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ISO9001内部監査の仕方(第6回)

平林良人「ISO9001内部監査の仕方」アーカイブ 第6回

これは1994年に日科技連出版社から出版されたものです。以下は本書の趣旨です。
「第三者である審査登録機関が,6カ月おきに,審査登録した会社(組織)に対して立入調査をするのが代表的なフォローアップの仕組みであり,サーベイランスと呼称されている。審査登録を済ませた会社は,この仕組みによって半ば強制的に,確立した品質システムを見直しさせられる。しかし,外部からの圧力によって品質システムの見直しを実施するというのは,ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の本来の考え方ではない。ISO 9001 / JIS Z 9901規格の条項中に次の規定要求事項がある。
『「4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し):執行責任をもつ供給側の経営者は,この規格の要求事項及び供給者が定めた品質方針及び品質目標を満足するために,品質システムが引き続き適切,かつ,効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で品質システムの見直しを行うこと。この見直しの記録は,保管すること。』
このことを経営者は肝に銘じて内部監査を自分の代行として行うことを組織内に徹底することが肝要である。」


3.2.6 被監査部門を訪問する
 監査チームは,事前調査をかねて被監査部門を訪問し,情報交換を実施する。具体的には次のようなことを行う。

  • ① これまでの監査報告書をチェックする。
  • ② これまでにとられた是正処置をチェックする。
  • ③ 監査でウエートをおくべきポイントについて協議する。
  • ④ 監査の進め方を協議する。
    • 被監査部門の窓口担当者は誰か。
    • 当日の出席者は誰か(監査者と被監査者)。
    • 何日間実施するか。
    • 予定日に流動している業務,製品は何か。

3.2.7 監査プログラムを決定する

  • 1) 事前調査に基づいて作成した監査プログラムをあらかじめ被監査部門へ送付する。この 監査プログラムは監査予定日の少なくとも1カ月前に送付されることが望ましい。
  • 2) 内部品質監査の年間計画に基づき監査の1回1回について内部監査のプログラムを作成する。表3.2にその例を示すが,このプログラムには次の事項を記入する。
    • ① 監査の種類と目的―全体監査か,部分監査か,またその目的は。
    • ② 被監査部門。
    • ③ 監査員。
    • ④ チェックリスト(チェックポイントの記入を含む)。
    • ⑤ 監査プログラムには,監査を実施すべき部門名と実施予定日を記入するとともに,進捗状態も示せるようにしておく。たとえば次の4ステップを黒塗りすることで示す。
  • 3) 監査プログラムには,監査を実施すべき部門名と実施予定日を記入するとともに,進捗状態も示せるようにしておく。たとえば次の4ステップを黒塗りすることで示す。
    • ① 監査計画・準備
    • ② 監査実施(報告書発行済み)
    • ③ 不適合改善(報告書受理)
    • ④ フォローアップ監査
  • 4) 重要チェックポイントには,3.2.6項で述べた監査でウエートをおくべきポイントについて協議した内容を簡潔に記入する。

表 3.2 監査プログラムの例(略)

表 3.3 内部品質監査員登録者名簿(略)

3.2.8 監査チームを編成する
内部品質監査員登録者名簿(表3.3)に記載されている社内登録監査員のなかから監査員を選び,監査単位ごとに監査チームを編成する。この際,被監査部門所属の監査員は監査チームには加えない。なお,内部品質監査員登録者名簿に記載する監査員の教育・訓練の方法,資格制度については,別途内部品質監査標準で規定しておくことが必要である。
監査チームを招集して,内部品質監査の年間計画について要約をして監査の推進の仕方を徹底する。

3.3 チェックリスト/質問書の設計

3.3.1 チェックリスト/質問書

  • (1) チェックリスト/質問書とは何か?
  • チェックリスト/質問書は,規定されている事項と現状が,実際に合っているかどうかを確かめるためのポイントを選択したチェック項目と質問リストのことである。
  • (2) 誰が使うか?
  • 監査員が使うもので,監査される側が使用するものではない。
  • (3) 何のために使うか?
  • 監査活動を計画し管理するために使う。
  • (4) いつ使うか?
  • 監査前に,十分な準備が完了したかどうかを確認するために使う。監査中にも,もちろん使うが機械的に使ってはならない。なぜならチェックリストは,実際上の変化や改善については,十分にフォローできないからである。
    また監査後の記録としても使用される。
  • (5)どこで使うか?
  • チェックリスト/質問書は次の場合に使われる。
    • ① 内部品質監査活動で使う。
    • ② 審査登録機関が行う第三者監査で使う。
    • ③ 購買先を審査する第二者監査で使う。
  • このチェックリスト/質問書は監査の前後の備忘録として活用される一方で,全監査活   動の計画と管理にも使用され,大変重宝されているものである
  • 以上(1)~(5)まで,チェックリスト/質問書に関する質問をしてみた。併せてその答えも記したが,実はこの質問の形が内部品質監査で最も多く使用される質問の形である。監査員は,できるかぎり被監査者が何か文章になる形で答えなければならない,5W1Hの質問をするべきである。これに対して「あなたはチェックリストを使っていますか?」というタイプの質問は,相手から「はい」または「いいえ」の一言の返事で終わってしまい,何の情報も得られないことになる。

3.3.2 チェックリスト/質問書の利点
チェックリスト/質問書を活用することによっていくつかの利点を得ることができる。

  • ① 計画段階で監査の領域と範囲を定めることができる。
  • ② 適切な時間割を明確にすることができる。
  • ③ 監査実施進捗のモニタリングに使用できる。
  • ④ すべての規定要求事項が,完全に調査されることを確信することができる。
  • ⑤ 監査チームリーダーに,チームメンバーを評価する手段を与える。

注〕チェックリスト/質問書は,初期の要求事項を規定した文書に基づいて作成されてる。したがって,監査の過程において新情報が発見された場合にはチェックリスト/質問書を修正しなければならない。新しい質問には,新しい条件を取り扱うような工夫がされる必要がある。監査員はこうした事態を予測しておかねばならず,監査実施下での変化を是認するような修正をしなくてはならない。

3.3.3 チェックリスト/質問書の設計
チェックリスト/質問書には標準フォーマットはなく,各社それぞれいろいろな形がありうる。したがってレイアウト,形態はあまり重要でなく,監査の目的が達成されるような中身にすることが大切である。

  • (1)標準情報
  • 一般に次のような標準情報が記載される。
    • ① 監査員の名前。
    • ② 監査の日。
    • ③ 監査された部門名。
    • ④ 適用標準規格名。(例えば JIS Z 9901)
    • ⑤ 適用したチェックリスト/質問書の番号。
    • ⑥ 監査に使用された文書名。
  • よいチェックリストを作るためには,監査に使用する標準書や品質システムに関する文書を,まず徹底的に調査しなくてはならない。
  • (2)社内標準
  • 社内標準書のなかに記述されている規定要求事項に対するチェックリスト/質問書を設計する。社内標準書には次のようなものが考えられる。
    • ① 契約管理に関係する標準書。
    • ② 設計に関する標準書。
    • ③ 教育・訓練に関する標準書。
    • ④ 取引先評価に関する標準書。
    • ⑤ 製品出荷検査に関する標準書。
    • ⑥ 重要品質問題処理に関する標準書。
    • ⑦ 品質記録管理に関する標準書。
  • 先にも触れたが,この社内標準書類に基づいて作られたチェックリストを,内部品質監査チェックリストAと呼ぶ。
  • (3)品質マニュアル(ISO 9000 シリーズ規格)
  • たとえば ISO 9001 品質システム規格に沿って,「4.1 経営者の責任」以下「4.20 統計的手法」に至るまで,その規定要求事項をチェックリストにする。
  • この品質マニュアル(ISO 9000 シリーズ規格)に基づいて作られたチェックリストを内部品質監査チェックリストBと呼ぶ。
  • (4)監査詳細計画
  • チェックする必要のあるすべての要求事項について,監査作業の進捗程度を見積もるために詳細リストを作成する。監査すべき各々の領域を区別した監査計画は,参加スタッフの仕事の割当てにも用いられる。
  • 時間表は監査に必要な時間を示すだけでなく実施する監査活動の順序をも示す。
    表3.4に全体監査の場合の監査詳細計画の例を示す。
  • (5)質 問 書
  • 対象となる規定要求事項に対して,実際の現場がどのように適合しているかを試すために効果的な質問を考える。規定要求事項が現場で有効に展開されているかどうかを試す,基本的な5つの質問を使いながら監査を進めていく。
    たとえば,ある作業指示書を前にして,次の質問をする。
    • ① それは何ですか?:この質問をすることによって,規定要求事項を,現場がどのように認識しているかがわかる。
    • ② それは誰が使うのですか?:その規定要求事項に仕事を適合させているのが誰かがわかる。
    • ③ それはどのように使われるのですか?:どのようにして規定要求事項が満たされているか,どのように品質システムが運用されているのかをはっきりさせるために,この質問を使う。
    • ④ それはいつ使われるのですか?:この“いつ”という質問は,規定要求事項が連続的な仕事と関係していると効果がある。たとえば,ベルト作業で連続的に組立作業をしているような場合,“いつ”それをチェックしているかを確認する。
    • ⑤ それはどこで使われるのですか?:“どこで”というのは,いろいろ応用が可能な共通の質問である。たとえば,“どこで規定要求事項が規定されていますか?”“どこで満足させていますか?”“どこで文書化していますか?/記録していますか?”
    • ⑥ どうしてそれを使うのですが?:あまりこの質問は使用しない。“どうしでという質問は攻撃的なひびきをもつからである。

以上の基本的な6つの質問のなかから,適当なものを選ぶことによって適切な質問が構成される。常に6つの質問が適当とは思えないが,質問書を作るときには,監査員にとって極めて有効なヒントである。
 ある質問は何回かに分けて問いかけされる。
 “どのようにして要求事項は適合されていますか?”
 “どのようにして維持させていますか(例 訓練と資格)”
  規定要求事項には計画,実行,そして見直し活動も含まれている。それぞれのステップで,いずれの活動に対しても「どのように」を繰り返し,しかも誰が責任者ですか,を質問すべきである。