ISO情報

第2回目 QMS講師 緒方 健助氏(2018年5月号アイソス誌掲載)

 「ISOって難しい,分かりにくい」ってしばしば思われがち。「もっと簡単な言葉だったらもう少しわかるのに」という声も挙がる。この前9001も14001も改訂が終わったばかりなのに、「そろそろ次の改訂始まらないかな」と思ってしまう。この機会にその理由をお話ししたい。

まだISOやってるの?

 ISO 9001の改定からもう3年近く経っている!これを読んでいる方の中には、まさに移行審査を受ける直前の方、これから受審する組織の方もいるはず。もうすでに認証移行が終わった方は、お疲れ様でした。
規格が改定されるたびに品質マニュアルを見直して、差分を確認して、理解して、組織の仕組みに合うように修正して、説明して、・・・こんなに苦労して作った品質マニュアル,どれだけの職員が読んでいるのか、どれだけの部門で活用してくれているのか?こんなこと言うと悲しくなるけど、実際に管理責任者の方から聞いた声です。
 「どうやって品質マニュアルを読んで使ってもらうか。」
 「どうやってISO 9001に沿った仕組みを理解してもらえばいいのか」
悩みの深さを感じてしまう。

 研修の講師やコンサルティングを通じて、企業の現場の皆さんのお話しを聞くこんなことを感じます。「品質マニュアルを読んでいなくても、仕事に影響がないんじゃないの?」。特に大手企業で感じることがありました。

 ISO 9001では、2015年版まで、品質マニュアルを必ず作成しなければならないとあった。一方で、品質マニュアルを見たことがないという方も多い。これってどういうこと?
結果として管理責任者とか事務局だけのISO 9001になっているって嘆いてる。
そもそもISO 9001が管理責任者・事務局自身「やらされている」になっていませんか??品質マニュアルも「規格が変わったから直さなければ」になっていませんか?『ISO 9001って追いかけると振り回されてしまうもの』かも。

品質マニュアルをやめてもいい!

 “要求事項”って言葉が曲者。義務だから、やらならくてはいけないことだからと受け止めがち。だからISO 9001が改定されると「新しい追加の要求事項は何か,その要求事項で不適合が出ないようにするには何をやったらいいか」って考えてしまう。ISO 9001を読んでも何をやったらいいかは書いていない。これぞISO 9001の特長。
確認項目が並べられているだけで,どうやったらいいのか,どこまでやったらいいのか、どこにも書いていない。そもそも、どんな企業でもどんなグループでも規模や仕事内容に一切関係なく、誰でも使える魔法のチェックリスト、判定基準のないチェックリスト。それがISO 9001。

例えば,7.4項コミュニケーションでは、新たにa)からe)の5項目が追加された。
7.4 コミュニケーション
組織は,次の事項を含む,品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションを決定しなければならない。

  • a) コミュニケーションの内容
  • b) コミュニケーションの実施時期
  • c) コミュニケーションの対象者
  • d) コミュニケーションの方法
  • e) コミュニケーションを行う人

 これは単にいつ,だれが,誰に,何を,どうやって伝えるかって項目。みなさん当たり前のように報告・連絡・相談する時にやっているはず。その手順を考えだすから大変なのでは?そして,結局,a)からe)の内容をそのまま書き写して,“コミュニケーションする時は以下のa)~e)を明確にすること”って書いて終わってしまう。
一方で、この5項目を報・連・相に問題があった時に,どこに問題があったのかを掘り下げるチェック項目として使ってみると・・・・具体的に確認する項目が明らかになっていて使いやすくなるような気がする。

 4.4.1項ってスルーされてしまうくらい存在感がないけど大事な項目。
2008年版の4.1項と同等の要求事項なのに,これまでに比べると細かい条項が沢山増えた。「要求事項が増えた,やらなければならないことが増えた」って思うとしんどい。けれども,この項目のおかげで仕事の段取りがしっかりしているか、今まで以上に確認しやすくなる。
4.4.1 a)からh)までの項目で全ての仕事をチェックできる。新しい設計を始める時,新しい現場で工事を始める時,どんな仕事であってもこれから段取りを決める時に使える魔法のチェックリスト。更に仕事の進行状況を確認する時にも、トラブルの原因を確認する時にも使うといい。

7.4 コミュニケーション
組織は,次の事項を含む,品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションを決定しなければならない。

  • a) これらのプロセスに必要なインプット,及びこれらのプロセスから期待されるアウトプットを明確にする。
  • b) これらのプロセスの順序及び相互作用を明確にする。
  • c) これらのプロセスの効果的な運用及び管理を確実にするために必要な判断基準及び方法(監視,測定及び関連するパフォーマンス指標を含む。)を決定し,適用する。
  • d) これらのプロセスに必要な資源を明確にし,及びそれが利用できることを確実にする。
  • e) これらのプロセスに関する責任及び権限を割り当てる。
  • f) 6.1 の要求事項に従って決定したとおりにリスク及び機会に取り組む。
  • g) これらのプロセスを評価し,これらのプロセスの意図した結果の達成を確実にするために必要な変更を実施する。
  • h) これらのプロセス及び品質マネジメントシステムを改善する。

 ISO 9001では2015年版から品質マニュアルの作成を求めてない。だから,どうやらせるかなんて管理責任者とか事務局が考えなくてもいい。実際に担当する人が考えている。手順が満たしているかどうかをしっかりと確認するためのチェックリストとしてISO 9001を使えばいい。

 要求事項の意味を審査員のように理解しようとしなくてもいいんです。審査員ではないから、自分たちの仕事の内容の視点で解釈してみる。
品質マニュアルも止めてもいい。品質マニュアルを見ていなくても、仕事ができているし、誰も困っていないのならば、無くていい。
でもマニュアルがないと困る人達がいるかも知れない。だったらその人達のための品質マニュアルにしてあげる。品質マニュアルがないとどう困るのかが分かると,どんなマニュアルだと使いやすいのか,どんなマニュアルが欲しいのか,その組織に合った、ニーズに合った、仕事にあったマニュアルに育っていく。

監査から変えるISO 9001

 第3者審査はISO 9001の規格をよく理解したプロがやるもの。どんな業態のどんな組織であっても、規格の解釈がぶれずに審査してくれないと困る。でも内部監査は自分たちの会社だけを見ればいい。規格の解釈ではない、どう審査に通るかではなく、お客様の満足度をあげるためのツールの一つとして使う。
だから思い切って内部監査のやり方もガラッと変えてみる。ISO 9001にやらされているのではなく、ツールとして使うものとなれば、ISO 9001が言っていることが簡単で身近で親しみやすいものに見えて来る。
例えば、内部監査を審査の予行練習にするのを止めてみる。
審査で不適合が出ると困るから、審査のような内部監査をする。内部監査員も審査員のように質問する。そんな内部監査が改善を生むことができるのか。プロの審査員たるもの、受審組織の皆さんが分かるように,応えやすいように質問しているはず。
審査員の質問が何を言ってるのか分からなければ「質問の意味が分かりません」って言っていい。規格要求事項を分かりやすく質問してくれない審査員なんてお断り。
そもそも不適合って出にくいはず。だって皆さんは、キチンと仕事をしているはずだから。一番よくないのは、審査を受ける時に

  • 聞かれてもいないことはしゃべるな
  • 見せろと言われてないのに資料だすな
  • 文書や記録は出す前に確認しろ

と内部で指示をすること。それでは審査費用を捨てているのと一緒。第一,不適合は改善のチャンスが見つかったということ。受け止め方ひとつで審査も全く変わる。

 ISO 9001の要求事項にあっているかどうかを見ているだけの内部監査では、審査のための内部監査という儀式に終わってしまう。それでは改善が進まない。
ISOの認証をやめて内部監査を残すとどうなるかを想像してみよう。ISO審査を気にしない内部監査であれば手順書との照合で終わらない。手順書と、現実があってるかなんて本当は些細な事。もっと現場を見る、現場の話を聞く。
内部監査だからこそ出来ること,やってほしいことが必ずあるはず。一番大切なのが、現場に行って現場の話を聞いて,現場の仕事振りを見ることだと思います。担当者がどんな仕事をどうやっているのか,よく聞いて,よく見て。特に手順書に書けないようなコツとかノウハウとか。現場の方は説明がうまく出来ないのかもしれない。現場の方は腕で勝負している方々で、口先で仕事してない。だからこそ,仕事振りを見てあげる。顧客に満足してもらえる製品を生み出すために、一生懸命頑張っているのだから。

 そして頑張っている事をほめてあげる。困っていることや不適合の是正処置などには相談に乗ってあげる。アドバイスしてもいい。審査では絶対出来ないけど,内部監査だからこそできる!審査員には分からない,社員だからこそ聞ける,見れることを確認しよう。
今現場で起きていることをしっかり見て聞いて。でも先月や半年前の仕事振りを現場で確認したくても、その場で過去を見ることが出来ないから記録で見る。

監査スケジュール

 監査員は誰かが作ったチェックリストを読み上げ、いつもと同じ質問、同じような資料を見て「いいですね」と言うのを繰り返し、予定時間が来たらそこで終わる。たちまち監査が儀式になる。
時々意味のわからないチェック項目がある。「購買先の管理の方式と程度を明らかにしてるか」と書いてある。監査員は意味が分からないままそのまま読む。聞かれた方は「何のこと?」と答えられない。監査員も「書いてあるから聞いたけど,できてますよね。」と次の質問に移ってしまう。こんな事のために内部監査員研修を受けているのかな?

エンドレス監査

 監査の終了時間を決めないでやっているところもある。確認したいことが終わるまで。1日で終わらなければ2日でも3日でも。監査する方も受ける方も気持ちが入ってじっくりと腰が据わっている。それは監査がとても有意義な大切な時間だと思うから,だからできる。

 年に1回しかやらない企業もある。規格要求では頻度を決めるとあるから、10年に1回でもいいかもしれない。でも審査を受ける時に一度も実績がないと指摘されるから年1回という感じで決めている。
部門によっても業務内容によっても担当者の力量によっても違うし、どれくらい時間かけたらいいか、年間の頻度も違う。そういうことをよく考えた上で、頻度や監査スケジュールを決めて欲しい。
乱暴な言い方だけど、審査を受けないなら監査もやめるのか。監査スケジュールとは、内部監査で何を目指すのかで決めていい。

 例えば、他の業界規格を参考にする。自動車業界の規格だとクレームが増えたら監査頻度を上げるよう、要求されている。一度決めた監査頻度を守り続けなくてもいい。交代制シフトの企業には,全ての時間を対象に監査することが要求される。夜間の現場は昼間と違うことが多い。だから普段(昼間)と何が違うのか,何がリスクになるのかを考える。夜間シフトは,昼間シフトの変更管理の視点を持ってみるのもいい。
警備会社や,24時間営業の店舗,夜間工事がある建設業や施工業では全てのシフト・時間帯の仕事を対象に監査してみるといい。規格要求の視点ではなく、昼間との違いという変更管理の視点が役に立つはず。

不適合というチャンス

 良い会社=不適合がないではない。品質を工程で作りこむってことが良く分かっている会社は大事(おおごと)になる前に手を打っている。だから不適合がすぐに見つかる。
文書の版を版数とか日付ではなく,表紙の紙の色で識別している会社では全員に品質マニュアルを配っていた。表紙の色が違っているから最新版がすぐわかる。「今,オレンジ版だよ。黄色はもう使っちゃダメ」ってね。目で見て分かるQMSを目指している。
内部監査で気になるのが,不適合かどうかを判定できずに観察事項にする事。不適合ほど悪くはないし、観察事項であれば相手も受け入れやすいけど、それだと是正が進まない。
最初から言葉を変えればいい。監査,不適合,是正処置って言葉を使わない。ISO 9001の序文にも規格の用語を使うことは意図してないって書いてある。

 内部監査を『改善ミーティング』と呼んでいる企業がある。不適合は『改善のチャンス』と言うルールにした。その途端,面白いことが起きた。監査員に「不適合を出すぞ」という構える姿勢がない。取調べの空気にならない。一緒に話をしてる。改善したらいいのになって思うひっかかりがあれば、躊躇なく「チャンス!」って言う。だから監査を受ける側もチャンスをどんどん受け入れる。更に,監査を受ける側が内部監査員より先に『改善のチャンス』を見つけようとし始めた。すると,内部監査員は話を聞く人に変わる。監査を受ける側から手順や,やってきたことを説明しながら,「これおかしいなぁ」,とか,「もっと上手く出来るよね」と,「これもチャンスだね」と自らどんどん指摘をする。って。
チャンスって言葉の中には,修正程度もあれば是正が必要なものもある。チャンスごとにひとつ一つを吟味して、『改善ミーティング』の中で原因分析や是正処置まで監査員と監査を受ける側が一緒になって考える。すると改善が進みやすい。

 改善ミーティングで改善のチャンスが沢山見つかれば、会社も見る見る間に良くなる。すると社長が興味を持ち、改善ミーティングに参加したり、改善ミーティンを受けたりする。すると社長とのコミュニケーションが深まる。そして,社長が入った『改善ミーティング』がマネジメントレビューになる。マネジメントレビューという会議をわざわざやる必要がなくなった。

 『チャンス』は原因を掘り下げて、是正だけで終わらないかもしれない。予防にまで広げようとしてくれる。原因を一つにこだわらなければあれも試してみよう、これも試してみようと策がいっぱい出てくる。形だけなぜなぜを5回するよりも現実的になる。

ムード作りのポイントは笑顔とほめること!

 『監査』ではなく『改善ミーティング』という名前に変えたら笑顔が増えた。更に笑顔を増やすためにも、褒めることがすごく大事(だいじ)。。良い取り組みを見つけたら、声に出してほめてあげる。「これはいい取り組みですね」って言うだけで、相手は気持ちがよくなる。
ほめるのが苦手な人はまず,“ありがとう”から始めよう。コミュニケーションの潤滑油として“ありがとう”を使ってみる。
良好なコミュニケーションを築くポイントは、相手に関心を持つということ。そして楽しく話を聞くこと。改善ミーティング中は一生懸命相手の顔を見る。監査員が手元のチェックリストを読んで,手順書を読んで,記録を読んで,メモしてと下ばかり向いているとコミュニケーションは築けない。
口角をあげると、脳からセロトニンっていう幸せホルモンが出てくる。笑顔で監査をすれば、監査を受ける人も笑顔で応えてくれるようになる。そして、相手の顔が笑顔だと自分も笑顔になる。笑顔の連鎖の内部監査を目指してほしい。
内部監査で「どうすればISO 9001をやってくれるかな」なんて心配無用。忘れないでほしい。ISO 9001は、特別なことは言っていない。普通に仕事をしていれば、ISO 9001はついて来るということを。

著者経歴

氏名:緒方 健助



慶応義塾大学法学部政治学科卒業
鐘紡株式会社化粧品事業部営業職を経て,
株式会社現代文化研究所市場調査を担当
1998年よりA-PEX インターナショナルにて
ISO9001,ISO/TS16949,EN46001/2等QMSの指導,研修に携わる
2005年よりEX-NEK代表,株式会社テクノファ講師