプの組織
製造とサービスの両方
機能、部門又は組織
システムにおける変化の度合い
人々に関する変化の度合い
利益レベル
参加レベル 推進母体として
成熟レベル すべての者、しかし使用されるアプローチは変化する
時間尺度 3ヶ月以内、又は取られるアプローチによって6-12ヶ月
投資レベル 中間~安い
実施方法 プロジェクト

背景

自己評価法の生い立ちは、品質賞の最も初期のものであるデミング賞にまで遡ることができます。デミング賞は、審査に先立って活動を見直すことを推奨しました。

TQMの到達目標は顧客満足、継続的改善、組織優良性等の動的なものです。それらはあらかじめ決められた水準を持っていません。このため組織は、過去の自身のパフォーマンスに対する現在のパフォーマンスを評価できなければなりません。それを行うには厳格な自己評価プロセスと適切な総合品質の枠組みが必要です。現在、世界中の何千という組織が、定期的に自己評価法を使用しています。自己評価法は単に継続的改善を評価する手段ではなく、TQMを通常の事業活動の中に統合させる優れた手法です。

今日の熾烈な経営環境の中で競争するには、組織は今まで以上に大きな価値を顧客に提供しなければなりません。リーダー組織は、到達目標を得るための手段として益々事業改善モデルを活用するようになってきています。これらのモデルの後ろにある原則は単純です-顧客の今後の要求事項を予期すると共に、顧客の既存の要求事項に組織の製品及びサービスを合致させれば、組織は利益を得られるし、成長するでしょう。事業プロセスを通じて提供された製品及びサービスは、よく動機づけされ訓練されたスタッフによって、連続的に見直しされ改善されていかなければなりません。これは事業の「健康診断」とみることができます。

原則

組織の有効性、効率及び反応性を改善するために、組織の要員はプロセス改善活動に活発に関わる必要があります。自己評価法は、プロセス及びその結果の規則的、系統的な見直しに人々を巻き込みます。

自己評価法のプロセスは、組織にその強さと改善機会を明白に決めさせる機会を提供します。それはまた、組織がTQMプログラムの進捗を監視することを可能にすると同様に、最も影響を及ぼす価値のある改善すべき資源に焦点を当てることを可能にします。

アプローチ

自己評価法の実施方法には多くのものがありますが、実際には目的しだいで選択される実施方法が変わります。本質的に6つの基本的なアプローチがあり、それは下表に要約されています。幾つかのアプローチの組み合わせである「ハイブリッド」的アプローチの選択もありえます。

アプローチ 記述 活用するとき
グループ討議 推進役が、品質モデルに対する組織のパフォーマンスについて議論をすすめていく、グループ会議。 上級管理者がこのアプローチについて十分にメリットを感じていない初期の段階。原則を伝え参画を得るのには非常に役立つ。
ソフトウェア活用の質問票 ソフトウェアを活用して、チームが組織の強さと改善領域について一致するような質問票。 優良モデルに関しての事前知識が少ない上級管理者チームには、「BQFスナップショット」のようなソフトウェアプログラムを使用するとよい。ソフトウェアプログラムは、他の組織におけるアプローチについても情報を提供してくれる。これは上級管理者チームを関与させ、初期の改善処置に参画させる良い方法である。
調査と質問票 調査又は質問票の実施により人々の受けとめ方を集める。質問票には普通100位の質問事項がある。 組織のあらゆる階層において、自己評価のプロセスに広く参画してもらうため。迅速かつ簡単に使用する。
面談 推進役が個人(例えば、管理者)及びグループ(例えば、作業者グループ)と面談して自己評価情報を集める。 上級管理者が時間を割くのが困難な時、又は情報収集に管理者のところに行くことで自己評価を推進できる時。通常対象グループは、管理者と他のスタッフとの現状認識の比較に用いられる。
マトリックス 組織の現在位置は、点数がきまっている幾つかの記述のどれに組織の現状(及び/又は認識)が該当するかによって決められる。これらの記述は評価基準を説明している。基準1つに対して5-10の記述が存在する。 このアプローチは、実行することが非常に簡単で容易である。この利点の主なものは品質モデルを点数に置き換えていることであり、基準への適合性をみるのと反対に、事業の優良性を理念で表現している。
制定様式 制定様式に実施状況(証拠)をまとめて自己評価を行う。各基準は、それぞれ通常1ページにまとまっている。基準には「強さ」、「改善領域」、評価点のためのスペースがあり、これらに対して評価を実施する。 組織が自己評価の利点を認識し始めた時に、単純なテクニックから自然に発展する。このアプローチは時間はかかるが、より高品質のフィードバックと正確な点数が得られる。
賞スタイル この自己評価法は、75ページの文書提出を求める品質賞と同じものである。訓練され経験豊富な外部の審査員をアプローチの一部として活用できる。さらに、「申請内容」を明確にし検証するために、現地訪問を含めてもよい。 自己評価法を少なくとも3年実施している組織に最適である。この方法は資源集約的で、完成に6ヶ月位かかるが、そこからのフィードバックは戦略計画、事業計画の双方に適切である。また、他組織との比較に正確な情報を与えてくれる。

これらのアプローチは、次のような幾つかの要素によって変わります。

  • 管理者とスタッフの参画レベル
  • データ収集方法(例、知覚データと事実データのバランス)
  • 所用時間と必要資源のレベル
  • 「点数」の正確さ
  • フィードバックの豊富さ

このような変動はありますが、自己評価法プロセスには、次のような基本的な8つのステップがあります。

  1. 枠組みの選択
    自己評価法のベースとなる枠組みモデル及び品質モデルは、多くのことに依存しますが、この枠組みはボルドリッジモデル、EFQM優良モデル、又は組織に特有な組み合わせである「ハイブリッド」型となるでしょう。評価もISO 9001に基づくことができますが、その認識は監査というよりも評価の1つであるというものです。
  2. 評価チームの形成
    どんなプロジェクトでも、プロジェクトチームメンバーの選択、動機づけ、及び教育は成功の鍵となるものです。さらに、チームがプロジェクト計画の所有者となることが重要です。
  3. 情報収集
    このステップは、選択されたアプローチに大きく依存し変動します。上記の表は、与えられた状況の元での最良なアプローチについての指針を与えています。
  4. 評価と点数付
    このステップが洗練されたレベルになるかどうかは、やはり選択されたアプローチに依存するでしょう。極端な話として、単純な点数付アプローチを選択すれば、人々は「何点とればいいのですか?」と尋ねます。それとは反対のアプローチを選択すれば、賞スタイルの独立した評価チームが2日間、厳しく証拠を調べるかもしれません。同じことは、「強さ」の特定及び「改善領域」の特定にも当てはまります。
  5. 意見一致
    意見一致は、グループが評価フィードバックに同意する会議において行われます。グループ討議及びマトリックスのアプローチを選択した場合は、意見一致はプロセスに不可欠な部分です。他のアプローチにおいては、評価を承認するために別の会議があるとよいでしょう。
  6. サイト訪問
    このステップは、賞スタイルのアプローチを選択した場合に最適なものです。評価者は、申請書類を評価し意見一致した後に、申請書類の記述をはっきりさせ確認するために、サイト(申請者の所)を訪問します。通常は修正を要することがフィードバックされ、その結果に基づいて自己評価法の再点数付がされます。
    このステップは、独立しているチームが評価を行う場合に特に適切なものです。さらにフィードバックの正確さを向上させようとすると、価値が高まります-活動中の組織を見ることに勝ることはありません。
  7. フィードバック
    その評価からの最終的なアウトプットは、通常フィードバック報告書の形式の文書になります。これは自己評価法に関する記録でもあり、行動計画の基礎を形成します。典型的なフィードバック報告書は、自己評価法からの主な調査結果、詳細な「強さ」と「改善領域」、及び点数付側面等を纏めたものを含みます。
  8. 行動計画
    自己評価法のアウトプットは、通常次の2つの主な用途に使用されます。

    • 「改善領域」に基づいて、改善計画を作成するために使われます。この改善計画は事業計画プロセスに統合される場合もありますし、されない場合もあります。
    • 戦略計画目的のために使われます。自己評価法は、上級管理者が取るべき戦略的決定をサポートするための情報を提供します。

    一般的に言えることは、組織が自己評価法に経験を積めば積むほど、戦略目的へのフィードバックに使用されるということです。限られた情報に基づいて戦略的意思決定をすることには高いリスクが伴いますが、経験を積んだ組織は、高品質の情報が得られる自己評価法アプローチに、資源集約的に時間と努力を投資する傾向があります。