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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第30回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第30回

1.3 日本式TQCとの関係

本書の著者である、Steve Tanner博士は本書の中で次のように述べている。“この両方に含まれない、世界的なもう一つの事業改善モデルがあります。よく知られた日本のデミング賞です。デミング賞は、世界で最初に開発された事業改善モデルで、他のものはすべてこのモデルにそれらのルーツを持っています。”(第1部:ISO 9001と事業改善モデル、よく知られている事業モデル)
ここでいわれている、“この両方・・・”とは、ボルドリッジモデルとEFQM優良モデルの2つのことである。教授からみて、今日の事業モデルとして推奨できるものは、まずボルドリッジモデルとEFQM優良モデルの2つなのである。しかし、デミング賞が総てのルーツであるといっている。一世代前の方は、そのデミング賞はアメリカから来たのさ、というかもしれないが、ちょっと待ってほしい。この世のことは総てお互いに影響し合って前に進んでいる。確かにデミング賞のきっかけはアメリカから来たデミング博士であり、ジュラン博士だったかもしれない。しかし、モデルの中を一歩踏み込んで覗いてみれば、そこには日本式品質管理の独創性がいくつにも襞をなしているのである。

博士は次のようにもいっている。
“改善(Kaizen)は日本の継続的改善の考え方で、単純にする、小さくする、安価で真のコスト削減をする逐次的な改善であり、より高品質で効率のよい生産性をもたらします。”(第2部:ISO 9001と事業改善アプローチ、改善/継続的改善)
ここでいう“・・・継続的改善の考え方で、単純にする、小さくする、・・・”はそのまま、TPMにつながるコンセプトである。
また、次のような記述もある。
“日本人はマネジメントには2つの主要な機能があると信じています。維持管理と改善です。”
マネジメントを2つの機能、すなわち維持管理と改善の2つに区分して考えるというコンセプトは、日本人が考え出したものであるというのである。

以下に博士が日本式品質管理について述べていることを列挙してみる。

  1. “改善チームの考えは、ジャスト・イン・タイムやリーン・エンジニアリングのような、他の日本式アプローチに裏付けされて非常に広まりました。” (第2部:ISO 9001と事業改善アプローチ、改善チーム)
  2. “リーン・シンキングの原則は、ジャスト・イン・タイム(JiT)生産の上にその考えの基礎を置いています。” (第2部:ISO 9001と事業改善アプローチ、リーン・シンキング)
  3. “自己評価法の生い立ちは、品質賞の最も初期のものであるデミング賞にまで遡ることができます。” (第2部:ISO 9001と事業改善アプローチ、自己評価法)
  4. “制約条件の理論(TOC)は、継続的改善へのシステムアプローチとして記述されています。” (第2部:ISO 9001と事業改善アプローチ、制約条件の理論(TOC))
  5. “統計的工程管理(SPC)は、1950年代の日本の品質革命の中心にあったものです。” (第2部:ISO 9001と事業改善アプローチ、統計的工程管理(SPC))
  6. “日本社会は、チームを作り研修を推進することが得意で、部門横断形チームのようなアプローチは人気があります。” (第2部:ISO 9001と事業改善アプローチ、TPM)
  7. “TQMは改善、すなわち日本の継続的改善の哲学に基づいています。TQMは、単に製品及びサービスの品質を保証するよりも、はるかに広い適用をもつものです。TQMは、人々と事業プロセスを内外部すべての段階で、完全なる顧客満足を保証するために経営管理する方法です。TQMは、有効なリーダーシップがあって初めて、物事を正しく行うという結果を組織にもたらします。”(第2部:ISO 9001と事業改善アプローチ、TQM)

このように、本書にリストアップされている改善アプローチは、幾つかの例外を除いて(それさえも間接的には日本の影響を受けている)多くのものが、1960~1980年代の日本の品質管理にそのルーツを見つけることができる。その事実を、我々日本人が主張しているのではなく、海外の人が主張してくれているのである。

ここで強調したいのは、日本人は1990年代の失われた10年の間にその事実を知りながら(日本の品質管理にそのルーツがある)、国力としての結果が出ないことで次第に自信を喪失していき、今やかつての事実さえも忘れ去られようとしているのではないかということである。最近は、大学でも品質管理を教えないところが多いという。物づくりで国を支えていくというのに、そんなことでは心細い限りであるし、若い世代にかつての日本のTQCを事実として語りつづけていくことはかなり難しくなる。

以上のような背景のもと、解説第2章では日本が国を上げて物づくりに勤しみ、その品質管理に日本人独特の独創性を発揮した1960~1980年代の日本式品質管理(TQC)の主要コンセプトをひもとき、解説第3章では本書にリストアップされた改善アプローチの主要な幾つかと日本式TQCとの関係を解説していきたい。最後の解説第4章では、21世紀の日本の在り方を問う、飯塚悦功教授の「Q-Japan構想」を紹介させていただく。