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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第46回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第46回

3.2 改善/継続的改善

改善という日本語は完全に英語になっている。欧米の本屋の書棚に「KAIZEN」という文字を見つけることも、そう珍しいことではなくなった。日本人は古来より改善ということが好きであった。日本人の勤勉を旨とする気風からして、常に同じ状態にしておくことは罪なこととして考えられてきた。
日本の国会図書館で書籍を検索する時、書籍タイトルを「改善」としてキイを叩くと、なんと5,000冊の書籍が呼び出されてくる。この改善の対象は工業製品にとどまらず、農業、漁業、林業、サービス業の総ての業種に及んでいる。これらの圧倒的なボリュームの改善を眺めると、今更ながら日本人の魂に「改善」というDNAが埋め込まれていると思わざるを得ない。

ライジングサン日本が華々しき頃、海外の研究者が日本企業を訪問して、異口同音に「改善をみせてくれ」と請われて、答えに窮したという話をよく聞いた。多くの企業が、その質問に対して、仕方なく改善前、改善後の写真や現物を見せて何とか答えにしたそうである。確かに改善は、その結果がよくならなければならない。しかし、「改善」という手法は、改善の結果をみても完全に理解できるものではなく、考え方もっといえば生き様、働き様を理解しなければならない。その意味では、本家本元でも改善のDNAを引き継いでいる日本人は年々少なくなっているのではないかと危惧をする。

  • (1) 現状は必ず改善しうる
  • 日本人は批判精神が旺盛である。この批判精神こそが改善のエネルギーの素である。一般に習慣は、人々を無批判の状態におくが、一旦習慣という先入観を取り除くと物事がよく見えてくる。この物事をよく見るということが、改善に不可欠なポイントである。よく「百聞は一見にしかず」と言われ実際にものを見ることが推奨されるが、気をつけないと本当は事実を見ていない、ということがよく起きる。
  • (2) 日々考えていた結果が改善である
  • 改善は、さあ改善しようといって直ぐに出来ることではない。改善への発想は、突発的に、不規則に出て来るものではない。毎日の業務の中で、日々「現状は必ず改善しうる」と考えて、批判精神をもって物事を見ているうちに、ある日、改善のひらめきが頭に浮かんでくる。要は、常に心を改善という気持ちで一杯にしておくことである。改善のために創造する、考える、ということを「習慣」にすることが大切である。
  • (3) 条件は可変である
  • 現在のやり方は、過去に誰かが決めたことである。誰かがその時の諸々の条件を考慮して決めたのであるが、その時と今とでは条件が変わっている。世の中は常に生きて動いているから、取り巻く諸々の環境も変化しているはずである。前はこうだったが、今の条件下ではこのやり方のほうが良い、ということが多くある。欧米では、最近“Change Agent:変革者”という言葉が盛んに使われるようになっているが、発想は全く同じである。
  • (4) 岡目八目
  • そのことに没頭している当事者よりは、回りの人の方が的確に判断しうる、という古来からの言い伝えである。当事者が一番良くその事を知っているのであるが、知っているが故に変更できない、ということがある。改善において、ブレ-ンストーミングが多用されるのは、当事者以外の人の見方が貴重だからである。
  • (5) メモを取る
  • 考えることが習慣になってくると、寝ていても、歩いていても急にアイディアが出てくるようになる。特に、短時間といえども集中して考えた時には、多くの考えが頭脳に浮かぶ。そのような時には必ずメモを取ることが必要である。
    1980年代には、多くの企業が就業中に「改善の時間」を取ってメモを取らせていたものである。
  • (6) 業務改善提案制度
  • 日本では戦後早くから、多くの企業で業務改善提案制度を導入してきた。元はといえば、アメリカの制度だったと聞くが、改善の効果に比例して1級から特級まで賞金(一番多い特級で20~50万円位)を出して、企業内の改善を励行する制度であった。1980年頃には、年間一人で1,000件の改善提案を出した、というような高レベルでの提案件数競争が企業間で行われていた。しかし、業務改善提案制度そのものは、日本の企業の中になかなか根付かなく今日にいたっている。理由は、いろいろあるようだが日本人の改善への遺伝子がなくなった、ということではないと思う。