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新・世界標準ISOマネジメント(第13回)

平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第13回

2.1.3 ISO 9000シリーズ規格1987年版

  • 1987年に制定されたISO 9000シリーズ規格5種類は、以下のようなものである。
  • ISO 9000シリーズ規格5種類
    • ① ISO 9000:1987:Quality management and quality assurance standards – Guidelines for selection and use
    • 「品質マネジメントと品質保証規格の選択と使用」のガイドラインである。1987年版ですでにQuality managementという用語が使用されていたことに注目したい。
    • ② ISO 9001:1987:Quality system – Model for quality assurance in design/development, production, installation and servicing)
    • 「品質システム-設計、製造、据付け、付帯サービスの品質保証モデル」の規格(要求事項)である。タイトルにモデルとあるように組織に品質システムの雛型を与えている。組織の実態が提案している雛型に合わないときには、ある程度tailoring(仕立て)することを認めている。
    • ③ ISO 9002:1987:Quality system – Model for quality assurance in production, installation)
    • 「品質システム-製造、据付けの品質保証モデル」の規格(要求事項)である。9001よりも規定している業務範囲が狭い、即ち設計を除外した業務範囲を対象としている。
    • ④ ISO 9003:1987:Quality system – Model for quality assurance in final inspection and test)
    • 「品質システム-最終検査と試験の品質保証モデル」の規格(要求事項)である。9002よりも規定している業務範囲が狭い、即ち最終検査と試験のみを対象にしている。その後1994年版にもこの考えは踏襲されるが、この規格は世界であまり使われなかった。
    • ⑤ ISO 9004:1987:Quality management and quality system elements –Guidelines
    • 「品質マネジメントと品質システム要素-ガイドライン」である。品質管理を実施する上での手引きが書かれている。ISO 9001~9003規格は、ミニマムの要求事項で構成された規格であり、故にこれだけでは満足しない組織も多かった。そんな組織向けの更に向上、レベルアップを図りたいとする組織向けの規格である。
  • これら5種類の規格に共通な特徴は次のようなものである。
    • ① 購入者からの立場
    • ISO 9000シリーズに決められた品質保証の定義は次のようなものであった。「製品又はサービスが、所与の品質要求を満たしていることの妥当な信頼感を与えるために必要な計画的で体系的な活動のすべて」。これは、購入者の立場から書かれたものである。
    • それに対して、日本における品質管理は供給者の立場で推進してきた。戦後復興の大きな柱であった工業立国を推進するには、如何に良い製品を作るかが日本中の組織の大きな課題であった。購入者から言われなくても、供給者は必死になって製品品質の向上に取り組んだ。組織にとって製品品質を確保することは組織の死活問題であったからである。
    • 日本的品質管理の立役者である石川馨博士は、その著書(品質保証ハンドブック:日科技連出版社)で「品質保証とは、消費者が安心して満足して買うことができ、それを使用して安心感、満足感を持ち、しかも長く使用することができるという品質を保証することである。」と定義している。博士は供給者が実施すべき方策、手段には焦点を当てず、結果どのようなものになっていなければいけないのかという観点で定義をしている。供給者として実施すべき具体的なことよりも、結果が購入者の満足するものでなければならないという心構え点を示している。方策、手段は自分で考えればよいのであって、それを他人に示すことはない、むしろそれらは組織のノウハウであると考えられたに違いない。
    • ② 供給者への要求
    • ISO 9000シリーズは、購入者からの供給者に対する活動を要求しているが、それは自分が買う物の品質が確かに良い物である、という確信を持つためである。ISO 9001:1987では“計画的で体系的な活動”を要求しているが、その要求の主たる内容は次のようなものである。(2000年改訂でまた幾つかのものが加わったが、基本は変わっていない)
      • (ア) トップポリシー(方針管理)
      • (イ) 文書化(手順化)
      • (ウ) 継続性(改善)
    • ③ 検査重視の考え方
    • 購入者からみて確実に良い物を入手する一つの方法は検査である。当然のことながら、この検査は購入者による受け入れ検査ではなく、供給者による出荷検査を意味する。日本では供給者自ら主導する品質保証が推進されてきたため、検査よりも工程で品質を作り込むことが優先されてきた。供給者からみれば、検査は無駄なことである。可能であれば完成した製品は100%良品であるべきで、その理念に沿った品質保証活動が推進されてきた。しかし、購入者の立場は違う、極端にいえば購入者は供給者の工程内不良には関心はなく、自社が受け入れる製品品質にすべての関心が向く。購入者主導の品質管理は工程での不良防止より、選別、検査に重点を置いたものにならざるを得ないのである。
    • ④ 監査
    • 要求事項が存在すると監査が始まる。これは品質保証に拘わらず、洋の東西を通じて総てのことに共通のことである。ISO 9000シリーズ規格の意図が審査登録(監査)に無かったことは前述した通りである。しかし、ISO 8402:1984には、「監査」について次のような定義がある。
    • “品質活動及びその関連する結果が前もって計画された事項と合致しているかどうか、並びにこれらの計画した事項が効果的に実施され、目的達成のために適切なものであるかどうかを明らかにするための体系的かつ独立的な調査”