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ISO9001内部監査の仕方(はじめに)

平林良人「ISO9001内部監査の仕方」アーカイブ はじめに

今回からアーカイブ「ISO9001内部監査の仕方」をお送りします。

これは1994年に日科技連出版社から出版されたものです。以下は本書の趣旨です。
「第三者である審査登録機関が,6カ月おきに,審査登録した会社(組織)に対して立入調査をするのが代表的なフォローアップの仕組みであり,サーベイランスと呼称されている。審査登録を済ませた会社は,この仕組みによって半ば強制的に,確立した品質システムを見直しさせられる。しかし,外部からの圧力によって品質システムの見直しを実施するというのは,ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の本来の考え方ではない。ISO 9001 / JIS Z 9901規格の条項中に次の規定要求事項がある。
『「4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し):執行責任をもつ供給側の経営者は,この規格の要求事項及び供給者が定めた品質方針及び品質目標を満足するために,品質システムが引き続き適切,かつ,効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で品質システムの見直しを行うこと。この見直しの記録は,保管すること。』
このことを経営者は肝に銘じて内部監査を自分の代行として行うことを組織内に徹底することが肝要である。」


はじめに

ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の特徴の1つに「文書化された品質システム」とならんで「内部品質監査活動」がある。文書化された品質システムが審査登録活動におけるシステムの“確立活動”であるとすれば,内部品質監査活動はその“維持活動”である。
ISO 9000/JIS Z 9900シリーズでは,品質システムをいったん確立したからといって,そのまま放置しておけない仕組みになっている。いわゆるフォローアップをしなければならない仕組みである。
第三者である審査登録機関が,6カ月おきに,審査登録した会社(組織)に対して立入調査をするのが代表的なフォローアップの仕組みであり,サーベイランスと呼称されている。審査登録を済ませた会社は,この仕組みによって半ば強制的に,確立した品質システムを見直しさせられる。しかし,外部からの圧力によって品質システムの見直しを実施するというのは,ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の本来の考え方ではない。ISO 9001 / JIS Z 9901規格の条項中に次の規定要求事項がある。
「4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し)
 執行責任をもつ供給側の経営者は,この規格の要求事項及び供給者が定めた品質方針及び 品質目標を満足するために,品質システムが引き続き適切,かつ,効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で品質システムの見直しを行うこと。この見直しの記録は,保管すること。」
「4.17 内部品質監査
供給者は,品質活動及び関連する結果が計画されたとおりになっているか否かを検証する ため,及び品質システムの有効性を判定するために,内部品質監査を計画し実施するための 手順を文書に定め,維持すること。
内部品質監査は,監査される活動の状況及び重要性に基づいて予定を立て,監査される活 動の直接責任者以外の独立した者が行うこと。」
すなわち経営者は,組織内部で定期的に品質システムの見直しをしなければならず,その手段の1つに内部品質監査活動があるのである。
内部品質監査は,文書化された包括的なものでなければならず,活動の状況および重要性に基づいて計画されていなければならない。したがって内部品質監査は,文書化された包括的な組織の品質システムの見直しである。ここで品質システムとは「品質管理を実施するために必要となる組織構造,手順,プロセス及び経営資源」(ISO 8402)のことをいい,内部品質監査とは“組織の構造,責任,手順,工程及び経営資源を,活動の状況及び重要性に基づいて見直しをする全社的な監査活動である”ということができる。
経営トップのよき理解のもと,内部品質監査活動を全社的に展開していくことが望ましいが,外部品質監査とは異なったいくつかのむずかしい点がある。

  • ①経営トップの意識が,外部からの圧力がないため低くなる恐れがある。
  • ②監査員が内部の顔馴染みのため監査の客観性が損われる恐れがある。
  • ③組織内における監査員の地位が被監査者よりも低いことが多いため,有効性が低くなる恐れがある。
  • 内部品質監査の結果が有効に是正されない心配がある。毎回,同じ問題点(不適合)が指摘される。

それはどのようにすれば効果的な内部品質監査活動が実施できるのだろうか。
目的を明確にすることなのだろうか。事前に十分な計画と準備をすることなのだろうか。経験豊かな内部品質監査員を養成することなのだろうか。すべてが重要であり,本書はこれらいくつかの重要点に焦点を当てて述べていくが,いちばん大切なことは「経営トップが内部品質監査方針を組織のすべての階層に理解させ,実施させ,維持するようにさせること」である。
有効な内部品質監査を実施していくためには,内部品質監査事務局が経営トップの理解を得て,計画的に種々の準備をしていかなければならない。その準備の手順を時系列的に掲げると
次のようになる。

  • 1)経営トップがISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の規定要求事項を十分に理解する。
  • 2)社内における内部品質監査責任者を決める。
  • 3)社内に内部品質監査事務局を設置する。
  • 4)品質マニュアルを頂点とする社内の標準書類の見直しを行う(既存の標準書類の棚卸しを行い,整理統合する)。
  • 注〕標準書類の見直しの詳細については本書の姉妹編『品質マニュアルの作り方』(日科技連出版社刊)を参考にしていただきたい。
  • 5)標準書類で不足しているものを新たに作成,制定する。
  • 6)内部品質監査員を養成する。
  • 7)内部品質監査年間計画を策定する。
  • 8)内部品質監査を実施する。
  • 9)内部品質監査で発見された不適合事項を是正する。
  • 10)内部品質監査結果とその是正結果報告書に基づいて経営者による見直しを実施する。
  • 11)毎年(毎回),7)~10)を繰り返す。

ISO 9000 / JIS Z 9900シリーズ規格も,1993年11月の財団法人日本品質システム審査登録認定協会(JAB)の設立によって,本格的な展開期に入ったということができるであろう。
欧米で始まったこの規格を,日本で定着させていくことができるかどうかは,内部品質監査活動を主体とする維持活動を,どの程度実行していくことができるかにかかっている。
ISO9000 / JIS Z 9900シリーズ規格は,冒頭でも述べたように,システムの確立と同時にその維持にも力を注いでいかなければならない仕組みである。日本人は熱しやすく冷めやすいといわれる。確立すること以上に維持することはむずかしいものである。
筆者は仕事柄,企業のISO推進関係者の方々と知り合う機会が多いが,意外にこのことを軽視しておられる方がいる。初期の品質システム確立期に,将来の維持活動を考慮せず,ただ品質システムの構築にのみ一生懸命になっておられる。維持に多大の時間を必要とするような品質システムは失格といわざるをえない。ISO9000/JIS Z9900シリーズ規格を採用しようとしている会社においては,ぜひこの点を念頭において活動を推進していただくよう願っている。
本書は先に日科技連出版社から発刊させていただいた『品質マニュアルの作り方』の姉妹編にあたるもので,同時にご参照いただければ幸いである。
本書執筆にあたって,通産省工業技術院資源エネルギー庁の岡村繁室長から暖かい励ましの言葉をいただきました。財団法人日本電気用品試験所の武田康理事長,田中好雄顧問,セイコーエプソン株式会社安川英昭社長,三洋電機株式会社等々力達顧問,社団法人産業環境管理協会植 政一専務理事からはご推薦をいただきました。ここに記して厚く御礼申し上げます。
また執筆をお勧めいただいた財団法人日本科学技術連盟野口順路専務理事,株式会社日科技連出版社垪和輝英社長,同新井勝治顧問,仁尾一義出版部次長に厚く御礼申し上げます。
また本書に関して,ISO 9000 の文書管理システムの構築とより効率的な維持を目指して株式会社フィーチャー・システムと共同でコンピュータ・ソフト「ISO 9000 の文書管理システム」(一太郎対応版)を開発した。本書と併せてご活用いただければ幸いである(詳細問合せ先は本書奥付の筆者事務所迄お願いします)。
1994年秋

英国テルフォードにて
平林良人