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新・世界標準ISOマネジメント(第14回)

平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第14回

2.2 ISO 9000シリーズ規格の変遷

2.2.1 1987年版のJIS化

  • 日本におけるISO 9000シリーズ規格に対する認識は、1990年に入るまでは無いにひとしかった。多くの人がISO 9000シリーズ規格についてほとんど知らなかった。しかし、1990年に入ると輸出企業を中心にISO 9000シリーズ規格に基づく審査登録の問い合わせが輸出相手先から頻繁に入ってくるようになった。
  • 実際には1989年から日本においても審査登録活動が行なわれてはいた。イギリスBSIは、JMI(現在のJQA:一般財団法人日本品質保証機構)と提携して審査登録を開始していたのであるが、まだ一年に数件の実績がある程度の広がりでしかなかった。しかし、海外の輸出相手組織から審査登録証を取るようにとの要求が相次いでくると、日本の中でもISO 9000シリーズ規格への関心が急速に強まってきたのである。
  • 1991年4月に一般財団法人日本規格協会では、「ISO 9000シリーズをJIS化するための検討委員会(委員長:久米均教授)」を発足させ、10月にはJIS Z 9900~9904の5種類の規格をJIS化した。
  • このISO規格のJIS化はGATT(現在WTO:国際貿易機構)の精神にも整合するものであった。GATTの第5条4項には次のような一節があった。“産品が強制規格又は任意規格に適合していることの明確な保証が要求されている場合であって、ISOによって発表されている指針・勧告が存在するとき又はその仕上がりが目前であるときは、締約国は、中央政府機関がそれらの指針・勧告又はその関連部分を適合性評価手続きの基礎に用いるものとする。”
  • このようにISO 9000シリーズ規格がJIS規格に導入されてくると、日本本来の規格との整合性が問題になってきた。前節で述べたようにISO 9000シリーズ規格は購入者の立場で書かれた規格である。JISにはそもそも品質システムの規格そのものが無かったので、混乱はなかったが、一つ問題になったのは用語の定義であった。
  • 品質保証の考え方に本質的な違いが存在するのであるから、用語の定義は当然に異なる。同じ用語に2つの定義があることは本来容認できることではないが、この問題は後日に委ねられることになった。

2.2.2 1994年版への改訂

  • ISOでは原則5年に一回規格を見なおすことになっている。TC176でも1990年に入ると見なおしの議論が始まった。しかし、ISO 9001~9003規格は、当時既にISO創業以来の大製品となっていた。ISO事務局の予想を越える規格の売上になっていたのである。従って、一回目の改訂(当初は1992年を予定)は余り大きな改訂にせず、次回(当初は1996年)に大幅な改訂をすることが無難であると方向付けされた。
  • ISO 9000シリーズ規格は、1980年代に十分検討されずにいろいろなものが規格化され、規格の番号の付け方及び全体の構成にまとまりのないところが随分目立っていた。改訂においては、それらの整合性も見直しすることとなり作業は膨れ上がった。またVision2000という野心的かつ長期的戦略も作成されるに及んで1992年の改訂は1994年にずれ込むこととなった。
  • 1994年の小改訂の基本的方向は次のようなものである。
    • 改訂の基本的方向
    • ① 顧客の満足度を高める。
    • ② 品質改善の活動を重視する。
    • ③ プロセスの考え方を導入する。
  • ISO 9001規格は構成からみるとなんら変化はないが、幾つかの個所に表現の見直しがされた。
  • 見直し内容
    • ① 序文に、第三者審査登録にも使えることを追加した。
    • ② 引用規格に、Normative reference とInformative referenceとに区分された。
    • ③ 定義に、「製品」の定義が追加された。
    • ④ 4.1.2.3 管理責任者は、内部の人間であることが明記された。
    • ⑤ 4.1.3 マネジメントレビューは経営者本人がやること、が明確にされた。
    • ⑥ 4.2.1 品質マニュアルを作成することが明確にされた。
    • ⑦ 4.2.3 (新設)品質計画書の作成が新設された。
    • ⑧ 4.3.3 (新設)契約内容の修正が新設された。
    • ⑨ 4.4.6 (新設)デザインレビュー(設計審査)が新設された。
    • ⑩ 4.4.8 (新設)設計の妥当性確認が新設された。
    • ⑪ 4.13.4 (新設)予防処置が新設された。
    • ⑫ 4.17 監査員の独立性の要求が4.1.2.2から移動された。
  • ISO 9002規格は、付帯サービスの項が追加されたため、ISO 9001規格とは4.6設計を除いてほとんど同じ内容の規格になった。
  • ISO 9003規格は、「契約内容の確認」「顧客支給品の管理」「是正処置」「内部品質監査」の4つが追加され、ISO 9002規格との違いが余りなくなった。
  • 以上の改訂で、相対的にISO 9001~9003の違いが少なくなった為、ISO 9001/9002/9003規格という3モデルもの規格が本当に必要なのか、という議論もされたが、この時点では深く議論されず次回に持ち越しとなった。
  • なお、この改訂による審査登録への影響については小改訂ということもあり、改訂版の審査登録への切り替えについては大きな議論にはならなかった。TC176では審査登録について特に議論は無く(TC176のScopeに入っていない)、各国認定機関の方針のもと各審査登録機関が1987年版から1994年版への切り替えを実施した。