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第6回目 EMS・OHSMS研修主任講師 中根 浩次 氏(2018年9月号アイソス誌掲載)

1.2015年版規格の特徴、期待するもの

ISO14001:2015版にある2つの大きな特徴 その1

 ISO 14001:2015年版の大きな特徴の1つとして、「事業活動に対して、環境マネジメントシステム(以下EMSと記述)を適用させること」を明確にしている点があげられます(「5.1 リーダーシップ及びコミットメント」参照)。
 また、「0.3 成功のための要因」においても、環境マネジメントを組織の戦略と整合させ、組織のガバナンスや事業プロセスの中に組み込んで実証することの重要性が述べられています。
 EMSの取り組みを現場レベルから経営戦略レベルに引き上げ、本業(組織本来の活動)の中で展開すること、それが最も、EMSの取り組みとして効果を上げることができると示唆していると考えます。
 これらは、従来から続いている同様な思想ではありますが、2015年版では要求事項として明確にしていることから、マネジメントシステムの実効性をより重視していることがうかがえます。

5.1 リーダーシップ及びコミットメント(抜粋)

 トップマネジメントは,次に示す事項によって,環境マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。

    • a) b) 省略
    • c) 組織の事業プロセスへの環境マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする。
0.3 成功のための要因(抜粋)

 トップマネジメントは,他の事業上の優先事項と整合させながら,環境マネジメントを組織の事業プロセス,戦略的な方向性及び意思決定に統合し,環境上のガバナンスを組織の全体的なマネジメントシステムに組み込むことによって,リスク及び機会に効果的に取り組むことができる。この規格をうまく実施していることを示せば,有効な環境マネジメントシステムをもつことを利害関係者に確信させることができる。

 一方で、2015年版規格を十分に活用しきれず移行している組織が多いのも現実です。しかし「9.3 マネジメントレビュー:マネジメントレビューのアウトプット」では「必要な場合には,他の事業プロセスへの環境マネジメントシステムの統合を改善するための機会」と規定されています。これは、完全な状態で2015年版へ移行することは困難であり、移行後も継続して改善を進めることを示唆していると考えられるのではないでしょうか。
 2015年版の本質として、あるべき論のみで規格を策定したのではなく、より実態を踏まえた改訂であったと考えられます。
よって移行が終わったからと満足するのではなく、「他の事業プロセスへの環境マネジメントシステムの統合を改善する」機会を継続して検討してほしいと考えます。

ISO14001:2015版にある2つの大きな特徴 その2

 2つめの大きな特徴に、「4.1組織及びその状況の理解」「4.2 利害関係者のニーズ及び期待」「4.3 環境マネジメントシステムの適用範囲の決定」が新たに設定され、組織の状況を把握した上でマネジメントシステムを活用して、組織の体質強化を図ることがより鮮明にされたことを挙げたいと思います。
 併せて「6.1.2 環境側面」「8.1 運用管理」において、ライフサイクルの視点からのマネジメントシステムの活用をより明確に訴求し、『変更』(変化含む)に対応する視点を持つことが最初に設定されました。
 これは品質マネジメントシステム(以下QMSと記述)でも同様だと考えます。市場や世の中の変化を受け、組織の活動は刻一刻と変化しているはずです。組織における環境の変化を認識し、その変化に活用できるマネジメントシステムで無ければ効果的では無いと判断し、ISOMS規格の実効性を重視するために追加された要求事項だと考えられます。
 参考までに、『変更』については、以下の通り、他の要求事項及び附属書Aでも示され、2015年版規格がより『変更』を重視していることが分かります。

<『変更』に関する要求事項・附属書A>(抜粋)

6.1.2 環境側面(抜粋)

      • 環境側面を決定するとき,組織は,次の事項を考慮に入れなければならない。
      • a) 変更。これには,計画した又は新規の開発,並びに新規の又は変更された活動,製品及びサービスを含む。

8.1 運用の計画及び管理(抜粋)

      • 組織は,計画した変更を管理し,意図しない変更によって生じた結果をレビューし,・・・。

9.1.2 順守評価(抜粋)

      • 組織は,次の事項を行わなければならない。
      • c) 順守状況に関する知識及び理解を維持する。

9.2.2 内部監査プログラム(抜粋)

      • 内部監査プログラムを確立するとき,組織は,関連するプロセスの環境上の重要性,組織に影響を及ぼす変更(略)を考慮に入れなければならない。

9.3 マネジメントレビュー(抜粋)

      • マネジメントレビューは,次の事項を考慮しなければならない。
      • b) 次の事項の変化
        • 1) 環境マネジメントシステムに関連する外部及び内部の課題
        • 2) 順守義務を含む,利害関係者のニーズ及び期待
        • 3) 著しい環境側面
        • 4) リスク及び機会
      • ※4 組織の状況、6.1 リスク及び機会への取組みなどに展開

【附属書A.1】

    •  変更のマネジメントは,組織が継続して環境マネジメントシステムの意図した成果を達成できることを確実にする,環境マネジメントシステムの維持の重要な部分である。変更のマネジメントは,次を含むこの規格の様々な要求事項において規定されている。

    (略)

    • 変更のマネジメントの一環として,組織は,計画した変更及び計画していない変更について,それらの変更による意図しない結果が環境マネジメントシステムの意図した成果に好ましくない影響を与えないことを確実にするために,取り組むことが望ましい。

 マネジメントシステム認証制度が30年近く経過し、現在では新規認証よりも認証の継続組織の方が圧倒的に多い状況です。その中で、環境影響評価の活動は、認証段階で構築されたシステムをベースとしたまま変えていないという組織が多いのではないでしょうか。その時点で存在するものに対して評価する仕組みとなっていること、物的対象をベースにした仕組みとなっていることから垣間見えます。
特に製造業では、マネジメントシステムの導入段階で、特定施設、危険物、劇毒物など、法令に関わる対象が的確に特定できるので、非常に有用な方法でしょう。しかし一方で、物的(有形)なものをベースに評価するため、活動やサービスなどの無形なものに対する評価や現在存在しないものに対する評価が十分にできていない状況にあります。
 ここで、「環境側面」の用語の定義を復習してみましょう。

3.2.2 環境側面

 環境と相互に作用する,又は相互に作用する可能性のある,組織の活動又は製品又は サービスの要素。

 この定義から、環境側面は単に現在存在する物的なものだけに限らず、組織活動、サービスそのものに対するものを対象としていることが読み取れます。具体的にはどのようなことが考えられるか、次項の『2015年版規格の活用』で、事例を上げて考えてみましょう。

2.2015年版規格の活用、具体的な事業活動における事例紹介

 2015年版規格では、前述の通り、マネジメントシステムを活用した『組織の事業プロセス』の強化をより期待しています。では具体的にはどのようなこと(活動、製品、サービス)が考えられるのか、事例を用いて確認したいと思います。
 なお、以下の事例においては、事業活動、QMS、OHSMS、ISMSなど他の活動と重複した活動であり、EMS単独での活動ではありません。

営業プロセスにおけるEMS活用による取り組み事例

 営業における最も重要な役割は、受注獲得です。変化する市場、顧客のニーズを把握し、ニーズに合った製品、サービスを提供することでより多くの、また付加価値の高い受注を獲得します。市場、顧客との接点が近く常に情報収集を行っていますが、その中に環境に対するニーズを把握し、製品、サービスの開発に情報を提供することが非常に重要です。
すなわち営業プロセスにおける、『市場、顧客の環境ニーズの把握と開発部門への提供』(活動)などを『著しい環境側面』として設定することにより営業プロセスの環境への関与が明確になります。

設計・開発プロセスにおけるEMS活用による取り組み事例

 設計・開発における最も重要な役割は、変化する市場、顧客のニーズに合った製品、サービスを開発することにあります。その中に環境に対するニーズを把握し、開発することは非常に重要です。例えば、製品の主なライフサイクルの視点に基づいて確認すると、

  • (1) 材料選定段階-入手性の良い素材の検討、有害物質を含まない素材の検討、等
  • (2) 製造段階-生産性の良い製品構造の検討、歩留りの良い製品構造の検討、等
  • (3) 流通段階-物流効率の良い製品構造の検討(荷姿含む)
  • (4) 使用段階-エネルギー効率の良い製品構造の検討、耐久性の高い製品構造の検討、使い勝手の良い製品構造の検討、等
  • (5) 廃棄段階-易解体性の良い製品構造の検討、生分解性のある製品構造の検討、等

があります。上記のような取り組み(活動)を個別に『(著しい)環境側面』として設定しても良いし、包含した形で『環境配慮型製品の開発』(活動)としても良いでしょう。
なお、このような活動は設計・開発プロセスの各ステージで必然として検証できるよう、システム内で検討要件として盛り込まれることが重要です。 『変更(変化)』においても、随時レビューができる仕組みにしておくことも忘れてはいけません。

設備検討/工程設計プロセスにおけるEMS活用による取り組み事例

 設備設計においても設計・開発と基本的に考え方は同じです。新たな設備/工程検討、また設備/工程変更を検討する段階で、様々な視点での検討を行っていますが、その中の1つとして環境の視点があります。

  • (1) 材料、機器選定、調達段階-入手性の良い素材の検討、有害物質を含まない素材の検討、標準化が行いやすい機器の検討、共通化が行いやすい機器の検討、等
  • (2) 製造段階-生産性の良い設備構造の検討、歩留りの良い設備構造の検討、等
  • (3) 使用段階-エネルギー効率の良い設備構造の検討、耐久性の高い設備構造の検討、使い勝手の良い設備構造の検討、保全性の良い設備構造の検討、安全性の高い設備構造の検討、等
  • (4) 廃棄段階-易解体性の良い設備構造の検討、再利用性の高い設備構造の検討、生分解性のある設備構造の検討、等

設計・開発プロセス同様な視点で、『環境配慮型設備の検討』(活動)としても良いでしょう。

機器等導入プロセス(稟議プロセス)におけるEMS活用による取り組み事例

 自動車、エアコンなどの新設備・機器の導入では、通常稟議・決裁のプロセスに基づいて検討、決定を行うことでしょう。しかしEMSと関連付けていることは少ないと思われます。例えば、機器類では、導入してからどんなに節約に励んでも限界があります。しかし導入段階からエネルギー効率の良いものを選定すれば、導入した時点から効果が得られます。当然、金額、性能なども含めて総合的に検討するでしょうが、『機器類導入時の環境配慮事項の検討』(活動)(検討は単独でなく他の要件含め総合的に行うか、その中の一要素として考えます。)を『著しい環境側面』として設定することも良いでしょう。
 なお、購買プロセスにおいても同様の考え方を持つとよいでしょう。

3.2015年版規格対応に対する審査/監査の着眼点

 2015年版規格での内部監査の要求事項は、内容そのものは大きく変わっていませんが、わずかに構成が変わっています。その点に着目してみましょう。

①内部監査の要求事項が2つの箇条に分かれた意味に着目する

 2004年版では、監査プログラムに関するものも含め、内部監査に関する要求事項は「4.5.5 内部監査」の1つの箇条で規定されていました。一方、2015年版では「9.2.1 一般」「9.2.2 内部監査プログラム」の2つに分けて規定し、監査プログラムに関する要求事項が独立しています。
 マネジメントシステム監査のための指針である、JIS Q 19011では、監査プログラムとは、「特定の目的に向けた,決められた期間内で実行するように計画された一連の監査の取決め。」と定義しています。すなわち、監査の実施において、『目的』を定め、目的を達成するための計画を策定し、実行し、評価し、次の監査に繋げることが期待されています。EMS内部監査は特に形骸化の傾向が見られますが、その多くはISOのための監査となり、『目的』を明確に定めずに実施していることが原因といえるでしょう。経営者の関与が希薄であると、さらに形骸化に拍車がかかってしまいます。これを改善するために、監査プログラムを1つの要求事項として捉え、監査を効果的に使うことが期待されます。

②「9.2.1 一般」要求事項に着目する

 2004年版では、以下の様に規定されていました。

 a) 組織の環境マネジメントシステムについて次の事項を決定する。

  • 1)この規格の要求事項を含めて,組織の環境マネジメントのために計画された取決め事項に適合しているかどうか。

 一方で、2015年版では、以下の様に規定されています。

 組織は,環境マネジメントシステムが次の状況にあるか否かに関する情報を提供するために,(略)内部監査を実施しなければならない。
 a) 次の事項に適合している。

  • 1)環境マネジメントシステムに関して,組織自体が規定した要求事項
  • 2)この規格の要求事項

 ほんの少しの変化と捉えられるかもしれませんが、『事業プロセスへのEMS要求事項の統合』を意識した小変更とも考えられます。

 ここから考察すると、内部監査はISOのために行うのではなく、組織の改善ツールとしてより効果的に活用することが期待されていると言えるのではないでしょうか。

著者経歴

氏名:中根 浩次



静岡大学工学部 機械工学専攻 日清紡(株)(現、日清紡ホールディングス)に入社 自動車関連部門で製品開発、生産技術、製造、品質保証分野などの業務に携わる 1997年、中根技術経営研究所を設立、現在に至る 技術支援、人材開発支援及び、ISO 9001、ISO 14001、ISO/IEC 27001(+CLS)、 ISO/IEC 20000、OHSAS 18001、EA21の審査業務に携わっている。