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マネジメントシステム構築と内部監査 その2

4. 内部監査の進め方

4.1 内部監査の目的

 内部監査の目的は、「マネジメントシステムの基準Aと組織の実態Bを比較して,その差を明らかにして, 組織の責任者(推進者)にその差をよく理解させ、改善をする」ことである。
ここでいう基準Aとは,マネジメントシステム規格及び組織のマニュアル及び標準書であり,比較されるBは,組織の実施状況になります。比較した結果でA,B両者の間に不一致があれば、それは内部監査における不適合となります。この不適合を組織の責任者(推進者)によく理解させるためには,客観的な証拠が必要となります。

4.2 内部監査に必要な資源

 内部監査は次の準備をどの程度行うかによって,その効果が決まります。

  • ・ 監査員が監査の準備をする。
  • ・ 被監査者が監査を受けるための準備をする。

 監査のコストを決める要因として監査員の次の要素が重要になります。

  • ・ 監査員が適切に訓練されている。
  • ・ 監査員が必要とされる経験をもっている。
  • ・ 監査の準備を効率的に行う。
  • ・ 監査を効率的に実行する。

(1) 経営資源 (人)

 最も重要なものは内部監査員ですが、経営者及び管理責任者は,内部監査を有効なものにするために,内部監査員を計画的に養成しなければなりません。そのためには,まず内部監査員の候補者を選抜します。内部監査員の個人的資質に関しては,次のようなものが上げられます。

  • ① 監査員候補者は,心が広く分別があること。
  • ② 健全な判断力,粘り強さをもっていること。
  • ③ 現実的に状況を把握し,広い視野から複雑な業務を理解していること。
  • ④ また,組織全体における個々の部署の役割を理解する能力をもっていること。

内部監査員は,上記の特質を,以下の事項において発揮できます。

  • - 客観的証拠を公正に入手し,評価する。
  • - 不公平なく,監査の目的に対し忠実である。
  • - 監査中,観察及び人との接触によって引き起こされる影響を常に評価する。
  • - 監査の目的を最もよく達成するように,関係者に接する。
  • - 監査が行われている国の習慣に十分気を配る。
  • - 注意力の散漫によって監査プロセスからの逸脱をすることなく監査を行う。
  • - 監査のプロセスを十分尊重し,それに注力する。
  • - 緊急事態においても効果的に対応する。
  • - 監査の観察結果に基づいて,おおむね受け入れられる結論を出す。
  • - 証拠に基づかない変更を迫られても,得られた結論を変えない。

 以上のような特質が誰にでもあるとは思われないので,選抜が必要になりますが、例として,次のような選抜条件が考えられます。

  • ・ ある程度社内経験を積んだ人
  • ・ 冷静沈着な性格の人
  • ・ 弁舌が立ち,頭の回転が早い人

 内部監査を実施するために必要な監査員の必要数は,組織の規模や部門の数によって異なりますが,少なくとも内部監査員は自部門の監査はできないので,お互いに監査し合えるだけの監査員の数を用意しなければなりません。一応の目安として従業員100人当たり5人位必要です。

(2) 経営資源 (もの)

 内部監査を確実に,また効率よく実施するためには,事前に用意しておかなければならないものがあります。

  • ① 監査員が使用するための社内標準書
  • ② これまでに実施した内部監査の記録
  • ③ これまでのマネジメントレビューの記録

 内部監査のプロセスで実際に,作業及び工程の状況を確認するために作業区域に立ち入り,材料の使用を含め設備を稼動させる必要がある場合は,被監査部門に対してその旨を事前に通知しておきます。事前に通知しておいて,設備を稼動させての監査が実施できるようにしておきます。
 監査当日に必要なものには;

  • ① チームミーティング用の会議スペース
  • ② 会議を効率よく遂行するための装置(OHP,ホワイトボード,コピー機等)

があります。

(3) 経営資源 (時間)

 監査を実施するためには,監査準備~監査実施~是正処置~フォローアップ監査の一連の作業に対して時間が必要になります。監査の効率を評価する場合は,これらの時間をコストに換算するとよいでしょう。監査は片手間の仕事ではありません。監査準備の活動と実際の監査,ならびにフォローアップ監査には,ある程度の時間をかけなければなりません。そのためには,監査実施責任部門は効率的な計画を作っておかなければならないでしょう。
監査に関係する準備には監査チームの準備だけでなく,被監査部門側の準備も含んでいることを忘れてはなりません。

4.2  内部監査の関係者

4.2.1 監査員の役割

 監査員は被監査者と直接コミュニケーションをとり,マネジメントシステムに関わる活動及びその結果から,是正処置の必要性を評価することまでを,確実に実行しなければなりません。内部監査員には組織における本来の業務があり,内部監査に専念しているわけではありません。従って、業務が忙しいと内部監査には渋々参加するケースが多いと思います。
 本来の業務ではないという意識が働いていると,真剣さが足りなくなり,被監査者にも影響を与えかねません。その逆に内部監査員に過度の期待をかけるのもよいことではありません。内部監査員として与えられた責務を忠実に果たすことが一番大切なことです。

4.2.2 被監査員の役割

 被監査者の役割は管理責任者と同じように幅広く,通常の業務管理全般及びマネジメントシステムの是正処置まで重要な責任を持っています。日常の業務に振り回されていてプロセス管理や是正処置に力を注ぐことができないのが実情かもしれません。内部監査の目的を再度認識して,監査準備及び監査員への惜しみない協力を心掛けなければなりません。被監査者には次のような役割があります。

  • ① 組織の責任及び権限の明確化
  • ② マネジメントシステム手順の明確化
  • ③ 不適合品管理の説明
  • ④ 是正処置及び予防処置の状況説明
  • ⑤ 内部監査の重要性の周知
4.3 内部監査員の養成

 内部監査事務局は,選抜された候補者を内部監査員に養成するために長期的な教育訓練を計画するとよいでしょう。このような内部監査員の教育訓練を行う機関がいくつもありますので,そのような機関を利用するのもひとつの方法です。内部監査員養成の教育訓練を終了した人が次に必要なのは,実際の監査に参加し監査手法を体得することです。内部監査員を組織内資格として認定管理する場合は,監査の経験をその評価に含めます。
 監査員は内部監査の目的を十分に理解していなければなりません。目的を理解していない監査員が監査を行っていると,内部監査の有効性を発揮できないばかりか,逆に経営資源の無駄遣いになります。内部監査の目的は,組織内のマネジメントシステムを改善していくことにあります。内部監査を実施することにより、被監査部門のマネジメントシステムが維持され、システムレベルが向上していくことを目的としています。
 内部監査を認定審査のような外部監査と比較すると,次のような特徴が上げられます。

  • ・ 外部監査が短時間の1回の監査なのに対して,内部監査は1年間の年間計画として展開していくことができ,細部までチェックできる。
  • ・ 外部監査がマネジメントシステムの全体を監査するのに対して,内部品査はある領域の活動に特定して監査していくことができ,実態をチェックできる。
  • ・ 内部の人が監査員であるので,外部監査員より工程,組織構造及び構成員に関して堀り下げたチェックができる。
  • ・ 内部監査は、不適合の実態をよく知っている監査員がその不適合の処置,解決策に関わることによって,効果的な対策をとることができる。

組識においては、内部監査の目的を明確にし,監査員にその理解の徹底を図ることが必要です。内部監査の基本を上げると次のようなものになります。

  • ・ 監査を行う目的:是正処置又は改善を行なうため。
  • ・ 監査を行う理由:マネジメントシステムが維持されないから。
  • ・ 監査によるメリット:組織活動及び業務の改善ができる。
  • ・ 監査を行う範囲:業務全体を体系的に網羅する。
  • ・ 監査の基準:マネジメントシステム規格、品質マニュアル。社内標準書。
  • ・ 監査を管理する指標 X:X=Z/Y(ここで、Yは社内標準書の規定要求事項数、Zは内部監査でチェックした数)
4.4 年間計画の作成

 内部監査事務局(通常は品質保証部門)は,事業年度始めに,その年の内部監査計画を作ります。この計画には、年間計画型と短期展開型の2つがあります。ただし,短期展開型における非定期(重要品質問題発生時)監査はこの限りではありません。年間計画は,組織内のすべての部門,マネジメントシステムに関係するすべての業務に関して監査を実施するように計画することが重要です。内部監査の特長が,認証審査のような外部監査とは異なり,組織の活動及び業績の改善につながる点にあるので,マネジメントシステム内のすべての要素が、目標を達成する上で有効であるか否かを確認するために年間計画を作成する必要があります。

(1) 監査計画書の作成

 年間計画に基づき,具体的な内部監査の監査計画書を作成します。

  • ・ 年間計画に基づき,3ヶ月程度の内部監査計画書、監査チーム編成表を作成する。
  • ・ 被監査部門との調整を行う。
  • ・ 全社的な調整を行い,最終案を決定する。

 被監査部門に事前に送付する監査計画書(監査プログラム)には次の事項を記入します。

  • ・ 監査の種類と目的 ( 全体監査か,部分監査か,またその目的は何か? )
  • ・ 被監査部門
  • ・ 内部監査員
  • ・ 監査の時間割 ( 重要チェックポイントの記入を含む。)

(2) 作業文書の作成

 実際に内部監査を実施するためには,監査当日に使用する作業文書が必要です。作業文書には,内部監査員が使用するチェックリストと監査記録に使用する書式があります。 チェックリストの作成の基になるものは次の文書です。

  • ・ マネジメントシステム規格
  • ・ 品質マニュアル
  • ・ 社内標準書
  • ・ 内部監査計画書
  • ・ 記録用紙
  • ・ 過去の内部監査記録
4.5 チェックリストの作成

 チェックリストは一般的に監査において確認しなければならないポイントを書き出したリストです。チェックリストの項目は必ずしも,すべてを質問によって確認するとは限りません。項目によっては,監査員が被監査組織の文書や記録を確認すれば済んでしまうものもあります。実施状況監査の場合であれば,被監査組織の標準書に要求事項が規定されているか、というような項目は必要ありません。文書確認の段階で実施しておくべきです。
チェックリストを作成する場合,調査項目は規定要求事項のすべてを網羅していなければなりません。内部監査の特長は認証審査のような外部監査とは異なります。システム内のすべての要素が目標を達成する上で有効であるか否かを確認するために,規定要求事項をすべて網羅したチェックリストを作成しなければなりません。
 チェックリストには次のような利点があります。

  • ・ 監査実施の統一性を保つことができる。
  • ・ 計画段階で監査の領域と範囲を設定することができる。
  • ・ すべての規定要求事項を完全に調査することを確信できる。
  • ・ 監査時間の割当てを適切に設定できる。
  • ・ 監査実施の進捗のモニタリングに使用できる。
  • ・ 監査の記録を残すための書式として使用できる。
  • ・ 監査実施の証拠を残すことができる。
  • ・ 内部監査員の訓練を促進することができる。

 チェックリストには反対に次のような気をつけねばならない点があります。

  • ・ 固定化されて柔軟性がない。
  • ・ チェックリストはあくまでも標準であり,常に適切であるとはいえない。
  • ・ チェックリストに頼る監査になり,紋切り型になる。

 以上のことを総合的に考慮してチェックリストを作らなければなりません。

4.5.1チェックリストの内容

 チェックリストにはふたつの種類があります。
ひとつは、マネジメントシステム規格チェックリストであり,ひとつは組織標準チェックリストです。チェックリストのフォーマットは特に推奨のものはありませんが,組織によってはいろいろな書式を作成されています。書式のレイアウトは重要でなく,監査の目的が達成されるような内容になっていることが重要です。
標準チェックリスト次の要素を含めて作成します。

◇ 一般情報

  • ・ 管理番号 ( Ref. No.)
  • ・ 監査の日時
  • ・ 被監査部門の名称
  • ・ 監査員の名前と所属部門
  • ・ 適用する規格書,手順書の名称とその版

◇ チェック項目

  • ・ チェック項目
  • ・ 質問
  •   チェック項目をどのような観点,切り口から確認するのか,質問の仕方を考える。
  • ・ 観察結果

◇ 次のことも考えておく

  • ・ どこで質問するのか
  • ・ 誰に聞くのか

“誰に聞くのか?”は重要なポイントです。総てを職場の責任者に聞く監査員がいますが,それでは良い監査とはいえません。
組織標準チェックリストは、次のようなことを要点に作成します。

  • ・ マネジメントシステム規格チェックリストと同様に一般情報を記入する。
  • ・ チェック項目の欄には監査のポイントを記入する。
  • ・ 適切な質問を考える。

4.5.2 チェックリストの確認

 内部監査員は訓練としてチェックリストを自分で作成してみるべきです。監査チームのリーダーは,メンバーである内部監査員が作成したチェックリストの内容を確認します。チェックリストの内容を確認することで,作成した内部監査員の能力をはかることができます。不十分な点があれば作成者にその点を指摘し指導します。チェックリストの作成は内部監査員を訓練するよい機会です。
内容確認のポイントには次のようなものです。“実施対象範囲又は部門に対する規定要求事項をすべて網羅しているか”です。認証審査が抜き取り監査であるのに対して,内部監査は全数監査です。ここで全数と言っているのは,監査される対象のことではなく規定要求事項のことです。
 内部監査であれば規定要求事項のすべてを事前に理解し,チェックリストを用意することができます。認証審査のような外部監査では,与えられた時間に制限があり,とても全数審査はできません。規定要求事項のすべてを網羅したチェックリストを作成します。チェックリストは要求事項を規定した文書に基づいて作成するので,要求事項を規定した文書が改訂された時点でチェック項目を見直すことが必要になります。
 マネジメントシステムのチェック項目には次の6つの要素があります。

  • a) 組織
  • b) 仕事の手順
  • c) 人,装置及び材料
  • d) 作業,工程及び作業環境
  • e) 製品,成果品
  • f) 文書,記録