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新・世界標準ISOマネジメント(第1回)

平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第1回

第1章 国際規格はどのように作られるか

  • 1.1 グローバルスタンダードとISO
    • 1.1.1 基準認証の重鎮、ISO
    • 1.1.2 WTOとISO
    • 1.1.3 数字でみるISOの活動
    • 1.1.4 ISO中央事務局の仕事
  • 1.2 国際規格はどのように作られるか
    • 1.2.1 国際規格制定までの道のり
    • 1.2.2 国際規格と国家規格との関係
    • 1.2.3 日本のISOへの取り組み
    • 1.2.4 ISOの競争力、幸運と不運
    • 1.2.5 JIS制度の国際化
  • 1.3 ISOマネジメントシステム規格
    • 1.3.1 規格の大革命
    • 1.3.2 進行中の5つのISOマネジメント
    • 1.3.3 マネジメントと管理の違い
    • 1.3.4 システムとは仕組み作り
    • 1.3.5 なぜ、文書化は難しいのか

第1章 国際規格はどのように作られるか

  • 1.1 グローバルスタンダードとISO
  • グローバルスタンダード、いわゆる国際標準とは、国際的に受け入れられている基準やルールである。しかしながら、欧州の人が言うグローバル化は、欧州にとってのグローバル化であり、日本人にとってのグローバル化とは限らない。これは、その国や地域の社会や習慣を反映していることが多いからである。このためグローバルの中で決められた標準が、日本にとって不都合の場合もある。例えば、スポーツの世界では公平性を確保するためにルールは絶対であるが、日の丸飛行隊と言われたスキーのジャンプ陣は、日本が金メダルを取得したあと、スキーの長さのルール「身長+80cm」が新しいルール「身長×146%」へ変更になった。変更には色々な理由があったと思われるが、この変更により身長190cmの選手は、スキーの長さが270cmから277cmと長く、身長170cmの選手は、スキーの長さが250cmから248cmと短くなった。この国際ルールの改正で長身の選手と普通の選手とが履くスキーの長さは20cmの差から29cmの差と拡大したのである。通常、スキーの長さが長いほど飛距離には有利に効くはずである。
  • アジアで外交能力に優れた首相の一人であるマレーシアのマハティール首相は、2002年12月に東京で開催された国連大学の講演会で「試合(交渉)の前のルールの段階で勝者が決まっている」と発言したが、グローバルスタンダードという美名の下で色々な駆け引きが行われているのである。このため国際標準は国際議論の結果の公正な成果として受け入れるのでなく、自ら参加して作るものだという意識改革が必要である。
  • 1.1.1 基準認証の重鎮、ISO
  • 1990年代から顕著になってきた経済のグローバル化、ボーダレス化の進展、インターネットの普及、情報通信の高度化などによる時間、空間的制約の崩壊は、今日の社会システムを大きく変えようとしている。特に、グローバル化の波は「待ったなし」という感があり、相互依存が進むなか国の経済活動とともにグローバルスタンダードが国際市場の機能を左右するようになってきている。
  • 最近、マスコミでよく使われるようになったグローバルスタンダードという言葉が、ISOを社会の前面に押し出しているが、まず、最初にISOとは何かについて解説したい。ISOは、International Organization for Standardizationの略称で、日本語では「国際標準化機構」と訳されている。この略称については、IOSでなくどうしてISOかという質問が多い。ISOの起源は、終戦直後の1946年10月14日、ロンドンで開催された連合国18カ国の国家標準化団体によって構成されたUNSCC(国際連合規格調整委員会:United Nations Standards Co-ordinating Committee)の会議にさかのぼる。UNSCCは、ISOの前身であるISA(万国規格統一協会)の業務を継続する臨時の機関であった。第二次世界大戦後のその日、UNSCCにおいてISAを継続する新しい機関の検討が行われ、現在のISOという名称になった。このことについて、古い資料を調べてみると、故ISO中央事務局のスチューレン事務局長は、正確な理由は明らかでないが次のような理由によると述べている。
    • ① ISOとすれば、その英語名(IOS)のみならず他の公用名であるフランス語(OIN)のいずれの頭文字を並べたものではないこと。
    • ② ISOは発音しやすく、また前身の機関(ISA)を知っている人たちは、容易に連想できること。
    • ③ ISOが「等しいこと」、「一様性」を表すギリシャ語(ISOS)の接頭語であり、多くの科学技術用語の中にみられること。
  • 現在、ISOの発足を決議した10月14日は、国際標準化の日(World Standards Day)とされ、世界各国で標準化に関する催しが行われている。日本では、この日に前後して標準化全国大会が開催され、標準化に関する講演や標準化に貢献した人に対する経済産業大臣表彰などが行われている。
  • 少し堅い言い回しになるが、ISOのパンフレットでは設立目的を次のように紹介している。「物資及びサービスの国際的な交流を容易にし、知的、科学的、技術的及び経済的活動分野の協力を発展させるために世界的な標準化及びその関連活動の発展を図ること」。
  • ISOには、2003年4月末現在、148カ国が加盟している。その参加は各国の代表的な標準化機関の一機関に限られ、日本はJIS(日本工業規格:Japanese Industrial Standards)を審議しているJISC(日本工業標準調査会:事務局経済産業省基準認証ユニット)が1952年に加盟し、現在、米国、イギリス、フランス、ロシア、ドイツと並んで常任理事国となっている。ただ、ややもするとISO活動は欧州中心といわれがちであるが、1997年からISO会長にシンガポールのリュー・レオング氏、ISO副会長に(財)日本規格協会顧問の青木朗氏が選出されアジアの色も少しずつ出てきている。また、2003年9月のISO総会では、次期会長として(社)日本化学工業会専務理事の田中正躬氏(元経済産業省標準部長)が選出されることになっており、ISO活動に日本の影響力を増加させたいものである。
  • なお、同様な国際標準化機関としては、1908年に創設された電気分野の国際標準を進める国際電気標準会議(IEC:International Electronic Commission)がある。