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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第47回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第47回

3.3 改善チーム

海外で改善チームとして紹介されているものは、日本のQCサークル活動にヒントを得たものが多い。日本のQCサークル活動は、2.3.3項にみるように「・・・同じ職場内で、品質管理活動を自主的に行う、小グループであり、この小グループは、全社的品質管理活動の一環として、自己啓発、相互啓発を行い、・・・」と、あくまでも従業員の自主性を重んじている。

欧米では、企業内活動を自主的に行うとは誰も発想しない。日本人が、自主的に実施し、それによって企業が発展し、最終的には自分達の利益にもなる、というように物事を長期的に考える(最近はそうでもないかもしれないが)のと異なり、彼らは短期的な利益に焦点を当てて考える思考が強い。そこで欧米の改善チームは、会社の正式な組織として構成され、プロジェクトチーム的に専門に問題解決に当たる手法をとる。しかも、目標は改善効果を金額で表すことが要求され、達成への時間的制約も厳しくコントロールされる。しかし、応用される手法は、やはりP、D、C、Aであり、いかに真の原因に近いところで対策を取ることができるか、がポイントとされる。

3.4 リーン・シンキング(Lean thinking)

1990年、アメリカのMITのウォ-マックとジョンズは、「リーン生産が世界の自動車業界をこう変える(原書名:The Machine that Changed the World)」(1991、経済界)を出版し、世界にリーン・シンキングの概念を広めた。リーン・シンキングとは、実はトヨタ生産方式のことである。
MITにいたウォ-マック博士は、開発、製造における生産性、品質、リードタイムのどれをとっても圧倒的な力を持つ日本の自動車業界、特にトヨタの力の源泉は何かを、ベンチマーキング手法を使って調査した。結果、トヨタの力は他の自動車メーカーを抜きん出ていた。ベンチマーキングデータを集積するルールとして、比較データに企業名をつけるわけにはいかず、トヨタ生産方式のことをリーン・シンキングと呼ぶことにしたのである。

この出版の功績の一つは、日本の自動車メーカーの競争力は、アンフェアなダンピング等によるものでないことを明確にした点である。同時に、トヨタを始めとする日本の自動車産業の力の源は、リーン・シンキングにあることを世界の競争相手に知らしめることにもなった。
ウォ-マックは、この本の出版後リーン・シンキングに協賛する仲間を集めて、「リーン・エンタプライズ協会」を設立した。この協会は、どのようにリーン・シンキング、すなわちトヨタ生産方式を実際に企業に導入するのか、を研究し、指導をしていくことを目的としている。

トヨタ生産方式は、なまじな考え方では企業内に導入できない。中途半端な形で導入すれば、利点と目されるものが欠点となって企業の将来を危ういものにする。欧米でリーン・シンキングを導入して成功した会社は、そのほとんどが潰れそうになり、最後の助けにと賭けに出てトヨタ生産方式を導入したところばかりである。このようにトヨタ生産方式は、組織に大変革を求めるが、ウォ-マックらの主張に耳を傾けなければならないことが一つある。それは、これほど明確にその利点が証明されている生産方式なのに、本家本元の日本の企業にそれほど多く導入されていないという主張である。バブル経済崩壊後、トヨタ生産方式に興味をもつ企業は増加しており、自動車業界以外にも徐々に広がりつつあるが、それにしても導入実績が少ない。

リーンとは、より少ない資源で多くのことを達成しようとする、ムダの無い生産のことを意味している。ムダを認識するには、具体的にムダの性格を分類しなければならない。トヨタの大野耐一は、かつて生産現場のムダを次のように分類した。

  • ① つくりすぎのムダ
  • ② 手持ちのムダ
  • ③ 運搬のムダ
  • ④ 加工そのもののムダ
  • ⑤ 在庫のムダ
  • ⑥ 動作のムダ
  • ⑦ 不良品を作るムダ

これらのムダを取り除くのがリーン・シンキングである。日本にはこれと類似の「ムダどり」というコンサルティング手法があるが、リーン・シンキングは正に「ムダどり」のことである。

リーン・シンキングでは、当然のことであるが、トヨタ生産方式の核心であるプル生産を主張している。顧客が欲しがらない製品をプッシュするのではなく、スーパーストアのように顧客の買って空いた場所に製品を補給するように生産方式を変更することを主張している。それには、工場に「目で見る管理」を導入する必要がある。「目で見る管理」の代表にアンドンがある。これは生産現場にかかげられた「ライン・ストップ表示板」である。運転中は緑色、ラインの遅れを取り戻そうとして助けを呼ぶ場合は黄色、異常が出てラインをストップするときは赤色といった具合である。異常を徹底的に排除するためには、ラインがとまることを恐れてはならない。人偏のついた「自働化」には、異常があったら、ラインまたは機械を止める意味がある。この考え方の基本は、何が正常で何が異常かを明確にすることにある。品質でいえば不良を表面化させ、量でいえば計画に対して、進んでいるのが、目で見てすぐわかるようにする。機械やラインだけでなく、ものの置き方、手持ち量、人の作業のやり方、すべての点に当てはまる考え方である。

このように、リーン・シンキングとは、トヨタ生産方式そのものであることが理解できる。日本の課題は、この傑出した革命的な生産方式をもっと広く他の企業、産業に拡大することであろう。これこそが、リーン・シンキングのなかで、ウォ-マック博士が不思議がっていることである。