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新・世界標準ISOマネジメント(第2回)

平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第2回

1.1.2 WTOとISO

  • ISOは、スイス民法第60条に基づくスイス国の法人で非政府間機関である。過去、日本ではISOは国連機関でないからあまり重要でないという認識があった。しかし、ISOは、数多くの国際連合及び関係の国連専門機関の諮問的地位をもっている。例えば、1995年1月に発効したWTO(世界貿易機関)/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)の第2条(中央政府の技術的規制)は、国際規格を技術的規制の基礎として使用することを義務付けた。また、第5条(中央政府機関による認証手続き)は、加盟国が行う技術的規制または任意規格に対する認証手続について、国際標準化機関(ISOやIECなど)の定める指針や勧告を基礎として使用することを義務付けた。現在、TBT協定の下で、WTOは、次の8つの国際標準化機関を公式オブザーバーとしての地位を与えている。
    • 国際標準化機構(ISO)
    • 国際電気標準会議(IEC)
    • 国際電気通信連合(ITU)
    • FAO/WHO合同食品規準委員会(CODEX)
    • 経済協力開発機構(OECD)
    • 国際獣疫事務局(OIE)
    • 国際法定度量衡機関(OIML)
    • 国連欧州経済委員会(UNECE)
  • WTOは、世界の自由貿易体制を守るために日本にとっては重要な国連専門機関のひとつである。国際標準化機関として、ISO、IEC、ITUの3つの機関がWTOの公式オブザーバーに入っていることは、ここで発行される国際規格に重要な意味を与える。欧州では、この3機関に対応して3つの公的欧州標準化機関(EOS)が存在している。ISOに対する地域標準機関として欧州標準化委員会(CEN)、IECに対しては欧州電気標準化委員会(CENELEC)、ITUに関しては欧州電気通信規格協会(ETSI)である。この3つの公的欧州標準化機関への各国の加盟機関は、ISO、IEC及びITUのものと同じ加盟機関でもあることから、欧州標準化機関と国際標準化機関との間には強い一体感できる。例えば、ISOの専門委員会の前後に、しばしばCEN会議が併せて開催される。この結果、相互の作業の重複や対立を防ぐために、1991年にISOとCENとの間でウィーン協定、1996年にIECとCENELECとの間でドレスデン協定、2000年にITUとETSIの間でMOU(合意文書)が結ばれている。結果として、機関間の連続性は担保される一方で国際規格の作成のおける欧州標準化機関の存在が大きくなる。また、最近ではCEN/CENELEC/TESIの活動に対して欧州以外の多数の会員も抱えるようになってきている。
  • また、ISO加盟国のうち、発展途上国では工業省、商務省という政府の機関がISOに直接参加している。先進国(日本は政府機関)では、政府機関が直接加盟していないが、機関の理事会には政府機関の代表も参加しており政府と密接に結びついている。このことは、海外とのビジネスでは、国際貿易を容易にする見地からもISOのルールは無視してならないということを意味する。特に、経済活動のグローバル化が進むなかで、試験データの受け入れや認証結果の受け入れを行う場合、国際規格のもつ意味は年々重要になってきている。
  • 従来、日本では「任意規格」と訳して軽く考えられてきたISOやJIS規格は、「自主規格」と訳すべきである。例えば、米国への自動車輸出の規制ボランタリーVER(Voluntary Export Registlation)は、輸出自主規制であり任意規制とは言わない。規格の世界では、ボランタリーの意味は「守らなくてもよい」「どちらでもよい」というのではなく、強い意志が裏付けられているのである。社会奉仕活動のボランタリーも社会貢献という意志が働いてこそ出来るものである。今、まさにボランタリー(自主)が売りになったという事実にもっと注目すべきである。逆に言えば、われわれは、長い間、規制のなかに居すぎたことから、本来のボランタリーの意味を認識できなかったのである。
  • 昔、「日本企業は国際規格の意味がわかっているのか」と欧州の仲間から聞かれたことがあるが、国際社会において自主規格がいかに重要であるかを問うのが、昨今言われるグローバルスタンダードである。