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内部監査の実践(その26)

「設計審査標準 KDR105」を対象にした内部監査の実践について続けていきます。
「ナラティブ内部監査」を実践して「新しい物語作り」を「起承転結」で行っていきます。
「新しい物語」は、「起承転結」を【起】―いまのこと、【承】―いままでのこと、【転】いまからのこと、
【結】―問題(課題)の解決/歯止めを書く、という原則に沿うと作りやすいと思います。

前回は指摘事項3の【起】でしたので、今回は【承】を実践します。

「新しい物語作り」をする前に、「ナラティブ内部監査」5ステップの続きの説明をします。

  • 第1ステップ : 今行っている内部監査をレビューする。
  • 第2ステップ : どのような内部監査を行いたいか、行うべきかを組織内でコンセンサスを得る。
  • 第3ステップ : 内部監査員、被監査者の共同作業の基盤を作る。
  • 第4ステップ : 発見された問題(不適合、観察事項、気づき事項)などを解決する。
  • 第5ステップ : 問題解決したことを水平展開、歯止めして改善する。

さらに、前回は第4ステップの前半を説明しましたので、今回は第4ステップの後半を説明します。
https://www.technofer.co.jp/tsubob/index.php/2021/11/03/vol-333

おかしいと思った問題には原因がありますが、原因がすぐに結果に表れる場合もあれば、時間かかって結果に表れる場合もあるというように、原因と結果の因果関係は複雑です。
原因の追究にはいろいろなツールが開発されています。有名なものに「特性要因図」があります。魚の骨の頭を右にして背骨からは大骨を描きます。大骨からは小骨が描かれ、小骨には結果(特性)に関係しそうないろいろな事柄を描きます。描く過程で原因と結果の因果関係を考えるということになるのがこのツールのポイントです。
トヨタで考えられたという「なぜ、なぜを5回繰り返す」というツールもあります。工学的な問題の原因追及には「なぜ、なぜを5回繰り返す」ことは有効ですが、人の関係する問題の原因追及には限界があります。
そのほか、VTA(Value Tree Analysis)という手法もあります。VTAにおいては、複数ある要因事象の全てに行うのではなく、最も効果的な部分を選び処置することが良いとされています。図式化されたツリーの中から不具合を防止するために排除しなければならない変動要因を「排除ノード」(軸Cの上に〇で示されている)と呼び、変動要因の連鎖を断ち切るポイントを見つけ出すことで根本原因に手を打つことが出来るとされています。
ナラティブ内部監査では新しい物語を作ろうと考えています。新しい物語とは今までの内部監査では見えてこなかった物語のことを意味しています。監査員と被監査者が協力して組織のパフォーマンスを上げるために新しい物語を作ることを目的にしています。このステップ4では、問題を解決することが課せられていますが、どのようにすれば問題解決につながるのかを新しい物語で作っていきます。 

では、<指摘事項3>について【承】の「新しい物語」作りをしていきたいと思います。

●指摘事項3
DR委員会で指摘された事項について議事録を見せてもらい、DR対象製品の市場での評価を確認した。
市場で問題が出ている製品について、その問題と該当DR後の対策について聞いたが「具体的対策が設計に反映された」記録は無く、DR活動の実施状況を品質管理部が確認した記録も見ることが出来なかった。
「設計審査標準 KDR105」(←設計審査標準の確認はここをクリック)
<第14条>(フォローアップ)
 設計部は、DR委員会で指摘された事項について、担当設計部門の採否を踏まえ、その具体的対策が設計に反映されたか否かを確認し委員長に報告する。品質管理部は、DR活動の実施状況を確認する。

【承】いままではどうであったかを書く。今回問題にしているA製品の市場問題のような類似の事象について、いままでのDR議事録に「具体的対策が設計に反映された」ことが記されているか確認し、その結果について書く。

  • 過去3年のDR議事録を調べる。
    • ―指摘事項(a)
    • ―設計対応の項目(b)
    • ―どんな設計対応を取ったか(c)
    • ―品質管理部のDR活動の実施状況について(d)
  • (議論)
  • 内部監査員:A製品を作っているB事業本部の過去3年間のDR議事録を見た。3年分の議事録には3件の設計対応が必要だという記述が残っていた。その内容は、「設計強度」、「加工精度」、「その他」に関するものでした。
  • しかし、A製品のケースと同様に、指摘事項(a)、設計対応の項目(b)は議事録から確認できたが、どんな設計対応を取ったか(c)、品質管理部のDR活動の実施状況についての記録(d)については記録には残っていなかった。
  • 被監査者:少し言い訳になるが、どんな設計対応を取ったか(c)、品質管理部のDR活動の実施状況について(d)は、実施していると思いますが、それを記録にするという規定になっていなかったのでそこまで実施していなかったと思います。
  • 内部監査員:そうですね。過ぎたことなので今更規定に書いてあるとか、無いとかは議論しても前向きではないので、まずはいままでも、A製品のように設計対応がどのようなものであったか確認が取れないケースがほとんどであるということを、お互いが確認できたということでいいと思います。
  • 被監査者:確かにそうですね。3年分の議事録を見ると後から知りたいという事実が確認できないことは問題だと思います。「設計審査標準 KDR105第14条」の規定を変える必要がありますね。
  • 内部監査リーダー:まずは「設計審査標準 KDR105」を見直すこととして、今後の議論になりますが、市場クレーム関しては次のような課題を提起したいですね。
    1. 市場クレームの原因分析
    2. 設計に起因する問題
    3. DRでの視点
    4. 今後の設計へのインプット
  • 被監査職場責任者:今回問題になっているA製品については設計課長として責任を感じています。また、DR会議で指摘されたことがその後確実に設計課の中でフォローできているかというと、これも定かでありませんので進め方を見直ししたいと思います。
    「設計審査標準 KDR105」規定も改良する必要があると同時に、業務のプロセスも確認します。いままでの議事録からいろいろ我々の弱さが見えてきました。
  • 内部監査リーダー:そうですね、内部監査とは別にチームを作ってDRの進め方について今後の進め方を検討しましょう。

(つづく)