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- (1) 問題意識
- ウナギが我が家の食卓から消えて久しい。最近ではサンマも秋の食卓に上らなくなった。イワシが高級魚になる日もそう遠くないという。一体何が日本の海で起きているのか?このような問題意識から、いくつかの資料を調べてみた。
- (2) 参考資料(出典)
- ①「温暖化で日本の海に何が起こるのか」著者 山本智之 講談社ブルーバックス
- ②「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する IPCC 特別報告書 政策決定者向け要約 (SPM)」(海洋・雪氷圏特別報告書 概要 環境省訳)
- ③ 「第6冊 環境年表 2019-2020」著者 自然科学研究機構国立天文台 丸善
- ④ 気象庁ホームページ(HP)
リンク先:https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html(各種データ資料から「海洋」各項目へ) - (3) 地球上の水循環(「環境年表」より)
- 地球温暖化が叫ばれて久しいが、我々は陸に住んでおり、海洋のことをなかなか身近に感じることはない。まずは地球上の“水”の存在について調べてみた。
海水と陸水(氷河、地下水、淡水湖、河川水など)の容積比は97.4%対2.6%である。海と陸地の表面積比は70.8%対29.2%である。
海洋には「深層循環」という地球大の海水循環があり、約千年のスケールで一巡する。また、「深層循環」は数十年規模の自然変動があり、気候変動に影響を及ぼしている可能性がある。 - (4) -1 海水温の上昇と海洋環境(気象庁HPより)
- 1971年から2010年の40年間で気温の上昇や氷の融解などを含む地球上のエネルギー増加量の約90%を海洋が蓄積していることが観測により推定されている。自然変動によってより多くの熱が海面付近から海洋内部に運ばれる。海が大気の熱をより吸収して陸地の気温上昇が抑えられたり、逆に熱吸収力が低下して気温上昇が促進されることもある。1年ごとの寒暖に一喜一憂するのではなく、海洋全体の熱の蓄積による影響を地球規模で観測していかなければならない。
海洋の熱吸収は海面水位の上昇となって世界各地に影響を及ぼしている。1993年から2013年までの衛星海面高度計による世界(北緯66度から南緯66度)の平均海面水位の上昇率は、年に約3mmとなっている。また、海域によって変化率は異なるため、世界各地での変動に注意を向けなければならないといえる。 - (4)-2 ICPP特別報告書(SPM)より
- ICPPは気候変動を一つの「地球システム」と捉え、その中で、『海洋及び雪氷圏は固有の生息地を支え、世界全体にわたる水、エネルギー及び炭素の交換を通じて気候システムの他の要素と相互につながっている。』と序文に記している。
そして、海洋及び雪氷圏の変化が特に影響を及ぼす地域として、『沿岸環境、極域、小島嶼(小島嶼開発途上国(SIDS[Small Islands Developing States])を含む)、及び高山地域』に焦点を当て、この地域と密接な関係にある人々が、『特に、海面水位の上昇、極端な海面水位及び雪氷 圏の縮小など、海洋及び雪氷圏の変化に曝されている。』と注意を促す。
また、『・・・、気候システムにおける役割に加え、海洋及び/または雪氷圏が人々に提供するサービスには、食料及び水の供給、再生可能エネルギーの供給、並びに健康と福祉、文化的価値、観光、貿易及び運輸への便益を含む。海洋及び雪氷圏の状態は、国連持続可能な開発目標(SDGs)に反映されている持続可能性の各側面と相互に作用する。』としている。が、この報告の留意すべき点は、海洋に関する情報が陸地に比べて乏しく、世界各国が海洋の変化に注意を向け、“予防原則”に立って対策を講じる必要があるということにある。 - (5) 海水温上昇による身近な影響(山本智之「温暖化で日本の海に何が起こるのか」より)
- サンゴ礁は、その生物多様性の高さから、『海の熱帯雨林』と呼ばれているが、高水温のストレスにより『白化現象』が起きる。従来は、別の海域からサンゴの幼生が浮遊してきて再生したが、海水温の上昇により再生機能にも障害が生じている。
このほか、『加速する黒潮』、『北上する南方系の魚たち』、『大阪湾─変わる魚庭の海』、などの興味深い現象や<春><夏><秋><冬>の魚介類の変化を通じて、海水温上昇の影響を紹介しており、身近なところからこの問題を捉えることができた。 - (6) 海洋酸性化の影響(山本智之「温暖化で日本の海に何が起こるのか」より)
- 『海洋生態系を脅かすもう一つの難題 ─『酸性化』が引き起こすこと』として、著者が行った『CO2濃度と植物プランクトンのサイズ組成』の実験を紹介している。結果は、(海中におけるCO2濃度の上昇(酸性化)は)『小型種の植物プランクトンの組成比が高まることがわかった。』とし、『小型の種類ばかり増えると、海の植物連鎖における「食う/食われる」のステップ数が増える。・・・栄養段階のステップが増えれば、途中段階でのロスが多くなり、生態系の上位にいる生物たちに栄養が届きにくくなると考えられる。』と解説している。大型の魚は育ちにくくなるということである。
また、『植物プランクトンの死骸などの有機物は、深海に運ばれることで、炭素を海の深い場所へ溜め込む働きをも担っている。・・・植物プランクトンが小型化すると、このはたらきも弱まってしまう。なぜなら、直径の大きなプランクトンほど、海の表層から海底に向けての沈降スピードが速く、小さいプランクトンは遅いという性質があるからだ。結果として、大気中の二酸化炭素を海が吸収する効率が落ちてしまい、温暖化のペースがさらに加速してしまう可能性がある。』とも予想している。
気象庁のHPでは、『北西太平洋の北緯35度以南における表面海水中の水素イオン濃度指数(pH)は、東経137度線では、1985~2021年の期間で10年あたり、−0.018、東経165度線では、1996~2021年の期間で10年あたり−0.020の割合でpHが低下しており、高い緯度でpHの低下速度が大きく、低い緯度で小さくなっています。』と報告しており、『北西太平洋の東経137度線、東経165度線では、観測を行っている全ての緯度帯においてpHが低下しており、海洋酸性化が進行しています。』と結論付けており、“海洋酸性化”は、今後目が離せない指標である。 - (7) 今回調べたことの結論
- 地球の表面積は海洋が陸地の約2.4倍、水の循環もそれに準じた割合で起きており、水の貯蔵量は、海洋が97%を占め、陸地は3%弱でした。地球温暖化は、海洋の状態をより詳細に調査することが重要である。
- しかし、海洋に関する調査は、陸地に比べてはるかに遅れており、いまだに個人的な貢献に負っている部分が多い。
- 今後は地球規模の海洋調査が進展していくだろうが、“海に住む生物に寄り添った海洋環境保護”を考えていかなければならない。
- 以上
(清水潤一)