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マネジメントシステム構築と内部監査 その1

1. 内部監査の重要性

1.1 マネジメントシステム構築の意義

 マネジメントシステム規格には多くの要求事項がありますが、その中心となるものは、“方針及び目標を定め、その目標を達成する”ための事項です。たとえば、ISO9001:2015 には、“品質方針及び目標を定め、その目標を達成するシステム”とありますが、マネジメントシステムは一般に管理技術と呼ばれるものです。組織の経営は固有技術と管理技術という2つの範疇の技術により運営されていると言われますが、固有技術と管理技術は「経営という車」の両輪であり、マネジメントシステムは管理技術の範疇に入るものです。
 立ち上ったばかりの初期の組織においては、なんといっても固有技術が必要不可欠のもので,管理技術は重要視されません。なぜかというと、創業まもない組織においては、商品が最も重要な要素であり、開発による魅力的な商品の提供が最重要課題だからです。組織の命運は商品の開発に掛かっており、極論をいえば一人の天才技術者の力量に頼ることになります。しかし,組織の規模がある程度大きくなってくると,いくら優れた天才技術者がいてもシステム的な運営がされなければ組織の業績は上がりません。
 マネジメントシステム規格は、組織のいろいろな分野の側面をシステム的に運用して、経営を効果的に運営しようとする規格です。業務を効果的に運営しようとすると,“標準化”することが基本的な戦略になりますが、標準化は両刃の剣です。上手に使えば組織の全員による活動がルールから逸脱することなく、狙った成果の達成に結びつきますが,下手に使えばマニュアル人間を増やし考えない組織を作ってしまいます。マネジメントシステム規格は、個人の力量に頼って成果を上げようとする領域にはあまり役に立ちません。創造的な仕事が要求される研究開発部門には部分的にしか有効ではないでしょう。

マネジメントシステム規格は次の2つの側面を持っています。

  • ① 組織のマネジメントシステムの効果的な運用
  • 組織にマネジメントシステムを構築して,効果的な組織運営を行う。マネジメントシステムのもたらす結果(パフォーマンス)は、内部監査とマネジメントレビューにより把握する。

  • ② ビジネスにおけるパスポート
  • 審査機関から認証を受ける。今やシステム認証が世界共通の取引要件になっているので、営業ツールとして活用する。
    本記事では、2つの側面の内、特に①について述べていきます。②は①の結果得られるとして扱います。

1.2 マネジメントシステムの改善

 マネジメントシステムの改善とは、組織の方針及び目標を達成するための仕組みをなお効果的なものにすることをいいます。すなわち“組織と顧客の双方が、より多くの利便を得ることを目的に、仕事の有効性と効率を向上させる活動”ということができます。マネジメントシステムを改善して効果を上げる活動には、組織の総ての者が参加する必要があります。経営者から従業員までのすべての階層の人が参加して次のことを実施します。

  • (1) 方針展開
  • (2) (プロセスアプローチによる)プロセス管理
  • (3) 内部監査
  • (4) マネジメント・レビュー

(1) 方針展開

 方針に沿った目標を達成するために,5W1Hを用いて具体的で実現可能な計画(中長期目標及び年間目標)を策定することが必要です。この計画はトップダウンでもなくボトムアップでもなく,経営者と管理者ならびに管理者と従業員の協議によって合理的に検討された計画でなければなりません。
 しかし,方針展開の目的を理解していないと次のようなことになりがちです。

  • ・ 売上げを優先にする。
  • ・ 社会状況の変化に対応しない。
  • ・ 部門間の調整ができない。
  • ・ 人材を適切に配置しない。
  • ・ 権限を与えずに責任だけを押し付ける。
  • ・ 従業員の意見を取り上げない。
  • ・ 方針のフォーローをしない。

 組織全体をひとつのプロセスとして捉えて、組織全体のインプット及びアウトプットを明確にします。

  • ・ インプット;投入する原材料,情報
  • ・ アウトプット(プロセスの結果);顧客に提供する製品,成果品

 良い製品・サービスものをつくるためには、必要なマネジメントシステムを適切な状態に維持しなければなりません。そのためには,方針及び目標を全部門に確実に展開することが必要です。 経営者の考えている目標がどれだけ組織にとって重要なものであるか,そのために必要な経営資源にはどのようなものがあるのか,などについてこの段階で十分に検討され,現実との乖離がないようにしておかなければなりません。この段階で経営者と管理者のコミュニケーションがうまくいかないと,管理者と従業員とのコミュニケーションも良くないものになる可能性があります。
 組織内部でのコミュニケーションを良くし,方針展開が成功するようなシステム構築をしていく必要があります。マネジメントシステムを有効なものにするためには,実行可能であり改善を現実化するようなものを構築する必要があります。

(2)(プロセスアプローチによる)プロセス管理

 プロセスを管理するためには,まず事業におけるプロセス(事業プロセス)を明確にすることから始めなければなりません。インプットは経営資源であり,アウトプットは製品・サービスであることは容易に理解できると思います。しかし、その他の要素がどのようにプロセスと関わっているのかについても明確にする必要があり,マネジメントシステムの運用及び改善を確実に実行するには、プロセスをきちんと運用管理しなければなりません。
 組織全体の業務を一つのプロセスとしてとらえてみると;

  • ① 顧客に製品やサービスを提供するために購入する材料と情報が、インプットである。
  • ② 方針展開に基づく目標の管理と日常管理が、管理方法である。
  • ③ 組織を構成しているヒト、モノ、カネのすべてが、経営資源である。
  • ④ 顧客へ供給する製品、成果物が、アウトプットである。

 マネジメントシステムを改善するとは,ここで表現したプロセス改善の仕組みを構築し,次のような仕組みを構築することと考えてよいのです。

  • ・ 購入材料のバラツキをなくし,使用量およびコストを減らす。
  • ・ 顧客要求の変化に対応した重点目標を設定し実行する。
  • ・ 不適合の削減やプロセス効率の向上で,経営資源の消費を減らす。
  • ・ 顧客の要求を超えるサービスを供給し,顧客満足度を向上させる。

(3) 内部監査

 内部監査には監査する対象によって次のような種類がありますが,これらの監査にはそれぞれ別の目的があり,手法も異なります。

  • ・ 品質システム若しくはその要素:マネジメントシステム監査
  • ・ プロセス:プロセス監査
  • ・ 製品:製品監査
  • ・ サービス:サービス監査
  • ・ 会計:会計監査

 マネジメントシステム監査は,実績(パフォーマンス)の評価ではなく,あくまでもマネジメントシステムの有効性を評価することを目的としています。そのためにマネジメントシステム監査は抽象的な印象を持たれています。会計監査の場合は法律(商法,証券取引法)に基づいた監査が行われますので,監査の手順及び内容は具体的に規定されています。組織は監査後に必要な決算報告書を作成し提出します。マネジメントシステム監査には決算関係書類に相当する書類として,監査報告書の後に作成されるマネジメントシステム(改善)報告書になるでしょう。ここには監査で明らかにされた事項を今後どのように扱うか、改善するかが記載されていなければなりません。
 内部監査の目的は,活動及びそれに関連する結果が計画に合致しているかどうか,これらの計画が有効に実施され,目標達成のために適切なものであるかどうかを判定することにあります。したがって、マネジメントシステム(改善)報告書の内容はそれに対応したものなっていなければなりません。不適合に対する是正処置及びマネジメントシステムの改善は,内部監査の結果を基に正式なルールに従い実施します。内部監査結果はマネジメントレビューのインプット材料となり,マネジメントシステム及び方針展開の見直しに利用されます。

2. 内部監査の維持

 内部監査は、認証審査のような外部監査と違い外部からの圧力がありませんので、継続的に効果的な内部監査を実施していくためには、経営者層が相当の努力をしていかなければなりません。組織ではじめて内部監査を実施する時には比較的全社的な注目を得やすいのですが、時が経つにつれてだんだん新鮮さを失いマンネリ化していってしまいます。
 多くの人は、監査したり、されたりという監査員と被監査員の両方の役割を果たすことになります。内部監査をしたり,されたりした経験を積んでいくうちに,多くの人は内部監査とは何かを理解していくでしょう。しかし、内部監査を理解できても,日常の業務に翻弄されてそのとおり実行できないところに課題があります。

2.1 組織のプロセスにマネジメントシステム規格を組み込む

 マネジメントシステム規格(附属書SL共通テキスト)は箇条4から10まで多くのことを要求しています。組織の製品を顧客要求事項に合致した状態でユーザーに届けるための基本的な要求が網羅されています。
 マネジメントシステム規格を注意深く読んでみると次のことに気づきます。

  • ① whatということをいっている。それを明確にすることを要求している。
  • ② howということはいっていない。

 すなわち,システムに組み込むべき項目を要求していますが,システムの中にどのように組み込むのかについてはなにも要求していません。

  • ・ 業務は限られた時間の中で実施しなくてはならない。
  • ・ どんなに優れたシステムでも納期に間に合わないシステムは無いに等しい。
  • ・ 限られた時間の中で実施できる手順とはどのようなものか、を考えるべきである。
  • ・ マネジメントシステム規格の要求事項は、いま自分たちがやっていることと一致するのか、そうではないのかを考える。

 組織はマネジメントシステム規格の要求事項を自分たちのシステムの中に融合していくことが重要です。

  • ① マネジメントシステム規格の要求事項を確認する。
  • ② 自分たちはそれをどのようにやっているのか実態を当たる。
  • ③ いま、やっていないのならやり方を考える。
  • ④ いま、やっているのならばそのやり方を記述してみる。そこには改善することはないかを考える。

 要するに現在実施している自分たちのシステムを最優先してやり方を決めていきます。 もちろん、現在のやり方が現時点では最善であるという確認はしなければなりません。現在の自分たちのやり方と、マネジメントシステム規格が要求しているやり方を統合させることが最大の課題になります。自分たちの親しんだやり方の方がやりやすいので、今のやり方を変更しようとするときには、実際にやっている人たちの意見を聞かなければなりません。

2.2 マネジメントレビュー

 マネジメントレビューは経営者が実施すべきマネジメントシステムの見直し活動であり,毎年,定期的に行わなければなりません。経営者自身が内部及び外部監査の結果及び是正処置に関連する事項のすべてについてレビューを実施する非常に重要な仕事です。
 レビューの目的は次の通りです。

  • ・ 既存のシステムが監査員によってコメントされたような運用になっているかチェックする。
  • ・ 課題について原因をはっきりさせ,そのシステムの欠陥が何によるのかを分析する。
  • ・ 既存のシステムが経営目的に合致しているかどうかチェックをする。
  • ・ システム内の潜在的欠陥をはっきりさせる。
  • ・ システムの改善を推し進める方法を考える。
  • ・ 改善が実行されたなら結果が効果的であることを確認する。

 多くの組織では,部門長会議又は経営会議を月例で開催しています。そのような会議では当然経営全般にわたる議事を扱っていますので,その議事のひとつにマネジメントシステムのレビューをとり上げるとよいでしょう。このマネジメントシステムのレビュー会議において,各部門長からマネジメントシステムに関する提案(変更,追加,改訂など)を出してもらったり,経営者(社長,工場長,事業部長)が指示を与えたりします。そして,このレビューの記録は公式な記録として残しておきます。

2.3 マネジメントシステムの改善

 組織が方針に基づき目標を設定する場合,その目標を達成するためのマネジメントシステムを明確にし,マネジメントシステムがその目標達成に対して適切なものであるかを評価する基準を設定します。

  • ① マネジメントシステム管理指標を設定する。
  • ② 管理指標に基づいて自部門を管理する。
  • ③ 自部門以外の人が内部監査を行い評価する。
  • ④ マネジメントレビューを行いシステム的な改善を行う。

 どんなに素晴らしい改善を行い,マネジメントシステム及び製品・サービスの出来が良くなったとしても,その改善の活動を評価する仕組みを作っておかないと継続的なシステム改善は不可能です。システムを変更することはなかなか難しいことですが,ビジネス環境の変化に対応して前向きに実施する意識の改革が必要です。

3. 内部監査のマンネリ化

 内部監査に関してよく見受けられる欠陥は次の通りです。

  • ① 内部監査が実施されていない。
  • ② うわべだけの監査が実施されている。
  • ③ マネジメントシステムの部分的な監査だけ行われている。
  • ④ 監査プログラムがない。
  • ⑤ 不適合に是正処置に関するフォローアップがない。
  • ⑥ 経営者によるマネジメントレビューが行われていない。
  • ⑦ 監査を訓練されていない無経験の人が行っている。

 これらのすべては,経営者の無関心が作り出す症状です。

3.1 マンネリ化はどうして起きるのか

 内部監査が形骸化する、認証審査が行われる直前にだけ行う,いつの間にか行われなくなってしまうのはどうしてでしょうか。認証審査のためだけに内部監査を行うのはもったいないことです。私たちは次のことをもう一度考えてみる必要があります。

  • ① どうしてマネジメントシステム認証を取得したのか。
  • ② 認証を取得したからには最大限効果的に活用すべきではないか。
  • ③ マネジメントシステムをうわべだけ維持していくのと,実質的なシステムとして活用していくのとではどちらが得か。v
  • ④ 両者の費用対効果はどのようなものか。
  • ⑤ 実質的なシステムとはどんなものをいうのか。
  • ⑥ マネジメントシステム規格において有用なものはなにか。
  • ⑦ マネジメントシステム規格において邪魔なものはなにか。
  • ⑧ 自分たちで邪魔なものを作り出していないか。
  • ⑨ 手順を決めることは有用か。
  • ⑩ どんな決め方が有効か
  • ⑪ 手順で押さえるべき業務のポイントは幾つ位あるのか。
  • ⑫ 日常業務の中で常に意識していけるポイント数は幾つ位か。
  • ⑬ 属人化されているノウハウは文書化できないか。
  • ⑭ 個人の頭の中にあるノウハウの文書化は門外不出の機密ではないか。
  • ⑮ 管理者は部下の手順をどの程度知っているか。
  • ⑯ 管理者は部下の手順書を読んだことがあるのか。
  • ⑰ どのようにすれば手順書と実際とが完全に一致するのか。
  • ⑱ 一致させることでどのような期待が持てるか。
  • ⑲ それは誰がやるのか。
  • ⑳ 効果の上がる内部監査とはどんなものか。
3.2 マンネリ化を防ぐ内部監査の進め方

 以上の課題を明確にしながら内部監査を実施すると、いままで漠然と実施していてマンネリ化していた内部監査が一挙に明確な目標を持った監査に変わります。次のようなことを明確にし実行すると、有効な内部監査への扉を開けることができます。

  • ① 内部監査の目的を明確にする。
  • ② 手順書通りに業務を行っているかチェックする。
  • ③ 手順書通りに業務が行われていない理由を調べる。
    • ・ 手順書があることを知らない。
    • ・ 手順書があることは知っているが無視している。
      • - 手順書の内容を知らない。
      • - 手順書が実態と合っていない。
  • ④ この職場だけに特有のことか、自分の職場にもあることか考える。
  • ⑤ 自分の職場にもあることだったら;全社的な問題と根本的な解決策を考える。
  • ⑥ この職場だけに特有のことだったら;個別の問題として職場責任者に解決策を考えさせる。
  • ⑦ いつフォローアップ監査をするのか監査員リーダーと相談する。
  • ⑧ 自分も職場責任者と一緒に解決策を考える。