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2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方(第18回)

平林良人「2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方」アーカイブ 第18回

◆このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「2000年版対応ISO9000品質マニュアルの作り方」です。

1.目的
 社長は,すべての業務を,品質マネジメントシステム規格JIS Q9001/ISO9001:2000に準拠させ,品質マネジメントシステム(以下,QMSと呼称する場合あり)を継続的に改善し,顧客満足の向上を達成すべく,全員でQMS構築,維持に取り組むためにこの品質マニュアルを制定する。

2. 適用範囲
2.1 適用する製品

ビール製品
 ① 麦芽ビール
 ② 発泡酒

 ※①,②の種別は麦以外の副原料(米,コーン,スターチ)の比率による

麦/副原料≧1/2
麦/副原料<1/2

酒税法第3条第7号による

2.2 適用する組織

  • 当社のすべての組織に適用する.(5.5.1「責任及び権限」の組織図を参照)

2.3 適用について

  1. 除外項目
    7.5.4 「顧客の所有物」
  2. 根拠(理由)
    当社は,ビール製造に関しての設備,測定検査機器,備品,知的所有権等一切の顧客所有物を保有していない。
    この除外項目は,顧客要求事項及び適用する規制要求事項に合致する製品を提供するという当社の組織の能力,責任に何ら影響を与えるものではない。

3.用語の定義
3.1 JIS Q 9000/ISO 9000:2000規格の定義

  • JIS Q9000/ISO 9000:2000規格に規定されている用語についてはその定義を使う。

3.2 当社の定義

  • 次の用語については当社の定義による。
  • 1. ビールの原料に関する用語
    • ① 主原料とは,大麦,小麦という。
    • ② 副原料とは,米,コーン,スターチ,ホップという。
  • 2. ビールの製造に関する用語
    • ① 製麦とは,大麦を溶かす前処理をいう。
    • ② 仕込み(糖化,麦汁ろ過,煮沸の工程)
      • 糖化(原料レベルをアップする工程)
      • 麦汁ろ過(糖化レベルをアップする工程)
      • 煮沸(ホップを投入する工程)
    • ③ 発酵(酵母により糖をアルコールに分解する工程)
    • ④ 貯蔵(ろ過の推進,香りをアップする工程)
    • ⑤ 仕上ろ過(ろ過の更なる推進:澄色調を進める工程)
  • 3. その他
    • 酵母とは,糖をアルコールに分解促進する酵母菌。

4.品質マネジメントシステム
4.1 当社の品質マネジメントシステム(QMS)の概要

  • 当社は,JISQ9001/ISO9001:2000の要求事項に合致した品質マネジメントシステムを確立し,実施し,かつ維持する。
    管理責任者は(5.5.2参照),付図-1のように当社の品質保証体系図を定める。
    1. 当社の品質保証体系図には,経営方針(経営戦略会議),企画,製品の実現(契約,設計,工程設計(開発),購買,生産・サービス実行,発送,不適合),分析,改善というプロセスの明確化と各プロセスの順序,相互関係を明記している。
    2. 各プロセスの運用と管理を効果的にするための判断基準と方法,プロセスの運用及び監視のための資源・情報,プロセスの監視・測定・分析を含めた手順書,要領書,その他文書を作成する。
      • 方針管理要領書
      • 企画要領書
      • 契約要領書
      • 生産・サービス実行要領書
      • 品質方針文書
      • 品質計画書
      • 契約文書
      • 設計文書
      • 購買文書
      • 工程管理文書
      • 検査,試験文書
      • 外部品質文書
      • 部内品質文書
    3. 当社はプロセスのすべてを自社内で実施しており,プロセスの一部をアウトソーシングはしていない。将来プロセスの一部をアウトソーシングする場合にはこの品質マニュアルを改訂する。(例えば輸送等)

4.2 当社の文書化について
4.2.1一般

  1. 概要
    • 品質管理部長は,QMSを効果的に運営するために,品質マネジメントシステム全体を統括する文書(品質マニュアル)及びその他必要な要領書等を管理する。
  2. 品質マネジメントシステム文書体系
    • 下記に品質マネジメントシステムの文書体系を定める。
    • レベルA:品質マニュアル(一部手順を含む)
    • レベルB:方針管揮要領書 企画要領書,契約要領書,生産・サービス実行要領書,品質方針文書,品質計画書,契約文書,設計文書,購買文書,工程管理文書,検査・試験文書,外部品質文書,部内品質文書
    • レベルC:品質記録
  3. 詳細内容
    • 下記にQMSの文書体系を定める。
文書レベル 文書の名称 QMの条項 No. 備考
A 品質マニュアル
(下記( )内の手順を含む)
4.2.2 当社のQMSの概要を示す文書
(文書管理手順) 4.2.3 文書の承認,発行,改訂等の管理手順
(品質記録管理手順) 4.2.4 記録識別,保管,検索等の手順管理
(設計・開発管理手順) 7.3 設計・開発手順(変更も含む)
(購買管理手順) 7.4 購買の管理手順
(内部監査管理手順) 8.2.2 内部監査の実施手順
(不適合品管理手順) 8.3 不適合品の処置手順
(是正・予防処置手順) 8.5.2 8.5.3 是正・予防処置の処理手順
B 方針管理要領書 5. 品質方針の推進手順
企画要領書 6. 新製品の企画,品質マネジメント企画,資源配分規格等の業務に必要となる要領
契約要領書 7.2 顧客との契約に関する業務の要領
生産・サービス実行要領書 7.5 製品の実現プロセスにおける生産・サービス業務の要領
品質方針文書 5.3 5.41 5.42 品質方針,品質マネジメントシステム計画等の書かされた文書
品質計画書 7.1 個別のプロジェクトごとの計画書
契約文書 7.2 見積書,契約書
設計文書 7.3 設計,工程設計業務に必要となる書式と成果物(設計図面,工程設計図面)
購買文書 7.4 購買業務に必要となる書式と記入された帳票
工程管理文書 7.5 工程管理に必要となる書式と記入された帳票
検査,試験文書 8.2.4 製品検査及び出荷許可に関する書式と記入された帳票
外部品質文書 4.2.3 社外文書,国内,国際規格文書,法令,規制文書等
部内品質文書 4.2.3 作業指示書等
C 品質記録 4.2.4 4.2.4項で規定している品質記録及び組織が必要とする記録

4.2.2 品質マニュアル

  1. 品質管理部長は,JISQ9001/ISO9001:2000規格の要求事項に準じた品質マニュアルを作成し,社長の承認を得て発行する。
  2. JISQ9001/ISO9001:2000規格が要求している下記項目については,それぞれに示した項目を参照すること。
    • ① 適用範囲:2項参照。
    • ② 文書化された手順:4.2項参照。
    • ③ QMSに含まれるプロセス間の相互関係:4.1項参照。

4.2.3 文書管理

  • 品質管理部長は,文書管理に関する手順を次のとおり定める。
    1. 文書の種別,名称,発行部署及び承認について(右頁の表参照)
    2. 文書の管理方法
      • ① 文書の識別
      • 文書は下記のように文書の種別No.,文書No.(文書名),改訂No.にて識別し,外部文書も含め,適切な版が利用できるようにする。
        ○○  -  ○○  -  ○○
        種別No  文書No   改訂No
            (文書名)
      • ② 文書の発行,配布
        • (i)文書ごとに配布台帳を作成する。
        • (ii)配布台帳にはそれぞれ配布部署を明示する。
        • (iii)受領部署は受領印を押し発行部署へ送付する。
        • (iv)発行部署は受領印を確認し配布完了とする。
    3. 文書のレビュー,変更,改訂
      • ① 品質管理部長は,品質マニュアルを含むすべての品質管理文書のレビューを毎年5月に実施する。
      • ② 発行と承認は右頁の表に定められた部署の長並びに社長が行う。
      • ③ 文書管理方法は2.-①,②で定めた通りとする。
        なお,改訂履歴は2.-①での改訂No.にて管理する。
    4. 配布管理
      • 必要な部署が最新版の文書を使用できるように文書ごとの配布台帳に基づき適格な配布を行う。
        なお,外部文書には,表紙に外部文書を示すスタンプを押す。
    5. 廃止文書について
      • ① 3.-③の管理後,発行部署及び受領部署は旧版を速やかに廃棄する。
      • ② 廃止文書を利用する場合,発行部署は原版のみ別保管する。
        原版には,廃止文書のスタンプを押す。
種別 文書の名称 QMの条項 No. 承認者 発行部署
A1 品質マニュアル
(下記手順も含む)
4.2.2 社長 品質管理部
(文書管理手順) 4.2.3 社長 品質管理部
(品質記録管理手順) 4.2.4 社長 品質管理部
(設計・開発管理手順) 7.3 社長 品質管理部
(購買管理手順) 7.4 社長 品質管理部
(内部監査管理手順) 8.2.2 社長 品質管理部
(不適合製品管理手順) 8.3 社長 品質管理部
(是正・予防処置手順) 8.5.2 8.5.3 社長 品質管理部
B1 方針管理要領書 5. 社長 品質管理
B2 企画要領書 6. 技術部長 技術部
B3 契約要領書 7.2 営業部長 営業部
B4 生産・サービス実行要領書 7.5 製造部長 製造部
B5 品質方針文書
(品質方針,品質目標,品質マネジメント計画)
5.3 5.4.1 5.4.2 社長 品質管理
B6 品質計画書 7.1 技術部長 技術部
B7 契約文書 7.2 営業部長 営業部
B8 設計文書 7.3 技術部長 技術部
B9 購買文書 7.4 購買部長 購買部
B10 工程管理文書 7.5 製造部長 製造部
B11 検査,試験文書 8.2.4 製造部長 製造部
B12 外部品質文書 社外発行文書国内,
国際規程文書
規制・法令関係の文書
各担当部長
技術部長
技術部長
各担当部
技術部長
技術部長
B13 部内品質文書 作業指示書等 各担当部長 各担当部
C1 品質記録 規格及び組織が必要とする項目 各担当部長 各担当部

4.2.4 記録の管理
 品質管理部長は,下記内容の通り記録の管理手順を規定し,維持する。

  1. 記録の識別及び作成,保管部署について
    記録の識別番号,記録ごとの作成部署及び保管部署を下表に規定する。
    • A:QMSの効果的運用のための記録
    • B:製品要求事項への適合性の証拠の記録
    • C:文書としての記録(文書の有効期限後)
    • D:その他(主要会議議事録)

    品質記録は,容易に識別でき,検索可能であるように管理する。

  2. 品質記録の保管,保護
    • ① 記録は,作成部署が保管する.但し,M.R,品質方針書,主要会議議事録(経営戦略会議,品質情報会議),改善関連(是正・予防処置)の記録は品質管理部が保管する。
    • ② 記録は,原則的には10年間保管する.但し,文書としての記録は,文書の管理期限を越えてから記録として管理する。
  3. 記録の収集・ファイリング
    各保管部門は,記録の管理がしやすいように適切な収集,ファイリングを行う。
  4. 記録の廃棄
    各保管部門は,保管期限の越えた記録を当該年度末に廃棄処分する。
記録名 識別番号 作成部署 保管部署 QMの条項No
マネジメントレビュー関連 マネジメントレビューの記録 A11 社長 品質管理部 8.6.1
教育訓練関連 教育訓練記録 A21 各担当部 各担当部 6.2.2.
内部監査関連 監査報告書 A31 内部監査チーム 品質管理部 8.2.2
改善関連 是正処置報告書 A41 各担当部 品質管理部 8.5.2
  予防処置報告書 A42 各担当部 品質管理部 8.5.3
契約関連 契約内容確認記録 B11 営業部 営業部 7.2.2
設計・開発関連 設計・開発インプット B21 技術部 技術部 7.3.2
設計・開発のDR記録
(アウトプット)含む
B22 技術部 技術部 7.3.
7.3.4
工程設計管理関連(設計・開発関連) 設計・開発検証記録 B23 技術部 技術部 7.3.5
  設計・開発の妥当性確認の記録 B24 技術部 技術部 7.3.6
  設計・開発の変更内容の記録 B25 技術部 技術部 7.3.7
購買関連 供給者評価・選定記録 B31 購買部 購買部 7.4.1
  購買品の注文及び検証記録 B32 購買部 購買部 7.4.2
7.4.3
工程管理関連 工程管理記録 B50 製造部 製造部 7.5.1
  特殊工程の管理記録 B41 製造部 製造部 7.5.2
  製品識別及びトレーサビリティの記録 B42 製造部 製造部 7.5.3
  製品の保存の記録 B43 製造部 製造部 7.5.5
監視機器及び測定機器の管理関連 検査・測定機器の校正記録 B51 品質管理部 品質管理部 7.6
検査・試験関連 製品の検査記録 B61 製造部 製造部 8.2.4
  製造プロセスの検査記録 B62 製造部 製造部 8.2.3
不適合製品の管理関連 不適合製品の報告書 B71 各担当部 各担当部 8.3
クレーム処置依頼書 B72 技術部 営業部 8.3
品質方針書関連 品質方針書 C11 社長 品質管理部 5.3
5.4.1
5.4.2
品質計画書関連 品質計画書 C21 技術部 技術部 7.1
契約関連 契約文書 C31 営業部 営業部 7.2
設計・開発関連 設計文書 C41 技術部 技術部 7.3
工程管理計画書関連(施工計画書関連) 工程管理文書 C51 製造部 製造部 7.5.1
主要会議関連 経営政略会議議事録 D11 管理責任者 品質管理部  
  プロジェクト会議議事録 D12 技術部 技術部  
  品質情報会議議事録 D13 品質管理部 品質管理部